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第14.5話 おっさんマニュアル

「今日は貴方達に重要な任務を課します」

 喫茶溶鉱炉に天地の声が響いた。

 そしてそれを言う天地の顔は真剣だった。


 天地の前に座る三人もまた真剣な表情になる。


 檜山、海貝、横山、三人は今日、突然天地に緊急招集されたのだ。

 緑川が居ない状態での緊急招集。

 戦力が欠けている状態で与えられようとしている任務に、三人は不安と緊張を感じて居た。 


「重要な任務…」

 ゴクリと檜山は唾を飲み込んだ。



 そして天地の口から語られるその任務とは。




「とても重要で、大切な任務。そう!緑川さんの看病です!」 





「「「…」」」

 三人は絶句した。


「コレはとてつもない重要な任務、嘗てコレ程に重要な任務が他にあったでしょうか…」

「「「…」」」

 イッパイあったろ?と三人は思ったが口にはしなかった。

 あまりにも真剣な表情でそれを言う天地の表情から、コレが冗談ではなく本気で言っていると理解したからだ。


「正直出来る事ならば私が今すぐにでも緑川さんの家に行って看病をしたい。しまくりたい」

「…は…はあ」

「すれば…いいんじゃないですか?」

「っていうか、今日までしまくってたでしょ?」

 天地司令の緑川への執着。何時ものことではあるが、相変わらずの天地の欠点だ。

 何故この完璧人間とも言える天地が緑川に執着するのか当初は不明だった。最近になって緑川の本当の実力を知り、その理由がやっと解ったと思えたが、それにしてもやはり行き過ぎている。

 コレはもはや病的なレベルで、むしろこっちのほうに治療が必要だと3人には思えた。


「出来れば緑川さんの家に行きたいのですが今日はこの後仕事が立て込んでいて、看病の時間が取れないのです!」

「「「はあ…」」」

 そりゃあ、連日連夜緑川の家に通っていれば仕事もたまろうものだろうと3人は思った。


「そこで貴方達にこの大役を譲ります!」

「へ?」

「大役って…」

「看病を?」


「そうです!緑川さんの介護!このとても大切な任務です!貴方達に出来ますか?」

「出来ますか?…って…兎に角オッサンの看病をしてくりゃ良いんだろ?」

「別に良いですよ?住所も一応知ってますし」

「じゃあ…行こっか?」

 そう言いながら3人は立ち上がり緑川の家に向かおうとしたところで。


「ちょっと待ったああああ!!!」

 天地の声が響いた。


「うわびっくりした!」

「なんですかマスター大きな声を出して」

「私達なんかした?」


「貴方たち、まさか何の対策も立てずに行くつもりですか?」

「いや、対策って」

「私達看病に行くんですよね?」

「普通に看病するのに対策は要らないと思うけど…」


「甘い、甘い、甘い!アステルパームより甘い!!緑川さんをそんじょそこらの人と一緒にしてはいけません。貴方達、緑川さんのデリケートさを知ってますか?」

「いや…知りませんけど」

「デリケートなんですか?」

「むしろデリケートさとは対局に居るような気がするけど」

 何時も汚いジャージとよれたTシャツ姿。寝癖に無精髭。酷い時は口元によだれの跡がある。そんな汚いオッサン緑川。デリケートと言われて今ひとつ信じられない。


「いいえ!緑川さんのデリケートさは子リス並です!」

「いや、自信満々にそんな事言われても」

「子リスって…」

「リス並って…」


「そんな緑川さんに何の対策も立てず世話をするなんて愚の骨頂!良いですか?ちゃんとした手順で緑川さんの介護をしてください」

「手順ったって」

「普通に介護するんじゃダメなんですか?」

「マニュアルがあるわけでもないし…」

「兎に角!!繊細な緑川さんの扱いはか弱い子リスと同等、いや!それ以上の慎重さでおねがいしますよ!」

 血走った目で天地がそう叫んだ。

 そして彼は胸元から桐箱に入った鍵を取り出すと。

「コレが緑川さんの家を開けられる魔法の鍵です。それじゃあ私は仕事があるので本部に戻りますが、く・れ・ぐ・れ・も!おねがいしますよ!良いですか?子リス、リスですよ!?」

