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第13話 復活のオッサンw

「此処が指定場所か」

 そこはきりたった崖のすぐ下だった。

 崖の周りは何もない草原。

 短い草が風に揺られていた。



「ここに後1時間もしないうちに此処に怪人が来るのか」

「あの…あのさ」

「いや、その…」

「えっと…」

 これから起きるであろう戦いを前に、心を落ちつかせる俺に対して、他の三人が何やら言いたそうに口をモゴモゴさせている。


「どうした?さっきから、モニモニと口を動かして、口内炎か?」

ビタミン取れ、ビタミン。

「いや、そうじゃなくてさ」

「あの…そのですね」

「オジサン、マジで戦うつもりなの?」

 

「?」

 言っている意味が解らない。

 戦うつもりか?

 当然じゃないか。


 そのために俺達は居るんだろ?



「いやさ、その、なんて言うか、アンタ、戦う前から満身創痍だって自覚している?」

 そう言いながらレッドが俺の体を指さした。 


 果し状が届いてから2日。

 時間にして48時間。

 長い時間だ。かいわれ大根なら発芽している。


 だが傷を癒すには少々短すぎる時間でもある。

 特に新陳代謝の衰えたオッサンの傷を癒すにはとても及ばない。


 ゲルニッカーズが指定してきた決闘当日。

 俺の体は相変わらずにボロボロだった。


「大丈夫、大丈夫だ」

「いや、見るからに大丈夫じゃないだろ、なんか、腰の曲がり方がおじいちゃんだぞ?」

 レッドがそう言いながら俺の腰を指さす。

 彼の言うとおり、俺の腰は現在90度近く曲がっている。伸ばすと痛いから自然と曲がってしまうのだ。

 だがおじいちゃんは言いすぎだ。


「首のコルセットも取れてないし」

 ブルーもそう言って俺の首を指さす。

 これもコルセットと思うから病的に見えるだけで、新手のファッションとして考えれば、まあアリだと思うし。大丈夫。きっと大丈夫だ。


「やっぱりオッサンには無理だって」

「その状態で戦うのは不可能ですよ」

「やっぱり帰ったほうがいいんじゃない?」

 皆がそういうが、一応俺にも責任というものがある。

 だいたい今回の戦いも、俺の一言で決定したような部分があるし。

 俺としても、皆を危険に晒しているという罪悪感もある。


「そう邪険にするな、俺は色々役に立つぞ?」

 気の利くオッサンとしてご近所でも評判になるほどの俺としては、少しでも皆の助けになればと思っているのだが。


「役に立つってったって、その体で何が出来るんだよ?」

「色々出来るって…ほら…リゾ睨みとか、リゾ囁きとか、リゾ口笛とか、リゾホーミーとか…」

「帰れ」

 にべもなくレッドがそう言い放った。


「しかし、俺だって…」

「悪いことは言いませんとりあえず待機していてください」 

 ブルーが心配そうにそう言い。


「でも…」

「正直居ても居なくてもそんなに変わらないし…」

 イエローがぶっちゃけた。


 まさかここまで邪険にされるとは思っていなかった。

「…はいはい、じゃあオジサンはリゾ体育座りであっちに座ってるとしますかね」

 腰を抑えながら俺はズリズリとその場を後にした。


 ちくしょーめあいつら。

 人を年寄り扱いしやがって。


 岩場の後ろ辺まで後退して、俺はそこに座る。

「絶対にゆるさ…あ痛たたたたた、はふん」

「大丈夫ですか?」

 すぐ近くにいた天地くんが心配そうに声をかけてくれた。

 指定された場所から少し離れた岩の影。

 指定場所から程よく離れた此処は戦闘の余波を受けにくい場所でありながら状況を観察しやすい場所でもある。

 予めこの場所に天地くんが待機していて、状況を観察することになっていたのだ。


「天地くん、湿布貼って」

「はいはい」

 そう言いながら天地くんはカバンからシップを取り出す。


 結局。

 俺の覚悟も無駄になってしまった。

 あいつらの成長に付き合うつもりだったが、それすら出来やしない。


 俺はお荷物だ。


「もうすぐ時間です」

 天地くんのその声に、俺は視線を指定場所へとうつした。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 どこから来たのか。

