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●過去②●

煉と爛の大暴れ回です

夜。雲も星も無い漆黒の夜空に浮かぶ月明かりに、それは照らされていた。

人の形をした、もの。

目も、鼻も、口も無い。

まるで、闇が人を形どったような、不気味なもの。

生物かどうかが疑わしいそれは、1体ではなく、100を越える数で蠢いていた。

その大軍の見る先には、1人の男。闇そのものを纏ったような格好の男は、紫に輝く瞳で天に座す月を見つめ、静かに呟く。


「明日、会おう。“銀炎の爛”よ」


口の端を吊り上げ、不気味に歪めた表情で、高らかに笑った。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


太陽の光がサンサンと降り注ぐ朝。その光と吹き抜ける爽やかな風を全身に受け止めて、ハンモックに揺られながら煉は優雅に読書に勤しんでいた。

書名は『世界の料理大全集!!』。高級フレンチからゲテモノ料理までのレシピが掲載されている煉の愛読書だ。各ページに目を通しながら今日の食事を何にするかを思案する。


「う~ん。飯はどうすっかなぁ」


適当な一人言を呟きながらも、昨晩シンディが言っていた言葉の意味を考えていた。感じたことの無い気配。シンディが言うなら信憑性は高いだろう。故に、煉の頭の片隅には、何かしらの違和感が感じられた。

天気は快晴。雲1つ無い青空を見上げる。


「嫌な予感がするな…」


「昨日のばあさんの件についてか?」


小さく呟いた一言に返事が返ってきた。振り返ると、爛が少し真剣な表情を浮かべながら近付いてきた。


「ああ。嘘では無いだろうしな」


「感じたことの無い気配ねぇ」


頭を掻きながら爛がぼやく。


「まあ、今気にしても仕方ないだろ。煉、飯はあるか?」


爛の緊張感の無い提案にズッコケるも、煉は苦笑して応えた。


「冷やし中華ならすぐ作れる」


「んじゃそ……」


「キャアアアアアアアアアアアアアッ!!!」


突然の悲鳴が、爛の言葉を掻き消した。悲鳴を聞いた瞬間、考えるよりも先に爛が動いた。


「兄貴!今のは?」


「煉はここにいろ!俺が見てくる!!」


閃光の速さで一気に駆け出す爛の背中を見送る煉。

胸に何か嫌なものがよぎる。これから起こる、悲劇の前兆のように。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


家から飛び出すと、すぐに悲劇の原因を理解した。

炎上する軽自動車。側には固いアスファルトに腰を抜かしている女性。

そしてその女性に近付く、闇の人形。小難しい事を考えるのは後に回し、女性に近付く闇の人形へと、強烈な飛び蹴りを叩き込む。

不意打ちをくらった闇の人形は素直に蹴り飛ばされて電柱に激突した。


「早く逃げろ!!」


爛の声に反応して、女性はすぐさま離れていった。


「さて、まず聞きたいんだが…何者だ、てめぇ?」


指の関節をパキパキと鳴らし、低く怒気を纏わせた声色で闇の人形へ問う。

しかし闇の人形は何も答えない。ただ突っ立っているだけで、何の動きも見せようとしない。警戒を怠らず、しばらく観察をしていると、闇の人形は指をまっすぐ爛に向け、言った。


「オ前、“銀炎ノ爛”ダナ?」


「…!?」


感情の欠片も込められていないその声は、確かに爛のことを言った。全身に冷や汗をかく。心臓の鼓動は早まり、血流も加速する。

平静を装いつつ、再び闇の人形に問い掛ける。


「だったらどうした?俺に用でもあるか?」


「我等ガ王ガ、貴様ノ排除ヲ命ジラレタ」


「王…だと?誰だ、そのふざけた野郎は?」


「答エル必要ハ無イ!!オトナシク死ヌガイイ」


両手を獣の爪へと変化させ、爛へと襲い掛かるが、

爛は慌てもせず、無言で放った拳で闇の人形の顎を撃ち上げた。アッパーカット。非常にシンプルなその技は、闇の人形をはるか上空へと消し去った。


「てめぇじゃ役不足だ。出直してこい」


手首の骨を回しながら最早空へと消えていった闇の人形へと悪態をついた。

改めて辺りを見回すと、同じような闇の人形の軍勢が街を襲っていた。所々では火の手が上がっている。

警察と消防団、救急隊。更には自衛隊も出動していた。銃やアサルトライフルで応戦するも、闇の人形は一向に止まらず、人間達を蹂躙していく。


「一気に片付けるか」

爛は自分のエレメントを解放する。その瞬間、爛の体から白銀に輝く炎が周囲に放たれた。

フレイムエレメント・タイプシルバー。

爛が契約した、突然変異の炎属性だ。


「<50式・銀炎弓>!」


右腕から放たれた銀炎が50の炎の矢へと姿を変え、寸分狂わず闇の人形達を捕らえた。


「弾けろ!!」


そして爛が指を弾くと、突き刺さった矢が爆発。闇の人形を塵も残さず焼失させた。それでもまだ数は残っている。遠くを睨めば、黒い軍勢がこちらに向かってくるのが確認できた。


