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第6話 戦いの果てに得たもの

すいません、半年ほどROMってました。

 

 二日酔いでガンガンと音が鳴り響く頭を抑えながら、俺は天地くんの前に姿を現す。


 一歩歩くごとに体に痛みが走る。

 頭が痛い。体と首筋も痛い。あと、昨日捻挫した、くるぶしがすごく痛い。


「近く通ったからな、ちょっと…な」

 別に何も言われていないのだが、俺はそう言った。


 たまたまだ。

 二日酔いが強くて。それでもって二日酔いには外の空気を浴びると良いと思った。

 だから散歩をしようと思ったわけだ。そして散歩で偶然近くを通りかかった。


 ただそれだけだ。


 近くに来たから、ちょっと様子を見てみようと思った。

 それだけなんだ。


「やっぱり、やっぱり来てくれたんですね」

 天地くんは突然現れた俺に驚く様子もない。

 まるで、俺がここに来ることを微塵も疑っていないように。

 

「何で、俺がここに来てるってわかったんだ?」

 彼の自信は妄想からくるそれじゃない。

 なにか、確固たる根拠があっての自信のように見えた。

 

 俺が知らない間に未来を見る魔眼でも手に入れたか?

 

「そりゃあ、当然です。だって、緑川さん、わかりやすいんですよ」

「はあ?」



 ドン!!!

 

 その時大きな音が響いた。


 驚いて音のした方を見てみると、いつの間にかヴァルマスーツに身を包んだ3人が、鉱山で作業する下っ端に殴りかかっていた。


「うらあああ!!!」

 レッドのパンチは見事に下っ端にクリーンヒットして、下っ端は数メートル吹き飛ばされその意識を落とす。

 そして、それを皮切りに、リゾフォルノンジャーとゲルニッカーズとの戦いが本格的に始まる。

 

 ソレを見ながら俺は思った。

 馬鹿が。

 何故いきなり攻撃をしているんだ。暴徒かお前は。


 何故戦う前に名乗らない。


 名乗りは大切だ。

 俺たちは兵隊じゃねえ、殺し屋じゃねえ、

 ヒーローだ。

 自分の行動に誇りを持たずして、何がヒーローか。

 

 せめて名乗れ。

 自分が何者か。

 今から倒す悪の組織に教えてやれ。


 あいつらにもな、矜持ってものがある 

 悪の組織だから確かに卑怯なこともする、倫理に外れたこともする。

 でも絶対のプライドがある。

 ソレは力で戦って俺たちに勝つことだ。

 俺たちヒーローよりも強いということを証明することだ。


 そんな奴らに対して、無言で戦いを仕掛けるのがお前らの誇りある行動か?

 

 


「緑川さん」

「んあ!?」

 

 天地くんの声で現実に引き戻された。

 

「気になりますか?リゾフォルノンジャー」

「いや、全然」


 興味?

 あいつらにか?

 あのリゾフォルノンジャーに?

 あるわけがない。あんな粗末な戦い方をする奴らに興味がわくはずがない。


「緑川さん、どうして僕が貴方を何度も勧誘したか解りますか?」

「しらん」

 俺は視線を戦い続けている若造に向けたまま答えた。


「僕が最初、貴方の家に行った時。貴方の目を見て思ったんです。この人は、まだフォルノンジャーなんだって」

「??意味が判らん?」

 どういうことだ?


「他の旧フォルノンジャーだった皆のところに勧誘に行った時。もう自分は一般人だと断られるところまでは貴方と同じでした。

 でもその断り方が違った。他の皆は、まるでフォルノンジャーだった過去が嫌な過去であるかのように語りました。

 それが若気の至りだったかのように自分の過去を否定しました。そして、それを語る目は、まるでつまらないただの人のそれだったんです。

 一般人の目。地味で、何の情熱もない。ただの人の目をしていました。緑川さんが前に言ったとおりですよ。彼らはもうフォルノンジャーじゃないんです。

 でも、でも貴方は違いました。貴方は自分がフォルノンジャーになることを否定しながら、フォルノンジャーだった過去を微塵も後悔していない。

 いえ、それどころか貴方の口からフォルノンジャーという単語が出るたびに、貴方の目は、あの、燃え盛るフォルノンジャーの頃と全く同じ目をしていました」

「何を馬鹿な」

 俺の目が?