 そして天地はしつこく「リスのように!」と叫びながらスタスタとその場を後にしてしまった。


 残される三人。


「慎重にって…あのオッサンに慎重さなんているか?」

「無用…とは思いますが。しかし上官命令ですし、従わないと…でも、どうします?天地マスターが納得するような介護のノウハウなんて私達にはありませんよ?」

 小動物を扱うが如き介護の要求。果たしてどのようにすれば良いのか解らず途方にくれる檜山と海貝。


 そこに横山から提案が。

「私…偶然良い物持ってるんだけど、コレ使えばマスターも納得の看病が出来るかも」

「良い物?」

「ほらコレ」

 そう言って彼女がカバンの中から一冊の本を取り出した。


「なにこの本?」

「えっと…って、え?」

「実は今度リスを飼おうと思って図書館で借りた本なんだけど、まさかこんな状況で役にたつとは…」




 彼女の出した本の表紙にはでかでかと『リスの飼い方マニュアル』と表記されていた。




「いやいやいやいや、横山よ、お前比喩表現って言葉知ってるか?」

「緑川さんが子リス程度ってのはあくまで天地司令の比喩表現であって、あの人は一応はホモサピエンスですよ?…認めたくないですけど」

「でもさあ、比喩だろうがなんだろうが、一応この本に沿ってオジサンの世話をすれば、命令通りだよ?」

 横山のその言葉に、檜山と海貝が顔を見合わせる。


「……うん…。まあ、確かに命令違反にはならないよな」

「…確かにそうですね、リスと同等の扱いをするのは事実ですし…」

「じゃあ。このマニュアルにある方法で」

「だな、リスもオッサンも同じ哺乳類だし」

「リスとオッサンにはさしたる違いはありませんよね」

「じゃあとりあえず、『リス』の部分を『オッサン』に脳内変換しておくよ?」


 そう言いながら横山がその本を開き、そしてその一ページ目を読み上げた。

「えっとなになに?


●●●●●●●●●●●●●●

○前文

 とても可愛らしく、キュートなオッサン。オッサンは眺めているだけで、ほのぼのと楽しい気持ちにしてくれる生き物です。しかし、オッサンは他の動物に比べて気難しく世話には苦労が伴います。試行錯誤と愛情で、オッサンとの暮らしを楽しんでみましょう。

●●●●●●●●●●●●●●



「…なんか…やだなあ」

「別に緑川さんは可愛らしくキュートで眺めているだけで楽しい気持ちにはならないと思うんですけど…」

「でもそう書いてあるし…」


 マニュアルの内容に3人は大いに不安を感じだが、他に良い考えも浮かばず、結局その不安を胸に秘めたまま緑川の住処へと向かうのだった。



◆◇◆◇◆◇◆◇


 緑川の巣。

 そこは如何にも古臭い集合住宅だった。


「ここだな」

「ええっと、203号室…間違いありませんね。ポストにも緑川って書かれてますし」

「じゃあチャイム押すよ?」


 ピンポーン

 横山がチャイムを押し、電子音が響くがそれに対する反応は何も無かった。


「出ないな」

「外出してる…とは思えませんから、居留守ですかね?」

「連打してみる……喰らえ!聞いて私の♪可愛い♪おともだち♪…」


 ピポ

 ピポ

 ピッポピ

 ピポ

 ピポ

 ピッポピ

 ピポ

 ピポ

 ピポ

 ピポ


「ぴぽぴぽ、エレクトリックサウンドを鳴らしすぎじゃね?」

「っていうかどうしてチャイムで音楽を奏でられるんですか?」

「マスターに教わっ…『うるせゑぇぇぇ・・・・・・・』あ、やっぱり居た」

 部屋の中から絞り出されるような声が聞こえた。室内に緑川が居るのは間違いないようだ。


「じゃあ。コレで入っちゃうか」

 そう言って檜山は天地に渡されていた合鍵を使う。

 ガチャリ。と音を立てて扉が開いた。


「うわー小さいなあ」

「こら檜山くん。そういうのは失礼ですよ」

「なんか天井の染みが人の顔に見えて怖いんだけど」

 部屋は小さく古かった。キッチンとテーブルだけの質素な部屋。

 奥に襖があり、緑川はおそらくその向こうに居るのだろう。


「「「こんちには!!」」

 襖に向かって三人は挨拶をする。


「…なんだお前ら。何しに来た」

 襖の向こうから声が聞こえた。


「いや、何しにって、そりゃ当然看病だよ」

「緑川さん一歩も動けないっていうから」

「面倒みにきたよ」


「態々来てもらって悪いけれど、介護は不要だ。帰ってくれ」

 襖も開けず姿も見せずそんな素っ気ない返事だけがかえってきた。


 三人は緑川に聞こえないよう小さな声で話し合う。


『すぐに帰れって言ってるぞ?』

『姿も見せませんね』

『こんな時こそマニュアルを…えっとなになに?


