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第17話 ホワイトアウト

 暑さのピークは少しばかり過ぎたのだろう。外の気温は少しだけマシになった気がする。

 それでも世界は十分過ぎる程に暑く、太陽の光の下に立つ俺の肌からはじっとりと絶え間なく汗が流れ出る。


 ただ、もしかしたら俺の肌から汗が流れる理由は暑さだけでは無いのかもしれない。



 何故なら俺の目の前には。

 警察、警察、警察。辺は警察だらけ。それもそのはず、此処は中央警察署。

 嫌いな警察に囲まれて、俺はとても嫌な気分である。嫌な汗も流れようというものだ。


 俺達は今こうして中央警察署の一日警察署長イベントに参加することになった。

 といっても一般人に混じってぼんやりと遠くから見ているだけなんだが。


「なんでこんなことしてるのかねえ」

 誰に言うでもなく俺はそう呟いた。


 青瓢箪の希望で俺達はこうしてこのイベントに参加することになった。

 あの時の青瓢箪の様子は今思い出しても凄かった。

 もう、目は血走り、鼻息荒く、天地くんに詰め寄り「行きます、行きます」と繰り返す彼の姿に、天地くんは勿論、俺達もドッ引きだった。


 まあ、動機はアレだが、イベントに参加すること自体は俺も別に異論は無い。

 このイベントにガセぽいとはいえゲルニッカーズの襲撃の情報があるのは事実だし。待機に飽きていたのも事実だ。


「しかし不快だ」

 茹だるような熱さの中、嫌いな警察に囲まれての待機。

 この心の底から湧き上がって不快感はどうしようも無い。

 こんな事なら天地くんと一緒に本部に行けばよかったと思う。


 会場に天地くんは来なかった、万が一俺達が此処に居る間に別の場所にゲルニッカーズが現れた場合は即座に俺達に連絡できるよう彼は今、本部で情報収集中だ。


「はいコレ」

 そんな言葉と共に俺の目の前に差し出される紙コップ。

 視線を少しずらすと、キ印が紙コップを俺に差し出してきた。


「なんだこれ?」

「あっちで甘酒の無料配布してた」

「甘酒って…」

 真夏だぞ?


「一応完全ノンアルコールの冷やし甘酒だって」

「だからってお前、警察の奴らから施しを受けるのか?」

 奴らに餌付けされやがって。それでも警察を嫌う一人の人間として恥ずかしくないのか?


「イラナイの?」

「いや、もらう」

 食い物に罪は無い。

 俺はキ印からカップを受け取ると、ズルズルと音を立てながらそれを飲み干した。


「特にトラブルもなく進んでるね」

 そう言ってキ印が中央の演台に視線を向ける。

 彼女の視線の先では、警察の偉そうなオッサンがさっきから延々と内容があるのか無いのかよくわからない話をダラダラと続けている。

 ゲルニッカーズが襲撃してくる様子は微塵も無い。


「まあ、そうだな、まあ情報ってのはこんなもんだ」

 言っちゃなんだが、こういった情報と言うのは本当にあてにならないのだ。

 前フォルノンジャー時代にも俺は何度もガセ情報に踊らされた経験が有る。


 俺はクシャリと紙コップを潰すと、それを近くのゴミ箱に投げ入れた。


「ところで赤は?」

「え?檜山くん?檜山くんは…あ、いたいた、あそこ、あそこのブースに居るよ」

 そう言ってキ印が指差す先には、何やら警察の活動の写真が大量に貼られたブースに居る赤坊の姿があった。

「あれは…警察の活動紹介のブースか?あいつ、あんな食い入るように写真を…」

「檜山くん、結構警察に憧れ持ってるから」

「え?そうなの?」

 意外…でも無いか。

 

 実際、一般的に警察は社会の平和を守る正義の味方であると思われている。

 赤坊が憧れても不思議はない。

 確かに警察が市民の平和を守る側面が有る事は俺も認めよう。

 

