((((o-_-)☆)~ロ~*/)/ガコッ!
「藍って実はニューハーフなんじゃないかと疑う時があるよね。」
「りなちゃん唐突過ぎてワタシ豆乳噴き出すとこだったよ。」
噴出は防いだが惜しくも口の端から漏れ落ちた豆乳をティッシュで拭い、目の前で澄ました顔をしながら菓子パンを頬張る友人に目を向けた。
「正直に言いなさい。貴方実は生えてるんでしょ。それとも生えてたんでしょ。隠したって無駄よ。」
「ははは生えてるって何が!?何のことですか!?え、いや、主語言わなくていいから!分かってるから!もう16歳だから!」
「だったら早く吐きなさいよ。本当はブリーフを履いていた時期があったんでしょ?」
「貴方はずっと生えてる人とトイレや着替えを共にしていたと思ってるんですね。それとブリーフは見たことも触れた事も履いたこともないです。」
「そうよ、だから貴方とトイレや着替えを共にする度に身の危険を感じていたの。ボクサー派だったのね。まぁ今の年齢でブリーフは恥ずかしいものね。」
「もうなんか面倒臭くなったので結論から述べて下さい。」
「藍の浮いた話を一度も聞いたことがない。」
……浮いた話?
飲んでいた豆乳のストローから口を離し、疑問符を浮かべながら目の前の友人を見た。彼女も菓子パンを頬張るのをやめ、口をもぐもぐさせたまま私と視線を合わせた。
「……浮いた話とは?」
「藍の口から恋愛に関する話を一切聞いた事がないということ。」
「……」
「好きな人のことは勿論、理想のタイプや過去の恋愛話や憧れの芸能人の名前だって上がってこない。これは女子としてどういった思考回路をしているのか疑問に思うね。」
「……返す言葉もございません。」
確かに、今までそういった類の会話をしたことはなかった。りなちゃんに限らず、他の人にも。
「その年でまさか初恋もしたことがないなんて言わないわよね。」
「それぐらい、あるけど……」
「え、あるの!?」
「言うなって言っといてなんでそんな驚くの。」
「正直藍のことだからない方に期待してたけど…まぁいいや。その初恋とやらを詳しく聞きたい所存ですねー。」
「………」
「藍?」
……初恋か。恋って呼んでいいのかなあれは。……いっか。
「……私ね、小学校の高学年くらいの時にいたんだ、好きな人。」
「おおおお」
「…あの、いちいち驚かないでもらえますか?」
「はい。」
「その好きな人はさ、なんていうか、女子の注目の的というか、凄くモテてた訳ですよ。」
「ほおほお。どんな感じの人だったの?」
「モテ要素を詰め込んだみたいな人だったよ。かっこ良くて、スポーツ万能で、頭が良くて、誰にでも優しくて。」
「典型的なモテ男だね。」
「うん。」
「それで、その恋の行方は…?」
「諦めて終了ですね。」
「え、なに?諦めちゃったの?」
「うん。元々手の届かないような人だったし、私じゃ釣り合わないなーって思って。」
「何それ呆気ない。」
「呆気なくていいんです。インパクト求めたって仕方ないでしょ。」
「そういう問題じゃなくてさ…まぁ、藍らしいっちゃ藍らしいけど。私なんて精神、小さい頃から作動してたのね。」
「何すかその精神。いいよもう、小さい頃の話だし。諦められる程度の恋だったってことで。」
「何でもそうやって妥協しちゃうのが藍の短所だよね。そんなんで藍がこれから青春を謳歌出来るか心配で心配で。」
「勝手に予想して勝手に心配しないでください。まぁ、そういうのはまだいいや。今は友情で満足してるので。」
「その台詞を一体何年吐き続けるんだか。若いうちにいい恋愛しとかないと勿体ないよ。」
「はいはい。ほら、チャイム鳴ったよ。席戻んなきゃ。」
「はーい。」
昼休みが終わり、ぞろぞろと散らばっていた生徒が席についていく。りなちゃんが自分の席に戻っていったのを確認し、次の教科の準備をする。
実は言うと、りなちゃんには小さな嘘をついていた。呆気なかった訳じゃない。簡単に諦めきれる程度のものでもなかった。ただ私は弱虫で臆病だったから、頑張らないで逃げた。ちょっと後悔はしてる。もっと苦しんどけば幸せな道もあったかもしれない。まぁいいや。今の道も別に苦じゃないし。大人しくしてればこんなにも平和だ。あ、先生来た。
先生が来たことによって号令がかかり、生徒が一斉に立ち上がって礼をする。後ろで椅子を引く音が、桐山君の存在を主張する。そうしてまた、緊張感と不思議なプレッシャーを抱えながらの授業が開始された。