 その姿はいつの間にか存在した。


「やあこんにちは、新生フォルノンジャー諸君」

 そんな声と共に、現れた怪人。

 といってもそいつの容姿はあまり怪人らしくなく、どちらかというと人間に近かった。

 それこそ、今着ているマントと金色の鎧が無ければ普通の人間だと言われても信じるであろう容姿をしている。


 だが。そいつは怪人だ。間違いなく怪人なんだ。


「緑川さん、あれって…」

 その姿を見た天地くんの顔が驚愕に染まった。

 いや、おそらく俺の顔も同様だろう。


「マジかよ…」


 見間違いじゃないかと思ったが、それはあり得ない、

 見間違うはずがない。

 俺の視線の先にいるあの怪人。


 間違いない。

 間違いなく。



 ゲルニッカーズのトップ。


 

 「最強皇帝ゲルニック」



 それが堂々と立っていた。



「ちゃんと逃げずに来てくれたんだねえ」

 目の前の3人に向かってそいつは言った。

 静かな声色。

 落ち着いた物腰。

 まるで18年前の最終決戦の時と、全く同じ様子だった。


「生きていたのか…」

 確かにあいつの死を確認したわけじゃない。

 だが、瀕死の状態で崩れゆくゲルニッカーズ本部においてきたのだ。まさか生きているとは思わなかった。

 


「お前は…お前は皇帝ゲルニック!」

 レッドの叫びが聞こえた。

 彼らも目の前の怪人の正体には気がついている。なにせ過去の怪人に関する資料に載っていた姿と全く同じ姿が目の前にあるのだ。


「おや、僕の事を知っているのか。いやあ、嬉しいね18年も前の怪人をちゃんと知ってるなんて、新生フォルノンジャーは実に勉強家だなあ」

 三人が身構える。その動きから緊張が見てとれた。きっと目の前に居るそいつが過去の怪人の中で文字通りの最強で有ることを知っているからだ。

 

 最強皇帝ゲルニック。

 弱点・無し。

 あるいは弱点が有るのかもしれないが、戦闘中にそれが判ることは無かった。

 パワー・スピード・タフネス。全てにおいて全怪人の中のトップクラス。  

 おそらく資料には皇帝の強さがコレでもかと書かれていたはずだ。


「大丈夫ですかね?」

 天地くんの心配そうな声が聞こえた。


「…」

 俺は何も答えられなかった。

 天地くんの表情が更に険しくなるが、コレばかりはどうしようもない。

 俺だってまさかいきなり奴が現れると思わなかった。


 三戦目がいきなり最強皇帝って。

 順序を無視し過ぎている。

 もう馬鹿かと、アホかと。なんでトップが早々にやってきてるんだと小一時間は問い詰めたい。


「こりゃ良い、いきなり大ボスの登場かよ。アンタを倒せばつまりゲルニッカーズは潰れるってことだろ?」

 レッドがそんな強気の発言をする。

 その発言は正しい。皇帝ゲルニックは云わばゲルニッカーズの頭部。ゲルニッカーズを率いるあいつが倒れればゲルニッカーズは烏合の衆に成り下がる。それはゲルニッカーズの壊滅を意味する。