 だが。警察は正義じゃない。

 警察は治安秩序を維持することが目的の行政機関だ。

 治安の維持と正義は似ているが微妙に…いや、かなり違う。


「その違いが判るにはあいつは若すぎるんだなあ」

 ぼんやりと赤坊を見ながら俺はそう言った。


「え?なんの話?違いって?」

「いや、何でもない…しかし、なんだ。結局あいつがこのイベントに参加したがったのもあいつが警察好きだからじゃないのか?」

「まあ、それも理由としては大きいと思うよ?」

「結局赤も青も私利私欲かよ」

「別に私利私欲で良いんじゃない?もっちべいしょーん…ってので選ぶべきって言ったのオジサンじゃん」

「モチベーションな。まあ確かにそう言ったけどなあ。でも、一応これでも任務みたいなもんなんだから、もうチョット真面目に警戒するべきだと思うんだ、俺」

 あいつ、警察紹介ブースにばっかり視線が行ってるじゃないか。

 もっと周りを警戒しろよ。


「ところで、あのオタクは?」

 オタクと言う言葉だけでそれが青瓢箪を指すと理解したキ印が遠くを指さした。


 それは演台の脇。

 来賓用のテントの辺。

「あっちで写真撮りまくってる」

 そこには追っかけ共に混じって本日の主賓であるアイドルの写真を撮りまくる青瓢箪の姿が…。


「だめだあいつ、早く何とかしなくちゃ」

「なんか海貝君って思いの外残念な人だった」

 青瓢箪はテントの下で待機している登場前のアイドルの写真をコレでもかと激写中だ。

 それは彼がヒーローであるとは微塵も感じられない様相。


「まあ確かに美人なのは認めるが」

 青瓢箪が写真を撮りまくっている人物。白鳥とか言うアイドル。

 アイドルと言うだけあってその少女は遠目からも判るほどに整った容姿をしていた。それに、なんと言うか如何にもなオーラが漂っている。

 まあ、思春期の男を夢中にさせるだけの事はある。

「なになに、やっぱりオジサンもああ言う若い女の子が好きだったりするの?」

「若い女の子って…乳臭い子供に言われるのも心外だが…まあ、そうだなあ、まあ可愛いとは思うよ?」

「海貝君だけじゃなくオジサンまで…私の方が可愛いと思うけど」

 そう言ってキ印がシナを作るが…

「へ」

「鼻で笑った!?」

 鼻で笑ったんじゃねえ、笑いをこらえきれずに鼻から漏れでたんだ。


「おまえ、だって、おま。鏡見ろよ。あと身長と胸。未だにランドセルが似合うような容姿で・・・おま」

 私の方が可愛いとか…ギャグだぞ?

「失礼だ、おじさんは失礼だ!」

 失礼なものか。ただ現実を見ているだけだ。 



『…それでは、只今より一日警察署長の任命式を初めます』

 そんなアナウンスが流れた。



「「「ヲオオオオオオオオ!!!!」」」

 にわかに観客が騒がしくなる。

 そして青瓢箪を始めとした多くの観衆の目的であるアイドルの白鳥様が立ち上がり演台へと歩き出した。


 響き渡る観客の声援。そしてたかれるフラッシュ。まるでコンサート会場のようだった。

 彼女の存在は、この警察が主催するイベントを、まるでアイドルコンサートのような熱狂的なものへと変貌させている。

 先ほどの警察のお偉いさんの挨拶の時に比べると数倍は大きな拍手の中。その少女は淡々と歩く。

 

 その姿に俺は驚いた。

 と言うより感心した。

 

 凛々しいとは聞いていたが、ああも媚びない凛とした人間だとは思わなかった。

 歓声と拍手の中歩く彼女の姿は、何処か堂々としていながらも傲慢さを感じさせない、信頼感すら感じさせる雰囲気。

 まるで歴戦の勇士のような歩き方。


 そんな、如何にも不似合いな雰囲気を発しつつ彼女は壇上に上る。そして、彼女が壇上にあったマイクの前にたどり着き。



 彼女が停止した瞬間。


 ピタリと拍手が止まり、喧騒が止まり、沈黙が流れた。

 まるで世界が彼女に支配されたようだった。


 いや、事実として、彼女はこの場を支配していた。


 アイドルという職業故なのか、それとも天性の才能なのか。

 彼女には人の注目を集め、雰囲気を支配する力がある。

 ファンは勿論、それ以外の観客も、関係者も、キ印や俺さえも、彼女に注目し、押し黙る。

 彼女が口から発する言葉を聞き逃すまいと、誰もが無言になる。



 そして、彼女がマイクに口を近づけ。

 その口をひらいた。


 その時。



 光が世界を支配した。

 