 この濁りきって、二日酔いのせいで充血したこの目が?


「緑川さん。貴方はまだヒーローなんです」

「ヒーローは二日酔いでふらふらになんてならねーよ」

「でも、貴方はここに来たじゃないですか。二日酔いでふらふらの状態でなぜ此処にきたんですか?」

「だからたまたま…」


 ドン!!!!

 

 大きな音が響いた。

 新レッドが吹き飛ばされるところが見えた。

 確かに三人のリゾフォルノンジャーはゲルニッカーズの下っ端より強いが、数で勝る相手側に押され始めている。


 クソ!

 何やってるんだよ!

 何で連携しない!

 ただ闇雲に戦うのじゃ意味が無いだろ!

 

 

「ほら」

「あん?」

「今だってそんなふうに凄い表情で彼らの戦いを見ている。そんなに強く拳を握って。もう、体は完全に臨戦態勢じゃないですか」

 

 そう言われて、俺は自分の右手を見てみると。

 もう、これでもかと言うほどに固く握られていた。

  

「今のリゾフォルノンジャー。彼らに無いのはソレなんです。

 たとえ惨めになっても、たとえ年をとっても、たとえ体力が落ちても。

 戦いたいと望むその心が、ヒーローでありたいと願うその心が、

 ソレが、ソレが」

 

「無いよ…俺には無いんだよ」

「そんな嘘…」

「嘘じゃねえ!」

 俺は怒鳴った。


「もう無いんだよ!

 俺の心のなかには!正義を守る情熱も!

 人々に対する愛も!

 もう全く無くなってるんだよ!

 そんな奴が!どうしてヒーローをやれるんだよ!」


 もう自分が抑えられなかった。

 天地くんに言わずにいた、その言葉が堰を切ったように口から飛び出した。


 もう自分の心に愛が無いことを。


 俺がどんなに望んでも!

 俺がどんなに求めても!

 俺にはヒーローの絶対的な条件がありはしない!

 無理だ!認められるわけがない!

 そんなヒーローを!

 俺みたいな奴がヒーローをやることを!俺自身が認められない!!!


「世界を愛せない俺を、何処の誰が頼れる!誰が求める!!」


 俺のその叫び。

 

 子供の夢を壊すコノ言葉に、天地くんはショックを受けるだろう。

 絶望すらするかもしれない。

 

 そう思ったのだが。

 

 

 だが。

 彼の口から出てきたのはそんな俺の考えを大きく裏切る言葉だった。。


「僕が求めます!」

 天地くんが叫んだ。


「天地…」

「たとえ貴方が全てを憎んでも!嘗てのフォルノンジャーを、フォルノグリーンを!貴方を!緑川さんを!僕は!僕は頼ります!」

 驚いた。

 天地くんのその形相に。

 その表情。

 まるで、子供の時のようなあの純粋な目が俺を射抜いていた。


「僕だけじゃない!確かに数は減りました。昔に比べたら皆無と言っていいほどに減った。でも!それでも!

 あなたを、嘗てのフォルノンジャーを、信じている人間は確実に居ます。

 いや、それだけじゃない。あなたのことを知れば、僕みたいにあなたを愛せる人間がきっとこのあとも出てくる。

 嘗てあなたを人々が愛したように。また人々はあなたを愛する。

 今あなたが世界を愛せないと言うならば、愛せる世界にすればいい!愛せないならばまた愛し直せば良い!」


 そう言いながら彼は俺の腕を包み込むように握る。

 真剣な表情で語られるその言葉。

 それはまるで愛の告白のようで。

 

 不思議だった。

 

 なぜ彼はこうも純粋な目でこんな事を言えるんだろう。

 まるで18年前と変わらない、純粋な視線を俺に向けられるんだろう。

 

