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 番外 熱き心の叫び

リゾレッド。


 檜山毅郎は別にヒーローに憧れていたわけではない。

 と言うよりもヒーローというものを知らなかった。

 彼が物心ついた時、すでに世界は平和になっていて、嘗て、悪と戦ったフォルノンジャーの存在は殆ど社会から忘れられ、檜山はその存在を知る機会がないままに育った。

 

 檜山の性格で最大の特徴を上げるとすればそれは直情的という所だろう。

 彼は常に自分の感情の赴くままにすぐに行動した。考えるよりも早く体が動く類の人間だった。

 さらに同年代の他の子供たちに比べて、彼は体力も腕力もあった。

 疲れ知らずの彼は、常に力いっぱいに体を動かし、腕白というにふさわしい幼少時代を送る。

 

 だが彼は決してワガママなわけでも、自分勝手なわけでもなかった。

 寧ろ、自分より他者を大切に出来る、心優しい人間だった。


 活動的でありながら、他者を思いやれる彼は、すぐに子供たちのリーダーになった。

 大人たちも他の子供達を率いる彼の姿を微笑ましく見ていた。


 皆が彼を認め。そして誰もが笑顔だった。

 檜山は幸せだった。

 そしていつまでもその幸せが続くと思っていた。


 その期待が泡のごとく消え去るのはそれから数年もしない頃だった。


 檜山の純粋さは変わること無く、幼少の性格のまま成長していった。

 すなわち、猪突猛進ながら明朗活発な少年へと育った。

 彼は成長しても、周囲に対して幼少の頃から変わらぬ接し方をした。

 

 周りが善い行いをすれば同調し、褒め。

 逆の行動をすれば怒り、時には鉄拳制裁も辞さなかった。

 ソレは、昔から変わらない彼のスタンスだった。

 

 しかし、彼に対する周りの反応は幼少の頃とはうって変わって違うものになっていた。

 皆、彼の周りから離れていった。 

 

 その一番の理由は、彼のその活発過ぎる力にあった。

 

 檜山毅郎。彼は他者より遥かに強かったのだ。そして常に正論を述べ、善い行い以外を認めようとしない彼は周りから恐れられた。

 力強い彼の腕力は、理不尽に振るわれることはなかった。しかし、それでも周りの人間はその力を脅威であると感じた。


 当然とも言える。

 何せ、成長した人間の心は善い部分だけで構成されているわけではない。

 人間であれば誰しも多少は道義に外れた行動を取ることがある。

 それを許さない檜山の存在は、周りにとってとても疎ましく感じられるものだった。


 彼と密接に関わりを持たない人間は勿論のこと。

 今まで彼の周りにいた人間たちも、彼の性格とその力の異常さに彼と距離をとり始めた。

 いや、彼を恐れた。

 

 そして彼は孤立する。

 かくして檜山は不良のレッテルを貼られるに至った。


 檜山自信はその周りからの評価を、さして気にしていなかった。

 自分のことを周りが理解できると思っていなかった。

 なぜならば、彼自身、自分の中に渦巻く感情を理解できなかったからだ。


 自分で理解できない物を、他人が理解できるはずが無い。

 自分は孤独で有るべき人間であり、ソレが当然である。 

 そう檜山は思っていた。

 

 そんな彼の人生が大きく変わったのは、彼が成人してすぐの頃だった。

 

 ある日、ヴァルマ戦隊本部を名乗る人間が目の前に現れ自分にヒーローの素質が有ると伝えられた。

 果たしてヒーローとはなんぞやということが今ひとつ理解できない檜山に、ヴァルマ戦隊の人間はヒーローについて細かく説明をしてくれた。

 そして、そのヒーローについて檜山が理解をした時。

 檜山は困惑するでもなく、驚くでも無く。

 ただただ納得するに至った。

 

 彼が昔から持つ力。

 その性格。

 そして、何かモヤモヤと彼の中でくすぶっている物。

 その正体が何であるか、その時になってやっと解ったのだ。

 

