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( ̄  ̄メ)ノ))))) 三 (( “(×_×。

おはようございます。

優雅に登校中の柿沼藍です。


校門を抜けたところで、我が校恒例の女子軍と拒絶系王子の少女漫画風登校風景をお目にしました。


いつもの様に苦虫を噛み潰したような顔をしている桐山君。


さぁここからは歩く速度を急激に低下させます。


なぜかって?


前にいる女子軍が横幅を取りまくって道を塞いでいるからです。


別に構いませんよ。

桐山君に寄ってたかってあーだこーだするのは。


ただもう少し歩く速度を速めて頂けたらありがたいんですけどね。


そう思いながら集団の後ろに付いて歩く。


桐山君は私と同じクラスだから教室に入るまでこの集団の金魚のフンになるしかない。


集団の後ろには道につっかえて、別の意味の集団が出来ていた。


まぁ、入学当初からこんなんだから私はもう慣れたんですけどね。


そうこうしている内に、桐山君は教室に到達し、たかっていた女子軍もバラバラに散って自分のクラスに戻って行った。

そこでようやく私も教室に足を踏み入れられる。


いつものように桐山君の横を通り、いつものように警戒心を感じながら、いつものように自分の席へ座った。


もうこの時点で大分体力を消耗したのがお分かり頂けただろうか。


私の高校生活は体力を消耗するところから始まるんです。


まぁその話はさて置き、私はこの間から少し気になることがあった。


桐山君と日番をした時のことについてだ。


あの時彼に言われた言葉が引っかかる。


『あんた、本当に気に食わない。』


気に食わないとは何だ気に食わないとは。


まぁ、確かに数回つっかえたりしてスムーズに感謝の言葉は出なかったけど。


でも気に食わないって言い方はちょっと納得いかない。嫌いなら分かる。


私が女である以上、彼からしたら私は嫌悪の対象でしかないのだから。


でもこの前の言葉は明らかに私個人に向けられていた。なぜなになんで?


だって入学当初からこの前の日番の時までまともに会話もしたことがなかったのに。


どこに気に障る要素があったのだろうか?