 そして、

 

 

 そして、俺はその視線を向けられて。




  そして…


 カチリ

 

「…え?カチリ?」

 俺の手元で鳴った不思議な音に。俺の意識が右手に向かう。

 

「あれ?」

 そこには、物凄く見慣れて、それでいて、付け慣れた感じのブレスレット的なガジェットが付いていた。

 具体的に言うと、昔、俺がフォルノンジャーやってた時に変身につかったフォルノリング的な物が付いていた。

 と言うか付けられていた。他でもない天地くんによって。


「あの…天地くん?」

「何ですか?」

「なにこれ?」

「リゾフォルノリングです」

 うん、ソレはなんとなく解る。予想できる。なにせ昔のフォルノリングにそっくりだ。

 

 しかし…

「とれないんだけど」

 右手に恐ろしいほどのジャストフィットでしかも繋ぎ目が見当たらない。フォルノリングは着脱自由だった筈だが?

 

「一度くっついたら二度と取れないように改造しました」

「それ呪われた装備じゃん!」

「だって、外せるようにしたら、緑川さん外すじゃないですか」

 ええ、外しますけど?

 え?何?どういうこと?ねえ、これどういうこと?

 

「ちなみに呪文を唱えるとキリキリ閉まる仕様です」

「俺は孫悟空か!?」

 フォルノリングを緊箍に改造するなよ!


「緑川さん、戦って下さい、じゃないとソレを外しません」

「脅迫!?」

「ええ、緑川さん、ボカあねえ、脅迫しますよ。緑川さんがリゾフォルノンジャーになってくれるならば。僕は、しますよ、脅迫」

 さもそれが当然であるかのように言い放つ天地くん。


 まさに外道。傍若無人で俺の意思を無視した行為。本当だったら怒りを覚えてもいいんだけれど。


 不思議と、俺は彼のその強引さを嫌えなかった。

 もしかしたら、天地くんの右腕が震えているのに気づいてしまったからかもしれない。


 コレは、きっと、天地くんの優しさなんだと思う。

 俺が理由を作ってヒーローになれないのを、ヒーローになることを自分で許せない事を、彼は脅迫と言う形で、無理矢理にヒーローにならざるをえない状況にしてくれている。

 まるで、俺が、気兼ねなくヒーローになれるように。 



「天地くん」

「はい」

「君本当に変わったな。すごく強引になった」

「はい」

 気がつけば俺は笑顔だった。

 天地くんも笑っている。


「この新しいリングどう使う?」

「ここです、このスイッチを押して。タッチパネルのロックを外せば、すぐに変身できます」

 昔に比べて随分と変身もスタイリッシュになったものだ。


 彼の言うとおりに操作すると、俺の体の周りを何か光るものが包み込んだ。

 久しぶりに感じる。

 忘れもしない。ヴァルマエネルギーが体を満たすこの感触。

 

 次の瞬間には、俺の体はヴァルマ、スーツに包まれていた。


 フォルムは昔と大きな違いはなかったが。どことなく今風になっている。

 着心地も昔より少し良くなっているような気がした。

 あと一番の違いは、

 スーツの色が、緑じゃなくて「黒」だということだろう。

 

「緑じゃねえのか」

 自分のスーツの色をまじまじと見ながら俺は言った。


「やはり、グリーンのほうが良かったですか?」

 不安げに天地くんが聞いてきた。

「いや、緑じゃなくてホッとしてる」

 俺にもう緑は似合わない。

 緑ってのは、地味で純粋で、世界をそのままに愛せるような奴がやるべき色だ。

 少なくとも今の俺がやって良い色じゃない。

 

「なるほどブラックか」

 旧フォルノンジャーには無かった筈の色だ。

 でも悪くはない。

 汚れきって真っ黒な俺には、お似合いの色なんだろう。

 

「似あってます」

 そう言って天地くんが笑った。

 

