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●赤髪の転校生●

「迷っちまったなぁ…」


視界を埋め尽くす緑。

巨大な樹木が幾つも地面に根を生やし、力強く空へと伸びていた。花や草から薫る香りは何とも癒される感じだ。時折姿を見せる動物も目の保養になる。

そんな大自然の中で、俺は、絶賛迷子中だ。


「呼ばれて来たはいいけど、転送先が得体の知れない場所は勘弁してほしいぜ、たく」


青年はここにいない人物に文句をたれた。

長めの真紅に染まった髪を後ろで縛った髪型に、同色の瞳。黒のTシャツに色褪せたジーンズと動きやすそうなスニーカーを着用しており、肩からは迷彩のナップサックを掛けていた。

青年は暫く唸った後、道も分からないまま適当に歩き出した。歩く度に足下の小枝が折れる音がする。

5分ほど歩いて、突然視界が開けた。

無限に広がる草原。

青白い輝きを放つ山脈。

深い青色の湖。

そしてその先に見える、

巨大な街並み。

街が見えた瞬間、青年は安堵の息をもらした。


「やっと見つかったか。

よかったよかった。んじゃま、さっさと行くか。

ばあさんにどやされちまうからな」


青年はかるく笑みを浮かべて、まるで風のような速度で街へと駆け出した。

その際巻き起こった旋風で、草原はまるで海のように波打った。【アスタニア】

それがこの世界の名前だ。巨大な5つだけの大陸が存在するこの世界は地球とは違う世界だった。

5つある大陸のうち北にある大陸【レイヴィア】。

東にある大陸【ブルーザス】。西にある大陸【スノウフェン】。南にある大陸【ヴァーミリア】。

そして東西南北の大陸の中央に存在する大陸。

【エレメント学園】。

そう呼ばれている。

1つの大陸が丸々学園という馬鹿げたでかさの場所である。


「やっと着いたぁ!!」


そんな場所で、先程の青年が両手を上げて叫んでいた。中世のような街並みで1人青年が叫んでいるのを見て、通行人達が何やら視線を送っていた。

視線に気付いた青年は少し顔を赤くしてわざとらしく咳を1つ。顔の表示を柔くして、街頭でパンの店をしている老夫婦に声をかけた。


「ねえおっちゃん、エレメント学園ってこの先であってるっけ?」


「ああ合っとるよ。お前さん、見ない顔だけど…今日来たのかい?」


「うん。ついさっきね。

あ、おっちゃん。そのパン1個ちょうだい。通貨は円で大丈夫だっけ?」


「大丈夫じゃよ。はいよ、100円」


青年は財布を取り出して日本の100円を老人に渡した。


「ありがと。じゃあね」


「気を付けてのお」


青年はそう言って学園へと走っていった。


しばらく走っていると、物騒な話し声が耳に入ってきた。複数の男、たぶん3人。あと女が1人。

青年は口にくわえていたパンを一気に頬張って声がする方へと向かった。

家と家の間の細い路地を抜けると、廃材などが積まれた空き地に着いた。

その中央で、男3人が女を囲んでいた。

穏やかな雰囲気では無いことは確実だろう。

青年は廃材の後ろに隠れて会話に耳を澄ませた。


「あんた達、何度も言わないわよ。さっきうちの生徒から盗った金を返しなさい」


「おいおい嬢ちゃん、人聞き悪いなぁ。俺達はあのガキから合法的に徴収しただけだよ」


リーダーと思われる金髪モヒカンが勘にさわる声で変な理屈をほざいていた。


「相手を袋叩きにして金を奪うのが合法的とはよく言ったものね。さっさと盗った物置いて失せなさい」


「ケッ、正義面しやがって。おいお前ら、この嬢ちゃんには今晩の相手でもしてもらおうぜ」


3人が下品な笑いを浮かべて女へと詰め寄る。

しかし女はまるで怯まず、一言。


「近寄るんじゃないわよゲス!!」


同時に女から突風が放たれ男共は無惨に吹き飛ばされて壁に叩き付けられた。


「あんた等みたいのが私を相手にしようなんて500光年早いわよ。さ、返してもらうわよ」


女は落ちていた財布を取ってその場から去ろうとしたら、後ろから金髪モヒカンが飛び掛かってきた。

怒りに染まった目を剥きながら手に握ったナイフを突き立てようとしたが、そうはならなかった。

女は不意打ちに気付かず、殺られるかと思ったが、

金髪モヒカンは空中で静止していた。

それは、


「女に向けてナイフは無いだろ、あんた」


青年が突き出されたナイフの刃を指で挟んでいたからだ。金髪モヒカンは何が起こったか分からず、ナイフを抜こうとするが、抜けない。指で挟んでいるだけなのに微動だにしない。


