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第12話 復活のオッサン


 リゾフォルノンジャーと怪人との二戦目はじつにあっさりと終了した。

 俺が怪人をトラックで轢き殺して終わりだ。


 なんだかヒーローの戦い方として完全に間違っているような気もするが、俺は文字通り怪人と正面からぶつかった結果。

 決して卑怯な事はしていないと胸を張れる。


 しかし後悔はしている。


「やっちまった」

 後悔の言葉が俺の口から漏れる。 

 後悔というのは後でするから後悔と言う。

 今正に俺は先にやってしまったことに対する後悔の念を感じている所だった。

 そう。

 やっちまったのだ。

 具体的に言うと。



 首と腰を。


「いてててて」

 少し動くだけでも痛い。

 交通事故を起こした時に車の中がどうなるかをもっとよく考えるべきだった。

 車を壊すことと怪人を轢くこと夢中になって俺の体にかかる衝撃を予想していなかった。

 結果がこのザマ。俺の首と腰には滑稽なコルセットが装備されている。


 しかも俺が満身創痍だっていうのに、結局、軽トラは無傷だった。


 もう、我が目を疑ったね。


 あの軽トラ丈夫過ぎだろ?

 あれだけの衝撃で傷ひとつ無いってオカシイだろ?中に入ってた俺がこんなになってるっていうのに。

 ガラスにヒビすらすら入っていなかった。軽トラってあんなに頑丈な車だったっけ?


「あいててて」

「大丈夫ですか?」

 痛がる俺に対して、目の前に居た天地くんが心配そうな声を掛けてきた。


「大丈夫じゃない。身体的にと言うより特に医療費的に大丈夫じゃない。もらった見舞金だとギリギリ足が出る、これ労災おりない?」

「おりません」

 とても良い笑顔で言われてしまった。

「そこんとこ、なんとかならないか?俺、今月ピンチやねんで?」

 労働組合を結成するぞ?


「いや、僕としても緑川さんには医療費をお支払いしたいと思うんですよ?でも正直な話、財政難でして、イエローの乗り物の修理のために補正予算が決まったばっかりなんです。もう少し予算を切り詰めないとマズイ状況でして…」

 申し訳なさそうに天地くんがそう言う。


 そうなのだ。


 俺の軽トラは無傷だったのに、何故か荷台のトラクターは大破した。

 結局キ印の乗り物は新しく作ることになったのだ。


 ただ、物を作ると言う事は金がかかると言う事でもなる。そして金は何もないところから現れるわけではない。特に乗り物関係の予算は既に使い尽くしていたらしく、それ即ち新しく乗り物を作るには別の所の予算を流用すると言う事で…。

 更にはその原因の一端が俺にあるともなれば、俺もコレ以上強く金銭の要求も出来ない。


「財政難め」

 俺個人だけで無く、フォルノンジャー全員に対してまでも牙を剥くとは。

 ゲルニッカー以上に凶悪な敵である。


「いや…なんか、如何にも被害者的な事を言っているけれど、大体オッサンの怪我は自業自得だろ?」

 俺の隣でナポリタンを啜っていた赤坊がそういった。


「自業自得ではない、コレは不幸な事故の結果だ」

 つまり俺は事故の被害者なのだぞ?

 もっと労れ。


「嘘こけ。完全に狙ってただろ」

「完全に怪人にジャストミートしてましたもんね」


 完全に先の事故が俺の故意であると疑ってかかる赤坊と青瓢箪。

 場所を弁えろ。

 天地くんの目の前だぞ?

 タダでさえ予算の事で苦しんでいる彼の前で、軽トラを壊すべく怪人に突っ込みましたなんてバレてみろ。

 あれが過失ではなく故意ともなれば、トラクター大破の責任は全てオレに掛かってくるだろうが。トラクターの弁償なんて話になってみろ。俺は首が回らなくなるぞ?まあ、実際今は物理的に回らないけれど。


「えー。私が故意にそのような事をしたと、そのような事実は確認されておりません」

 とりあえず俺はそんな政治家的な答弁をする。


「なあ、横山正直な所どうなの?あれ、オッサンの故意だろ?」

「!?」

 俺の言動を無視して赤坊が突然キ印に訪ねたことで俺は少し焦った。

 あの時、キ印は俺の横で俺の台詞を聞いている。

 彼女が証言すれば俺の「軽トラ買い替え大作戦」の全貌がバレてしまうと危惧したが…。


「…」

 キ印は何も言わなかった。


「なぜか普段饒舌な横山がこの件に関しては完全に黙秘。オッサン一体横山に何をした」

「し…しらねーよ」


 多分、後ろめたいんだろ?