 だから本当なら皇帝ゲルニックはそう簡単に戦いの場に現れない。現れちゃいけないはずなんだ。

 だけど。今目の前には確かにゲルニックが存在している。


「いやはや、凄い自信だね。でも僕が君に倒されるなんて事はあり得なよ」

「ほざけ!」

 そう言いながらレッドのパンチがゲルニックに当たる。



 そして、そしてそのパンチによって。


「うわ!」

 ゲルニックは大きく 仰け反っていた。


「「「「「え?」」」」」

 レッド、ブルー、イエローの声が重なった。少し離れたところで俺と天地くんも驚きの声をあげていた。

 まさかこうも簡単に皇帝が仰け反るとは思ってもいなかったのだ。

 そして、驚いていたのは俺達だけではなく。


「驚いたな」

 皇帝も驚きの表情だった。

 最強と言われた怪人らしくない様子。


 だが、それは好機でもある。


「とう!」

「えあ!」

 続けざまにブルーの攻撃とイエローの攻撃が皇帝に炸裂する。 

 皇帝が驚いている間に畳み掛けるつもりなのだろう。

 

「嘘だろ!?」

 そう言いながら皇帝はその攻撃を防いだ。


 が、防ぐだけだった。

 反撃せず。ただ防御するのみ。

 つまり防戦一方だ。 



「…新フォルノンジャー。予想以上じゃないか!?」

 そう言いながらよろける皇帝。


 そのあまりにも不甲斐ない様子。

 

 リゾフォルノンジャー達は戸惑いながらも攻撃の手は休めない。

 レッドが再度パンチを繰り出す。

 皇帝はそれを受けて大きく後退した。


「そうか。この皇帝もまた。オッサンと同じなんだ!」

 レッドの叫びが聞こえた。

 俺と同じという言葉。どういう意味だ?


 その言葉を理解したのかブルーが叫ぶ。 

「なるほど!皇帝が強いというのはあくまで資料での話、18年も前の話。あの人が大きく衰えたように。この皇帝もまたこの18年で衰えているという事ですか!」

 事実かもしれないが本人が聞こえるところで衰えたとか言うべきじゃない。デリカシーを大切にね!


「勝てる!コレは勝てるわ!」

 イエローがそう叫んだ。

 実際俺達の視線の先ではリゾフォルノンジャーが圧倒的に優位に立っている。


「コレは…いけるんじゃないですか?」

 天地くんも俺の隣でそう言った。


 だけど。

 俺はそうも楽観的になれなかった。

 なぜなら、俺は目の前のその戦いに、違和感を感じていた。



「とう!」

 レッドの攻撃をギリギリでかわすゲルニック。


「喰らえ!」

 ブルーの攻撃を受けるゲルニック。


「せい!」

 イエローの攻撃が頭にヒットするゲルニック。

 

「これは予想以上!予想以上…」

 フォルノンジャーの攻撃を防ぎながら皇帝はそう叫ぶ。


 嘗ての最強皇帝は然程強くない。

 レッドも

 ブルーも

 イエローもそう思ったことだろう。


 皇帝の次の一言を聞く瞬間まで。

 

「予想以上に……………弱い!」

「え?」

 次の瞬間に、レッドの体が吹き飛んだ。

 レッドが錐揉みしながら崖へとぶつかる。


「「「!!!」」」

 皆が驚きの表情だった。


 しかし、その驚きも一瞬。次の瞬間にはブルーが皇帝に蹴りかかる。

 素晴らしい状況判断だ。仲間が倒れた動揺を一瞬で振り切っている。

 だがそんなブルーの一撃も、皇帝は片手で簡単に掴んでしまう。


「なんだコレは…戦いの前に名乗りもしない。口上も上げない。連携も上手くないし、そもそも弱い。こんな物か新フォルノンジャー。ハッキリ言って驚愕だ。驚きだ。嘘と思いたくなるほどにひどすぎる、予想以上に酷すぎる!」