●●●●●●●●●●●●●●

○オッサンとは最初が肝心。

 オッサンとの生活をするにあたって特に重要なのは、家に来てすぐの時です。

 ほとんどのオッサンは最初の頃、人間の姿に怯え巣箱に引きこもって出て来ません。

 オッサンは環境の変化に敏感でストレスに弱い生き物です。

 構いたい気持ちをこらえて、そっとしておく事が大切。しばらくするとだんだん慣れてきますので気長に待ちましょう

●●●●●●●●●●●●●●


 …だってさ』


『なるほど、じゃあオッサンが姿を見せないのは普通のことなんだな?』

『まだ警戒されてると言う事ですね?』

『しばらくすると慣れてくるみたいだから気にしなくても良いみたい』


 そして3人は襖のむこうにいる緑川に向かって言った。


「ダイジョブだって。べつに迷惑はかけないからさ」

「緑川さんは別に無理して出てこなくても良いですから」

「私達は私達でこっちの部屋で勝手にやるからさ」


 するとかすれるような声で返事があった。

「…解った、好きにすれば良い。だが俺のことには構うなよ」

「ああ、オッサンはそっちの部屋で好きにやってくれ」

 檜山はそう言うと、今度は横山の方を向いて小さな声で言った。


『よし、じゃあ、俺達はあのオッサンの警戒心が無くなるまで待つとしてその間、何をすればいいんだ?』

『待機ですか?』

『それも書いてある…』


●●●●●●●●●●●●●●

○オッサンに慣れてもらうためには。

 人間に慣れてもらうために巣の外から声をかけましょう。勿論大声や荒っぽい声は出してはいけません。名前を呼びながら網ごし、あるいは出入り口から食べ物等を手渡すのも良いでしょう。その際は出入り口からオッサンが逃げ出さないように注意してください。またオッサンが怖がって受け取ってくれない場合は無理強いしてはいけません。

●●●●●●●●●●●●●●


『ちょうどオヤツに買ってきたピーナッツが有るぞ?』

『じゃあそれを与えて見ましょうか?』

『ちゃんと優しく声をかけるのを忘れないでね?』

『よし声をかければいんだな?…おっさん、おっさん」


「…」


『返事がありませんね』

『慣れるまで声をかけ続けて』

「おっさんおっさんおっさんおっさんおっさんおっさん」


「…んだ?」

『返事があったぞ』

『じゃあオヤツを手渡してください』

『あ、逃げないように襖は開け切らないようにね』

 そう言って横山が腕が入るだけ襖を開いた。


 檜山はそこから腕だけを部屋に入れてピーナッツを緑川に差し出す。

「おっさんピーナッツ食べる?」


「要らない」

 そんな返事があった。

『無理強いはダメです』

『良し引っ込めて』

「そうか」

 すッ。ピシャ!

 檜山が腕を引くと、横山が即座に襖を閉めた。



『オッサン、まだ結構警戒してるなあ』

『コレは長期戦になりそうですね』

『ええと、こういう時は…』


●●●●●●●●●●●●●●

○オッサンが慣れるまでは

 オッサンが姿を見せないから世話をしなくて良いわけではありません。

 掃除や餌やりなど、するべきことは沢山有ります。

 オッサンが姿を見せるまで、隠れている場所の周りを掃除したり、食料を補給したりしながら気長に待ちましょう。

●●●●●●●●●●●●●●



『食料の補給っていってもなあ…』

『大体、緑川さんって普段何を食べてるんですかね?』

『ええっと?』



●●●●●●●●●●●●●●

○オッサンの食べ物

 オッサンは本来、野生生物です。森林や草原に暮らすオッサンは、春夏は木の芽や虫を食べ、秋は木の実を集めてそれらを蓄えます。オッサンと一緒に暮らす場合はこういった本来の住環境に近い食事を再現することが理想的です。