 自分のトラクターはあの事故で全壊して、代わりの乗り物に乗ることになったのだが、俺の軽トラは無傷。

 別に彼女が悪いわけではないが、自分だけ別の乗り物に乗れる事が何処か後ろめたいんだと思う。


 そしてさらに言うならば、何故か彼女は無傷。満身創痍の俺に哀れみを感じているのかもしれない。

 っていうかトラックもコイツも無事って事は俺が脆いだけか?俺がミスターガラスなのか?


「…ッチ!」

「そして何故か横山は俺らの方を見て舌打ちを?」

「横山さん?なぜそんなにもヤサグレて?」

 そりゃ当然だ。このリア充共め。


 俺のトラックは無傷。

 そしてイエローの乗り物は交換が決まったとは言え結局スクーターになることになった。トラクターよりはマシとは言えやっぱりヒーロー的には微妙な乗り物。

 お前らのように格好良い乗り物に乗る輩は敵だ。


「そもそもだ、あの不幸な事故によって怪人が倒せたのだら結果オーライじゃないか。どんな勝ち方だろうが勝てば良かろうもんじゃねーか?」

「その発言ヒーロー的にギリギリアウトだろ」

「ヒーローの勝ち方として轢き殺すと言うのは『無し』ですね」

 

 二人のそんな言葉に俺は少しイラッとした。


「怪人倒してない癖に言いたい放題言うなよ。現在の所、2回戦って2回とも怪人を倒したのは俺とキ印のペアだろ?お前ら何もしてないくせに文句ばっかり言うんじゃねーよ」

 

「ぬぐ…」

「…」

 赤坊と青瓢箪は言葉をつまらせる。

 当然だ。こいつら自身理解してるのだ。

 最初の怪人は俺が作ったカレーパンをイエローが怪人に食べさせる事で勝利できた。

 次の怪人も、俺とイエローが乗っているトラックをぶつけることで勝利できた。

 結局、赤と青のコンビは現状全く役にたっていない。


「だからな、つまりはだ、敬え、俺を、もっと」

 もうチョット褒めてもバチは当たらないと思うよ?

 むしろ、俺は褒められて伸びるタイプのオッサンだよ?伸びしろはもう殆どないけど。


「んなこと言ってオッサン訓練で一度も俺に勝てて無いじゃないか!」

「というか誰にも勝ててないですよね」

 な…何を突然言い出すんだこいつらは。


「おま、訓練は今の話に関係ないだろ」

「いやあるね。結局の所オッサン、実力的には俺らの中で最弱じゃねーか」

「実際、怪人を倒したのもカレーパンと軽トラであって、貴方では無いですし」

 いや確かに、俺は訓練の模擬戦じゃ何時もこいつらに負けてる。というか年齢差からしてそれは当然なのだが。


「でも最弱は言いすぎだろ」

「いや、普通に俺らの中で最弱じゃん」

「腕相撲で横山さんに負けたときは僕らも目を疑いましたよ」

「始まってから勝利余裕でした」


「チゲーんだって。あれは、なんだ。あれだ。あの時は体調が悪かったんだ」

 マジで、マジで。朝からなんか首筋がピリピリしてたんだって。あとお腹も少しゴロゴロだったし。

 

「すぐにバテるし」

「体力ないし」

 そりゃオマエ、オッサンの持久力の無さは今に始まったことじゃ無いだろ。

 

「すぐ怪我するし」

「たまに筋肉痛になるし」

 そりゃ仕方ねーよ。オッサンはデリケートなんです。


「大体練習だってすぐに遅刻するし」

「というか来ないことすらあるし」

 仕事があるから。仕事があるからね。人手が足りないときは駆り出されるの。

 日雇いとはいえ、人付き合いってものがあるから、誘われたら無碍には断れないの。

 

「髪ボサボサだし」

「ヒゲは剃らないし」

「口臭いし」

 ちょっとキ印!?

 あんたこっち側の味方じゃ無かったの!?

 なに赤と青に混ざって俺を罵倒してんの?