「転校初日から、面倒な事してんじゃねぇよ!!」


そして、青年は空いてる右腕で金髪モヒカンの顎を撃ち抜いた。きれいに決まって、金髪モヒカンは白目を剥いて固い地面に落下。

そのまま気絶した。「寝てやがれ世紀末ヒャッハー野郎」


青年は手をパンパンと叩いて女の方へ向き直る。

鮮やかな薄緑の髪をポニーテールに仕上げており、瞳も同色の薄緑。見た感じ中々美人だ。


「怪我はねえか?」


「う、うん。ありがとう……あなたは?」


「俺?俺は赤堂煉あかどうれん。今日からここのエレメント学園に通うことになってんだ」


「そうなんだ。あたしはリオ・ハーマスよ。エレメント学園ⅡーⅠに所属してるわ。よろしく」


リオは右手を差し出してきたので煉も手を出して握手をかわす。


「で、質問だけど、この野郎共は?」


煉は無惨に気絶している3人を見てリオに聞いた。


「この辺りのチンピラよ。うちの生徒から金品巻き上げたからしめてた」


「ふ~ん。さっき吹き飛ばした力は、〈エレメント〉だよな。たぶん風属性」


「正解。昔から鍛えてるから結構自信あるわよ」


リオは得意気に掌から小さな竜巻を出現させた。

この力〈エレメント〉と呼ばれている。大地から生み出される神秘の力。

火、風、水、雷、地、氷と言った自然現象の塊だ。

この〈エレメント〉と契約することで、人を越えた力を手にいれることができる。その契約者を教育する場所が、エレメント学園である。


「で、赤堂君。この学園に転校ってことは、誰かの推薦でもあったの?」


「煉でいいよ。まあな。昨日突然ばあさんがここに来いって言ったからさ」


「ばあさん?学園に知り合いでもいるの?教員?」


「あ、ああ。まあ教員っちゃあ教員だけど…これ言ったらなぁ…」


どうも歯切れが悪い。リオは誰かと追求すると、


「理事長なんだよ」


煉の答えを聞いて顎がはずれん勢いで口を開いた。


「誰って……?」


「だから、理事長なんだよ。そのばあさんが」


「えぇぇぇぇぇぇ!?」


リオの絶叫を間近でくらった煉は目の前に星が流れているような錯覚に陥っていた。


「耳元ででけぇ声出すなよ。たく」


「いやだって、理事長って言ったら、由緒正しいエレメント学園の創設者で本人もエレメントの契約者。しかもかなりの実力者である、シンディ・アレイオス理事長の推薦者って聞いたら誰でも絶叫するわよ!!