 自分の理不尽な腕力は悪を叩きのめすためだと。

 自分の理不尽な怒りは悪を憎むためのものだと。

 自分の理不尽な衝動は悪に対してのものなのだと。

 

 そう理解した。

 まるで20年間の付き物が落ちたような気分だった。

 

 

 斯くして檜山はヒーローになるべく行動を始めた。

 ヴァルマ戦隊に入隊し、来るべきその日のために訓練を開始した。

 

 悪を倒すべく、ヒーローになるべく、日々練習の毎日。

 肉体的にも精神的にも辛い訓練の日々。

 しかし、その日々は檜山にとってとても充実したものだった。

 少なくとも、今の彼には目的があった。目標があった。


 悪を倒し、皆の笑顔を守る。

 きっと世間は、周りは、自分の事を認めてくれる。

 そうすれば、きっとまた手に入れる事ができる。皆が自分を認め。そして誰もが笑顔だった。あの頃の幸せを。

 

 皆が自分を認め。そして誰もが笑顔を浮かべる世界。

 それこそが彼が望んだものだった。


 そして彼は辛い訓練を耐えぬいた。

 檜山毅郎は正式にヴァルマ戦隊の戦闘部隊であるリゾレッドになったのだ。 

 リゾフォルノンジャーの活動が始まると、敵であるゲルニッカーズたちも活動を開始し、彼の戦いが始まる。

 記念すべき最初の戦闘を勝利で終え、これからの戦いに不安と同時に期待も持っていた。

 

 ゲルニッカーズの正体は依然不明。

 どれくらいの規模なのか、どれほどの敵なのかわからない。

 あるいは、訓練よりもよっぽど辛い戦いが待っているかもしれない。

 

 しかし。

 

 檜山の心には微塵の後悔もない。

 天地が言う、理想的な存在。ヒーロー。

 ソレこそが自分の生きる道だと信じ、自分がソレであることに彼は一抹も疑問を感じていないのだ。

 信じられる上官。

 信じられる仲間。

 そして、そこにいる自分。

 この環境に疑問など起きようはずもない。

 

 

 しかし。

 一つだけ。

 一つだけ檜山には例外的に疑問に思うことがあった。

 ソレは。

 

 

 自分たち、リゾフォルノンジャーの中に。

 一人オッサンが混じっていることだった。

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

 

「緑川さん美味しいですか?」

「フツーだ」


 そう言いながら、カウンター席でレタスを頬張る男。

 リゾブラック、こと緑川良太。

 35歳。

 

 彼がリゾフォルノンジャーのメンバーであることに、檜山は疑問を感じずには居られない。

 オカシイと思った。

 年齢で人間を差別することは良くないと解っている。

 しかし、それでも、年齢は何事にも無関係と言うわけではない。

 特に体力勝負であるヒーローの世界では、年齢による体力の衰えは致命的にも思えた。


 しかし、どういうわけか、彼は当然のように自分たちリゾフォルノンジャーのメンバーであり。

 そしてリゾブラックを名乗っている。


 何故?

 自分の感覚がオカシイのか?


 檜山はそう思った。

 

「おかわりも沢山ありますからね?」

「いや、タダで食ってる身としては文句は無いんだが…もうチョット動物性タンパク質が欲しいというか、何というか…」


 モソモソとサラダを食べる緑川の向かいにはカウンター越しに笑顔で立つ天地が居る。

 檜山をはじめリゾフォルノンジャー達にとって、天地は尊敬に足る人間だった。

 年はさほど離れては居ない。いやほぼ同年代なのだが、彼は指令という立場にふさわしいと思えた。

 頭がよく、行動的でありながら常に冷静で、さらに何処か優しさを持っている。

 ヒーローを愛する心も強く。理想的な上官だった。

 ただひとつ。

 

 ある欠点を除けば。

 

「動物性…ああ、すいません気がついませんで、パルメザンチーズですね」

「いやチーズとかそういう問題じゃ…いや、うん。まあありがとう」

 シーザーサラダを貪る緑川をニコニコと見つめる彼の様子は、まるで恋する乙女のそれだった。



 そう。これがその欠点。

 天地は昔のフォルノンジャーのこと、とくに緑川に対して異常なほどの執着と好意を寄せている。


 だというのに、この天地がこれ程に尊敬する緑川という男。

 どれほどに凄い男なのかというと、


「ゲフウッ」

 この有様だ。

 

