第10話 進め!それぞれの気持ち!
暑さは休まることを知らない。
まるでこの世界が暑さ以外の気温を忘れてしまったかのように。周りは今日も熱気に包まれている。
嘗ての俺はその熱気から逃げる方法が無かった。だが今の俺には喫茶溶鉱炉という涼しさを得ることが出来る場所がある。
そんなわけで俺は今日も喫茶溶鉱炉に来たわけだが。
喫茶溶鉱炉に入ると何やら赤坊と青瓢箪が何やら大きな声で怒鳴り合っていた。
「やっぱりスポーツカーだよ!男らしくカッコイイと言えばそれしか無いって、当然色は赤だ」
「いえ、それは古い考えです。これからの時代、馬力と機動性を同時に兼ね揃えた乗り物であるトライクこそ最高の乗り物だと思います。当然色は青ですね」
「最高の乗り物って言ったらスポーツカーでしょ」
「トライクです」
俺の目の前で繰り広げられる喧騒。
一体どうしてこんな言い争いが起きているのか、俺は天地くんに尋ねた。
「何なの?これ」
「いやあ、それがさっきまで乗り物の話をしていたんですけれど、そしたらこんなふううにどの乗り物が一番に良いかで論争になっちゃいまして」
天地くんがそういった。
「乗り物?」
「スポーツカーが最高だって」
「トライクが最高です」
どうやらこいつらは最高の乗り物について議論を交わしているようだ。赤坊はスポーツカー、青瓢箪はトライクを押しているらしい。
「馬鹿みたい」
カウンターに座っているキ印がため息混じりにそう言った。
キ印は呆れ顔だが、俺はこの言い争う二人の気持ちが解らないでもない。
なにせこういった言い争いは男であれば大抵経験があるものだ。
俺も昔は、この店で当時のイエローと、『プラッシィ』と『リボンナポリン』のどっちのオレンジ飲料が美味いかで殴り合いのケンカをしたことがある。
思うに、こういう下らない好みの言い争いで熱くなれるのは若人の特権なのかもしれない。
「近代的なフォルム、馬力、速度、そして街の中を走る抜けるときのあの美しさ。スポーツカー以上に素晴らしい乗り物なんてあるはずも無いだろう?」
「いえ、あの小さくも力強い出で立ち、あのワイルドな走り、そして道を堂々と走るときのあのかっこ良さ、トライクこそ最高の乗り物です」
まあ、正直こういった言い争いは他人からしてみればどうでも良いことが多い。俺としてはスポーツカーでもトライクでもどっちでも良いじゃんと思うのだが。
俺がそんなことを考えていると言い争っている二人は突然俺の方を向いて。
「オッサンもスポーツカーが最高だと思うよな」
赤坊がそう言ってきた。
まあ…赤坊の言いたい事はわかる。気持ちもわかる。
確かに俺もスーパーカーブームを体験した人間だ。スーパーカー消しゴムも沢山持ってた。
しかし、バブルが弾けブームの熱が冷め、そして俺自身が大人になった今、そういった高級車に対する幻想を再度抱くことは出来ない。
「まあ、スーパーカーが悪いとは言わんがな、俺にはどうにもなあ…」
俺が答えに窮していると、今度は青瓢箪が俺に話しかける。
「やっぱりトライクですよね、小回りがきくし、すぐに乗れる起動の速さ。そして車並みの安定感と馬力。バイクと車の良い所を併せ持つ理想的な乗り物です」
「トライク…ねえ」
トライクって確か三輪バイクのことだよな。
まあ、確かに悪い乗り物じゃあ無いと思う。ブルーの言うとおり車とバイクの利点を併せ持つ乗り物だ。
「まあ、トライクも悪くはないと思うんだよ、だけど…」
だが、まあ最高かと言われればどちらに対しても疑問を感じてしまう。
あるいは俺もこの目の前の二人ほどに若ければ、乗り物に対して何かしらの思い入れを持っていたかもしれない。
スポーツカーにしろトライクにしろカッコイイし、特に若い頃はそういったカッコイイ乗り物に憧れを抱いたものだ、
しかし今の俺にとっては。
正直どうでも良い。
「ま…まあ、どっちも良いんじゃないか?」
結局オレが出したのはそんな曖昧な意見だった。
俺の意見に対して、赤坊も青瓢箪も不満顔だ。
「なんだよ、ハッキリしねーなー」
「ちゃんと答えを出すことは大切なことですよ」
「あ、そうだ、横山、横山はどう思う?やっぱりスポーツカーのほうが格好良いと思うよな?」
「トライクですよね」
「私?」
突然話をふられてキ印は戸惑ったように自分を指さした。
「そうだ、やっぱり女性……女の子の視点から見てもスポーツカーは格好良いだろ?」
「いやいや、やはりトライクのワイルドさに心ひかれますよね」
そうやってズイズイと迫る二人にうっとおしそうな視線を浴びせながら、キ印はこういった。
「いや、私はその二つは別にどうでもいいし…」
「んだよそれ」
「それじゃあ横山さんはどんな乗り物が良いっていうんです?」
そう言われ、キ印は少し考える素振りを見せた後、こういった。
「私?私が良いと思うやつ?それは、あのバイクの、ほら、映画でお姫様が乗ってた奴…」
「お姫様が?バイク?どんなシュールな映画だ?」
イジーライダーの女版みたいなのか?