「はいストップ。ストップです」

 天地くんの声が響いた。



「皆さん、今はケンカをしている状況ではありませんよ。今回皆さんに集まっていただいたのは重要な会議をするためなんですから」

「重要な会議?」

 今日、今こうして俺達がこの喫茶溶鉱炉に集まっているのは純粋に彼に呼び出されたからだ。



「珍しいと言うか、異様と言うか。ちょっと異常な事態になりました」

「「「?」」」

 彼は一枚の封筒を取り出し、それを俺達の前に置いた。

「果たし状がきたんです」

「は?果たし状?」

「果たし状ってアレですか?あの決闘とかの時に相手に送ったりする…」

「また時代錯誤な」

 たしかに時代錯誤で最近では見ない果し状だが、事実として今オレたちの目の前には『果し状』と描かれた封筒が存在していた。


「それがゲルニッカーズから送られて来まして…」

「ゲルニッカーズから!?」

「そんな、学生の喧嘩じゃあるまいに。果たし状なんて…」


「しかし事実としてこうして来ているんですよ」

 彼の言うとおり、果たし状の下部分にはしっかりと『ゲルニッカーズ(悪)』と書かれている。

 

「どれどれ…うわ達筆」

「今時筆の手書きですか?」

「なんて書いてあるのか読めないよ」

 赤坊がその中身を開くと、底には墨で書かれた文字がつらつらと書き連ねられていた。

 実に達筆で素晴らしい文字だが、達筆すぎてなんて書いてあるか読めない。


「こう書いて有ります。

『拝啓 親愛なるフォルノンジャーの皆様。暑い日が続きますがいかがお過ごしでしょうか。  

 さて、このたびはめでたくフォルノンジャーの再結成の由、心よりお祝い申し上げます。

 昨今の厳しい経済環境の中、いよいよ再結成が実現されましたのは、ひとえに、皆様様の正義の心と、日頃のご努力のたまものであると、心より敬服いたしております。

 我々、悪の組織ゲルニッカーズもまた、先日再結成した事は既にお聞き及びのことかと思います。既にキメラニアとドセキレイを倒されたとのこと。

 さて、次の怪人との戦いですが、こちらが指定する場所にて正々堂々と戦いませんか?

 ゲルニッカーズの代表と、新生フォルノンジャーとの戦いです。

 もし了承の際には以下に指定する日時に同封の地図に書かれた場所へと来てくださいますよう。

 戦闘員一同心よりお待ちしております。  敬具 』

 ……………と、書かれています」



「「「…」」」

 一同言葉に詰まった。

 悪の組織が果し状を送ってくるなんて状態に戸惑っているのだ。


「イタズラの類じゃないのか?」

 赤坊がそう言った。


「其の可能性は当然考えたんですが、我々とゲルニッカーズしか知らないような内容のことも書かれてまして、単なるイタズラとも思えないんです」

 確かに、フォルノンジャーの復活やゲルニッカーズの存在はあまり一般には知られていない。

 ましてや先に戦った怪人、キメラニアとドセキレイの名前などはそれこそ関係者しか知らない事だ。


「罠じゃないんですか?」

「こっちの混乱を誘ってるとかかも?」

 一同が訝しむ。

 当然だ。悪の組織が正々堂々と果し状で戦いを挑むなんてオカシイと思える。


 思えるのだが。



「あり得ることでもある」

 俺のその言葉に他のメンバーが不思議そうに俺の方を見た。


「確かに罠の可能性もゼロじゃない。しかし、もし復活したゲルニッカーズが、嘗てのそれと同じ組織であるならば。多分そこに何の裏も無いんだろう。純粋に俺達リゾフォルノンジャーと戦おうという挑戦状以外の何物でもないんだろうよ」

「???どういうことだ??」

 赤坊が不思議そうにそう聞いた。


「ゲルニッカーズはな、意外と正々堂々と戦うんだ」

「え?」


 キ印が不思議そうな声を出したが、赤坊と青瓢箪は何か思い当たる節でもあるのか、考え込み始めた。


「確かに倫理に外れたことはする。悪の組織だ。人質を取ったり、罠を用意したり、そういったことは当然のようにする。でも一方で妙に律儀に俺達と正面からぶつかる。人質は俺達をおびき寄せるため、罠はせいぜい俺達を弱らせる程度。結局最終的に俺達とは肉弾戦で戦うんだ」

「…そうなの?」

 キ印がそう聞いてきた。


 俺はコーヒーを一口飲み、そして過去を回想した。


 嘗て戦った怪人たち。その強さよりも恐ろしいのは倫理観だ。


 倫理や、良心を無視した怪人の行動の数々。出荷直前の煙草に毒を仕込み喫煙家を無差別に大量虐殺したり。発電所を破壊し、電気の供給をストップさせたり。ダムを破壊したり、小学校を生徒ごと爆破したりもした。