「ちっ!何だってんだよ、てめぇらはよぉぉぉ!!」


銀炎を纏った爛が、黒い軍勢へと突撃した。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「兄貴、

無事かな?」


爛の指示で自宅に残っている煉は、姿の見えない爛を心配していた。爛が出ていって約1時間。連絡が未だに無い。しかも、家の回りには無数の闇の人形達が蠢いている。生物かも疑わしいそれは、見境無く人を襲っていた。殴り、蹴り、切り裂き、引き裂いた。

辺りに散らばるのは人の死体。立ち込めるのは血の香り。家から上がる火の手。まさに地獄絵図だ。


「たく、何だよてめぇらは!!」


煉は自分に襲い掛かろうとする闇の人形の顔面を鷲掴みにして、地面に叩き付ける。闇の人形の頭を中心に、同円状の亀裂がアスファルトに刻まれた。顔面の拘束を解いて腕を引き抜く。闇の人形の顔面は原型を留めず、いくつもの欠片となって四散していた。

しかし、この1体だけでは無い。

まだ数え切れない軍勢がこちらに向かってくる。


「しゃあねぇか」


煉は右腕をまっすぐ伸ばし、自身のエレメントを解放させた。その瞬間、煉の体に炎が宿る。爛とは違う、突然変異では無い炎。

フレイムエレメントである。


「こいよ、人形共。まとめて相手したらぁぁぁ!!」


炎を纏った煉が、膨大な陽炎と共に突っ込んだ。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


一方の爛はというと、


「これで…」


闇の人形の首を掴んで宙へと放り投げる。重力に従って落下してくるところに


「ラストォ!!」


銀炎を纏わせたストレートを撃ち込んだ。闇の人形は瞬く間に銀炎に包まれて焼失した。


「やっと、終わった」


爛はエレメントの解放をとき、その場に座り込む。


「一体何なんだよ、こいつら……」


爛が思考を巡らせていると、後ろで何かの気配が感じられた。警戒しながら後ろへ声を掛ける。


「いるのはわかってるぞ、出てきやがれ」


少しして、突然1人の男が現れた。全身を黒で統一した格好をしており、顔にも目深にフードを被っていて表情が読めない。辛うじて見える口元は端がつり上がっていた。

この正体不明の男を見た瞬間、爛はその場から飛び退いた。一斉に汗が噴き出す。心臓が早まる。口が乾く。こんな経験は初めてだった。この男は危険だ。

爛の直感がそう告げた。

ここで倒さないと。

爛はエレメントを限界まで解放した。

先程と比較にならない炎と熱量。それは天と大地を焦がし、辺りの景色を灰にしかねないものだった。


「何者だてめぇは!?」


男は答えず爛を指さし、こう言った。


「やっと会えたな、“銀炎の爛”」


「……!?」


「お前と、殺し合いにきた」


狂気につり上がる口元は、爛にこれまでに無い恐怖、絶望を与えた。


「…俺が目的か?」


「そうだ」


「だったら何で直接俺のとこに直接来なかった!?

わざわざ街を滅茶苦茶にする必要も無いだろ!!」


激昂した爛が放った怒号は熱波となり男を襲う。

しかし俺は表情を微塵も変えない。むしろ先程よりも笑っている。


「面白くないのだよ」


「何だと…!」


「直接お前に会って戦ったとして、お前は私を殺すか?」


「……何が言いたい?」


「私は、殺し合いたいのだよ。強者と。自分と、同等の力を持つ人間と!!」


感情の高ぶりからくるのか、口調が激しくなる。

爛はそんな男の話に怒りが沸いた。


「てめぇの勝手な理由で、こんなことをしたってのか!?」


「悪いか?」


感情の欠落したような口調で爛に言い放つ。


「上等だよ……てめぇのお望み通り、ここでぶっ潰してやらぁ!!」


爛は地面が抉るほどに踏み込み、一気に男との距離を詰める。銀炎を纏わせた拳で顔面にフックを叩き込む。殴られた方向へ飛ばされた男を先回りし、肘撃で背骨へし折る。くの字に折れ曲がった男の胸に掌を押し当てる。


