第19話 白い衝撃
理解が追いつかなかった。
ブルーの渾身の一撃。
その一撃から怪人を守ったのは。
俺達と同じ姿の奴だった。
もしかしてレッドが目を覚ましたのかと思ったが違う。
だって、そいつのスーツの色は。
白。
嘗てのフォルノホワイトを彷彿とさせる色。一瞬、昔のフォルノホワイトが復活したのかとも思えたが、目の前に居る白いスーツは嘗て見慣れたフォルノホワイトとは身長も立ち姿も異なっていた。
「誰あれ!?」
イエローがそう聞いてきたが、俺も知らない。
「…そんな大技を繰り出すな」
白い奴がそう言った。
「敵に味方するか!」
ブルーが叫ぶ。
「別にそんなつもりは無い、タイミングと方法を考えろと言うだけだ。お前はあまりにも周りが見えていない」
「問答無用!」
そう言ってブルーが白い奴に蹴りかかる。
が、白い奴はその蹴りをアッサリと避けてしまった。
「勘違いも甚だしい。もう少し冷静さを持つべきだな」
そう言いながら白い奴はブルーの脚を掴むとそれを振り上げる。
「ウゴ!」と言いながらブルーの体は180度回転してそのまま地面に頭からぶつかった。というより刺さった。
「まじか!」
思わず俺の口からそんな言葉が出た。
強い。純粋にそう思った。
「だ…誰だ貴様は!」
怪人が叫ぶ。
その様子からして、どうやら白い奴は怪人の仲間というわけでは無いらしい。
格好からしてそうだとは思ったが、やはりあいつは俺達の味方であるようだ。
そして、俺のそんな考えを肯定するかのように、そいつは名乗り始めた。
「誰か?誰かと聞かれれば名乗らねばなるまい………一つ!ヒーローとは立ち向かう勇気!」
「…!」
聞き覚えの有る台詞。
「一つ!ヒーローとは溢れる愛!」
構えながらポーズを取る白。
台詞だけではなく、そのポーズにも覚えが有る。
「一つ!ヒーローとは一筋の希望」
嘗て俺は何度もこの台詞を聞いて。何度もこのポーズを見てきた。
「そして!ヒーローとは絶対的な正義!!」
そして、何度も俺自身がやってきた。
そう。
これは嘗てのフォルノンジャーの名乗り。
「リゾホワイト!只今参上!」
「か…完璧に同じ…」
それはフォルノンジャーの名乗りを完璧に再現していた。
「リゾホワイトだと!?フォルノンジャーの仲間か!」
怪人が叫んだ。
「そうだ!」
白い奴が答える。
「そうなの?」
イエローがそう聞いてきたが、俺だって知らない。
知らないが…きっとそうなのだろう。あいつが着ているのは見るからにフォルノスーツ。あいつが虚言癖のあるコスプレ野郎とも思えない。
そして何よりあの名乗り。
あの名乗りを知るものは嘗てのフォルノンジャーの戦いを直接見た人間か一部の関係者だけのはずだ。それを完璧に再現出来ると言う事は、この白い奴は間違いなくフォルノンジャーに関わりのある奴だ。
「な…ならば、何故私の邪魔を…」
地面から頭を引っこ抜きながらブルーがそう言った。
「邪魔?何故か?当然だ。状況を考えろ」
そう言ってそいつは周りを指さす。未だ警官たちが倒れている様子をブルーに解らせようとしたのだろうが、ブルーにはそれが危険な状況だと理解できない。
「状況?敵がいて、それを打ち倒そうとしている!そんな状況だ!何故邪魔をする!!さては、さてはお前は怪人の一味か?こんな茶番で私達を混乱させようとしているんだろう!」
どうやらブルーはこの突然現れた自称フォルノンジャーを信じていないようだ。いや、信じているかどうかなど関係無いのだろう。
頭に血が登った状態の今のブルーにとって、邪魔をする奴は皆敵なんだ。
ブルーはそのまま立ち上がり、再度白い奴に攻撃をしかける。
「ブルーやめろ!」
俺はそう叫ぶが、その言葉はブルーに届かず、彼の拳はそのまま白い奴へと向かう。
「ふん!」
白い奴は片手でそれを防いだ。
そして次の瞬間。
ガキン!
