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  インターミッション ゲルニックの秘密

 ゲルニッカーズ本部。

 近代的…と言うには少々殺風景な場所だった。

 周りの殆どをコンクリートに囲まれ、蛍光灯の機械的な光が周りを照らす。

 太陽光は差し込まず、観葉植物も殆ど無い。

 それもそのはず、ゲルニッカーズ本部は地下にあった。


 地下深くにあるゲルニッカーズ秘密基地。

 18年前に跡形もなく壊れたゲル一カーズの基地と同様。

 いや施設の規模としてはそれを凌駕していた。


 

「お疲れ様でした」

 そう言って入り口で数人の怪人がやうやうと礼をした。

「やあ。皆出迎えご苦労様」

 ゲルニック皇帝は明るい調子でそういった。

 ソレは、悪の組織のトップというにはあまりにも人間臭く、人好きのする明るさだった。


「あ、今日の戦闘の様子は録画してある?」

「ええ」

 そこに居た一人の怪人がそう返事をした。

 

「すぐに見れる?」

「現在編集をしていますのであと1時間ほどで見れるかと思います」

 その言葉にゲルニックの動きが止まった。


「編集に一時間?それって必要?」

 不思議そうにそう尋ねるゲルニック。

 

 そして、そのゲルニックの様子に、周りの怪人は戸惑いを感じた。

「いえ、なにぶん量が膨大ですので…」

 しどろもどろな様子で怪人がそう言うが、ゲルニックはその言葉を遮るようにして言った。

「だから?」

「え?」

「だから、膨大な編集をたった1時間でするのは大変だろ?編集は要らないよ。どうしても必要だと言うなら僕がやるから、とりあえずデータだけ渡してくれると嬉しいな?」

「は…はい…」

 戸惑った様子で、担当怪人がそう言った。

 そして大急ぎで記録映像を取りに行くべく、担当者は走ってその場から消え去る。

 その後姿にゲルニックは温かい視線をむけた。



「相変わらずですね」 

 そんな声をかけられて、ゲルニックが振り向くと、そこに白衣を着た怪人の姿があった


「…スドサイ博士か」

 スドサイ博士。

 ゲルニッカーズの科学部門最高責任者。

 数々の怪人の改造手術や兵器の開発を行う天才中の天才。

 世界最高レベルの頭脳の持ち主であり、そして同時に数少ない18年前のゲルニッカーズの生き残り。


「貴方は身内に対して腰がひくすぎる。もう少し偉そうにしていいと思いますよ?もう18年前とは違うのですから」

 スドサイ博士のその言葉にゲルニックは苦笑した。


「いやあ、コレばっかりはねえ、昔からの癖かな。それに、スドサイ博士こそ態々自ら動きまわる癖は相変わらずじゃないか。いいのかい?科学部門の最高責任者がこんな所で油売ってて」

「なに、若い奴らが優秀でして、私はもう隠居も当然ですよ」

 スドサイ博士が笑いながら言った。


「隠居か…」

 ゲルニックはその言葉に少し悲しい気持ちになった。

 隠居。コレは謙遜ではなくスドサイ博士は確かに隠居に近い。下のメンバーが優秀だからだ。

 言い換えればそれは、スドサイ博士自身は仕事が出来ないという烙印を押されたようなものだ。

 スドサイ博士は笑いながら言うが、隠居扱いされる事は彼にとって必ずしも喜ばしいことでは無いだろう。


 18年

 生まれたての赤坊も大人になるほどの時間。

 その時間は、嘗て絶対の天才であった彼を、隠居に追い込むほどの時間だったのだ。

 それは言い換えれば、ゲルニッカーズの技術が嘗てのそれより遥かに発達したという証明でもあるが、どうしてもそこに悲しさも感じてしまう。



「それで、どうでした?」

 スドサイ博士がそうゲルニックに聞いた。

 先程のフォルノンジャーとの戦いについて聞いているのだろう。

「そうだねえ。新メンバーはハッキリ言うと期待はずれ。18年前に比べて弱いの何のって…。でも一人、懐かしい顔があったよ…まあ顔って言ってもマスクで顔は解らなかったけど。嘗てのフォルノンジャーメンバー。フォルノグリーン…」

