●火加減注意報●
遅くなりました
エレメント学園教室練屋上では、4人の生徒と8体の化け物が戦闘を繰り広げていた。1人で2体を捌くのは困難なもの。
リオ達の最初の勢いは、風前の灯火だった。
「はあっ!!」
「グギィ!!」
リオの風を纏わせた中段蹴りが、リザードマンをくの字にへし折る。しかしリオの死角から現れたもう1体のリザードマンが尻尾を振り下ろした。当たる寸前で気付き、リオは右に跳んで回避する。明らかに分が悪い。リオ以外も、悪戦苦闘していた。
「下手に攻撃すればまた増える……ライズ!何か良い方法は無いの?」
「1番、手っ取り早いのは、さっきみたいに、欠片を残さずに…って話してんだから邪魔すんな!!」
リザードマン2体の攻撃をいなし、かわしながらリオに伝えようとするが、しつこすぎる攻撃にキレて高速の蹴りの嵐を浴びせて吹き飛ばした。
「1番手っ取り早いのは欠片を残さずに、焼き尽くすのが最良だと思う」
「焼き尽くす……うちのクラスに炎を扱う奴いたっけ?」
「残念ながらゼロ」
ライズは頭の上で丸を作った。
「じゃあどうすんの!?」
「どうしよっか………リオちゃん後ろ!!」
ライズの言葉に急いで振り返る。目に飛び込んできたのは、歪な爪。まっすぐ振り下ろされてくるのがスローモーションで見えた。
動くこてができず、リオは死を覚悟して、目を固く瞑った。
しかしいつになっても爪が自分を切り裂かない。
おかしいと思い目を開ける。そこにいたのは、
「女にそんなもん当てたら駄目だろ?」
炎のような真紅の髪。
ルビーのような瞳。
今日あったばかりの、
「ぶっ飛べ、蜥蜴野郎」
「グゲッ!?」
赤堂煉が、リザードマンの顎を、最初あった時と同じように撃ち抜いた。
顎を撃ち抜かれたリザードマンは空中で猛烈な勢いで回転しており、やがて重力に従って落下した。
突然の来訪者にリザードマン達は警戒心を抱き、煉を中心に扇状に広がった。
「また会ったなぁ、リオ。それにしても、ボロボロだな」
「うるさいわね。それより、何であんたがここにいんのよ?」
「ばあさんから教えてもらったんだよ。リザードマンが学園に出たから退治してこいって。んで、こいつに連れてきてもらった」
煉が指差す方向には、一角炎獣バーンズがいた。
「……あれに?」
リオは信じられない様子で同じく指差した。
「そう、あれに」
「嘘でしょ…?」
「大マジだ。な、バーンズ?」
煉はバーンズに話し掛ける。
「『まあな。まさか負けるなんて思ってなかったがな』」
ヤレヤレとため息混じりに応えた。
「……あんた本当に何者なの?」
「ただの転校生だよ。さて、バーンズ。ここの4人を安全圏に運んどいて」
「『はいはい了解。くれぐれもやりすぎるな』」
「そこらへんは弁えてるっつうの」
煉の言葉を聞いバーンズは、すぐにリオ達を背中に乗せた。人間4人が乗ってもびくともしないのは流石である。そのまま屋上から飛び上がり、少し離れた空中で静止した。
それを確認した煉は、体の骨を鳴らしていく。肩、拳、脚、首とストレッチの要領で解していった。
「リザードマン8体か。まあ、準備運動にはなるだろうな」
次の瞬間、煉がその場から消えた。いや、消えたのではない。ただ、移動しただけであった。あまりの速度に反応できず、煉の真正面にいたリザードマンは拳をモロにくらって後方に殴り飛ばされた。さらに煉はその場の左右にいた2体にリザードマンに蹴りを浴びせて蹴り飛ばす。蹴り飛ばされたリザードマン2体は残りの5体を巻き込んでさらに吹き飛んだ。
「……大したことねえな。こいつら」
その光景を見て遠くにいたリオ達は絶句していた。