 彼はそう言うが、そんなはずはない。

 ろくな物を食っていないせいで、昔よりだいぶ痩せた。

 そのくせ下腹は昔より出てるのだから、この体型がモロにでるスーツを着た俺の姿はさぞ滑稽なんだろう。

 それでも、天地くんは本気で似合っていると言ってくれている様子だったし。そして、俺はソレがちょっぴり嬉しかった。

 

「まあ、年寄りの冷や水かな」

「そんなこと…ありませんよ」

「いい年してでしゃばって、絶対やらないなんて言ってたくせに、なんだかんだでノコノコ昔の仕事に戻ってやがる」

「…」

 天地くんは何も答えなかった。


「じゃあ行ってくる、でも期待するなよ

 俺ができることなんて、ホント、微々たることなんだ。

 それこそ、下手すりゃ足を引っ張るだけになるかもしれない」


「…」

「でもまあやるだけやる。勘違いすんなよ、仕方なくだからな」

 そう言って俺は歩き出す。


「…」

「あとな、天地くん…俺らが戻ってくるまでに……」


「…」

「…涙は拭いておけ」

 あいつら戻った時、長官の頬に涙の跡があったら格好つかないだろ?


◆◆◆


 久しぶりの高揚感だった。

 

 スーツを身に纏い。

 全身をヴァルマエネルギーが包み込む。

 


 戦うあいつらを見下ろすように、俺は丘の上に立つ。

 視線の先ではフォルノンジャーとゲルニッカーズが一進一退の攻防を繰り広げている。

 ここなら皆、俺の事が見えるだろう。

 

 そして大きな声で叫ぶ。

 自分がここに居ると誇示するように。


「熱き心が叫びだす!」


 俺の声が辺に響いた。

 皆は一瞬戦いを辞めて俺の方を見る。

 

 

 18年ぶりの名乗り。

「平和を守れと我が身を焦がす!」


 久しぶりのはずなのに、体はまるで18年前のように自然に動く。


「ヴァル…………!」

 ガツン!!!

 俺の名乗りが終わるよりも前に、下っ端の投げた棍棒が俺の頬に当たった。










 まあ、当然だ。

 スキだらけだから。

 

 突然現れたフォルノンジャーと同じ格好の男。

 ソレが、スキだらけで変なポーズ取りながら自己紹介していたら。

 そりゃあ攻撃もしたくなる。

 

 気持ちはわかる。痛いほどにわかる。 

 でもな。

「俺の名乗りを…」

 でも。

 

「…とめてんじゃねえええええ!!!!!」

 俺の頬に棍棒を叩き込んだ下っ端を見据えると、俺は自分に当たった棍棒を今度はそいつに向かって投げつけた。


「名前も知らない奴にぶち殺されるのがお前の望みか!!!ゴラア!!!!」


 ドゴン!!!!!!

 棍棒はそいつに見事命中し、そいつはそのまま黒い染みになった。

 

 

 皆が唖然とする中、俺はフォルノンジャーの方を指さして叫ぶ。

「良いか!!バカども!

 戦う前に名乗れ!!!

 お前らは何だ?そこらの愉快な全身タイツくんか?違うだろ!

 フォルノンジャーだろ!それを名乗らずして何がヒーローか!!!」

 

 そして今度はゲルニッカーズの方を指さして叫ぶ。

「それとクズども!名乗りを止めるな!

 お前らが倒したいのは何だ?名前も知らないどっかの全身タイツくんか?

 違うだろが!

 お前らはフォルノンジャーに戦って勝ちたいんだろ!

 我こそが最強の悪だと!世間に証明したいんだろ!

 良いか?

 言うぞ!

 怒りの黒き炎!リゾブラック!!只今参上!!!!」

 びしっとポーズをとって俺の名乗りは終わる。


 

 

 

 さて。

 名乗りは終わった。

 

 始めようじゃないか。

 18年ぶりのヒーロータイムだ。


「行くぞ!!」

 そう言って俺は丘を駆け下りる!