 悪。

 正しくあいつらは悪だった。


 だが、何故か戦いに関してだけは何処かフェアだった。

 悪には悪なりの矜持があるからだろうと俺は解釈しているが、それだって直接確認をとったわけじゃなく。何故あいつらが戦いに関しては正々堂々としているのかは結局知らない。でも戦う時だけは正面からぶつかってきたのは事実だ。


「少なくとも18年前に戦ったゲルニッカーズはそうだった」



「たしかに、正々堂々としていたような…」

「戦いに価値を見出している風ではありましたね…」

 何か思い当たる節でもあるのか赤坊と青瓢箪が頷いていた。


「でもまあ、これはあくまで俺の考えだしな。そもそもこれは18年前の話だ。ゲルニッカーズの考えが昔と変わっていないという保証は何処にもない。今回の件が罠である可能性も十分に考えられるがな」

 俺はそう言ってコーヒーを飲み尽くした。


「確かに、そのとおりですね、罠の可能性は十分に考えられることです」

 神妙な顔をしながら天地くんがそういった。

 彼としてもとても難しい問題だろう。

 司令という立場上、この果し状にたいしてどう対応して良いのか迷っている様子だ。


「罠であればノコノコと指定の場所に行くのはマズイでしょう、そもそも、我々としては別にこの果し状は無視しても良いことではあります。此処はあえて無視して相手の出方を見るのもいいかもしれません」

 まあ、悪くは無い案だ。相手の誘いを無視し、相手の様子を探る。 

 だが、その案を聞いて俺を含め他のメンバーの表所は険しかった。

 見るからにその考えに賛同出来ないといった様子だった。


「逃げるのか?」

 赤坊が言った。


「不用意に誘いに乗らないと言う事です」

 天地くんが言った。


 二人の間に少し緊迫した空気が流れる。


 赤坊の気持ちは判る。

 ヒーローとして、戦いを挑まれてそれを無視するのは間違いだと、そう思っているのだ。それは正しい。

 実際。もし18年まえに同じ事が起きれば、俺や他のメンバーたちは今の赤坊と同じ反応そするだろう。



 だが天地くんの言っている事も最もだ。

 天地くんだってそれは理解しているはずだ。実際の所、天地くんだって、心の底では赤坊のように正面からぶつかりたいと思っているのだろう。ヒーローに憧れていた天地くんだ。そう思わないわけがない。

 しかし彼は立場上無謀な戦いをさせるわけにはいかないのだ。


 俺達はなんとか2回の勝利を収めた。だがそのどちらも正攻法ではなく、玉ねぎ弱点を付き、車という武器を使い。実力ではなく運と技術とその場のノリでなんとか勝てたに過ぎない。