2体でも苦戦を強いられたリザードマン8体を、たった1人で圧倒していた煉の姿を見て。
「あれが、噂の転校生」
「……できるでござる」
「格闘技でもやってたかな?彼」
3者3様の感想を言って驚いていた。
煉の猛攻を受けたリザードマン達は怒りの形相を浮かべて突っ込んできた。
「頭使えよ、お前らは」
煉は右手の手刀を構えて、突っ込んでくるリザードマン達を、その場から動かずに捌いた。
どうゆう鍛え方をしたらそうなるのか、リザードマン8体は上半身と下半身が切断されて地面に落ちた。
煉は手刀に付いた緑色の血を払った。
「歯応えねえな」
残念そうに呟いた。
リオ達はさらに絶句していた。エレメントも使わずに、素手の手刀でリザードマンをバラバラにしたのだ。驚かないほうがおかしいだろう。そう思っていたが、リオが不意に声を上げた。
煉にバラバラにされたリザードマンの上半身と下半身合わせて16個が再生を始めたのだ。異変をすぐさま察知した煉は後ろに振り向いて、眉間に皺を寄せた。
「リザードマンに再生能力は無かったはずだけど」
先ほどの余裕の構えと違い、何かの武道の構えをとり、増殖した16体のリザードマンを睨み付けた。
「おーい赤堂君!!聞こえるかな?」
と、突然聞こえた声はライズのものだった。
「そいつらどういう訳なのか切断とかバラバラにしたら再生するんだよね。だから殺るなら焼き尽くすのが1番手っ取り早いよ!!」
「でもその肝心の炎を使える奴がいないんでしょ」
リオの指摘にライズがしまったと天を仰いだ。
「じゃあ好都合だな」
しかし返ってきた返答は何故か弾んでいた。
「俺がちょうど、炎と契約してんだよね」
そう言うと煉は、どこからとめなく発生させた炎を右腕に巻き付けた。渦巻く炎を纏う腕の温度は、離れているリオ達にも伝わってきた。
「んじゃ、きっちり焼失させますか」
煉はまず、1番近くにいたリザードマンの顔面を炎を纏わせた右腕で鷲掴みにした。握力で頭蓋が軋み、炎で鱗を纏う皮膚が焼かれていく。
「イギャアァァァ!!」
リザードマンは悲鳴を上げながら、両腕で煉の腕を外そうとするがびくともしない。更に焼かれていき悲鳴を上げなくなったリザードマンを地面に叩き付けた。その衝撃で、屋上にはかるいクレーターが出来上がった。
「1、2、3…………15体だな」
リザードマンを数え終えた煉は自分の周りに15本の炎で出来た矢を作り出し、
「<15式・火爆弓>」
一斉にリザードマン達へと放った。放たれた炎の矢は正確にリザードマン達の頭、心臓の部位を貫いた。
貫かれた箇所から発火し、そして、
「弾けろ」
煉が言うと同時に炎の矢が爆発。リザードマンを吹き飛ばした。いくつもの破片になって落ちるがどれも再生する兆候が見れない。
恐らく煉の炎で完全に焼かれたのだろう。
しかし、しぶといのが1体残っていた。
「コノ…クソガキガ!」
胸部より下が吹き飛ばされた1体のリザードマンが腕だけで這いずりながら寄ってきた。
「そんな状態でよく言えるな、てめぇは」
リザードマンの頑丈さにあきれ果てた煉が言う。
「黙レ!!テメェハ俺ガ喰ッテヤルカラナ!!」
「そんなんでどう喰おうってんだよ」
「コウスルンダヨ!!」
リザードマンが一際大きく咆哮を上げた。巨大な音圧と衝撃波により辺りの空気が振動する。
それと同時にリザードマンの体も変化していた。
焼失した下半身の断面から新しい脚が生えたのだ。しかし、サイズが段違いにでかくなっている。それに伴い上半身も巨大化した。全長約5メートルの巨大なリザードマンへと変化した。
「進化したのか…?」
「グルルルルル…!」