白馬に乗った王子様をバイクで追いかけたりするのか?
「夜の12時を過ぎるとGet your motor runnin Head out on the highway!なバイクに乗り遅れちゃうとか?」
「なにそれ。違うよ、ほら、お姫様が警官から逃げて…」
「警察に追われてんのかよ」
「そしてバイクに二人乗りする…」
「しかも2ケツかよ。どんだけ暴走お姫様だよ。その姫ってひょっとしてチーム名的なやつか?死羅雪姫とか、射薔羅姫とかそういうやつか?」
「違うって!ほらあの海外の映画で、お姫様がお忍びで街を…」
「それってローマの休日では?」
「そう!それ!」
青瓢箪を指さし正解を告げるキ印。
なるほど、確かにローマの休日では主人公が二人乗りをするシーンがあったな。
だが。
「あれはバイクじゃなくてスクーターな」
「スクーターって車種?」
「正確には雀蜂っていう名前がついているんだけど、ああいったタイプの乗り物を広義にスクーターっていうんだ」
「ふーん。まあ、いいや。兎に角私はあれが一番カッコイイと思う」
彼女の言う事も間違いではない。スクーターは小回りが効くし、燃費も良い。乗りやすいし。良い乗り物なのは事実だ。
だが、彼女のその意見は赤坊と青瓢箪には受け入れらなかったようだ。
「スクーターが?」
「それはないですよ」
二人が鼻で笑った。
「だってスクーターだぜ?時速60キロしか出せないんだぜ?」
「あんな馬力が無い乗り物が最高だなんて、笑止千万ですよ。悪路にも弱いし」
次の瞬間。
二人の体にキ印の掌底がHITした。
さらに顎にエルボーが。合計4コンボである。
「「うぎゃ!」」
突然のキ印の攻撃に悶える二人。
「うるっさい!」
そう言ってキ印はフンと鼻息を大きく吐き出した。
突然のキ印の怒り。
赤坊と青瓢箪は勿論、俺も彼女のその行為に戸惑っていると、天地くんが俺にそっと耳打ちをしてきた。
「ほら…横山さんは、まだ17歳ですから…」
「ああ、なるほど」
天地くんのその言葉で俺は理解した。
キ印の年齢は17歳。この国の法律では未だ普通車の免許や同様の免許を必要とするトライクを取ることは出来ない。彼女の年齢で取れる免許は二輪免許か小型特殊免許。しかも彼女の体格では中型以上の大きさの二輪は乗りこなせそうもない。
となれば必然的に、彼女が乗れるのはスクーター程度しか存在しないのだ。
その唯一の選択肢を馬鹿にされればそりゃあ腹もたとう。
先ほどの赤坊と青瓢箪の会話に『馬鹿みたい』と言ったのは、自分が会話に混ざれない負け惜しみのようなものだったのかもしれない。
「私だって!4輪や大型三輪に乗れるものなら乗りたいわあ!でも私の免許で乗れるのは!唯一、小型バイクしか無いのよ!」
キ印が心の声が響き渡った。
「わ…悪かった」
「ええ、私達のデリカシーが足りませんでした…」
腹を抑えながら赤坊と青瓢箪が力なくそういった。
「…まあ、乗り物の良し悪しは乗り手で変わるしな、各々が良いと思う乗り物に乗るのが最善なんだろうな」
俺がそういうと、天地くんが頷く。
「やっぱりそうですか、やっぱり皆違うほうがいいですかね?」
「そりゃそうさ。各々好きな乗り物に好きなように乗るのが一番だ。スポーツカーに乗りたい奴はスポーツカーに乗ればいいし、トライクに乗りたい奴はトライクに乗れば良い…スクーターに乗りたい奴は…」
「私だって、乗れるならば4輪に乗りたい…」
「…ま…まあ、法的に乗れるモノに乗れば良い」
とまあ、俺は俺なりに大人な意見でまとめたつもりだったんだが、ヒートアップした二人はその意見では納得しなかった。
「でもさあ、オッサンだって有るんだろ?コダワリの乗り物っていうか好きな乗り物」
「緑川さんはどんな乗り物が良いと思うんですか?」
その言葉に俺は顎に手を当てて思案した。
俺が好きな乗り物。
個人的に好きな乗り物という意味ではコンコルドとかXF5Uとかヤークトパントァーとか、グスタフ列車砲とかだけど。