 皇帝は笑顔でそう言った。


 そして自分が笑顔で有ることに驚いた。

 笑うことじゃない。

 フォルノンジャー自体の復活はまだ良い。

 だがフォルノグリーンの存在は、ゲルニックとしてはあまり喜ばしいことでは無いはずだ。


 なにせ。

『僕は当時、あいつが特に嫌いだったはずなのに…』

 ゲルニックは心の中でそう言った。 


 フォルノグリーン。

 18年前のフォルノンジャーの中で最年少の男。


 実は当時、最強皇帝はこのフォルノグリーンが一番に嫌いだった。

 理由はとても単純で。それは。フォルノグリーンの年齢がゲルニックとほぼ同じだったからだ。

 それだけの共通点

 しかし、その共通点のせいで、どうしてもゲルニックは自分とフォルノグリーンを比較してしまう事が度々あった。


 年齢意外は全てが逆の存在。


 正義の味方。

 悪の総帥。

 当時フォルノンジャーで最も若く、皆に導いてもらっていたフォルノグリーン。

 若くしてゲルニッカーズという組織のトップとなり、皆を率いなくてはいけなかったゲルニック。 


 まるで自分の鏡のようなフォルノグリーン。

 ゲルニックは当時、表には出さなかったが、フォルノグリーンを見ては自分と相手を比較し、そしてその度に不快感を感じ、そしてグリーンを特に嫌っていたのだ。


 当時、フォルノンジャーの中で一番に嫌いだったグリーンの復活。

 それは本来ならばとても不愉快になる事実のはずだった。


 それでも。



 何故かその存在が嬉しかった。


『僕と同じ年齢が、未だ現役で頑張っているのが嬉しいのかな?』

 ゲルニックはそう自己完結した。


「確か今はリゾブラックって名乗ってたな。新しい組織名は『リゾ』かな?」

 リゾ。それが何を意味するのかは解らないし、組織名の一部なのか全体なのかも不明だ。ただ、再度フォルノンジャーを結成するにあたって名前の変更があったのは確かなようだ。


「リゾ?…リゾホスファチジン酸となにか関係があるのかもしれませんね」

 スドサイ博士がそう言った。

「いや、それは絶対にない」

 名前の由来は不明だが、少なくともリン脂質誘導体は関係ないだろうと皇帝は思った。

 


「しかし、皇帝。気になっていたことが有るのですが」

「なんだい、博士」

「ええ、何故あの時、奴らを倒さなかったのですか?」

 それは単純にチャンスが有るときにヒーローを倒すべきという話ではない。

 むしろ、あの場で新しいフォルノンジャーたちが皇帝と互角以上の戦いが出来たならば、スドサイ博士はこんな事を言わなかっただろう。


 彼がこんな言葉を発するのは逆にフォルノンジャーが弱かったからだ。ゲルニックは確かに新しいフォルノンジャーを期待はずれと言った。

 不甲斐ないヒーロー。それはゲルニッカーズに取って無価値な存在。いや、むしろ害悪だ。悪の組織として弱いヒーローを倒すことほど滑稽なものはない。

 絶対的な悪で有るためには、絶対的な強者である正義を倒さなくてはならない。それがゲルニッカーズの共通の理論だった。

 だからフォルノンジャーの不甲斐ないメンバーを生かしておく理由はない。

 むしろ足を引っ張りそうなメンバーが居るならば予め間引くべきだし、そして皇帝ゲルニックはそれを躊躇いはしないはず。

 あの場でフォルノグリーン…現リゾブラック以外は葬るべきだった。


 スドサイ博士はそう思ったのだが。


「ふふふ、スドサイ博士、わからないかい?」

「?」

 皇帝の言葉に首を傾げるスドサイ博士。


「見たまえ僕の足のガクガクぶりを」

「は?」

 スドサイ博士はその言葉に戸惑いながらも皇帝の言うとおり彼の足を見ると、確かにその足はプルプルと小刻みに震えていた。


「ごめん、チョット限界、肩貸して、もうヤバい、あのまま戦ってたら死んでた。フォルノグリーン…てかリゾブラック。18年前よりエネルギー使いこなせてるじゃん。18年前なら余裕で受け止めれてた攻撃を、今じゃギリギリで受け止めてた」

「えーと…」

 スドサイ博士は戸惑いつつも皇帝に肩を貸し、その体を支えた。


「スドサイ博士、あとでシップはって」

「…はい」



 嘗て最強と呼ばれた戦士フォルノンジャー。

 そして最強と呼ばれた怪人最強皇帝。


 この二人を襲う共通の敵。そして、二人が勝てない共通の敵。


 それは『老い』と言う名の恐ろしい敵だった。


◆◆◆ 用語解説


・リゾホスファチジン酸

 筆者もよく解らない物質。ニワトリ無精卵にちょっぴり含まれてるらしい。


・名前

 不思議とこういった戦隊物では、敵が組織名や技名を知っているパターンが多い。

 第一話から「おのれ!●●め!我らが組織に楯突くとは!」とかその怪人自体は必殺技を受けたことがないのに「フハハハコレで必殺●●は使えまい!」とか。

 悪の組織は正義の味方側の名前を間違えずに覚える。どうも悪の組織は名前に拘るようだ。おそらく水面下で情報収集がなされているのだろう。


・葬る

 戦隊物でメンバーが物語途中で消え去る事は屡々有る。単に移動等の理由であることも有るが、殉職で消えることもある。

 良くも悪くも実力主義の戦いの世界。例え正義の味方でも弱き者は早々に消えることになるのだ。


・スドサイ博士

 名前の由来はスドサイエンス。つまり疑似科学。

 数少ない旧ゲルニッカーズのメンバーの生き残り。

 怪人の改造手術を初めクローン兵の作成等、ゲルニッカーズの科学部門を統括していた。

 現在も肩書きこそ科学部門のトップだが、現在の科学部門は優秀な新メンバーがいるので、ほぼ隠居状態。

 昔から散歩や観察が好きで色々な所をウロウロする癖がある。

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