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最近、やけに視線を感じるようになった今日この頃です。ちなみに、その視線の元は把握してある。桐山君だ。初めに言っておこう、これは断じて私が自意識過剰という訳ではない。どこの誰が私と入れ替わったとしても皆そう感じるはずだ。明らかに彼は私を見ている。
授業中、背中に突き刺さる視線によって全く集中出来ず、手に持っていた文具を片っ端から落としてしまった。周りの生徒から、またか…とでも言いたげな目をされるが、それどころではない私は落とした物をいかに早く拾えるかどうかに思考を費やしていた。
だって後ろの威圧感が半端ない。こんなに何度も物を落としていたら桐山君だってきっと不快に思っているだろう。そう考えながら拾ってる隙にちろりと後ろを伺うと、案の定桐山君は感情の掴めない顔でこちらを見ていた。バッと体を戻して椅子に座り直し、所々しか記入されていないノートへと視線を合わせる。
あれは怒っているのだろうか?いや、きっと怒っているに違いない。逆に怒りを通り越して呆れているのかもしれない。そりゃあそうだ。こんな何度も物を落としていたら注意力の欠けた学習能力の乏しい人間の形をした猿だと思われても仕方ないだろう。まぁ私が猿になってしまう原因は少なからず貴方にあるのですがね、桐山君。
キーンコーンと授業終了を知らせるチャイムが鳴る。生徒は帰り支度をしながらSHRが始まるのを待つ。そんな中恐る恐る後ろを覗いてみると、案の定桐山君とばっちり目が合ってしまった。一瞬で視線を外し、前に向き直ってまた悶々と思考を巡らせる。
本当に何があったの桐山君?私の顔に何かついてるの?でもさっきトイレの鏡で自分の顔見てきたけど何も変わりなかったよ?じゃあ何?何なの???ちょっと考えすぎて思考がずれてきている気がする。一旦落ち着こう、うん。
そういえばいつからだろう、こんな状態になってしまったのは。確か、昨日のお昼休みの後だった気がする。その日はいつも通りりなちゃんとお昼を食べ、ちょっと青春に関するお話をしてお昼休みを終えた。特に変わった様子はない。でもその次の授業で私は消しゴムを落とし、拾おうとした時に異様な視線に気付いてしまったのだ。桐山君がばっちりと私を見ていた。いつもは私の存在なんてないかのように黒板とノートにしか目を向けない彼が私を捉えていたのだ。びっくりしすぎて5秒くらい見つめ合っていたかもしれない。今思うと何か恥ずかしい。別にそれ以前は今まで通りの彼だったのに、一体何故だろう?お昼休みの数分の間に何かあったというのだろう?わーあーもうさっぱり分からん。
先生が教室に入ってきて、帰りのSHRが開始される。簡単な報告を済ませた後、係によって号令がかけられ、生徒達が一斉に散らばる。いつもなら私も帰宅するために教室を出るのだが、私は出入り口には足を進めず、その場で180度回れ右をして後ろを向いた。目の前にはもちろん桐山君の姿。私は何を思ったのか、彼に向かって口を開いてしまった。
「あの……私に何か?」
後悔先に立たず。言ってしまった後にどうこう考えても遅い。私は自ら彼に話しかけるという禁忌を犯してしまった。
すぐに「話しかけないで汚物が」みたいな罵倒を返されると思っていたが、予想外に彼は何も言わず、ただ感情の読めない顔でこちらを見つめるだけだった。私が頭に疑問符を浮かべていると、彼は口パクで「きて」と言って、教室の外へと出て行ってしまった。疑問符をもうひとつ浮かべ、急いで彼の後について行った。
桐山君の歩く速さが早くて微妙な距離を空けたままついていくことになったが、彼は目的の場所に着いたのか、歩く足をようやく止めてくれた。連れて来られたのは北校舎という、今はあまり使われていない校舎だった。なんでこんな人気のないところに?まさか……ボ、ボコられ…!? 思わず身構えて距離を空けると、それを見た桐山君は怪訝そうな顔をした。
「別にあんたをどうこうしようなんて考えてないから。」
そう言われたものの、恐怖心が取れずに警戒していると、彼はため息を一つ吐いて話し始めた。
「あんたにはさ、僕がどう見える?」
……え?問われた質問の内容が大雑把過ぎて良く理解出来なかった。それはどういう意味だろう?見た目的な意味?それとも性格的な意味?答えが出ずに口ごもっていると、彼が言葉を続けた。
「口が悪くて無愛想で男女差別の激しい男に見える?」
「………」
否定出来ないが素直に頷ける勇気もなくて黙り込んだ。
「見えるはずだよ。だってそう見せてるんだから。」
今彼が言った言葉の意味が理解し難かった。え、今何て言ったの?見せてる?え、何を?
頭の中でプチパニックを起こしていると、彼はそんな私を気にせず言葉を続けた。
「僕は平気で酷いことを口に出来る冷淡な奴だ。少なくとも世間の目にはそう映ってる。君にもそう見えているはずだ。」
ちょっと待ってよ、まだ思考がついていけなくて……彼に言いたいことや問いたいことが中々口に出して言えない。そもそもその言葉を頭の中で構成することも出来ない。彼の述べている意味が全く待って理解できなかった。
「だから、あんたは変わらなくていいんだよ。僕が冷たくなったから。」
「………」
変わらなくていい?僕が、冷たくなったから?そういった目の前の人物が、一体誰なのか分からなくなった。何のつもりでそんな事を言うのだろう。私に何を伝えたいのだろう。疑問符でいっぱいの頭の中に、更に押し込むように彼の言葉が乱入してくる。疑問が膨らみ続けてどうしようもない。それが何一つ消化出来ずに頭の中に蓄積されていく。
「それだけ。もう帰れば。」
言葉を返せない私に彼はそう一言言い残すと、出入り口の方へと足を進めていった。
疑問の消化で忙しい私は、彼の後に続いて行くことが出来ず、その場に立ち尽くしていた。