巨大リザードマンは最早人語を話さず、獣のような唸り声を上げ、煉を餌のように見ていた。口から垂らす涎は落ちる度に地面を溶かして煙を上げている。
「ガアァァァァ!!」
「うおっ!?」
巨大リザードマンは煉との距離を一瞬で詰めると、巨大な右腕を煉に向けて振り下ろした。スピードの変化に戸惑うも、煉は振り下ろされる右腕に対して、炎を纏わせた右腕を激突させた。鱗の拳と炎の拳。結果は、
「軽いんだよ!!」
「ッ!?」
振り抜かれた煉の拳が巨大リザードマンを殴り飛ばした。モロに飛ばされ、一瞬浮いた巨体が落下し危うく屋上の床が抜けかけた。
巨体リザードマンは起き上がって頭を振り、再び煉に突撃する。しかし、巨大リザードマンのスピードに慣れた煉の対応は余裕そのものであった。
「<火爆連脚・裂>!」
まず突撃してきた巨大リザードマンの脇腹に蹴りを叩き込む。
「<飛>!」
次に巨大リザードマンの胸部辺りに飛び、両足のドロップキックを叩き込み、その勢いを利用して空中でバク転し着地する。
「<旋>!」
続いて煉は地面に両手を着き、脚を180度開き独楽のように手を軸変わりにして高速回転した。さらに炎を纏わせたこともありさながら炎の竜巻となり、高速の蹴りを浴びせた。
「<昇>!」
回転を終えると、勢いを殺さずに巨大リザードマンの巨体を蹴り上げた。
「<断>!!」
そして宙に浮いた巨体リザードマンの更に上へ飛び、高く振り上げた踵を眉間に叩き込んで地面に叩き付けた。
「……やったか?」
「グアァァァァァ!!」
「いやしぶといな!?」
巨体リザードマンは体のいたる箇所に焦げ跡が残されて、眉間は陥没して緑色の血を垂れ流していた。
「殺ス!殺ス殺ス殺ス!」
「……面倒な野郎だな。
たく、」
煉は怒り狂う巨大リザードマンを無視して、コールブレスを起動した。
相手はシンディだ。
『はいはいもしも~し』
「ばあさん、ちょいと頼みがあんだけど」
『何かしら?』
「<ファースト>の解放許可をくれ」
『あら?あんたが言うってことは、リザードマンは普通じゃないみたいね』
「まあな。大したことは無いけど面倒くさい。長引けば厄介だから、よ!!」
話の途中で巨大リザードマンが突っ込んできたので回し蹴りで蹴り飛ばした。
「いいわよ。その代わり、やりすぎないように」
それだけ言うとシンディから通話を切った。
「保証はできねえから勘弁な」
薄く笑い、巨大リザードマンに向き直る。胸の前で拳を合わせ、息を吐く。
心臓の鼓動を一定に、精神を静め、目を閉じる。
「久々だからな、上手くいけよな」
鋭く目を開き、叫ぶ。
「<ファースト>!!」
叫んだ瞬間、煉の足元から炎の柱が立ち上り、煉の体を包みこんだ。屋上に突如現れた炎の柱は、学園中の人間の注目を浴びた。
やがて、炎の柱が掻き消されるように周囲に弾け飛んだ。そこには、紅蓮の炎を全身に纏った煉がいた。
意思を持つかのように形を変える炎は美しく、力強い印象を与えた。
「さ、終わらせるぞ」
煉は一瞬で巨大リザードマンに接近し、はるか空に打ち上げた。それを追うように、煉は両脚に炎を集中させて跳躍した。空中で身動きのとれない巨大リザードマンの胸部に、煉は右の掌を叩き付け、短く言う。
「<火爆掌>!!」
煉の掌から放たれた炎の爆発が巨大リザードマンを呑み込み、ただの塵へと変えた。巨大な質量を一瞬で焼失させたのだ。あまりに呆気ない幕切れに、リオ以下全校生徒及び全職員は絶句していた。
ファーストを解いて元の状態に戻った煉は首を軽く回した。
「ま、実戦の勘は取り戻せたな」
ニヤリと笑ってそう言った。
次回は煉とクラスメイトの顔合わせです