 比喩じゃなく。

 事実として。目が眩むような光が目の前いっぱいに広がった。

 続いてつんざくような爆発音。

 そして粉塵が辺に舞い散る。

 耳鳴りのする鼓膜をフルに使って状況を確認しようとするが、聞こえるのは悲鳴と罵声。

 そこに爆発で吹き飛ばされたスピーカーからの大きな雑音が混じり、騒音しか聞こえない。

 混乱する頭で状況を何とか判断しようとした。

 判る事はただひとつ。




 爆発が起きたのだ。



 爆発したのは先程まであのアイドルが居た演台だ。

 演台があったところには爆発の凄まじさを証明するかのように小さなクレーターが出来ている。そして、演台もその上に乗っていた少女の姿もそこには無かった。 

 そしてそんな会場に大声が響き渡った。


「我が名はポリサリアオ!!!」

 響くような声。

 会場全体に広がるその声は禍々しく、そして重苦しかった。

 まるでボイスチェンジャーを使ったかのような機械的な重低音。


 そして爆心地と思われるクレーターの上に現れた、一つの影。


 それは。



「怪人!」


 怪人だ。

 間違いなくそれは怪人だった。

 真っ黒い外骨格に覆われたまるで甲殻類でありながら人の形をしたそれ。


 その怪人が混乱する群衆に向かって楽しそうに語りかける。

「今も何処かで事件は起きているというのに、こんな陽気イベントを行うとは実に警察は無責任な事だ。そしてそれにホイホイと参加する馬鹿共。如何にも平和ボケしたことである。ばらば、悪は、私は、その平和を乱さなくてはいけないな!」

 

 そして、その言葉に会場のパニックはピークに達した。

 爆発の直後、突如現れた怪人。

 人々の混乱は恐怖に上書きされ皆が一斉にその場から逃げ惑う。


「1B!?もうそういう状況じゃねーんだよ!!」

「銃対!呼べ早く!」

「爆発物だ、丸瀑!」

「NBC!」

 すぐ近くでそんな声が響いている。

 どうやら警察が応援を呼んでいるようだ。


 逃げ惑う人の波の中、なんとか流されまいと踏ん張る俺の耳に、怪人の愉快そうな声が響く。



「驕り高ぶる警察共よ、貴様らの無力さを噛み締めながら死に絶えるが良い」

 そういいながら怪人が警察達が居る方向に右手を向けた。

 何をするのかは知らないが、なにやら攻撃を加えようとしているのは解る。


 警察が嫌いなのは俺も一緒だが、だからってコレはやりすぎだと思った。

 思ったが、コレがゲルニッカーズだ。

 奴らは人の命を気にしない。

 残虐非道の悪の組織だ。



「でえええい!」

 人の波に抵抗する俺の耳に入ってくるそんな声。

 声のする方に視線を向けると、怪人に飛びかかる一つの影があった。

 青っぽい影。

 俺は一瞬その影がリゾブルーのように見えたが、それは違った。


 それは一人の若い警官だった。


 勇敢な警察である。突然現れた不審な人物…というか怪人に、生身でぶつかっていくのだから。

 