 そう言いながら皇帝はブルーをそのまま投げ飛ばした。

 そして続けざまに繰り出されるイエローの回し蹴りも。

 左足で安々とカウンターを繰り出し防いでしまった。 

 最強皇帝の蹴りをもろに腹に食らったイエローはそのまま崩れるように倒れた。


「どうした?そんなものか!!先代はこんな攻撃、笑いながら避けていたぞ」

 笑いながら避けては居ねえよ。必死だったよ。

 しかし。やはりあいつ、ワザと皆の攻撃を受けていたな。


「やはりこうなったか」

 確かに18年という歳月で皇帝ゲルニックは衰えたのかもしれない。当時感じた、溢れんばかりの威圧感は今では殆ど感じなくなっている。

 しかし、多少衰えたくらいでも、あの皇帝は十分すぎる程に強い。


「先代はもっと強かったぞ!コレじゃ!コレじゃ改悪じゃないか、どうした、君たちはそれでもフォルノンジャーか!!!」

 大声で皇帝ゲルニックが叫ぶ。

 その叫びを浴びせられた3人は地面に倒れ、状況は絶望的だった。


「やはり先代は超えられないのか…」

 ボソリとそう聞こえた。

 俺の隣。天地くんがそう言ったのだ。


「天地君、勘違いしてる」

 天地くんだけじゃない。皇帝ゲルニックも完全に間違えている。


「え?」

「あいつらは決して出来が悪いわけじゃない。むしろ優秀だ。正直な話、あいつら本当に先代よりも強いよ」

「でも実際こうして皆倒れています。それに昔のメンバーに比べて数値が…」

 ああ、そういうことか。その言葉で天地くんの勘違いの根拠が解った。

 おそらく天地くんは嘗てのフォルノンジャーの資料に比べて今のメンバーの能力が低いと思っているのだ。実際、数値で見ればそのとおりかもしれない。

 だが、その比較は適切ではない。


「そりゃあ、アレだろ?フォルノンジャーの記録だろ?でもその記録にある能力測定はフォルノンジャー結成からしばらくしてからだ。結成前のデータは多分資料に無いよ。俺達の実力…結成前はひどいもんだぜ?俺なんて懸垂1回しか出来てなかった。もう、完全に軟弱な坊やだったもん」

 嘗てのフォルノンジャーの初戦なんて、あのキメラニアってやつと戦った時よりも無様だったんだぜ?

 レッドは途中で気絶、ブルーは崖から落ちて気絶。俺はおしりを噛まれて気絶。イエローとホワイトの機転でなんとか勝つことが出来たけれど辛勝もいい所。

 それに比べれば。

「あいつら、素質は凄いよ。言ったろ?俺なんかよりよっぽど将来有望だって。あれは嘘じゃないよ。あいつらは昔のフォルノンジャー以上の潜在能力と、心を持っている。そしてなにより…」

 そこまで言いかけた時。

 

「おわああああああああ!!!」

 そんな声が聞こえた。


 レッドの声だ。

 いつの間にか起き上がったレッドが皇帝に殴りかかっていた。 

 不意打ち気味の攻撃は見事に皇帝の無防備な体に当たり、皇帝の体は吹き飛び崖にぶつかった。

 砂煙が舞い上がり、皇帝の姿が隠れた。


 これだ。

 これが一番の才能。

 不屈の精神だ。何度倒れても起き上がれる根性。

 俺がなくしてしまった、ヒーローに一番大切なものを、奴らはすでに持っている。


 ただ、悲しいかな。

 現時点では実力が伴っていない。

「やったか!」

 レッドが叫んだ。


 絶対やってない。

 おまえ、そういう台詞はやめろよ。「やったか!」なんて、完全に死亡フラグか負け犬フラグだぞ?

 案の定。皇帝は悠々と立ち上がり、余裕の表情を見せた。


「今の攻撃もまだまだ、勢いは良くても力が足りない」

 ゲルニックは平然とそう言った。



 だが。ソレは間違いだ。

 

 

 あいつらに足りないのは力じゃない。

 そんな単純なものじゃない。

 

 いまのフォルノンジャーに足りないのはただひとつ。

 経験だ。


 仕方ない。

 俺は立ち上がり、皆が戦っている場所へと向かおうとした。

 

「みど…ブラック?」

 天地くんが目を見開いた。


「行ってくる」

「行ってくるって…え?」

「仲間がピンチだからな。とりあえず助けに行かないと」

「勝算は有るんですか?」

 有るはずがない。


 相手は最強皇帝だ。

 嘗て俺達が束になってやっとこさ倒せた相手だそ。

 それに比べて俺は一人のオッサンだ。そもそも、レッドとの練習試合にすら勝てないのだ。

 そんな俺が奴に勝つ?