 

 力いっぱいに。

 

 

 

 

 そして、その直後。

 俺は足を捻挫していることを思い出した。

 捻挫した足で崖を下ればどうなるか。

 そりゃあ当然。

「しまっ…って…あ…嘘だろぶれボ!!!」

 転ぶ。 



 そして、転んだ俺は。

 斜面を見事に転がり落ちた。


 それはもう池田屋階段落ちも真っ青な見事な落ちっぷり。

 まるでドラム式洗濯機の中身の様に。グルグルゴロゴロと俺は斜面を転がり落ちる。


 凄いスピードで転がり落ちる俺は。


 ベチョ!!!!

 

 地面に頭から着地することで停止した。

 

「「「「………………」」」」


 まるで時間が止まっているかのようだった。

 敵も味方も、突然崖から転がり落ちてきたヒーローに、ただ唖然としていた。

 俺自身が一番に唖然としていた。

  

 しかししばらくして、下っ端の一人が思い出したように俺に襲いかかってくる。

 そしてそれを見て、他の下っ端も走りだす。釣られるように次、また次とどんどんと下っ端どもが俺に向かって走ってくる。

 というか…これ、全員で俺を集中して狙ってね?

 

「待て待て待て待て。……………イヤ、マジで!お前ら卑怯だぞ!!!」

 俺はよろよろと起き上がりながら叫ぶ。

 こんな弱っているオッサンに全員でかかって来るとか、ありえんだろ!!!

 もっと年上を敬えよ!!!


「お!わ!ひゃ!ぎゃ!」

 下っ端どもの攻撃を何とか避けるが、すぐに次の攻撃が俺に迫る。

 360度、各角度からの攻撃。

 反撃どころか避けることすらままならない。

 さすがにこうも囲まれてはどうのしようもない。

 防戦一方だ。

 

 そんな俺と下っ端どもの戦いを唖然と見ていたリゾフォルノンジャーが、やっと事態の深刻さに気がついた。

「は!おい皆助けるぞ!」

 レッドが叫んだ。

 

 おせーよ!

 もっと迅速に行動しろよ!

 もう俺早くも限界だぞ!

 


「うりゃ!!」

「とう!!!」

「やあ!!!」


 リゾフォルノンジャー達の攻撃が下っ端どもに当たる。

 俺に集中していた下っ端どもは、後方からの攻撃に面白いようにやられ、遠くに吹き飛んでいった。

 正直、後ろからの攻撃はヒーロー的にどうかと思うが、俺にも余裕が無いのでこの際仕方がないということにしておこう。


 かくして、さっきまでの一進一退の泥仕合は全く違う様相を見せ始める。

 状況は圧倒的にリゾフォルノンジャーに有利。

 下っ端どもはどんどんその数を減らし、状況はリゾフォルノンジャーにとってさらに良い物になっていく。


 しかし、そんな戦況でも、俺自身の状況は変わらない。

 下っ端達に囲まれながら、その攻撃を必死に避けたり防いだり。

 結局。直ぐに体力の限界が来た。

 

 息が上がる。

 動きが鈍くなる。

 そこに居る誰よりも酷い動き。

 気がついたらぼろぼろだった。


 泥だらけで、体中打ち身だらけ。

 肩で息をしていた。

 

 なんだよこれ。

 ヒーロー的にこれはありなんだろうか?



◆◆



 戦いが終わった時。

 

 結局俺が倒した下っ端の数は最低だった。

 だが同時に一番に満身創痍なのも俺だった。


 結局俺が出来た協力なんて微々たる物で。

 

 それこそ、俺が居なくても結果は変わらなかったのかもしれない。 

 あいつら連携は酷いものだったが、それでも地力とスタミナがある。

 恐らく、あのまま戦っていたら自然に逆転をしていたに違いない。


 満身創痍でその場にへたり込む俺、

 スーツのマスクを外して少しでも酸素を吸おうと大口で息をする。

 なんだこれ。こんな惨めな戦いがヒーローか?