それに理事長をばあさんって、殺されるわよ!?色んな意味で!!」


「いんだよ。昔っからそう呼んでんだし」


「昔?前から付き合いがあったの?」


「家族ぐるみの付き合いがあったからよ。俺が12歳の頃からだから、5年くらいの付き合いだな」


「へえ~……ところで煉……」


リオが口を開くと同時に


『キーンコーンカーンコーン』


ごくありふれた鐘の音が響き渡り、それを聞いたリオは顔を青くする。


「やばい、遅刻する!!」


そう呟いてその場からダッシュで走り去った。

あまりに突然だったから反応が一瞬遅れたが煉もすかさず後を追った。しかし速い。リオの走行速度はチーター並のものだった。走り去った後にかるい旋風が起こっている。

あ、お姉さんのスカートが…って何を見てんだ俺は!!自分の理性を取り戻すように頭を振った。

まあこの速度ならすぐ着くだろうと走ること5分。

視界の正面に巨大な門のような建造物が見えた。

白を基調とし金色の装飾があしらわれた豪華なものだった。


「あれがエレメント学園か」


「呑気に言ってる暇あるなら走りなさい!遅刻したら大変なんだから」


「何がどう大変なんだよ?」


「色々よ……ってもう門が閉まりかけてるじゃないのお!?」


見ると確かに門が閉まる直前のようだ。他の生徒らしき男女が急いで門をくぐっていく。

それに対してこちらは距離およそ100メートル。

どう見ても無理だ。

リオは諦めるように速度を急速に落とした。


「あ~最悪……遅刻なんて…ってきゃあ!?」


諦めムードのリオは後ろから走ってきた煉に抱えられた。しかもお姫様だっこでた。


「ちょ、あんた何してんのよ!?下ろして下ろして」


リオは赤面して抗議するが煉は素知らぬ顔だ。


「大丈夫だ。俺は気にしない」


「あたしが気にするのよ!!だいたいこれじゃ余計遅くなるでしょ!!下ろして1人で走ればいいじゃん」


「俺の記念すべき学友第1号を置いてけるかよ。

ほら、スピード上げるから、しっかり掴まれよ」


そう言って煉は地面を砕かん勢いで脚を叩き付け、

踏み込み、加速した。

「きゃああああああああああああああ!!」


加速した瞬間、リオは大絶叫した。とりあえず速すぎる。安全装置無しでフルスピード走行のジェットコースター並だ。

風がもろに当たって寒いさ痛い。しかしその速さのおかげで大分速くなった。

これなら遅刻は……とは甘かった。あと少しで門が金属音を立てて閉まってしまった。遅刻確定だ。

しかし煉はそれを無視して更に速度を上げた。


「ちょ、煉!?このままだとぶつかるわよ!?」


「心配すんな」


かるく笑って応える。

しかしリオは全く笑えない。顔が白くなっている。


「つーかこの速度で当たったら死ぬわよ!?止まって停まって留まって泊まって……」


「舌噛むぞ?」


煉の声が聞こえた時、リオは空を舞っていた。

やけにスローモーションに見える景色。真下には、門が見えた。てことは…


「飛んでるぅぅぅぅっ!!っていでぁ!?」


「ほら舌噛んだ」


煉はため息を1つ。

やがて重力に従って門の中へと着地した。

不思議と衝撃がなかったのが驚きだ。


「うし。これで遅刻は無しだろ」


「え、まあ大丈夫でしょうね」


「んじゃ、サンキューな。俺はばあさんのとこ行くから」


かるく手を上げてその場を去ろうとした煉に向かって、突然複数の物体が放たれてきた。上、正面、後からの3方向。

完全な不意打ちだが、

煉は右手で正面と上からくる物体を指の間で挟んで、後のは見向きもせず振り上げた脚で弾き飛ばした。

ようやく確認できた物体の正体は、よく削られた鉛筆(B)だった。

煉は鉛筆を見てため息を付き、門の影に影に隠れている人物に声をかけた。


「相変わらず恐ろしいな、ばあさん」


「あら。簡単なテストよ。あたしがいない間に腕が落ちてないか心配したけど、まあ大丈夫みたいね」


門の影から姿を現したのは、美しい金髪の美女であった。八頭身のナイスバディに金色の瞳。見るものを虜にするような顔立ち。

歳は20後半辺りだろう。

この美女が、エレメント学園創設者であり、煉の師匠である、シンディ・アレイオスその人だ。「もっと簡単な方法あったろ……3方向からの鉛筆ミサイルとか、俺じゃなきゃ死んでるぞ?」