●●●●●●●●●●●●●●


『木の芽や虫に木の実…』

『え?あの人そんなもの食べるんですか?』

『大丈夫、準備してある』

 そう言って横山は来る途中に買っておいた食料をビニール袋から取り出した。


 山椒の葉の醤油漬け。イナゴの佃煮。そしてカシューナッツ。


『なるほど、確かに木の芽と虫に木の実だ…』

『コレならば緑川さんも満足まちがいなしですね』

『じゃあコレをお皿に盛って…』

『あ、手伝うよ…しかし、この食器棚カップ酒の容器がイッパイ入ってるな』

『じゃあ、その準備をしている間、私は緑川さんが隠れている場所の周りを掃除をしておきましょうか』

 そう言いながら海貝が辺をみると、使い古された掃除機が冷蔵庫の横に立てかけられていた。

 彼はその掃除機を取り出すと、コンセントを差し込みスイッチを入れる。


 ぶおおおおおおおおおお、


 掃除機特有の音が辺に響き渡る。


 そして掃除を初めて数秒後。



「うるっせえええええ!殺すぞ」

 そんなどなり声と共に襖が開けられた。



「あ、襖開いた」

「姿を見せた」

「姿を見せた…じゃねーよ。眠りかけの人間の近くで掃除機なんてかけてんじゃねーよ!!」


 緑川は怒り心頭の様子だ。


 その様子に戸惑った檜山達は三人でヒソヒソと相談しあう。

『なんかオッサン怒ってるぞ?』

『私達の行動に噛み付いてきてますね』

『ええっとええっと…あった』


●●●●●●●●●●●●●●

○突然オッサンが噛み付くようになった

 今までなついていたかわいいオッサンが急に凶暴化して噛み付いてくることがあります。

 これは冬眠に備えて貯食するオッサン特有の現象です。この時期のオッサンは性ホルモンが減少し、性よりも自身の生存に価値観の比重が大きくなることで、他の個体を 排除、攻撃することになるためだ、と言われています。

●●●●●●●●●●●●●●



『なるほどホルモンバランスの影響か』

『確かに、今の緑川さんは性よりも生存に価値観を置いていますね』

『ええっと、解決法は…』




●●●●●●●●●●●●●●

○噛まなくするようには出来ないのか?

 コレは本能の問題ですので絶対的な解決法はありません。オッサンが突然に凶暴化しても、そういうものだと思っていてください、病気ではありません。オッサンは本来野生動物なので仕方ないことなのです。