 汚らしいゲップを口から出すその姿は、どこからどう見てもただのオッサンである。

 

 

 弱いというわけではない。

 少なくともヒーローを最低限こなす程度の力はあるのだろう。

 事実、ゲルニッカーズとの戦いでは一応は戦えていた。


 ただ、しかし、彼が優秀かと言われればソレは檜山にとって疑問だった。

 前回の戦いにしても、彼は殆ど防戦一方。彼を囮にして楽に勝てたのは事実だが。その時戦っていた彼の姿は優秀とはほど遠い。


「あ、天地君さ、これ食い終わったら、後でシップはって?背中が痛いんだけど手が届かなくて」

「はいはい、温湿布で良いですか?」

「うん、貼るときはやさしくね」


 これか?

 これが俺の目指すべき理想のヒーローなのか?

 檜山は疑問を感じる。


 ただそれを口にすることは無かった。

 単に本人や天地指令に配慮しているということも有るが、それ以前に、自分にはそれを言う資格が無いと思えたからだ。

 

 たしかに、今の緑川は理想のヒーローでは無い。

 しかし、自分たちはどうだ。

 初戦闘の時。その緑川の助力がなければ、負けていたかもしれないほどに苦戦していた。

 

 自分たちも結局のところ未熟なのである。

 緑川を否定できるほどに実力はない。

 

「…ところで何故鬼のような形相でサラダを?」

 リゾブルーこと、海貝関戸が緑川にそう聞いた、


「なんかよく判らんがフォルノンジャーになるとシーザーサラダ食べ放題なんだと」

「でもそんなに食べたら寧ろ体に毒だよ?」

 檜山のすぐ隣に居たリゾイエロー、こと横山イスカがそう緑川に注意したが、檜山としてはむしろ緑川がサラダを食べている事自体に注意をするべきではないかと思った。


 なにせ今は。


「それじゃあ次に、問題点としては…」


 反省会の真っ最中なのだから。

 


「そうですね手こずりすぎたかもしれませんが、初戦としてはまずまずだったんじゃないでしょうか」

「勝ったしね」

 しかし、反省会と言いつつもその雰囲気は和やかなものだった。

 なにせ初戦の勝利。勝ち戦の後である。

 反省会と言いつつもそれは祝勝会に近いものだったのだ。


 だから皆、雰囲気は穏やかに。何処か楽しげに話をしていた。

 ただ一人、緑川を除いて。


「何言ってる。結果は微妙だ、いや、はっきり言おう、最低だ」

 モショモショとレタスを頬張りながら緑川が言った。


「でも勝ったよ?」

 横山がそう答える。


「当たり前だ、勝つのは当然なんだよ、俺たちゃヒーローなんだ。負けたらそれで終わりなんだから。勝つのは大前提で、それ以外の道は無いんだ。あるのは楽勝か辛勝かの違いだ。まあ、俺自身もブランクの長さと運動不足のせいで散々だったのは認める。でも、お前らの不甲斐なさも致命的なレベルだ。お前らには絶対的に足りていないものが有る」

「「「足りていないもの?」」」

 3人の声が揃った。

「ああ、そうだ。お前らに足りていないものはいくつかある」

 非常に不愉快ではあるが、たしかに彼の言うとおりだと3人は思った。

 

 ヒーローとは名乗ってこそいるが、自分たちはまだ戦闘を一回こなしただけ。

 しかも、その結果ときたら散々なもので、勝には勝てたが辛勝も良い所だ。

 この目の前の緑川の協力が無ければその辛勝ですら危うかった。

 自分たち3人が居れば問題ないなどと大口を叩いた結果がソレなのだ。

 

 一方でこの目の前の男。緑川。

 嘗て彼が所属していたフォルノンジャーは、自分たちが苦戦したあの敵達と戦いそして勝利してきた。

 今は衰えているようだが、嘗て彼は確かに自分たちよりも優秀だったに違いない。

 その彼が言う「足りていないもの」というのはとても重要なことであるように3人には思えた。

 