話の流れから自分が運転できる乗り物としての話のようだ。
しかも現実に存在する物じゃないとダメっぽいな。
だから俺が子供の頃から乗りたいと思っていたモグラタンクとかもダメだろう。
そうなると一般乗用車の中で一番好きな車と言う事だ。
「確かに、俺も嘗てはそこの赤のようにスーパーカーに憧れた事もある、そしてそこの青のように風変わりな乗り物に憧れたこともあった。しかし、年を取るにつれて、だんだん見た目と言うものにこだわらなくなってくると実用性を重視するようになってきたな」
「実用性って、スポーツカーにも実用性は有るぞ!」
「当然トライクにもです!」
俺の言葉に言い返す二人。
「いや、実用性ってのは、たとえば信頼性の高いエンジンとか。軽量なボデーとか」
長持ちするエンジンや軽い車体が…。
「だからスポーツカーも信頼性の高いエンジンだ!」
「トライクだって軽量なボディーです!」
「積載量とか、汎用性とか……」
スポーツカーは走りに特化した車だし、トライクも小回りと馬力を追求した乗り物だ。
しかし、その反面で積載量や汎用性を犠牲に…。
「でもスポーツカーにだって汎用性は…」
「トライクだってそれなりの積載量が…」
「…他にもオプションの数とか…」
「スポーツカーだって…」
「トライクも…」
「何よりもコストパフォーマンス…」
「能力あたりの価格と言う意味ならばスポーツカーも」
「むしろトライクこそ…」
「…」
「スポーツカー!」
「トライク!」
「…お前ら!少しは引くことを覚えろよ!何でもかんでもスポーツカーとトライクに結びつけるな!」
「だって、スポーツカーが最高だって!」
「トライクです!」
「子供か!お前らは!スポーツカーとかトライクとか!馬鹿か?もっといい車有るだろが!バーカ、バーカ、バーカ!」
「むしろオッサンのほうが子供っぽいじゃねーか!」
「緑川さんにだけは言われたくありません」
「うるせー!箪笥のカドに肘先の骨を当てて腕ジーンってなれ!馬鹿」
「なんだと!オッサンこそ爪切りの時、深爪した挙句、それが原因で巻き爪になれ!」
「痛風になれ!」
「…!!」
「…・……!!」
「……・…!!!!」
この後俺達は2時間にわたって罵り合う。
結局気がついたら、俺も熱くなってしまったのだ。
それは、俺がフォルノンジャーに戻って心の熱意を取り戻したからなのか。
それとも、単に目の前の二人の熱意に影響されたのか。
あるいは、俺の中にまだまだ若さが残っていたからか。
兎にも角にも、こんな感じで俺達は喫茶溶鉱炉で非常に下らない会話を日々していた。
好きな乗り物の話なんて子供みたいな会話を大声で言い合うなんて傍から見れば実に下らないし、そんな下らない話をするなんて正義のヒーローとしては弛んでいる。
でもこういった下らない日常と言うのはとても大切なものなのだと思う。
なにせ、俺達は明日にも死ぬかもしれないのだ。
だから俺は、この話を下らないと思いつつも。結構楽しんでいたりした。
◆◇◆◇◆◇◆◇
とまあ、それから2週間ほど経過した。
あれから何事もなく、俺達は相変わらず下らない会話をしながら、日々を過ごしていた。
あすにも死ぬかもしれないと言いつつ2週間。
どうにも新しいゲルニッカーズが来る頻度は少ないらしく。俺達が戦いをすること無く。平和な時間だけが過ぎていく。
今日も今日とて喫茶溶鉱炉に男ばっかり集合して、下らない話をしていた。
たまたまキ印が店内に居ないことを良いことに、女性のどの部位にグッと来るかの話に花を咲かせていたのだが、そんな折。
突然、天地くんにこんなことを言われた。
「そういえば皆さん。例のもの用意しておきましたよ?」
「「「は?」」」
意味がわからなかった。
例のもの?
「ほら、前に話をしたじゃないですか、それを用意しておきました」
「は?」
やっぱり意味がわからなかった。
用意?