頭を掻きながら呆れたように煉が言う。


「そんなヘマはしないわよ。それに鉛筆が当たったくらいじゃ怪我もしないと思うけど」


「あんたが修行ん時に俺の眉間に鉛筆当てて病院送りにしたのを忘れたか?」


煉がその眉間に皺を寄せてシンディに詰め寄ると

当の本人は視線を泳がせて口笛を吹く始末。

誤魔化し方が半端なくへたい。


「ま、まあいいわ。

改めて、よく来たわね煉。ここが、あなたが今日から通う、エレメント学園よ。で、そっちの娘は?」


「おお、忘れてた」


「いや忘れてたの!?」


煉はリオがいることをすっかり忘れていた。

いや~歳って怖いわ。

煉は頭の片隅でそう思った。


「ここに来る途中にチンピラに絡まれてたから助けた。ちなみにチンピラ共はぶっ飛ばしといた」


「そう。えーと、名前は?」


「は、はい。リオ・ハーマスです!Ⅱ-Ⅰクラスに所属してます!!」


メチャクチャ緊張していた。声が半端なく上ずっている。


「Ⅱ-Ⅰクラスか。優秀ね。これからも頑張ってね、リオ・ハーマスさん」


「はい!!」


シンディの言葉にリオはかるく涙しながら返事した。そんなに嬉しいか?

と、思ってた矢先。

リオが煉に質問した。


「あんたって、何で理事長をばあさんって呼んでるの?」


確かに。シンディは見た目20後半。それをばあさんと呼ぶ煉に疑問を抱いても何ら不思議はない。


「簡単だよ。ばあさんの歳がそんくらいいってるから呼んでるだけだ」


「は?」


「まあ見た目20後半だろうけど、これエレメント使って体にかかる時間を遅くしてんだよ。つまりばあさんの実年齢は60はいってるぞ?」


「嘘ぉぉぉぉぉ!?」


このカミングアウトにリオは驚きと混乱を織り混ぜた絶叫をかました。


「いやいやマジ。本当だって。なあ、ばあさ…」


「歯ぁ、食い縛りなさい。煉」


煉がそう言うととそこには、背中に不動明王を浮かべたシンディが仁王立ちして殺気を醸し出していた。


「ば、ばあさん…?」


煉は顔を蒼白させる。

今日は穏やかな天候なはずだが、ここだけ氷点下のような寒さで支配されているようだった。


「あんたねぇ、人にプライバシーをそう簡単に…」


シンディが煉一歩近付く。その一歩で、自分の重力が倍になったような疲労感に襲われた。


「ばらしてんじゃないわよ!!馬鹿ぁぁぁ!!」


「ぶふぉあっ!?」


バチーンといい音を立てて煉の顔面にフルスイングのビンタを叩き込んだ。

煉は回転しながら宙を舞って、地面に落下した。

その頬は、痛々しく真っ赤に腫れていた。


「手加減……しろ…よ」


煉の意識はそこで途絶えた。「い……つう……」


頬の痛みに魘され、煉は目を覚ました。見覚えの無い部屋で寝ていたようだ。

落ち着いた雰囲気を漂わせる茶色のフローリングに金と赤の絨毯を敷いている。壁には様々な絵画が掛けられている。本棚にも膨大な本が規則正しく並べられている。そして、巨大な窓をバックに巨大な机が置かれていた。卓上には数枚の資料と思わしき紙と、インク瓶に刺さっている羽ペンが見えた。