 まあ、むりだろう。

 だが。


「勝算は無い。無いけれど。まあ、俺も一応はその、なんだ…ヒーローだからな」

 自分で言いながら、らしくないと思った。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 コルセットを外した首が悲鳴を上げている。

 腰も悲鳴を上げている。

 

 その悲鳴を無視し、俺は叫ぶ。


「体の不調を押し殺し。仲間のピンチに駆けつける。漆黒の炎!リゾブラック、ただ今参上!」


「オッサン?」

「ブラック?」

「オジサン?」

 驚いた様子の三人。


「おや?新手かな?」

 笑いながらそう言う最強皇帝。



 俺はその憎たらしい笑い顔に向かって飛び蹴りを放った。

 

 流れるような動きではあるが、その速さは遅く、威力も然程強そうには見えない。

 レッドの蹴りに比べたらそれこそ蚊が止まるような蹴り。

 最強皇帝は笑いながら俺の攻撃を防いだ。



 しかし。

「ぬぐ!」

 防御の姿勢のまま皇帝は吹き飛んだ。

 


「「「え?」」」

 レッド、ブルー、イエローの驚きの声が聞こえた。


 土煙を上げながら地面に倒れる最強皇帝。

「こんなオッサンの蹴りで倒れるとか。年食ったな!最強皇帝!」 

 俺の叫びを受けながら最強皇帝は立ち上がる。


「…このキックの力。そしてその声。聞き覚えが有るよ、そうか、君か、フォルノグリーン」

 どうやら今の蹴りだけで俺の正体に気が付いたらしい。相変わらず観察力の鋭い奴だ。


「今はリゾブラックだ」

「そうか、君は再度フォルノンジャーになったんだね」

 最強皇帝は何処か嬉しそうだった。


「不本意ながらな…な!」

 そう言いながら俺のパンチが最強皇帝の体に当たる。


「…」

 皇帝がそれを両腕で防御する。しかし威力を殺しきれないのか皇帝の体はそのままズルズルと後ろへと動いた。


「お前も衰えたなあ」

 昔の皇帝ならばこんな攻撃笑いながらいなしていたのに。両手で防ぐあたり、相当に衰えている。


「お互い様さ。君のキック攻撃も驚くほどに遅くなってるじゃないか」

 それは仕方ない。なにせ身体能力的にはメンバーでも最低なんだから。


 だが。

 だが、それでも。


「ヴァルマエネルギーの扱いでは一番のベテランだぜ?」

 俺はヴァルマエネルギーを右手に集中させて再度パンチを繰り出す。


「は!」

 同じように皇帝もパンチを繰り出し、ぶつかった俺達の拳からバチバチと紫電が舞い上がった。

 弾かれるように後方に飛ばされる俺と皇帝。


 俺達はすぐに体制と整えると再度ぶつかる。

 そしてぶつかる俺達の間に光が走り、衝撃に俺達の体はまた弾かれた。


「これが、これがフォルノンジャーの戦い方…」

 レッドの声が聞こえた。

 馬鹿が。こんなものフォルノンジャーの戦いじゃない。フォルノンジャーの戦いはもっと激しいぞ?