あるいは俺以外の二人なら知っていることかと、赤坊と青瓢箪の方を見たが、二人共俺同様に首をひねっていた。
しかし、そんな俺達の戸惑いを他所に、天地くんは行動する。
「こっちです」
そう言いながら天地くんが店内の片隅にあった本棚の中にある本を一冊引っ張ると。
ゴゴゴゴゴゴ…………。
突如として地下に続く階段が現れた。
「な…なんだこのギミックは。い…いつの間に」
「隠し階段!?」
「全然気が付かなかった?」
俺すら知らない隠し階段。嘗てこんなギミックはこの店には無かったはずだが…。
「この前作ったんですよ、日曜大工で」
「日曜大工ってレベルじゃねーぞ!日曜工務店…いや日曜ゼネコンの域に達している」
「っていうか、僕らほぼ毎日この店に居ますけれど、工事をしてる所見た事無いですよ?」
「どんな魔法で…」
「皆さん、こっちです」
そう言いながら天地くんはズカズカとその階段を降りていってしまった。
このまま此処にぼんやり立っているのも嫌だったので俺達その後ろをついていくことにした。
「深いな…」
俺の予想以上にその階段は長く、俺達は地下深くまで降りていく。
俺は勿論。赤坊も青瓢箪も困惑している。
「ええ、地下50メートルです」
「そんな深くに何があるんだ?」
「リゾフォルノンジャー専用の秘密倉庫ですよ」
「秘密倉庫?秘密倉庫ならば店の隠し部屋があるだろ?」
秘密施設である喫茶溶鉱炉には昔からフォルノンジャーの秘密道具を収納する隠し部屋が存在している。部屋と言うよりは金庫に近いもので秘密保持にはもってこいの場所だ。
長い年月で多少古くはなっているが、あの部屋の堅牢さは未だ健在だし、あの場所以外に秘密倉庫を作る理由を理解できないのだが。
「ええ、勿論あの隠し部屋は今後も使い続けますよ。ただ今回はモノがモノなのであの部屋に入りませんでしたから」
モノがモノと言われても、それが何なのかさっぱり理解できなかった。
俺同様、赤坊と青瓢箪もわからないらしく、俺達は天地くんの後方でヒソヒソと状況を確認し合った。
「なんか俺達マスターに要求したっけ?」
「いえ…たしか、トイレの電球が壊れたので交換して欲しいって言いましたけれど…」
前の戦いの時に割れちゃったやつな。
「でも、これトイレの電球を見せてくれる流れでは無いよなあ…」
さすがに地下50メートルまで俺達を招いて、『どうです!トイレ用のLED電球ですよ!コレを見せるためにこの地下室を作ったんです!』なんてことにはならないと思う。金と労力の無駄遣いすぎる。
「あ、俺この前天地くんに一度『そらとぶスパゲッティモンスター』を見てみたいって言ったような気がする」
「いやいやいやいや。それは無いだろJK」
「まあ…確かに天地マスターは緑川さんのリクエストを何かと叶えますが、そんな存在しない者を調達するとは思えません」
「そらとぶスパゲッティモンスターは存在しないと証明されていないからな?」
すべての生物は奴によってデザインされてるんだぞ?
ふと、赤坊が思い出したようにこう言った。
「そう言えば、俺、マスターに巨大なプリンの海で泳ぎたいって話した」
「いや…プリンって…」
「そりゃねーよ」
「でももしかしたら有りうるかもしれないだろ?」
赤坊はそういうが、普通に考えたらあり得ない。
天地くんが、地下にプリンプールを作ると思うか?狂気の沙汰だぞ?