もういいや、これからはなるべく接触を避けよう。


元々特に接触っぽいことしなかったけど更に避けよう。


そう思いながら黒板の数式をノートに写していった。


体育の時間、体育祭に向けてのリレー競技が行われることとなった。なんて気だるい種目なのだろう。


足が早い人はリレーを楽しめると思うよ、うん。


でも遅い方に所属される私は人一倍大きなプレッシャーに耐えながら次の人に回すまでに追ってくる走者から逃げ切れるかどうかを一人で葛藤する耐久レースでしかない。


誰かを抜かすことなんてごく稀にしか体験できない貴重なことだ。


どうせだったらビリでまわってきて誰の注目も集めないまま静かに走り切りたい。


なんて思ってしまった私をビンタして下さい。

血迷いました。

すみませんちゃんと頑張ります走ります。


準備体操が終わり、第一走者がトラックに並んで位置についた。


誰かの掛け声と共に、勢いよくトップバッターが走り出した。


うわー、早い。

全体のレベルが高すぎるんだよこの学年は。

しょっぱなからこんな速いもん。

てゆかいつの間にトップになっちゃってるし。


うちのクラスの走者は一気に何人か抜き、見事トップに躍り出た。


凄い凄いうん。


段々と他の走者と距離をあけてるし、これなら私も抜かされなくて済みそう。

とか思いながら次の走者が待機する位置に並ぶ。


今のところダントツのトップだ。

問題ない。大丈夫。


一度深呼吸をして、走ってくる自分のクラスの走者に向かって手を構えた。


大丈夫だ。落ち着け。

普通に走ってれば追いつかれない。


そう心の中で何度か唱えながら、少し助走をし、バトンが手に乗るのを待った。


足音が間近で聞こえて、手のひらにパシンとバトンが乗る音が聞こえた。


それをぎゅっと握り、右手から左手に入れ替えて思いっきり足で地面を蹴った。


うん、蹴った。

蹴ったんだけどね、その地面を蹴る瞬間にね、靴と地面の間に靴紐というものが挟まってね、うん。それでですね、なんというか。


地面と仲良しこよしすることになったわけですよ。


まぁ要するに、靴紐につまずいてこけました。


痛い、とても。

転んで地面にぶつけた箇所がとかじゃなくて、皆が自分に向ける目がなんとも痛い。


どうしよう。

とりあえず立たなきゃ。

立って走らなきゃ。


そう思い、突き刺さる視線に耐えながらも体をおこし、少し飛んでいってしまったバトンを拾って再び走り出した。


私が地面とイチャコラしている間に何人かに先を越され、走っている間にも後ろから何人かに抜かされてしまった。


もうやだこれ。

穴があったら生き埋めになりたい。


劣等感と罪悪感と羞恥心でぐちゃぐちゃになった思考のまま走り切り、自分のクラスの列の後ろについた。

数人が大丈夫?と声をかけてくれた。


それに私は笑顔で大丈夫と言葉を返した。


自分は全然大丈夫だ。本当に。

ただ大丈夫じゃないのはリレーの方だ。


私のおかげで現在うちのクラスはビリケツだ。

私のせいだ。


指定された列に座ってリレーの状況を眺めていると、近くでボソボソと話し声が聞こえた。


男B「絶対あのままいってたら1位だったよな。

男C「なー。あそこで転ばなければ絶対ダントツだったな。」


……はい、分かっております。

全ての責任は私にあります。真に申し訳ありませんでした。


…分かってる、本当に。


ふと走者の方を見ると、自分のクラスと前のクラスの差は徐々に広がってしまっている。


もうすぐアンカーに回ってしまうのに。


バトンをもらった走者が走り出し、次の走者がそこへ並ぶ。彼らがアンカーだ。


自分のクラスの列を見ると桐山君がそこへ並んでいた。


そしてなぜかバチリと彼と目が合ってしまった。


ナゼ?

私が彼を凝視していたからではない。


私が桐山君に目を向けた時にはもう彼が私の方を向いていた。


うわ、なんだこの自意識過剰な台詞は。


とりあえず桐山君と奇妙なアイコンタクトをとってしまった。


彼は無表情でこちらを見ていた。

睨むでもなく、ただただ無の表情で。


そしてすぐに視線をそらして走者に目を向けた。


本当に世にも奇妙なアイコンタクトですわ。


彼の意図が分からぬまま、走者がアンカーへと近付いていった。


現在、自分のクラスは一人抜いて6位という順位に位置していた。


(我が校は全7クラス) そしていよいよ並んでいた走者達が助走を始め、1位の人がバトンを手渡されて走り出した。

それに続いて2位、3位も地面を蹴る。


それぞれのクラスの歓声がより一層大きくなった。


少し出遅れたが、桐山君もバトンを手渡されて勢いよく走り出した。


おかげで、歓声が更にレベルアップしたのは言うまでもない。


そう、あの桐山君だ。


速くないわけがないわけなくない。

とりあえず速い。物凄く。


彼は一気に加速をし、前の選手を一人、二人と抜かしていった。


そして三人目を抜かした瞬間に、ゴールへと足を踏み込んだ。


彼のおかげで我が4組は3位に踊り出たのだ。


歓声が再び起こり、彼の周りに人が集る。


やっぱり彼は凄い。本当凄い。


そして同時に、自分が転んでさえいなければと、劣等感に苛まれた。


女子が近付いたことによって嫌悪感を丸出しにする桐山君を見ながらそんなことを思った。


速かったなぁ、本当。

彼の走りを思い出すと、ふと、小さい頃にもこんな凄い子がいたなー、とぼんやりと記憶が思い返された。


まぁ、その子はもっと気前が良くてフレンドリーで女子が嫌いなんて言わないような子だったけど。


おいおい自分は何を比べてるんだ。


そんなことを考えていると、もう帰るのか、桐山君が入り口付近にいる私の方へと近付いてきた。


後ろにはまだ群衆を引き連れている。


私は邪魔にならないように、道の端へ寄った。


そんな私に桐山君はちろりと目を向け、そして、横を通りすぎる時にぼそりと何かを呟いた。


「………」


それは小さくて短い言葉だった。


きっと周りの人には聞こえていない。

私個人に向けて発した言葉なのだろう。


だが私はその言葉の意味が理解出来なくて、ただ立ち止まって群衆が下駄箱に入っていくのを呆然と眺めていた。



-『やっぱりこけた。』


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