もう片方の手で怪人の攻撃を防ぐ。
どうやらこの状況を好機と思ったのだろう。
ブルーの攻撃に合わせるように怪人も白い奴に攻撃をしたのだ。
ブルーと怪人、それが同時に白い奴と戦いはじめた。
奇妙な光景。
怪人とリゾブルーが白い奴を相手に共闘するかのように戦っている。
そして白い奴は、その二つの攻撃を、流れるようにいなしていた。
「「…………」」
混乱。
混乱、混乱。正しく混乱。
俺とイエローは目の前で繰り広げられる不思議な戦いの光景に、ただ呆然とそれに見入ってしまった。
「何をしている!!!」
突然白い奴が叫んだその言葉に俺とイエローの体がビクリと震えた。
「お前たち!するべきことをしろ!!」
その言葉に、イエローはキョロキョロと辺りを見始めた。彼女は混乱しているのだ。
突然現れて、ブルーの攻撃を止め、そして怪人に対峙する自称ヒーローのその言葉に、彼女はどうして良いのか解らなくなっているのだ。
一方俺は。
その言葉によって、飛び跳ねるように行動を開始していた。
自分でも不思議だった。
不思議だったが、気がついたらあいつの言葉に自然に体が反応していた。
自分のするべき事。
それはこの場に倒れる人間を安全地帯まで運ぶことだ。
彼女の一言でそれを思い出した俺は反射的に動かした。
「なぜ?」
何故俺はアイツの言葉にこんなに早く反応しているんだ?
何故かは解らない。解らないけれど。俺は自然に動いてしまっている。
それはえもいわれない。懐かしい感覚。
アイツの、言葉に従うのが当然であるかのような。
まるで、嘗てのメンバーに何かを言われた時のような、自然に連携ができてしまうような感覚。
だが、アイツは間違いなく嘗てのメンバーではない。
声も、体つきも、動き方も、全てが違う。
違うのに。
なぜこんなにも懐かしいんだ。
「クッソ!」
不愉快だった。
突然現れてまるでリーダーのように俺達に命令をするあの白いやつ。
そしてその突然現れた奴にいきなり命令されて動いてしまう自分。
さらに、今オレの体を駆け巡るこの懐かしさ、その全てが不快だった。
しかし、奴の言葉は正しいのだ。
「ヨイショ!」
両脇に抱えた警官を安全地帯に運ぶ。
イエローもやっと混乱が溶けたのか、俺同様に警官をズルズルと引きずり始めた。
急がなくてはいけない。
突然現れたあの白い奴。
アイツは確かに強い。強いのだが。
だが今アイツは周りの状況に気を使い、全力が出せていない。
周りを気にせず動くブルーと怪人の同時攻撃に何時まで持ちこたえられるか…。
俺がそう思った時だった。
「ぐあ!!!」
そんな叫び声が聞こえた。
とうとう白い奴に限界が来たのか?と思い、その声がした方を見ると。
そこではブルーが犬神家よろしく上半身を地面にめり込ませていた。
もちろんそれをやってのけたのは他でもない白い奴。
つくづく強いな。
周りに気を使いながらあの実力。そして状況は2対1から1対1になった。
ひょっとしてアイツならば、このまま周りに被害を出さずに怪人を倒せるんじゃないか?
そんな期待が俺の頭をよぎった。
が。
「茶番は終わりだ!全て終わりにする!」
怪人がそう叫んだ。
同時に禍々しい何かが怪人に集まり始める。
このエネルギーの収縮。どうやら怪人は未だ何か隠し玉を持っていたらしい。
しかし、そんな禍々しい力の前でも、白い奴の様子は全く変わらなかった。
「無駄だ!正義の前にはそんな力は通用しない!」
「それはどうかな?認めてやるよフォルノンジャー共。貴様らは確かに強い。話で聞いていた以上の強さだ。だがな、だが私にも矜持と言うものがある、そう簡単に貴様らに負けるような私ではない!」
そう叫ぶ怪人の顔。人間離れしたその顔から表情を読み取ることは出来ないが、それでもその目には何やら決意というか、覚悟のようなものが見て取れた。
それを見て俺は気が付いた。
この感じ。
過去に数回だけ経験がある。
この気配はヤバい、コレは、コレは。
「アイツ自爆する気だ!!!」
自爆。
怪人の最終手段。
自分の命を犠牲にして周りを巻き込む、最悪の手段。