 だが、向こう見ずでもある。

 話しかけて相手の真意を尋ねるでも無く、相手がこの爆発の犯人なのかを確認するでも無く、いきなり飛びかかるのは猪突猛進に過ぎる。

 そして何より。


 怪人の強さを見くびりすぎだ。


「はっ」

 鼻で笑うような声と共に、怪人の手が動く。



 そして。警官が、飛んだ。


 というよりは投げ飛ばされた。

 まるでボールを投げるみたいに、ポーンと一人の人間が投げ飛ばされた。

 地面にたたきつけられた警官は、悲鳴のようなうめき声のような重苦しい言葉を発しながら微動だにしない。


 当然の結果だ。

 いくら身体能力が高かろうと、荒事に慣れていようと、警官は生身の人間に違いない。

 そんな人間が、怪人に勝てるはずがないのだ。


 次の瞬間。パアンと鼓膜が破れるような音がした。

 ポリアオサオの体から小さな煙が立ち上っている。

 どうやら別の警官が発砲したらしい。

 未だ近くに民間人が居るというのに突然の発砲、どうやら警察も相当に混乱しているようだ。


「ふん、無駄無駄」

 ポリアオサオがそう言って笑った。

 奴の言うとおり無駄だ。

 銃で勝てるならヒーローは要らない。



 そう、ヒーロー、ヒーローだ。


 奴を倒せるのは俺達しか居ないのだ。


 しかし、困った。

 現れた怪人に俺はすぐにでも対応しなくてはいけない。

 いけないのだが、状況がそれを許さない。



 一般人のほとんどは逃げて会場の人口密度は下がっているが、この場には依然として沢山の警官がいる。

 人目が多すぎて変身できない。

 かと行って人目が無い所に行こうにも…。


「ここは危険です、早く避難を!」

 そう言いながら俺の体をガシリとつかむ一人の警官。そして俺の体をグイグイと一般人たちが避難している方向へと誘導しようとする。

 彼の行動は間違っていない。一般人の避難を優先する彼の行為は正しい、賞賛すらされるべきだろう。


 だが生憎と、俺は一般人ではないのだ。一人のヒーローである。が。それをいちいち説明する暇もない、


 というわけでこの警官には悪いが眠ってもらうとしよう。

「許せ」

 そう言ってその青年の延髄に当身を食らわせた。


 その衝撃に青年は前のめりに倒れ…

「・・・痛いな!何をするんだ!」

 倒れなかった。


 しまった、当身なんて18年以上も使って無いから、上手くいかなかった。

「えい!」

「ちょ!なんで?混乱してるのか?やめなさい、首にチョップをするのはやめなさい!」

「断る」

 俺は、お前が、気絶するまで、チョップするのを、やめない。

「わかった、百歩譲って本官の首にチョップするのは許す、許すから逃げろ!」

 警官がそう叫んだ時だった。


 シュワー。


 突如として白い煙が辺に広がった。

「ガス!?」

 広がる白いガス、そしてその白いガスに周りの警察達は次々と倒れていく。


「っち!」

 俺は舌打ちをしつつフォルノリングに手をかける。

 白い光と共に俺の体はフォルノスーツに包まれ。顔につけられたマスクでガスを防ぐ。


 本当なら人の居るところで変身はしたくないのだが状況が状況だ。

 幸い突然のガスに俺の体は見難いし、俺の周りの警察達は既にガスに倒れている。


「咄嗟の時にガスマスクさえ標準装備していない平和ボケぶり。やはり警察は無能にすぎるな」

 怪人はそう言って笑っている。


 まあ、対テロを想定してないのだから、ガスマスクを携帯しろと言う方が無理な話。

 しかし無能という言葉には同意だ。

 偉そうな割に役に立たないのが警察である。


 だが、コレはチャンスでもある。

 邪魔な警察がいなくなり、俺達が自由に活動出来る。


 かくして。





 この場には。

 怪人とヒーローだけが立っていた。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇次回予告


 突如として現れた怪人ポリサリアオ。

 決死の戦い始まろうとするが、辺りには気絶する警官達がいた。

 果たしてリゾフォルノンジャーは警官達を守りながら怪人を倒すことが出来るのか。


次回 ヴァルマ戦隊リゾフォルノンジャー

   「ヒーローの目覚め!」

           おたのしみに。


◆◆◆◆用語解説


・甘酒

 近年では冬に飲むイメージが強いが、実は夏にも飲まれる飲み物で、夏の季語でもある。


・当身

 本来は打撃技全体を指すのだが、近年では相手を気絶させる技という認識が一般的になりつつある。


・チョップ

 叩ききるというような意味合いだが、日本ではその際の動作を真似た手の動きを指す。手刀打の一種。


・ガス

 眠りガス、ゲルニッカーズの開発した「ネムリンZ」。吸った人間を迅速に、そして静かに眠らせる。また長時間吸い続けると命の危険がある危険なガスである。あえて即死性の高いガスを使わないのは、彼らの優しさ・・・ではなく味方のゲルニッカーズが何かの事故で吸ってしまうリスクを考えてのこと。


・変身

 ヒーローの正体は基本秘密。

 たとえ警察相手だったとしても正体を知られてはいけないため、他人の目があるところで変身はできないのだ、


・マスク

 フォルノスーツの顔部分のマスクは防塵、防毒マスクとしても役立つのだ。

 さらに常にフローラルな香りが充満しており、口臭が気になるおっさんでも戦っているあいだ爽快な気分で居られる素晴らしいマスクなのである。

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