「いくつも足りないものはあるが、その中でも一番に重要で、大切なことが抜け落ちている。というか、むしろそれさえ満たせば、お前たちは大きく真のヒーローに近づくと言っても過言ではない」


 彼のその言葉に3人は息を飲んだ。

 最も重要な事。そしてそれを満たせば真のヒーローに大きく近づくと言われれば否応なしに期待してしまう。

 だから三者三様、緑川の言葉に集中する。

 

 果たして、彼の口から出てきた一番に重要な物とは。


「ソレは名乗り、つまりは口上だ」

「は?」

 思わずレッドは素っ頓狂な声を出してしまった。

 口上。なぜソレが大切なのか、まったくもって理解できなかったのだ。


「ああ、忘れてました。大切ですよね」

 まるでソレが当然であるかのように天地が言うが、檜山は全く理解できず。ブルーもイエローも困惑顔だ。


 そんな困惑顔の3人に緑川は真面目な表情で言った。

「あのな?口上ってのは大切だぞ?」

「そうなんですか?」

「前に戦った時も言ったけどな?俺達はヒーローなわけだ。正々堂々と戦う存在だ。名乗らずのいきなり奇襲は、いわば暗闇に紛れて後ろから攻撃する暴漢と同じじゃないか。名乗らないと」

「なるほど…うーん」

 言っていることはわからなくもなかった。

 確かに自分たちはヒーローであり、ヒーローであるからには正々堂々と戦うべきなのだろう。

 しかし、それをしたところで、力が上がるとも、技が磨かれるとも思えなかった。

 ヒーローとして一番に大切なことといわれても、3人は首を捻らざるを得ない。


「そこでだ…」

 そう言いながら緑川がゴソゴソと何かをポケットから取り出した。

「お前らのキャッチフレーズを考えてきた」

 そう言って緑川は数枚の紙をカウンターの上に置いた。

「キャッチフレーズ?」

「口上の時に言うセリフだよ。徹夜で考えてきたんだぞ?」

 ありがた迷惑だと檜山は思ったが、その言葉は口にしなかった。

 自信満々にはしゃぐ中年を前に、彼を悲しませる言葉を投げかけられるほどに彼は非道ではなかったのだ。


「ええっと、まずはレッド」

 そう言って緑川は一枚の紙を檜山に渡す。


 檜山はその紙に書かれている文字を読み上げた。

「ええっとなになに?俺のハートが真っ赤に燃える。怒りの炎が敵を焼く。正義の道行く真っ赤な太陽。リゾレッド、熱血登場…」


『だ…ダセエ』

 檜山は心の中でそう思った。


「良いですね!やっぱり。こう、胸が熱くなります」

 天地が言った。

「だろ?」

 緑川が得意そうに答える。

 檜山は目の前の2人の男の正気を疑った。

 ひょっとしてこれは自分が戸惑うさまを見て楽しむ類の質の悪いドッキリでは無いかと思ったが、天地と緑川の様子は至極真面目で本気なものだった。

 

「ほれ、ブルーのぶんも有るぞ」

 そう言って緑川はブルーにも一枚の紙を差し出した。

「え…僕もあるんですか。って…ええっと?心に燃える青き炎。冷たくも熱く燃え。敵を焼きつくす。青き静かなる火炎。リゾブルー、只今参上」


 やはりダサい。

 これはもう間違いない。

 このオッサンのセンスが壊滅的に悪いのだ。

 檜山がそう思い、これは相当にブルーも困っているだろうと、彼の顔を覗きこむと。


「…へえ」

 何故かまんざらでもないといった様子のブルーに、檜山は戦慄した。

 なぜ?なんでそんなチョット嬉しそうな表情をしているんだお前はと、心のなかで怒鳴った。

 

「結構心にこう…ズンと来ますね」

「だろー」

 ブルーの好意的な反応に、緑川はドヤ顔だ。


『駄目だこいつら早く何とかしなくっちゃ』

 檜山は心の底からそう思った。

 

