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( -_-)ノビシ*)゜O゜)あぅ

その後、思考の大半を桐山君の言動についてに費やしてみたが、結局それらしき答えは出なかった。そして一日経った今日、登校を済ませて席についた桐山君に、私は勇気を振り絞って質問をしてみた。

「……あの、昨日のはどういう意」

「雑菌が飛ぶんで話しかけないで下さい。」

「………え?」

えっと、あー……はい?

「聞こえなかったの?あと身体が汚れるんで僕を視界に映さないで下さい。あととりあえず滅んで下さい。」

「………」

私は返答を頭の中で構成するよりも先に、急いで自分の席に戻って姿勢を正してその場で硬直した。

……あれ?とてもとても桐山君だ。彼は果てしなく桐山君だった。じゃあ、私が昨日見たのは何だったんだろう?幻覚?自分でも気づかぬうちに何か思い詰めていたのかな?そうなのかな?うん、そうだよねうん。そんな結論に辿りついたが、もちろん簡単に納得できる訳もなく、再び頭をフル回転させて考えた。

昨日放課後話した桐山君は多少言葉にトゲトゲしさがあったものの、まともに言葉の受け答えをしてくれていた。いや、桐山君が話した内容については理解不能過ぎてまともだと断言はできないのだけれど。まぁそれはさておき、さっきみたいにあからさまな拒絶はされなかったと思う。うん。

いやー、分からん。彼にどんな状態変化が起こったというのだろう。出来れば授業に出して欲しい。そしたら少しは勉強に精が出そうだ。あ、来たわ先生。

その後は普段通りの流れ。SHRが開始されて授業の準備をする。ただ私の脳内はちょっと普段通りではなかった。


「こんな面倒臭い仕事があるなんて聞いてなかった。」

思わず独り言が漏れてしまった。それもそうだ。図書委員の仕事にこんな項目があるなんて知らなかったのだから。

目の前に置かれたダンボールの箱。中には入荷したばかりの新作の本が詰められている。私の課せられた仕事は、この本一つ一つに番号のラベルを貼り、順番通りに棚に並べることだ。なんて面倒くさそうな仕事なんだろう。しかもなんの嫌がらせか、もう一人の図書委員のクラスメイトの子は本日風邪で学校を休んでいた。つまり、私は一人でこの仕事を片さなければならないということだ。

グダグダ言っても時間の無駄だ、と開き直り、早速ダンボールの中の本を取り出してみる。

「結構な量だな…」

テーブルの上に取り出した本を置き、早速ラベル貼りに取り掛かることにした。


静かな図書室内に、シールがペロンと剥がされる音が響く。いや、流石にそんな小さな音が響くことはないが、そんな小さい音でさえもはっきりと聞こえるくらい室内は静かだった。

なんか、こういうの懐かしいな…

本の香りが漂う室内。奥のテーブルの隅っこ。少し大きめの活字。騒がしい低学年の子達の声。ありきたりな物語に没頭していた私。

読書は特別好きという訳ではなかったが、小学校の高学年の頃、図書室に入り浸ってよく本を読んでいた。本の内容が面白かったかどうかなんて覚えてない。ただ目的が欲しかった。本を読む、という行動がしたかっただけだった。多分その頃の私は低脳で、読書くらいしか思い浮かばなかったから。

ラベルを貼り終えると、先生から渡された表を見ながらそこに手書きで番号を記入していく。番号がついたラベルをあらかじめ作っておけばいいのに…。一人心の中でごちりながら作業を進めていく。


「うっひゃー、疲れた…」

全てのラベルへの記入が終わり、後残すは棚に並べるだけだ、というところでこった体をほぐすように伸びをする。そして一息つこうと席を立った。

閉じていた窓を開けると、心地よい風が室内に入ってくる。その空気を思う存分吸っていると、ふと視界に見知った顔が映った。

あ、……桐山君だ。

水道の水で顔を洗っている桐山君がいた。彼は体操着を着ていて少し汗をかいているようだったから、またどこかの運動部の助っ人でもしていたのだろう。それか本入部してるバスケの練習かな。水道の蛇口をひねって止めた後、彼は持っていたタオルで顔を拭いた。

本当、水も滴るいい男って奴ですね。黙っていれば本当に何もかもが完璧なのに。本当に本当に女嫌いという性格が惜しいと思う。そんなことを思いながら三階の窓から眺めていると、桐山君のそばに何かが近寄っていた。

あ、あれ、ここら辺によく入り浸っている猫だ。虎柄模様の猫が、桐山君の足元に擦り寄っていた。

生物の壁を越えてもなお貴方はおモテになるのですね。少し皮肉を込めて心の中でごちた。猫ちゃん、悪いことは言わないから早く彼から離れた方がいいよ。彼は女性蔑視の激しい見た目だけの人間よ。騙されちゃダメよ。心の中で猫に向かってそんな念を送っていると、驚くべき光景を目にしてしまった。

桐山君がその場にしゃがみ込んで猫の頭を撫でたのだ。しかも、しかもだよ?なんか緩んだ笑みまで浮かべちゃって。

これは驚いた。桐山君の笑顔なんておでこに怒りマークがついてるときぐらいしかまともに見たことがないのだから。

その不思議な光景に心を和ませていると、ふと、頭の中で何かがフラッシュバックした。


『…怖くないの?すごく睨んでるみたいだけど……』

『怖くなんかないよ。怒ってるんじゃなくて、怯えてるだけだと思う。』

『ゔ〜…』

『大丈夫だよ、怖がらないで…ほら、いい子だ。』

『す、凄い…頭撫でた!』

『こっちが警戒しなければ猫も心を開いてくれるよ。よしよし、可愛いねお前は。』

『……なんか、動物好きだったなんて意外だなぁ。』

『そう?動物全体が好きってわけじゃないけど、猫は特別好きかな。何か癒される。』

『……来世は猫がいいな。』

『ん?何か言った?』

『いや、ううん、何でもないよあはは。』

『そろそろ行かないとね。ばいばい、元気でね。さて、僕達も帰ろう。』

『うん。』


小学校の頃下校中に、黒い野良猫を見つけたことがあった。私はその猫が怖くて近寄ることもできなかったが、彼はちっとも怖がらずにその猫に触れたのだ。そして頬を緩ませながら猫と戯れていた。その表情がなぜかさっきの桐山君と重なる。

窓の外を見ると、そこにはもう猫の姿も、桐山君の姿もなかった。

あの黒いランドセルを背負って猫を好きだと言っていた小さな彼は、今頃どうしているのだろうか。


……元気にしてるかな、大塚君。

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