「<火爆掌>!!」


掌から放たれた爆炎が男の体を吹き飛ばす。体を焼き焦がし、炎撃をその身に叩き込む。


「今のは5割だ。まだふざけたことをぬかしやがるなら、手加減はしねぇぞ」


本物の殺意を込めた瞳で男を睨み付ける。

しかし、


「手加減はいらない。本気でやれ。でないと、面白くないのだよ」


「……んだと?」


男は無傷で立ち上がった。いくら全力で無いとは言え、爛の5割なら高層マンションを半壊させるくらいならわけは無い。

しかしその破壊力をまともに受けてなお、男は立っていた。


「何をしたんだ…?」


「ククク、謎か。まあいい。教えてやる」


男はそう言うと、全身から、闇を放った。月の無い夜空のような漆黒。禍々しい気配を放つそれは、今まで感じたことの無い気配。


「エレメント…か?」


「見たこと無いか。まあそれもそうか。これは、

ダークエレメントだ」


「ダーク、エレメント」


闇属性。まるで聞いたことが無い。初めて聞くその名。


「さあ、殺し合いを始めよう」


「ちっ!上等だよ!!」


白銀の炎と漆黒の闇が、激突した。撒き散らされる炎と闇の衝撃波は、爛達を中心に半径約50メートルに吹き荒れた。


「<銀火裂脚>!!」


腰の回転を乗せた炎の回し蹴りを男の腹部に放つが男が上げた脚に防がれる。


「くっ…<銀火連拳>!」


爛は銀炎を纏わせた拳ガトリング並の速さで撃ち出す。拳が分身したような無数の拳撃。男はそれを、いとも容易く捌いた。全ての拳撃を弾き、最終的には爛の拳を掴んだ。


「終わりか?」


「まだだ!<銀火双砲>!」


捕まれた拳から銀炎の砲撃を放つ。至近距離からの炎熱砲撃。男の体は炎にのまれ吹き飛ばされた。

後方の倒壊したビルに突っ込み派手に煙を上げる。

崩れ落ちる瓦礫と鉄骨がけたたましい音を立てる。


「やったか…?」


「今のは驚いたな」


爛の淡い期待を打ち砕くように、男が瓦礫を突き破って立ち上がる。


衣服の所々はボロボロになっているが体は無傷そのものである。


「今度はこちらからいかせてもらおうか」


男は、まるで瞬間移動したかのように爛の前に現れる。あまりの速度に怯む爛の隙を男は逃さない。

右脚を振り上げ、鋭い上段蹴りを爛に放つ。

爛は顔の横に立てた左腕で上段蹴りを受け止めるが、予想以上の威力に蹴り飛ばされて瓦礫の山に叩き付けられた。その衝撃により、爛の口からどす黒い血が吐き出された。今の一撃で内臓が損傷したのだろう。


「……何だ呆気ない。これが最強のエレメント使いか?」


男は失望するかのように爛へ罵詈雑言を浴びせる。


「…誰が終わったっつった?」


天を貫く銀炎の柱を屹立させ、爛は瓦礫の山を吹き飛ばし、立ち上がる。


「そうでないと、面白くない」


男も闇を一層強く輝かせる。


「次が最後の一撃だな」


爛は小さく呟き、全ての銀炎をその身に纏わせる。

銀炎はやがて形を持ち、

西洋竜の翼、尻尾を作り出した。


「<銀炎竜神>!!」


エレメントに形を与えそれを装備する高難易度の技。エレメントの扱いに長けた爛だからこそ出来る身体超強化術だ。


「銀炎の竜か、悪くない技だな」


「これで終わらせる!!」


爛は翼を力強く羽ばたかせて一気に上昇する。

充分に上昇し、男に向かって急降下した。銀炎を纏い飛来する姿は、流星。

大気との摩擦により更に燃え上がる爛。


「<銀炎竜牙>!!!」


銀炎は巨大な顎を開く竜となって男に突進した。

爛が持つ、最強の技。


「<夜魔多ノ大蛇>」


その技を、男はいとも容易く受け止めた。男が放った闇が、空想に出てくる八頭の大蛇となり、爛の<銀炎竜牙>を相殺したのだ。


「なっ…!?」


「ふむ、相殺したか。中々の威力だな」


「てめぇ、一体何なんだよ!?」


「話すときは、対等の目線で話そうではないか」


男はそう言って、右腕から闇の糸を放ち、爛の体を拘束する。そして、


「な!?」


男は爛の体を地面に叩き付けた。撒き散らされる砂煙と瓦礫の破片。巨大なクレーターも出来上がった。


「中々楽しめたぞ。赤堂爛。相手をしてくれた礼だ。楽に、殺してやる」


「う……くっ…!」


動きたくとも動けない。

全身の骨が砕けてるような激痛が爛の体を支配していた。内臓もいくつ潰れたかわからない。血もかなり吐いた。薄れゆく意識を必死に保ち、男の顔を睨み付ける。


「さあ、さようなら」


男は闇を纏わせた腕を爛に向かって振り下ろした。

ちくしょう、爛が諦め目を閉じた時、懐かしい声が聞こえてきた。


「させるかぁぁぁぁ!!」


振り下ろされた腕を、視界に飛び込んできた1人の少年が殴り飛ばした。

赤髪赤眼のその少年は、とても見覚えのあるものであった。


「…誰だ貴様は?」


男は突然の乱入者に厳しい視線を送る。が、少年はその視線を受けても怯むことなく指さして言い放つ。


「俺は赤堂煉!こいつの弟さ。人の家族に手ぇ出しといて、タダで済むと思うなよ、真っ黒野郎!!」


煉の怒りに呼応するように、彼の背中で炎が爆発した。

次回、煉vs男

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