 それに比べたらこんなものお遊戯だ。ただぶつかるだけなんだから。


「懐かしいね、このぶつかり合うエネルギー。久しく感じていなかった感覚だ、良いね。コレでこそフォルノンジャーだ」

「懐古主義は見苦しいぜ」

「全くだ」

 そんな軽口を交わしながらもお互いに攻撃をぶつけ合う。


 ぶつかり合うエネルギー。

 コレだ。結局の所、このヴァルマエネルギーの扱いが怪人との戦いでは一番大切だったりする。

 使ってる俺自身よく解らない謎エネルギー。銃も爆弾も効果が無い怪人に唯一対抗できる力。

 この扱いはどれだけ練習を繰り返しても上達しない。練習法さえ不明の力。 

 この力を上達させるにはただひとつ。経験を積むしか方法が無い。少なくとも俺はそうだった。



 衝撃が俺の体を襲い、弾き飛ばされた。


 さっきからぶつかり合っては弾き飛ばされるのくりかえしだ。

 まるで千日手。埒が明かない。


「18年前の戦いを思い出すよ、覚えてるかな?僕が最後に言ったこと…」

「…はん。悪いが一昨日食った晩飯の内容も忘れてるくらいだ、18年も前のことなんて覚えているかよ」

 そう言いながら俺は足にヴァルマエネルギーを集中させた。


 このままズルズルと消耗戦をするつもりは無い。

 ここは一撃に力を集中させて決めることにする。


 さっきまでのぶつかり合いの時とは違う。俺の全身全霊のエネルギーを足に込める。


 バチバチと紫電が舞い上がった。


「フォルノグリーン…じゃなかった、リゾブラックスナイプキック!!!」

 緑色の光を纏った俺の蹴りが、最強皇帝に突き刺さり。

 

 ドン!!!! 

 

 最強皇帝は大きく吹き飛ばされ、岩にぶつかり大きな音と土煙を舞い上げた。


「やったか!」

 そんなレッドの叫びが聞こえた。その台詞やめろ負け犬フラグだ。


 最強皇帝が吹き飛んだ方向を見るが、舞い上がった土煙が晴れると、そこには先ほどとさほど変わらない様子の最強皇帝が立っていた。

「ははは。さすがだな。威力はむしろ18年前より上がってるんじゃないか?」

 皇帝は余裕の表情で笑っている。


「そんな…」

「無傷?」

「嘘…」

 絶望にも思えるような声を上げる三人。


「相変わらず馬鹿みたいに硬い奴だ」

 そして俺はさも当然とでも言うふうにそう口にした。


 最強皇帝。

 その名の通り最強の防御力を誇る存在。


「どうする?続けるか?とりあえず、俺も年を食って弱くなったけれど、それはお互い様だし、命をかければお前を道連れにすることくらいなら出来ると思うぜ?」

 ニヤリと笑いながら俺は言った。

 

「いいね、その覚悟、18年前と変わらない、如何にも正義の台詞」

 皇帝は楽しそうに笑う。

 だがその目は笑っていない。


 まるで猛禽類のような、獲物を狙うような目。緊張が場を支配した。



 

 そして。




 皇帝はそのまま俺達に背を向ける。

「でも今日はもう帰ることにするよ。今日の目的は君たちの実力を知るためだからね」

「そうかい」

 皇帝から視線を外さず俺はそういった。


「ハッキリ言って期待はずれだったけれど、そこはまあ未来に期待かな?君等にはもっともっと強くなってもらわないと、それこそ先代を超える程にね。フォルノンジャーがアッサリと負けたら。僕らも困るからね。君たちが強くないと、それを倒した僕らの実力が疑われる」

 その言葉を残して、皇帝はそのまま俺達の前から姿を消した。



◆◇◆◇◆◇◆◇


 静けさだけが辺に残った。


 皇帝が消えていった方向に視線を向けたまま仁王立ちする俺。


「お…オッサン」

 よろよろとレッドが立ち上がり、俺に寄ってきた。


 だが、俺は少しも動かず、視線すら彼に向けることは無かった。

「…」

 恐ろしい敵だった。

 いや、ゲルニックだけじゃない。これからも恐ろしい敵が沢山出てくるのだろう。

 俺はそいつらに勝つことは出来ない。成長の伸びしろが無い俺はコレ以上強くなることはないだろう。

 

 