 現在の俺達は正攻法で怪人に勝つことは困難。そんな状態で罠にでもハメられたらまず負けるだろう。

 負ける可能性の高い勝負を態々受けさせる理由はない。


 しかし、そう考えたのは彼だけのようだ。

「檜山くんに賛成です」

「私も」

 青瓢箪とキ印も立ち上がり赤坊に賛同した。


 熱い眼差し。

 その目の奥には正義の炎が見て取れる。

 こいつらも大概に若い。 

 無謀で無知で。

 まるで昔の自分を見ているような気分になった。




 俺の目の前で睨み合う4人。



 このままじゃ埒が明かない。睨み合っても状況は変わらず。


 だから俺はこう言った。


「此処は挑戦を受けるべきだな」

「「「「…」」」」

 一同驚いた様子で俺を見る。

 意外だったんだろう、俺がこんなコトを言うことが。


「天地くんの意見も判るけどね、やはり正義が悪に背中を見せちゃだめだろ」

「オッサン…」

「緑川さん」

「おじさん…」

 三人が俺を見る。共感の視線。

 でも、その視線を浴びながらも。俺はあまり嬉しくはなかった。



 なぜなら。

 俺はコレを打算で言ったからだ。


 俺は間の前の三人とは違う。意見こそ同じだが、その意見が出る経緯が違う。

 俺の目的は悪に背中を見せたくないとか、正義の心がとか、そういうことじゃなくて。ただ単純に全員のスキルアップに継るかもしれないという考えから来るものなのだ。

 先の2体の怪人を道具の力で倒してしまったが故に今の俺達…というか、目の前の三人は経験がつめてない。

 だから、この決闘は、三人に経験をつませるのにちょうど良い機会だと、そう思ったのだ。


 思ってしまったのだ。


「…」

 天地くんがじっと俺の顔を見た。

 まるで見極めるような、探るような目。

 きっと俺の目には3人に宿るような炎は無いに違いない。


 だが、それでも。

「行くべきだ」

 吐きそうな不快感をこらえながら俺は言う。


 最低の考えだ。

 俺は彼らの命を危険に晒し、彼らを成長させようとしている。こいつらの命よりも、戦力を取ったのだ。

 だがしかし、コレは必要なのだと確固たる自信はある。

 これからも起きる怪人との戦い。それを生き抜くのに命を何度も危険に晒すことは有るんだ。三人にはどうしても成長してもらわなくてはいけない。それこそ命懸けの実戦による急成長が必要だ。


 そして、罪滅ぼしというのもおかしいが、俺にだって覚悟はある。

 せめて、俺もまた、この無謀な戦いに身を投じてやろうという覚悟だ。

 正義の為というより、ちょっとした罪滅ぼし。

 俺の、俺が嘗て持っていた熱い心を。俺は今この目の前の三人に押し付けようとしている。


 ならばせめて、上辺だけでも本気で付き合うのが道理じゃなかろうか。

 そのためならば。例えこの身が砕けても仕方がない。

 

 その覚悟くらいはあるつもりだ。


 俺のその覚悟を読み取ったのだろうか。

「日時は明後日。羽黒山脈の麓です」

 天地くんがそう言った。

 その言葉は、つまり、正面から俺達が戦うことを認めたと言う事でもある。


「明後日か!腕がなるぜ!」

 そう言って赤坊が立ち上がった。


「今から準備をしなくてはいけませんね」

 青瓢箪がそういった。

 

「よし!頑張るぞ」

 キ印が言った。


 三人の表情は真剣そのものだった。

 彼らの目の中には覚悟の炎が宿り、明後日に行われるであろう戦いに向け思いを馳せる。

 嘗て俺も宿していた炎だ。



 だが、一つばかし大きな問題が有るような気がする。



 というか、確実に一つ大きな問題がある。



 それは。

「…明後日?」

「「「「……………あ」」」」

 俺の一言に皆は黙った。


 そして皆見る。



 俺の首と、腰を。



 コルセット付きの首と、シップ貼りまくりの俺の腰を。

 どう考えても明後日までには治るとは思えないこの状態を。




「どんな超回復でもっても無理だろ」


 例えこの身が砕けようと確かに考えたけれど。

 それはあくまで可能性の話であって。





 実際にそうなるのは嫌だなあと俺は思った。

 


 





◆◆◆


次回予告


 果たし合いの指定場所で意気揚々と待ち続ける4人。

 しかしリゾブラックは怪我で戦える状態では無かった。

 そして現れるゲルニッカーズの怪人。

 それは誰もが予想しえなかった相手だった。


 次回!ヴァルマ戦隊 リゾフォルノンジャー!

     『復活のオッサンw!』

           お楽しみに!

 




◆◆◆◆用語解説


・正面からぶつかった

 文字通り。


・労災

 本来、労災とは労働災害の略で、労働者が業務中に負う負傷や疾病等のことを言う。

 だがこの場合の労災は労働災害保険の事を指す。つまり労働災害が起きた際に補償をしてくれる保険のこと。

 これは保険であるので雇用者側には直接的な金銭的負荷はかからないが、労災保険料率が上がる可能性はあるので間接的な負荷がかかる可能性がある。

 というか、ヒーローに労災が有るのかどうかが微妙だ。

 個人的な予想では、緑川達は労働者として雇用されているのではなく、ヒーローの活動はボランティアとして行われ、給与ではなく『謝礼』を支払われているのではないだろうか。

 だとすれば労災には加入していないので、労災がおりようはずが無い。


・コルセット

 元は女性用の矯正下着の一種で胸部下部よりウェストにかけてのラインを補正するものだったが、近年では局部を固定するための物を広くコルセットと呼ぶ。


・補正予算

 当初予算成立後に発生した事由によって当初予算通りの執行が困難になった時に、本予算の内容を変更するように組まれる予算。

 政治の世界で使われる事が多いが、早い話が予算計画の変更であるので金銭を扱う組織であれば何処でも有りうる。(ただし民間企業などで補正予算という言葉が使われる事は稀)

 補正予算といっても何処からとも無く金が湧き出るわけではないので、何処からか捻出する必要がある。


・果し状

 決闘を申し込むための書状。

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