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私の言葉に反応して目の前の彼、桐山君は目を見開いた。
「……違う、僕は、」
「お願い、否定しないで。…伝えたいことが沢山あるから。」
そう言うと、彼は口を閉じて静かに私を見つめた。
何で気づかなかったんだろう。桐山君と大塚が、同一人物だったなんて。
『大塚って、唯斗の旧姓だよ。あいつ、中学入る前に親が離婚したらしくて、入学して数ヶ月は大塚のままだったけど、そのうち桐山に姓が変わったんだ。』
よくよく考えてみれば、二人の名前は同じ唯斗だった。でも同姓同名の人はいくらでもいるし、それに、私の知ってる大塚唯斗は幼い姿で、大人びて見える桐山君からは全く想像もつかなかった。
こうやって間近で見てみると、確かに面影みたいなものはあった。昔の彼はもっと笑顔が絶えない明るい人だったけど。
「……大塚君。」
「………」
ぽつりと名前を呼んでみる。彼は返事をせずに、ただただ私を見つめていた。構わずに私は言葉を続ける。
「私ね、貴方にずっと謝りたかった。」
「………」
「ごめんね。昔、沢山大塚君のこと傷付けた。ごめん。本当にごめんなさい。」
私は大塚君と仲が良かった。一緒に帰ったり遊んだり沢山話したりしていた仲だ。だけどある日、私は何の理由も伝えずに彼を避けた。無視した。拒絶した。
理由は簡単、自分が楽になりたかったからだ。
私は小学五年生の頃、いじめを受けていた。
私はそれまで、今じゃ考えられないくらい明るい子だった。人見知りせず、男女ともに友達が多かった。でも影では、仲のいい男の子が多いからって、二股かけてる、とか、男遊びが激しいとか、そんな根も葉もないことを言われていた。
でもそれだけならまだ我慢出来た。だけど大塚君と同じクラスになって、彼と仲良くなっていくうちに、その小さな周りの妬みは陰口どころではなくなっていた。
気付いたらクラスの女子全体が敵になっていた。無視は当たり前。物を隠されるのも当たり前。他にも教科書やノートに酷い落書きをされたり、上履きの中にミミズを入れられたり、掃除中に水をかけられたり。周りの女子の単なる嫉妬で、私は酷いいじめを受けていた。クラスにいるのが怖くて、休み時間になる度に図書室に逃げ込んでいた。
そんな地獄のサイクルに耐えられなくなって、とうとう私は大塚君を避けた。何も言わず、ただ急に距離をとった。人のことも考えず、自分のことを優先したんだ。
大塚君を避けるようになってから、いじめは段々と収まっていった。そして六年生にあがってクラスが変わってから、私と大塚君の関わりはほぼ途絶えた。それと同時に私への皆の対応も元通りになった。
だけど私は変わった。目立つ事を控えた。大人しくするようになった。ひたすら地味になるように努力した。いじめがトラウマになり、私は人気者になるのが怖くなった。だから誰からも注目されず、ひたすら地味に生きるようにした。
そんな生活を続けて数ヶ月、ある日、大塚君が転校したという話を聞いた。突然だった。卒業を目前にして、彼は先に学校から去ってしまったのだ。
すごく、後悔した。何も伝えられないまま、彼を傷付けたまま、お別れしてしまった。悔しくて、悲しくて、自分が情けなかった。
だから、一度だけでいいから彼に会いたかった。伝えたかった。ごめんねって、沢山謝りたかった。
「私、憎まれても嫌われても構わない。むしろ嫌われて当然だよ。私沢山貴方のこと傷つけたから。女嫌いになっちゃったのも、理解できた。私のせいだね。ごめんなさい。本当にごめんなさい。ごめん、ごめんなさいっ……」
頭を下げて、沢山ごめんなさいを口にした。こんなんで許される訳がないのは分かってる。でも謝らないと気が済まなかった。申し訳なさと、後悔と、罪悪感とかがぐちゃぐちゃに入り混じって落ち着かない。
そんな私の耳にふと、彼の声が届いた。
「違う。」
一言、その言葉が教室に響く。
下げていた頭をゆっくりとあげて視線を合わすと、なぜか彼は悲しげな顔をしていた。
「違う。君のせいじゃない。……謝るべきなのは、僕の方だ。」
「……え?」
彼の予想外の言葉に、ぐちゃぐちゃに絡まっていた思考が一時停止する。そんなわたしに構わず、彼は言葉を続ける。
「全部僕が悪い。僕のせいで……君は酷いいじめにあった。」
その言葉を聞いて、息をがつまりそうになった。私がいじめられていたことを、彼は知っていたんだ……
「君の方が何倍も何十倍も辛い思いをした。僕はそれに気付いてやることも助けることも出来なかった。馬鹿だろ。屑だろ。許さなくていい。心底恨んでくれたって構わない。それでも謝りたい。……本当に悪かった。」
今度は桐山君が頭を下げた。ただ私は今の状況に思考が追いつけずに、ぽかんとした顔でその光景を見ていた。
「私のこと、嫌いなんじゃ……」
「そう思ったことなんて一度もない。」
「でもこの前、あんたも嫌いって……」
「……また、傷付けたくなかったから。」
傷付けたくなかった?それは一体どういう意味…?
「女子が嫌いなのはあながち間違いじゃない。元々自分の外見や学歴ばかり見る人は好きじゃなかった。それに、君の一件があってから更に女子ってものに嫌悪感を抱いた。だから拒絶した。”女子”を。どこの誰が嫌い、とかじゃなくて。女子は皆嫌った。皆。……君も。」
「え…?」
「君が特別に見えないように。」
………そっか。
そういう、事だったんだ。
まるでパズルのピースが埋まっていくように。頭の中で答えが出されていく。
ずっと分からなかった。今までの桐山君の事が何一つ分からなかった。でも、やっと答えが分かった。
桐山君は、
「…私のこと、守ろうとしてくれたんだね。」
やっぱり彼は王子様だった。