「それでこれがイエローのだ」

 そう言って緑川は横山に対して紙を差し出した。

「どれどれ…えっと…本日はお日柄もよく、皆様のご来場、まことにありがとうございます。悲しい時もある、泣きたい夜もある、だけど決して涙は見せません。なぜなら私はヒーローだから。今日も明るく戦います。それでは戦っていただきましょう。リソフォルノンジャーで、リゾイエロー……………何で私だけ演歌の前口上風なんですか!?」


「深夜だったからなあ」

 どうやら寝不足のあまり、朦朧とした意識で作ったものらしく。彼自身その内容はオカシイものだという自覚はあるようだ。

 もうこうなってはダサいとかそういう以前の問題だと檜山は思った。こんな事を戦う前に言わせようと言うのか?何を考えているんだと怒りすら覚えた。


「やだよ私、こんなのを戦いの前に言うの…」

 幸いなことにイエローの表情も最大限に不満顔だ。

 良かった、異常なのはブルーだけだ。

 アイツのセンスが壊滅的に悪いだけで、イエローはまともな感性を持ち合わせている。

 そう、檜山は安堵したが、その安堵は次のイエローの一言で崩壊する。


「私もレッドやブルーみたいなカッチョイイのが欲しい!」

『カッチョイイ!?』

 イエローの言葉に檜山は自分の耳を疑った。


 彼女の口ぶりから、先程のレッドとブルーの口上を本気でカッコいいと思っているのだ。


「なんだよ文句ばっかり、それならば俺のフレーズを超える、イケてるセリフを考えろよ」

「超絶に可愛い私が、可憐に戦う!リゾイエローとか!」

「ペッ!」

「唾を!?」

 イエローの口上に緑川は容赦なく地面に唾を吐いた。


「馬鹿か、可愛いとかいらないんだよ、マスクしてんだろーが!容姿とかわからねーだろが」

「あ、そうか」

「あのな、口上ってのは容姿を語るんじゃなくて、そのマスクに隠れた心の内を言葉にして出すもんなんだ。だからこう心の内を吐き出すようなものじゃないと」

「じゃあ、私は…黄色い太陽の光の如き明るい光、すべてを照らす慈愛の戦士、リゾイエロー!みたいな?」

「おお、悪くないな、ただ、もうちょっと長くして且つシンプルな方がいいかも」

 するとそこにブルーが参戦した。

「でも、ソレならば僕も、こう…極寒の地の氷の神よ、我に力を与えたまえ。言葉は氷柱、氷柱は剣。身を貫きし凍てつく氷の刃よ、今嵐となり我が障壁を壊さん!リゾブルーフォースブリザード!みたいな感じのかっこ良さが欲しいですね」

「何か口上と違うのになってんじゃねーか…まあ、そのへんはとりあえず希望を聞いた上でみんなで煮詰めていこう、こういうのは全員が揃うことも大切だしな」

 

 そう言って、緑川がコーヒーを一口飲むと、続けて衝撃的な事を言った。


「と、まあこれはまあ、気休めだがな」

「気休め?」

「良くも悪くもこの口上ってのは自分の気持ちを鼓舞させるものだ。士気を上げる程度の効果しか無い。これだけで敵に勝てるようならば苦労はしないさ」

 緑川がそう言い放った。


「「「え?」」」

「まあこの口上はこれから言うことの布石だ。本命は別にある。この口上以上に大切で必要なことだ。コレをマスターすることでお前たちは本当の戦士になれるのだ」


「他にもあるんですか?」

「ああ、口上だけじゃないんだ」

「だ…だよな!」

 良かった!と、檜山は思った。

 どうやらこの口上はヒーローにとって最も大切なこと、というわけでは無いようだ。

 当然と言えば当然なのだが、その事実に檜山は心の底から安堵した。


 そして緑川は口を開き、言った。

 彼が言うフォルノンジャーにとって一番大切なこととは。

「ポーズだ」

「「「ポーズ?」」」

「自分自身の士気を上げるだけではいけない。相手の士気を下げることも大切だ。相手を恐怖させる威嚇行為。すなわち、ポーズ!口上と共にするポーズこそがヒーローの真髄だ!」