●●●●●●●●●●●●●●



『だってさ』

『確かにオッサンがイライラしてるのは何時ものことだしな』

『じゃあスルーのほうこうで』


 緑川の怒りは無視しても問題ないと判断した3人は、特に彼の怒りには触れず、そのまま食事を与えることにした。

「怒るなよ。オッサン、飯食べるだろ?」

「今、食事の用意が出来たところですよ」

「食事?」


「ほいほい」

 そう言いながら横山が緑川の寝ている隣に食事を置く。

 緑川は横目でそれを見て。そして固まった。


「なんだこれ?」

「なんだ…て。食事だよ」

 檜山のその言葉に、何やら怪訝そうな表情の緑川。


「…で?飯は?」

「いや、だから、コレが…」

「あ…うん。その。めしっていうか…その…白飯だよ!」

「シロメシ?」

 そんなものはマニュアルに書いていなかったはずだと思い三人は首を捻った。

 その三人の様子を見て緑川はため息を吐いた。

「じゃあもうあれだ、ビールでいいや、ビールくれ。ビール」

「ビール?」

「そうだよ、冷蔵庫に入ってるだろ?」


 その緑川の発言に、3人は集まりマニュアルを読み返す。

『ビール飲みたいって言ってるぞ?』

『予定外の状況ですね?』

『ええっと、ちょっと待って?マニュアルによると…』


●●●●●●●●●●●●●●

○オッサンにアルコール類は厳禁

 急性アルコール中毒をひき起こす危険があるアルコール。

 オッサンが酒の誤飲によって死亡してしまう可能性もありますので絶対に近づけてはいけません。

●●●●●●●●●●●●●●



「アルコールダメ・絶対」

 緑川の方を向いて横山が言った。


「何故!?」


「オッサンもうチョット体を大切にしろよ!」

「アルコールはとっても危険なんですよ!」

「急性アルコール中毒になったらどうするの!?」

「お…おう」

 戸惑った様子で了承する緑川。

 そして彼はしばらく何かを考える素振りをすると、こう言った。

「えっと…今は食欲があんまりないから食事はいいや、棚の下にチョコッレートがあっただろそれでいいや」


 その言葉に再度三人はマニュアルを囲み話し合う。

『チョコだって』

『チョコなら与えてもいいんじゃないですか?』

『チョット待ってて…』


●●●●●●●●●●●●●●

○チョコレートを始めとしたお菓子もオッサンにはとても危険

 菓子類にはには多量の糖分が含まれているのでオッサンにはカロリーオバーの原因になってしまいます。

 特にチョコレートに含まれているテオブロミンという成分によってオッサンが中毒症状をひきおこすことがあります。

 美味しいからといって安易にオッサンにお菓子を与えるのは厳禁です。

●●●●●●●●●●●●●●


「チョコレートダメ・絶対」

 再度横山が緑川にそう言う。


「何故!?」


「オッサンもうチョット体を大切にしろよ!」

「チョコレートはとっても危険なんですよ!」

「中毒になったらどうするの!?」

「はいい?」

 3人の言葉に緑川は驚きの表情だ。


「じゃ…じゃあ、もう、牛乳で良いよ」


『牛乳…?』

『えっと、それは…?』

 檜山と海貝が横山の方を伺う。


「それもダメ」


●●●●●●●●●●●●●●

○人間用の牛乳にも注意

 オッサンに牛乳を与えるのもいけません。オッサンは牛乳に含まれる乳糖を上手く分解することが出来ず、消化不良による下痢が起こる可能性があります。

●●●●●●●●●●●●●●




「じゃあもうお茶!コーヒー!」



●●●●●●●●●●●●●●

○お茶やコーヒーもいけません

 お茶やコーヒー、紅茶はカフェインを含んでいます。カフェインには中毒物質メチルキサンチンが含まれていますのでオッサンには与えないほうが良いでしょう。

●●●●●●●●●●●●●●


「それもダメ」


「殺す気か!兵糧攻めか?」


「ち…違うって」

「そうですよ私らは貴方の健康を気遣って」

「オジサンのためなんだって」

「嘘をこけ!お前ら嫌がらせにきたんだろ?そうだろ?そうなんだろ?」

 緑川が怒鳴る。

 その声にはこれ以上ない程に怒気が込められていた。



 再度三人はマニュアルを囲む。

『なんか苛ついてるな?』

『ストレスですかね?』

『えっと?』


●●●●●●●●●●●●●●

○オッサンがストレスを感じないために

 オッサンは物を齧るのが大好きです。木片など、噛んで遊ぶおもちゃを与えて遊ばせてあげましょう。木を噛む事で前歯の不正咬合を予防すると同時にストレス発散になります。

●●●●●●●●●●●●●●


「木片で良かったら…」

 そう言って檜山が木片を差し出すが。


「ぶっ殺すぞてめえ!」

 緑川の怒りは収まらなかった。



 戸惑う3人。

『なんかかえってエキサイトしてるぞ?』

『木片が欲しい訳じゃないようですね?』

『えっと?そうなると考えられるのは?』


●●●●●●●●●●●●●●

○運動不足もストレスの原因

 おっさんの運動不足は肥満の原因だけではなく、ストレスの要因にもなってしまいます。

 オッサンは本来活発に動きまわり、沢山運動をする生き物です。

 オッサンとの共同生活では、オッサンの野性的な性質を忘れないで、しっかりと運動をさせてあげましょう

●●●●●●●●●●●●●●


「オッサン?」

「なんだ!」


「多分イライラしてるのは運動してないからだ」

「チゲーよ!」


「運動しようぜ!」

「殺す気か!」


「オッサン動かないのか?」

「見てわかれよ!!」

 檜山の運動の誘いに対して、緑川は少しも動かずにどなり声を返すばかりだった。




『なんかオッサン運動したがらないぞ?』

『そもそも全く動いてませんね?』

『運動をしない?』


●●●●●●●●●●●●●●

○オッサンが動かない

 まず慌てずによく観察してください。

 死んでいるかのように見えますが、よく観察するときちんと呼吸をしているのがわかります。オッサンが横たわったまま動かなくなっていたら、冬眠に入る合図かもしれません。

●●●●●●●●●●●●●●


『じゃあ冬眠なのか?』

『その準備段階と言ったところですかね?』

『でも待って、これ結構問題だよ?』



●●●●●●●●●●●●●●

○おっさんの冬眠は危険?