「この瞬間、この瞬間を、私は待ち続けたのだ。この国の警察を潰す為に。本当ならばこの場の奴らを皆殺しにした後で自らの正体を明かして、世間を混乱させたかったのだが、さすがにそれは叶わないようだ」
「怪人ポリアオサオと言ったな。貴様の正体は解っている。そして、それが世間に知られれば混乱を招くと言う事もな。何故だ!貴様を信頼していた人間、愛した人間は沢山居たはず。なのに!なのに何故きさまはそんなことが出来る!?」
そんな声が聞こえた。なるほど、あの白い奴も怪人の正体を知っているらしい。
「ふん!それを聞いてどうする?私は悪の組織ゲルニッカーズ、むしろ今の私こそが真の姿。人間であるときの姿は仮初に過ぎない。悪の組織ゲルニッカーズには愛も信頼も、自分の命すら不要!ただ悪を実行する事だけが我々の喜びなのだ!」
「そうだったな、理由など無意味。貴様達は悪!であればこの正義の戦士リゾホワイトはそれを全力で阻止する!」
今にも自爆しようとするその怪人に向かって白い奴がそう言った。
その言葉と俺がその場に倒れている最後の警官を避難させ終わるのはほぼ同時だった。
「警官共は全部移動させた!!!」
だから逃げろ…と俺が言葉を続けようとした時。
白い奴が構えた。
そして奴の脚に集中する、ヴァルマエネルギー。
それを見て俺は理解した。
この懐かしさの理由。
今にも自爆しようとするあの怪人を目の前にして、あの白い奴から迸る気迫。熱意。
仮面越しにでも解る。アイツの目に宿る、正義の炎。
未だ成長していない現在のメンバーとも違う。
すでに老いた俺とも違う。
完全無欠の。
ヒーロー。
ヒーローなのだ!
「行くぞ怪人!」
奴が叫んだ!
そしてその蹴りが、怪人に迫る
「リゾホワイトスナイプキック!!!」
それは流れるような動き。
まるで芸術的な動き。
ヴァルマエネルギーが。
怪人にぶつかった。
ドカン!!!
爆発音。振動。そして衝撃。
怪人を中心に起きた爆発は強烈だった。
だが、アレ濃密に溜まっていた禍々しいエネルギーからすればその爆発はあまりにも小さかった。
白い奴の蹴りのエネルギーが爆発のエネルギーをかなり相殺したのだろう。
爆発の衝撃波周りをビリビリと揺れさせたが。俺達ににも、演台の影に連れてきた警官たちにも、怪我一つありはしなかった。
粉塵が舞い散るその場。
その中心に仁王立ちする白い奴。
その姿は、あまりにも堂々としていた。
「凄い…」
ボソリとイエローがつぶやくのが聞こえた。
同感だ。実に凄い。
只々感心。
あの白い奴。
アイツは、アイツは…
ヒーローだ。
◆◇◆◇◆
「あ、あ、あ、貴方は一体何者なんですか!!」
そんな叫び声が聞こえた。
驚いてその声がした方を見ると、さっきの爆発で体が地面から抜けたらしいブルーが白い奴を指さしながら叫んでいた。
そのブルーの問に白い奴は冷静な声で答える。
「リゾホワイトだ。天地司令から何も聞いていないのか?」
白い奴…ことリゾホワイトがそう言った。
「天地くんから?」
そいつのその言葉に、俺は天地くんの言葉を思い出した。
『一応の対策はとって居ますが…』
つまりこの目の前の白い奴こそが天地くんの言っていた「一応の対策」だったのだろう。
俺達とは別に、あの会場に最初から混ざっていたと言うわけだ。
「まあ、私がこの戦隊に入ることが決まったのは数日前だからな、連絡がまだ行っていなくてもおかしくはないが…」
「えらく急だな…」
「まあな…いや、オファー自体はもっと前からあったのだ。だが、入隊を延期してもらっていた」
「延期?」
「ああ。私自身が別件で忙しい事もあったのだが、それ以前に自信が持てなくてな。私なんぞがフォルノンジャーになるには未だ力不足だと思っていたのだ」
「は…はあ」
そりゃまた随分と殊勝な心がけで…。
「だが、今日の戦いを見て自分の力不足以前の問題だと理解した。お前たちだ!どれほどの物かと期待していたのだが、てんで期待はずれ、酷いものだ。力不足の私より更に酷いとはどういうことだ!?レッドはガスで眠るというお粗末さ、イエローは何も出来ずオロオロするばかり、ブラックは行動が遅く、そしてブルーは猪突猛進するばかりで周りが全く見えていない!貴様らは不甲斐なさすぎる!」