 もし勝てる奴が居るとしたら。それは此処に居るこの3人の若者しか居ないんだ。



「おい、お前ら、言っておくことがある」

 俺は姿勢を変えずに3人に言う。



 これからの未来を担うリゾフォルノンジャーに。

 どうしても言わなくてはいけないことがある。




「なんだ?」

 レッドが真剣な顔で聞き返す。

 他の二人も真剣な表情でこちらを見ている。



 俺が今言わなくちゃいけないこと。

 それは。



「…おぶってくれ」

「「「は?」」」


「さっきのケリで、腰が完全に逝った。首もだ。歩くことは愚か、少しも動けない」

 すこし動くだけで骨に激痛が来る。


「「「え…」」」

「やばかった、マジでヤバかった、あそこで最強皇帝が、戦うを選択してたら、俺ら死んでた」

 とてつもないピンチに、俺は今にも震えそうになるが、震えたら骨に激痛が走るからそれすらできはしない。

 というか、もう少しだって体を動かせない、仁王立ちの状態から視線すら動かせないのだ。



 結局の所。

 本当に恐ろしい敵と言うのは。


 ゲルニッカーズでも最強皇帝ゲルニックでもない。



 この体に押し寄せる。『老い』という敵だった。




◆◆◆


 次回予告


 リゾフォルノンジャーの中でヴァルマエネルギーを一番に使いこなせるブラック。

 他のメンバーは改めてブラックの強さを知り、彼を見直したのだった。

 そんな中、天地司令から新たな作戦が3人に課せられる。


・次回!ヴァルマ戦隊 リゾフォルノンジャー!

  『ようこそオッサンの巣箱へ!』

            お楽しみに!




◆◆◆◆用語解説



・リゾ睨み

 リゾブラック108の技の一つ

 相手を睨みつける事で、相手の意識を自分に集中させるという囮技の一つ。


・リゾ囁き

 リゾブラック108の技の一つ。

 「お前んち今燃えてんぞ?」「お前のパソコンにスパムメールを送った」「お前の母ちゃんスリジャヤワルダナプラコッテ」等、相手を不安にさせる事を囁く事で相手の戦意を挫く技。 


・リゾ口笛

 リゾブラック108の技の一つ。

 口笛を使い相手を囃し立て、相手を怒らせる挑発の技。


・リゾホーミー

 リゾブラック108の技の一つ。

 ホーミーとは喉歌の一種で。喉から笛ののような音を発生させること、あるいはその技法である。

 この喉から発せられる奇跡的な音に、相手を驚愕させることが出来る技。


・リゾ体育座

 リゾブラック108の技の1つ。

 まるで風邪をひいた日のプールの授業のように、悲しそうに、そしてアンニュイに座る技である。

 そのあまりの悲壮感に、周りの敵は攻撃を仕掛けることが出来ない。


・負け犬フラグ

 噛ませ犬キャラや負け犬キャラ等がよく使う台詞や行動。

 「そろそろ俺の出番か」「遊びは終わりだ!」「狼牙風風拳」等が有名。


・ヴァルマエネルギー

 現時点でも謎が多いエネルギー。

 フォルノンジャーの力の源。

 ヴァルマエネルギーの宿った攻撃は現代兵器の通じない怪人の体にもダメージを与える事が出来る。

 何故怪人に現代兵器が通用しないのか、何故ヴァルまエネルギーが宿ると攻撃が通じるのかは未だに謎である。

 またその扱い方も不明で練習法も確立されておらず、使いこなすには経験を積むしか無い。


・リゾスナイプキック

 リゾブラック108の技の一つ。

 嘗てフォルノグリーンが得意としていた技、フォルノグリーンスナイプキックを発展させたもの。

 飛び蹴りをする足の踵より先の部分にヴァルマエネルギーを集中させることで、強力な破壊力を生み出す。

 嘗てのフォルノグリーンスナイプキックより技の切れもスピードも衰えているが、足に集中させるヴァルマエネルギーの総量は少し増えており、破壊力自体はちょっぴり上昇している。


・復活のオッサンw

 このタイトルはオッサン(笑)ではなく、緑川の他に、皇帝ゲルニックというもう一人のオッサンも復活したというオッサン(ダブル)の略である。


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