 自然界のおっさんとは違い、飼育下においては冬眠させるべきかは飼い主の判断に委ねられます。

 冬眠させるかどうかどちらが良いかに関しては意見が別れるところですが、冬眠は体にかかる負担も大きく、生命保持のための命がけの行為でもありますので、リスクが高くオッサンの冬眠を避ける人も多いようです。

●●●●●●●●●●●●●●



『マジで?』

『命がけってことは…死の危険もあるってことですか?」

『うん』

『そもそもオッサンが冬眠しちゃうと問題じゃない?じゃあこのまま行くとオッサンとは春まで会えなくなるってことだろ?』

『リゾフォルノンジャーの仕事に差し支えますね…』

『ええっと、オッサンに冬眠させたくない時は…』


●●●●●●●●●●●●●●

○冬眠したオッサンを起こす時

 餌をあまり食べないまま冬眠する等の冬眠に問題が有ると思われるときは、オッサンを起こしてあげたほうが良いでしょう。

 このさいに衝撃を与えたりして起こすのは厳禁です、ゆっくりやさしく温めてあげるとオッサンは目を覚まします。

●●●●●●●●●●●●●●


 

『つまり安静且つ暖かくすればいいんだな?』

『じゃあ動かさずに布団をかけるとか?』

『それだ!』


「オッサン、とりあえずソノママ安静にして、寝てた方がいい、そして体を冷やすと良くないぞ?」

 そう言って檜山は押入れから布団を取り出す。


「やっと解ってくれたか」

 緑川がうれしそうにそう言った。


「ホイ、布団」

「お…おう」

 緑川の体温を上げるために、檜山が寝ている彼に布団をかける。


「はい布団」

 そう言って海貝も布団をかける。

「え?あうん」


「これ、布団」

 そして横山も布団をかける。


「え?ちょ・・ちょ…ちょっと、ちょっとまて、ものには限度が…」

「暖かくしなくちゃ」

「健康第一」

「温度調節は大切」


 全てはおっさんが冬眠しないために。

 その為に3人は布団をかけていく。



 それもコレも目の前の可愛いオッサンの為の行動である。

 


 しかし、

 次の瞬間。





「あひん!!」

 そんな声が響いた。


 三人不思議な叫びを上げた緑川の方を見ると、彼は白目を剥いていた。

 完全に無言になり、ピクリとも動かなくなっている。


「お…おっさん?」

「緑川さん?」

「おじさん?」

 

 三人が声をかけるが返事は全くない。




『なんかオッサンがヤバ気だぞ?』

『こんな時はどうすればいいんですか?』

『えっと、えっと。こんな時は…あった!』



●●●●●●●●●●●●●●

○オッサンとの別れ

 当然のことですがオッサンにも寿命があります。どんなにしっかりと世話をしていても、いつかは必ずおオッサンとの別れの時が来ることを心に留めておきましょう。そして、大切に世話をしていたオッサンと別れの時がきたら、共に過ごした時間に感謝する気持ちをこめて、しっかりとご供養をしてあげましょう。

●●●●●●●●●●●●●●





◆◆◆


 次回予告


 現時点、リゾフォルノンジャーの中で最も強く、そして最も弱い緑川。

 その衰えた身体能力と、優れたヴァルマエネルギー操作技術。

 緑川。果たして彼は強い戦士なのか。それともただのダメなオッサンなのか。


・次回!ヴァルマ戦隊 リゾフォルノンジャー!

    『青色吐息…………』

           お楽しみに





●●●●●●●●●●●●●●


 おまけ オッサンの飼い方マニュアルより抜粋


●●●●●●●●●●●●●●

 

●おっさんとは?