ビシリ!とホワイトが俺達を指さした。
初対面の癖に言いたい放題だ。
だが。正しい。
今回、コイツがいなかったら多くの犠牲者を出す所だった。コイツが文句を言いたくなるのも当然だろう。
俺達は真摯にコイツの言葉に反省しなくてはいけない。
だが、残念ながらブルーはそう思わなかったようだ。
「あ。あ、あ、貴方に何が判るんですか!」
そう言いながらブルーがホワイトに詰め寄る。どうやらまだ彼の頭には血が登ったままらしい。
「何が判る?判るさ、あの戦いぶりの酷さくらい、判り過ぎるほどに判る。最低、正しく最低だ。そもそもお前は何故ああも怒りを前面に押し出す?戦うときは冷静に、コレはヒーローの第一条件の一つのはずだぞ?」
「しかし奴は!奴は一般市民を!白鳥様を!!!」
「それは私怨だな。ヒーローたるもの私怨で動いてはいけない。常に心に愛と正義を宿し、それ以外を排除すべし。その基本ができていない時点で貴様はヒーロー失格だ。そもそも。その白鳥なんて女の仇など取る必要は全く無い」
この言葉。それは正しい言葉。ヒーローとして当然の言葉だ。
だがブルーに向かっては言っちゃいけない言葉だった。
何故って。
「何故そんな事が言えるんですか!白鳥様の仇をとる必要がない!貴方はどんな立場でそんな事を言えると言うんですか!!!!
今までに無いような剣幕でブルーがホワイトに詰め寄る。
ブルーは白鳥様の大ファンだ。そんな白鳥様仇など取る必要は全く無いと言われれば怒るのは当然。
「何故か?お前は白鳥の正体がまだ解ってないのか?」
「白鳥様の正体?」
俺はそのやり取りに焦りを覚えた。
「ふん、あの白鳥愛菜というアイドルはな…」
「ちょ…」
ちょっと待て。
マズイ。あの怪人の正体。
それをブルーに知られるのはダメだ。
そう思って俺はホワイトの言葉を遮ろうとした。
しかし、間に合わない。
ホワイトは右手のフォルノリングを操作した。
そして、そいつの変身が解除される。
そこにあった姿。それは。
「貴様らの目の前に居るリゾホワイト、つまり私だ」
ブルーが愛してやまないアイドルの姿がそこにあった。
◆◇◆◇◆◇◆◇次回予告
ブラックが怪人だと思っていた白鳥アイナは実はリゾフォルノンジャーの新メンバーだった。
突如として現れた新メンバーに戸惑う一同。
果たして白鳥とはどんな人間で有るのか。
次回 ヴァルマ戦隊リゾフォルノンジャー
「ブラック&ホワイト」
おたのしみに。
◆◆◆◆用語解説
・愛、勇気、希望
3人の愛、勇気、希望が合わさる時、宝石が共鳴し合いマジカルプリンセスに変身し、ビューティーセレインアローで敵の悪い心を射抜く…
有る意味戦隊物?と呼べなくもないこの話、漫画版とアニメ版が違いすぎることで有名。少女趣味と言われるかもしれないが、筆者は原作が結構好きだったりする。
・犬神家
某小説のタイトルより。同小説においてとある被害者が湖に上半身が刺さり脚だけが湖から出ているという、あまりにもインパクトのあるポーズから、同様の状態を「犬神家」あるいは「スケキヨ」と呼ぶことがある。
・隠し玉
正確には「隠し球」。元は野球用語。野球で野手がボールを投手に渡したと見せかけ持っておき、走者が塁を離れた時にタッチアウトにしようとすること。転じて重要な場面における切り札という意味合いで使われるようになっている。
・自爆
怪人の最後といえばおなじみ自爆。
コレは他者に怪人の体を研究されないために死後は自爆するように作られているからという説が一般的。
・白鳥愛菜
やっとこヒロイン登場。
名前からして彼女がホワイトで有るのはバレバレだったはず。
・リゾホワイトスナイプキック
リゾホワイト48の殺人技の一つ。
リゾブラックスナイプキックと同じく片足にフォルノエネルギーを集中させた飛び蹴りだが、エネルギー、スピード、技のキレ。全てに置いてリゾブラックスナイプキックを超えている。
・エネルギーの相殺
不思議な事に怪人の持つエネルギーとヴァルマエネルギーは反発しあう場合と相殺しあう場合がある。
コレは怪人の扱うエネルギーとヴァルマエネルギーが其々複数のエネルギーの集合体であることとなにか関係が有るのかもしれない。