ε==ΞΞ(o- -)=○Σ)゜д゜)ノ
「うわー、すごく降ってる。」
雨が地面を叩きつけるような音が耳に響く。予報では曇りのはずだったんだけどな。やっぱり先に帰っとけば良かった。
今日はりなちゃんが居残り勉強をすると言っていたので、私も暇なので付き添って居残ることにしていた。ところがどっこい、彼女の本当の目的は、彼氏と帰るために部活が終わるまでの時間を潰すための居残りだったのだ。騙された私はりなちゃん勉強なんて偉いなー、と思いながらちょっと尊敬しちゃったりもしたのに。その動機が彼氏だなんて不純だ!リアル充実者め!
心の中でぐちぐちと呟きながら一階に降り、下駄箱へと向かう。そういえば傘持ってきてたっけ。折りたたみが鞄に入ってた気がする。下駄箱に辿りつき、自分の番号の前で鞄の中を探ってみる。うん、まさかのまさかだよね。まさか入ってないとはね。とほほ。
ここまで来たのに教室まで戻るのもあれだから、とりあえず靴を履いて置くことにした。
……ん?人気がないと思っていたのに、昇降口の出入り口のところに誰かが自分に背中を向けて立っていた。その後ろ姿は見覚えがある。
「……桐山君?」
あ、やばい。思わず口に出てしまった。そう思ってももう遅い。彼が声に反応してこちらを向く。
「………」
視線が合っても、彼は表情一つ変えずに無言でいた。何だが気まずい。
「……桐山君、帰らないの?」
何を言ってるんだ自分。ここは気まずい空気に耐えて無言を貫けばいいところだというのに。何で口を開いちゃったんだ本当に。
「傘、持ってないから。」
「…そうなんだ、私も持ってないんだよね。あ、あはは。」
今最高に消えたい。あからさまな作り笑いをしてしまったと思う。絶対ぎこちなかったよ今の。過去に戻ってもう一回やり直したいわ。
「……そう。」
あれ、何だか、以前よりもまともに返答をしてくれている気がする。罵倒を繰り出してこない。恐る恐る彼と距離を詰めてみる。何も言われない。わお、これは凄い。
それから数分、お互い無言で並んでいた。確かに気まずくない訳ではなかったが、隣に並べただけで私は十分だった。それだけで何かが認められた気がした。
「……雨、やまないね。」
ぽつんと、そんな言葉が漏れた。コミュニケーションを図ろうとして出した言葉じゃない。独り言に近かった。なのに彼は、うん、と短く返事をしてくれたのだ。こそばゆい何かがこみ上げてくる。聞いてくれてる、という事実が嬉しかった。それで調子に乗ってしまったのか、なぜかいらぬことまで口にしてしまった。
「私ね、実は雨そんな嫌いじゃないんだ。」
何を言ってるんだ自分、と心の中でわかっているものの、言葉はぽつりぽつりと徐々に漏れ出していた。
「小さい頃は雨が好きじゃなかったよ。でもある男の子がね、雨はいいよ、って教えてくれたんだ。」
「………」
「何で?って聞いたのね。そしたら、雨が沢山降る時期には、紫陽花が咲くからって。不思議だよね。」
「………」
「その子、紫陽花が好きだって言ってた。藍色の紫陽花が。別に自分のことを言われてる訳じゃないのに、名前と被ってる色だったから、変に嬉しかったんだよね。自意識過剰もいいとこだけど。」
「………」
「…はい、以上です。無駄話失礼しました。」
なんだか急に恥ずかしくなって、無理矢理会話を終わらせた。何を言ってるんだ自分は。とってもとってもどうでもいい話を桐山君にしてどうする。落ち着け自分。頭の中でプチパニックを起こしていると、彼が小さく口を開いた。
「…あんたはさ、その子のことどう思ってたの。」
それは予想外な問いだった。まさか桐山君にこんな質問を返されるとは思いもしなかった。数秒、頭の中で妥当な答えを考えてみた。でもどんなに考えても辿り着くのは一答のみ。
「好きだった、その子のこと。今もこうして考えちゃうってことは、現在進行形なのかな。あはは、未練たらしいな自分。」
ちょっと笑いを含めて返答した。まぁこれで私のレズ疑惑は晴れただろう。意外と根に持ってたんだよねあれ。ごちゃごちゃと考えていると、彼の意外な言葉が耳に届く。
「その子もあんたのこと好きだよ。今も考えてるくらい、現在進行形で。」
「……え?」
何を言われたのか一瞬理解できなかった。問い返そうと口を開いた瞬間、後ろから女子の声が聞こえ、それと同時に彼は昇降口から外に出て行ってしまった。雨はやんでいないというのに。そのずぶ濡れになっていく背中を、やるせない気持ちで見つめた。
桐山君は、大塚君のことを知っているのだろうか?知っているとしても何で私のことまで?分からないよ、何にも。もやもやする。最近桐山君のことに頭を悩ませてばかりだ。早くすっきりしたい。早く全部教えて欲しい。
雨の音が鳴り響くこの空間で、私は桐山君が消えていった校門の先をただただ見つめていた。