 これが、こんなものが。

 

 情けなかった。

 悔しさが体を駆け巡った。

 悲しさが体を駆け巡った。


 そして。

 

 そして。



「オッサン…その…ありがとな!!」

「正直自分たちの力を過信していました。貴方が来てくれてとても助かりましたよ」

「おじさん。ありがと」


 3人の言葉が聞こえたが、あいにくと俺の脳内までは届かなかった。


 久しぶりの戦闘は。

 思いの他俺の体と心に響いていた。

 

 でも、一番に響いていたのは。

 

「オヴェエエ工エエェェェエエ!!!!」


 俺の胃袋にだった。


「「「ぎゃあ!!!!」」」


 皆が叫ぶ。

 すえた匂いが辺に立ちこめ、俺はアルコール臭い胃液を吐き続ける。


「最悪だ!あんた心の底から最悪だ!」

「うわ、服に!スーツにちょっと掛かった!誰か!ティッシュ、ティッシュ下さい!」

「ないわー!」

 突然の俺の吐瀉に、3人は俺に向かって怒鳴る。


「う・・・うるぜー。二日酔いで戦えばこうなるのは当然なんだよ。寧ろマスクしたまま出さなかったことを褒めろ」

 そして戦い中にしなかった俺は褒められても良いと思う。


「意味分かんねーよ!」

「ヒーローとして少し引いてます!ちょっと、水、どっかに水道ありません!?」

「ないわー」


 結局。


 久しぶりの戦闘で得たものは。

 饐えた臭いと、周りからの罵倒だった。





 リゾフォルノンジャーになって初めての戦闘。

 最後までカッコ悪い俺。

 情けなくて、惨め。

 体中痛いし、気持ち悪いし、頭ガンガンするし、


 でも、でも不思議な事に。

 

 

 俺の心は晴れやかだった。

 


 

 

◆◆◆


 次回予告


 こうして復活した新生リゾフォルノンジャー

 若人たちの集団に一人だけ居るオッサン。

 完全に一人異質な存在だった。

 果たして他のメンバーたちは、新たな仲間オッサンブラックに対して何を思うのか。


・次回!ヴァルマ戦隊 リゾフォルノンジャー!

  『熱き心の叫び!!』

           お楽しみに!

◆◆◆◆用語解説


・近く通ったから

 大谷石鉱山ですぞ?


・何故戦う前に名乗らない。

 名乗りは大切である。

 嘗て日本では、戦において武士が味方や敵に向かって大声で名乗りを上げることが作法だった。名乗りが行われている間に攻撃することは良しとされなかった。

 戦うものにとって昔から名乗るという行為はとても大切なことなのである。

 またモラルに反する悪の組織だが、悪の組織はヒーローを倒すことが目的の1つである。自分たちがヒーローだと名乗ったものを倒して初めてその悪の組織はヒーローを倒したと言える。だから名乗りを止めるようなことはめったにない。


・緊箍

 緊箍児とも。

 孫悟空の頭にあるあの輪っかのこと。緊箍呪という呪文でキリキリ閉まる。

 

・呪文を唱えるとキリキリ閉まる仕様

 天地「えーっさえーっさえさほい…」

 緑川「うぎゃあ!いてえ!いてえ!そしてネタが古い!!!」


・ブラック

 ポジショニング的にはグリーンに近い役どころ。

 そのためかブラックとグリーンが共演する事は稀で、ヒーローシリーズでも3作品程度しか無かったはず。

 ちなみにどちらも女性が担当したことの無い色でもある。メレ?なんのこと?


・昔よりだいぶ痩せた。そのくせ下腹は昔より出てる。

 それ クワシオルコルじゃね?


・ヒーロータイム

 最近ではテレビにおいてヒーロー番組を集中的に放送する時間帯を「スーパーヒーロータイム」と言うらしいが、それとは関係ない。

 もちろん西暦3000年の未来から時を越えて訪れた未来な戦隊とも関係ない。


・池田屋階段落

 映画や演劇で池田屋事件を扱う際にしばしば描かれるシーン。

 池田屋を新撰組が襲撃した際に斬られた藩士の一人が階段を転げ落ちるという物。

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