 おっさんとは、おっさん目おっさん科に属する動物を指します。

 哺乳類の40%以上がこのおっさん目に属していると言われています。

 時におっさんは人獣共通感染症の感染源になる事があります。そのため、日本ではおっさん類を輸入する際に様々な規制が設けられています(感染症法)。

 また、現在販売されているおっさんは外国から輸入されたおっさんが殆どで、日本在来のおっさんはあまり多くありません。外国のおっさんが逃げてしまった場合は生態系のバランスに影響してしまうため、おっさんと暮らすためにはクリアしなければならない条件があります(外来生物法)。


●どんなおっさんがいるの?


・木の上で暮らすおっさん

 主に木の上で暮らす昼行性のおっさんです。

 灰色おっさん等もこの仲間に含まれます。草食性の強い雑食で、種子、果実、キノコ及び小動物を食べ、食べ物を住処に保存する性質があります。基本的に単独行動をとり、明確な縄張りを持つことは稀です。


・木の上と地上で暮らすおっさん

 木の上も地上も生活範囲のおっさんです。

 木の幹の洞や、掘った地面に巣を作ったりします。皆さんがよく知るシマおっさんも、このタイプです。

 秋にドングリを地中に埋めて貯蔵し、冬の間、優れた嗅覚でドングリを見つけて掘り出します。


・地上で暮らすおっさん

 地面に穴を掘って巣をつくり、集団で暮らすものが多いです。プレーリーおっさんやマーモッさんが代表的な種類で、草原などに多く生息しています。主に家族で生活しており、縄張りを持ちます。外敵が近付くと鳴き声をあげて仲間に知らせます。

 カリフォルニアおっさんは晩年期にガラガラヘビの毒に対する免疫を持ちます。


・滑空するおっさん

 主に木の上で暮らし、夜行性です。

 前足から後ろ足にかけて飛膜があり、これを広げて滑空します。

 


●おっさんは何処に居るの?

 

 おっさんはオーストラリアと南極大陸を除く世界各地に分布しています。

 木の上に住むおっさんは南アジアを中心に、

 地上で暮らすおっさんは北アメリカを中心に分布しています。



●おっさんと暮らす心構え


 ただおっさんが好きだと言う理由だけで一緒に暮らすのは双方のためになりません。

 オッサンは、野生動物です。ペットとして作られた生き物ではないということをしっかりと理解してください。

 時に凶暴になることも有ります。時になつかないおっさんもいます。

 おっさんと暮らすと言う事は本当に大変なことなのです。

 私達がおっさんの生活習慣に合わせて世話をする、それくらいの気持ちがないと一緒に暮らす事は出来ないでしょう。


 そして最後までおっさんの面倒見るという確固たる意志がないのであれば、おっさんと暮らすべきではありません。



◆◆◆◆用語解説


・アステルパーム

 砂糖の200倍くらい甘い。


・リスの飼い方マニュアル

 民民書房発行。定価2800円。一般的なリスの飼い方を図説入で書かれた本。前半はリスと触れ合う際の心構え。後半は実際にリスを飼う時の世話方法や使う道具等が具体的に書かれており。他にもリスの種類や病気、生息地域などの情報やリスの喜びそうな玩具の紹介など役に立つ情報満載。最後のページには都内のペット霊園の情報まである。初心者から上級者まで幅広く役に立つ本。


・緑川の部屋

 1DK。6畳の部屋と6畳分の大きさのダイニングキッチン。トイレ風呂付き。

 一人暮らしの貧乏人には結構条件の良い部屋だが。

 線路が近く音が五月蝿い。地区年数が古くかなり傷んでいる。日当たりが悪くジメジメしている。雨漏り有り、そのため天井がシミだらけ。しかもそれが人の顔に見える。何故か押入れの上部分に御札がびっしり貼ってある。謎の肩こりが起きやすい。等の問題がある。


・山椒

 山椒の若葉は「木の芽」と呼ばれ、独特の香りと辛味がある。


・イナゴ

 直翅目・バッタ亜目・イナゴ科に属する昆虫。


・カシューナッツ

 木の実


・リスの飼い方

 ちなみに此処に書かれているオッサンの飼い方はリスの飼い方を参考にしているが、部分的に歪曲した表現が使われ、また檜山達三人はその文章を拡大解釈しているので、実際のリスの飼い方とは微妙に違っている事をご留意頂きたい。

 実際にリスを飼う場合はしっかりとした専用のマニュアルをご用意ください。


・おっさん

 筆者が一番書きたかったおっさん話。

 正直、今までの話はこのマニュアル回を書くために作ったと言っても過言ではない。

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