 そう言いながら緑川がおもむろに立ち上がった。

 

 そして両手を広げ、ガニ股になると。


「これがレッドのポーズ」


『これは無い』

 檜山は思った。

 もうダサイとかそういうことを超越して、滑稽の域に入り込んでいる。

 売れない芸人の一発ギャグのようにも見えた。

 そんな呆然とする檜山をよそに、緑川は今度は内股になって手を水平にして、手首を斜めにすると。

「これがブルーのポーズ」


『これはもっと無い』

 檜山は更にそう思った。

 もう滑稽すらも通り越して、悲壮感すら漂っている。


 そして緑川は今度は手を上に伸ばしまるでカルメンを踊り終えたダンサーのような形で止まる。

「これがイエローの」


『これは一番無い』

 檜山はあきれ果てた。


 そして、檜山だけではなく、それを見たブルーやイエローの表情もまた、否定的であった。

「チョット、これは僕としては少しいわせてもらいたいですね。このポーズは飲めません」

「私もチョット…」

 よかった、さすがにこれには反対する程度の理性が、リゾフォルノンジャーにはあった。

 そう檜山は安堵した。

 

「言わせてもらうなら…」

 そうだ言ってやれブルー。ポーズなんてナンセンスだと、きっぱりと緑川に告げるのだ。

「…手の角度は90度がいいと思います」

「な!?」


「なるほどな…確かにキレは出るかもしれないが…しかしソレは、やり過ぎじゃないか?」

「いえ。此処はピチと90度で我々の性格もまたピチっとしていることをアピールすべきです」

「うーんブルーの言うことも一理ありますね。我々は正義のヒーローですから、そういった正しさのアピールは大切です」


 檜山は目の前の光景が信じられなかった、いったい何がおきているんだ?と思った。

 さも当然のように登場ポーズを考える3人。

 

 滑稽なポーズを取りながら真面目な表情で論議しているその姿は異様にしか見えなかった。

「私のポーズはもう一寸ファジーな感じも良いと思う。そのほうが親しみが持てるし」

 そしてまさかのイエローの参戦。


 全員でポーズを決めながら変なことを言い合っている。


「難しい問題だな。ここはこんなポーズのほうが…」

 そう言いながら緑川がバレリーナがパド・シャをするような格好をした。


「いえいえ、此処はいっそこんなポーズで…」

 そう言いながらブルーが盆踊りのような格好をする。


「いや、やっぱりあたしは…」

 そう言いながらイエローが雨乞いをするような格好をする。


「いっそ司令官のポーズも…」

 そう言って天地司令がサタデーでナイトなフィーバタイムを演出するような格好になった。

 

 檜山はその光景を黙って見ながら慄いた。

 このままではリゾフォルノンジャーはとんでもない方向に行きかねない。

 戦う前にダサいセリフを叫び、滑稽なポーズをする。

 そんな愉快な全身タイツくん。どう考えても嫌だと。そう檜山は考えた。

 

 しかしどうだろう。

 目の前の状況は緑川の意見に全面賛成の方向だ。緑川のその提案に天地を始め皆が賛同している。

 


「そこはお前、もう一寸オリジナリティーをだな…」

「こう、肩の角度をもっと…」

「可愛らしさのアピールが…」

「司令官も…」

 自分を蚊帳の外に楽しそうに繰り広げられる会話。



 ついていけないと、檜山は思った。

 もう無視してしまおうかと思った時。

 檜山は理解した。自分が孤立していることを。

 

 檜山は思った。

 これではあの時と一緒ではないかと。

 

 自分が周りの意見と乖離して、孤独を味わったあの時と。

 誰も理解してくれないと、周りを諦めた時と一緒だと彼は理解した。



 またか。


 また自分は逃げるのか。

 自分の考えをただ押し込めて、それを誰も理解してくれないのを周りのせいにするのか。

 自分は一人だと、ただ嘆くのか。


 そう思った時。

 