「……どこだここ?」


「理事長室。あたしの部屋よ」


「うおぅ!?」


何気無く1人で呟いた言葉にさっきまでいなかったはずのシンディから返答が返ってきたから思わず変な声を出してしまった。


「何よ。人の声だけでビックリするなんて、失礼ねぇ」


「いやいるならいるって言えよ。心臓に悪いぜ」


「あら、あんたの体は芯から芯まで鍛えたつもりだったけど、足りないようならまた…」


「ああ超元気!!心臓とか健康そのものだけど!!」


シンディの言葉を遮って煉はすぐさま立ち上がってラジオ体操を始めた。


「ならいいけど。煉、これ渡しとくわ」


シンディは1つの紙袋を煉に手渡した。受け取って中を確認すると制服とモニターが付けられた腕時計型の電子機器。多数の資料に1個の十字架状の赤い笛が入っていた。


「学園に必要な物は全て入ってるわ。説明してくから聞き逃さないでね」


煉は無言で頷いた。


「まず制服だけど、これは耐エレメント仕様にされてるから防護服として使えるわ。ちなみにデザインはあたし」


制服は黒のブレザーとズボン。白のカッターシャツに赤のネクタイだ。

ブレザーの左胸のあたりには校章らしき刺繍が施されている。


「次にその機械。これは

コールブレスってやつで、簡単に言えば携帯電話。相手と番号を交換して連絡を取れるわ」


「範囲はどんくらい?」


「ここと地球を跨いでも連絡可能よ。圏外はなし」


かなりの高性能だ。


「資料に関しては、まあ無視していいわよ。校則とかこの学園の定義とか堅苦しいことが書いてあるだけだから」


「理事長がそれでいいのかよ?」


「堅苦しいのは性に合わないわよ」


手をヒラヒラさせてニヤニヤしている。うん、腹が立つが我慢しよう。


「で、最後のだけど。笛ね。これは契約獣を呼ぶものよ」


「契約獣?」


「この学園の生徒全てが持つパートナーみたいなものよ。色々いたけど、あんたにはこれがいいでしょ」


勝手に決められているようだ。「まあいいけど…」


煉は渋々笛を持ち口に加えて息を吹き込んだ。

その音色は、暖かく、優しい音に聞こえた。

やがて何かが地を蹴る音が聞こえてきた。


「どっから聞こえるんだ?」

煉は辺りを見回すが音がするだけで何も見えない。

音はだんだんと近付いてきて、巨大な窓を砕く音と共に、それは中へと入ってきた。

白い体の馬だった。

しかしただの馬ではなく、揺らめく炎の鬣にルビーのような輝きを放つ一角を頭に備えたユニコーンであった。

ユニコーンは部屋を見回してシンディを見付けると


「『ようシンディ。また俺の主人候補が見つかったか?』」


挑戦的に言った。


「ええそうよ。いい加減あんたも主人を見付けないと駄目だからね」


「『はいはい。で、その主人候補ってえのは?』」


「そこの赤髪の奴よ。あたしの弟子。実力は保障しとくわ」


ユニコーンは煉を品定めするように見ていたが、ため息をついてシンディに向き直った。


「『冗談はよせよ。こんな餓鬼が俺の主人?馬鹿も休み休み言え』」


随分な評価だ。煉は額に青筋が浮かんでいた。


「あら。はっきり言うけど今までの奴等よりかはマシだと思うわよ」


「『そんなの信じられねえな。どう見てもただの餓鬼だ』」


「信じられないなら試してみれば?」


「『あん?』」


「あんたが試せばいいじゃない。こいつがどれだけのもんか。煉が勝てばあんたは契約獣になる。あんたが勝てば好きにしなさい」


シンディの提示した条件を、ユニコーンはすぐに了承した。煉もしかなたく了承する。


「でも場所はどこでやるんだ?さすがにここではやらないだろ?」


「もちろんよ。ここで暴れたら1人と1匹の死体の処理が大変だもん」


笑顔で洒落にならないことを言うシンディに煉は戦慄を覚えたて。


「そこの窓から外に出てやりなさい。ほら、早く行く」


「わかったよ。たく、よっと…………ってぇぇぇぇぇぇぇ!?」


窓から飛び降りたら、下は見えない超高層だった。

降りたからには重力に従うしかなく落下していく。

徐々に近付く硬い地面。

当たれば死ぬ。煉は握力だけで壁を掴み減速させた。初めは中々減速しなかったが、やがては遅くなり地面ギリギリで止まった。


「あー…死ぬかと思ったわ。マジで」腰を下ろして息を吐く。

額にはうっすら汗が浮かんでいたので手の甲で拭った。


「『咄嗟にあんな芸当ができるたぁ、ちいとはできるな』」


地面の無い空を駆けてきたバーンズが煉の前に降り立った。余裕綽々の表情が怒りのレベルを上昇させる。煉は青筋を浮かべて、腰を上げた。


「こちとらばあさんの地獄の修行に耐えたんでな。

あのくらいわけねぇよ」


「『シンディの修行か。

常人なら体と精神が崩壊するほどの地獄と聞く』」


「そうだよ。俺も壊れかけたけど…目的があるから諦めなかった」


その言葉を発した煉は、怒りと、哀しみを混ぜ合わせたよう表情をしていた。


「『目的だと?』」


「まあ今はいいだろ。

ほら、やろうぜ」


さっきの表情から一変して獲物を定めたような、獰猛な笑みを浮かべた。


「『上等だ。後悔すんなよぉ!!』」


「こっちの台詞だぁ!!」


赤髪の青年と、赤いユニコーンが、激突した。

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