「お前らふざけんな!」

 気がついたら叫んでいた。


「名乗りだとか、口上だとか、格好だとか、そういうことはどうでもいい!俺達の仕事は何だ?俺達はヒーローだ!仲良し会じゃ無い!俺はリゾレッドで、俺達はリゾフォルノンジャーだ。

 名乗るべき名前は無い。ただのリゾレッド!戦いに言葉は要らない!」


「「「「…………………………」」」」


 沈黙が辺りを支配した。

 一同驚いた顔で檜山の方を見ている。

 

 そして、檜山はそれを言って。

 言い切って少し後悔した。


 しかし、彼のその言葉は一同の心に確かに響いたようだ。

 

「なるほど」

 納得をしたように天地が言った。

 

「へえ」

 感心したように緑川が唸る。


「さすが!」

 感動をしたようにブルーが叫び。

 

「カッコいい」

 イエローは檜山を賞賛する。

 

 

 皆がレッドの言葉に頷いた。

 

「さすがレッドだ」

 まるで感心するように緑川が言った。

 いや、事実、その場に居た全員が感心していた。


 皆が、檜山の言葉を受け入れていたのだ。 


 良かった。

 檜山は思った。

 

 勇気を出して、この言葉を口にしてよかった。

 ちょっと熱く言ってしまった気もするが、この言葉で皆目を覚ますだろう。

 これでリゾフォルノンジャーは正しい方向に…


「じゃあレッドはその口上で決定な」

「え?」

「「「異議なし!!」」」

 皆の声がハモった。


「いやーさすがレッドですね、会話に参加していないと思ったら、しっかり口上を考えていたとは」

「戦いに言葉は要らない…か。先代フォルノンジャーでもここまでの口上はなかったからな。将来有望だ。戦いに本名はいらず、ただ自分がリゾレッドであると語る、ソレ以外の情報は言う必要が無いという、素晴らしい口上だ」

「見直しましたよレッド!」

「さすがリーダー!」

「あ…ちょちょちょちょ。ちが…」

 皆がレッドを讃えた。


 ソレは、嘗て、檜山が求めたものだった。

 笑顔の仲間。

 和気藹々とした空間。

 皆が幸せそうで、そして、皆自分のことを認めてくれている。

 

 

 しかし、なぜだろう。

 

 檜山はちっとも嬉しくなかった。




・次回予告◆◆◆


 次回予告


 緑川と天地の不思議な関係。

 厳しくも優秀な男天地が、なぜ緑川を尊敬するに至ったのか。

 かつて二人の間で起きた出来事が、今語られる。


・次回!ヴァルマ戦隊 リゾフォルノンジャー!

  『若き日の出会い』

           お楽しみに!

◆◆◆◆用語解説



・シーザーサラダ

 レタスを主にしたサラダ。ちぎったロメインレタスとクルトンにフレンチドレッシング、粉チーズをかけるのが基本型。好みでドレッシングにアンチョビーを混ぜたり、他の野菜や具材を追加したりする。ちなみにシーザーサラダはメキシコのレストラン、「シーザーズ・プレイス」のオーナー兼料理人である「シーザー」が作ったのでシーザーサラダと言う説が有力。

 緑川が貪っている理由はフォルノンジャーになるとシーザーサラダ食べ放題期間中にフォルノンジャーになったから。



・演歌の前口上

 イントロにかぶせて入るナレーション。歌いだしとタイミングが合うように調整された物で、歌の内容や歌手の紹介等を兼ねる場合も有る。

 サビの一節を盛り込み、七五調のリズムに合わせて語られる場合が多い。



・ポーズ

 現時点で人数が4人用に緑川が考えたもの。

 レッド・中心でがに股。(サンバルの赤みたいなの)

 ブルー・その後ろで鶴の構え(ライブの赤みたいなの)

 イエロー・左端で腕伸ばし(ジュウレンの白みたいなの)


・司令官ポーズ

 「冷静なる頭脳、天地司令!」と言いながら顎に手を当てて斜め45度。


・ファジーな感じ

 曖昧さ。

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