今度は青瓢箪がこう言った。
「あ、そう言えば僕は前にコモドドラゴンを見てみたいって言ったことがあります」
「コモドドラゴンって…世界最大のトカゲの…あれか?」
「そんなものをマスターが用意してくれるか?」
「わからないじゃないですか、もしかしたらこの先に居るのかも」
それも無いと思うぞ?この先にコモドドラゴンパークが有るとは到底思えないが。
果たして天地くんが案内してくれる先に有るのは。
でかいプリンか。コモドオオトカゲか。はたまたそらとぶスパゲッティモンスターなのか。
「つきました」
天地くんがそう言って部屋の電気をつけると、そこはとても大きな空間だった。とても広く、それこそ喫茶溶鉱炉よりも大きいかもしれない。
そしてその大きな空間の中心部には。
「なんだこれ?懸架装置?」
一見するとただの床のようだったが、何度か倉庫や工場で働いた俺には判る。
それはエレベーターのような装置、立体駐車場のような仕組みで、地下から何かをこの部屋に運ぶ装置があった。
「ええ、今出しますよ」
そう言って天地くんが壁の近くに有るレバーに手を掛けた。
ゴゴゴゴゴゴ。
轟音と共に地面がせり上がり。
そこに現れたのは。
真っ赤なスポーツカーだった。
「お…おおおお」
赤坊がうめき声のような叫び声のような不思議な声を出した。
無理もない。なにせ、赤坊の憧れの車なんだから。
「凄い、凄いよコレ!カッケー、超カッケー!!」
「えっと、リゾフォルノンジャーオリジナルのスポーツカー「リゾフォルノレッド号」です。400万馬力のパワー、最高時速は384㎞です」
「その、これって、コレって、つまり…」
「ええ、ですから先日、皆にどんな乗り物が良いかを聞いたのですが、皆さん意見がバラバラでしたので、結局それぞれに好きな乗り物をあてがうことにしました。リゾレッドにはスポーツカーです」
「マジでかマジでかマジでか!!!」
目の前のスポーツカーを前に、赤坊は鼻血を出さんばかりに興奮している。
「チョット待ってください、という事は、僕にも…」
「ええ、リゾブルーの乗り物も用意していますよ」
そう言いながら天地くんがもうひとつのレバーを引くと。
ズモモモモモモ。
轟音と共にトライクが現れた。
「…………」
青瓢箪が絶句する。
彼の目の前にはそれはもうスポーティーでカッコイイ形をした乗り物があった。
「えっと、リゾフォルノンジャーオリジナルのトライク、リゾフォルブルー号。この小ささですが300万馬力のパワーと最高時速は230㎞、オフロード仕様で砂利道もへっちゃらです」
「…」
青瓢箪は唖然としている。
目の前のトライクの凄さに言葉が無いようだ。
「どちらの車もお二人の希望どおりだと思いますが…」
「希望通り!最高!マスター、マジ最高!」
「むしろ希望以上です。まさかあの雑談がこんな結果になるなんて…」
二人は感無量と言った状態だ。
「そして最後が緑川さんですね」
「俺?俺のぶんもあるのか?」
「当然ですよ、この前ちゃんと希望を出したじゃないですか?」
「そう言えば…」
俺はあの時の話が今後の乗り物を決めるものだと知らなかったのでコレに乗りたいという希望は言わなかった。
しかし、俺が一番に愛する車を口にしたはず。
言い争いの最後の方で、俺の理想に合致する車種を叫んだ筈だ。
しかしそれが何だったか思いだせない。
そもそも、あれが今後の乗り物を決める大事な会話だと知っていればもう少し意識していたはずなのだが。単なる雑談だと思ってテキトーな答えをしていたいような気がする。
「正直、緑川さんの乗り物が一番大変でした」
「え?そうなの?」
「正直、予算的には一番お金がかかっています」
「マジで?」
天地くんの言葉に否応無しに俺の期待は高まった。
このスポーティーな車より。
このゴツイトライクより。
お金をかけた車。
果たしてどんな凄い車なのか。
「じゃあ、出しますよ」
そう行って天地くんはレバーを押した。
ズモモモモ
けたたましい音と共に。俺の目の前にそのクルマが姿を表す。
そして。
俺の目の前で輝く乗り物。
「こ…コレは」
その姿に俺は両目を見開き固まった。
「どうです?凄いでしょ?」
そんな天地くんの声を聞きながら。
俺は、あの時の会話を思い出した。
そうだ。俺はあの時、確かにこのクルマの事を口にしていた。
実用性を重視。
信頼性の高いエンジンと。軽量なボデー。
積載量。
汎用性。
そして何よりもコストパフォーマンス。
それらを満たす究極の乗り物として。
俺は乗り物の名を確かに叫んでいた。
唖然と目を見開く俺の目の前。
そこには真っ白に輝く。
『軽トラック』が。
ポツンと鎮座していた。
◆◆◆
次回予告
ヒーローに欠かせない乗り物。
それに軽トラックをあてがわれてしまった緑川。
果たして緑川はその乗り物を乗りこなせるのか!?
軽トラックに隠された能力とは!?
次回!ヴァルマ戦隊 リゾフォルノンジャー!
『白い弾丸!』
お楽しみに!
◆◆◆◆用語解説
・プラッシィ
お米屋さんでお馴染みのドリンク。
お米大好きイエローの一押しドリンク。
「白米だけでは不足しがちなビタミンも取れるスグレモノでゴワス!ワンカートンでグラスももらえるでゴワスマッシュ!」
・リボンナポリン
りぼんちゃんのマスコットでお馴染みのドリンク。
炭酸入りのオレンジジュースで緑川はこのシュワシュワなオレンジジュースに首ったけだった。
「やっぱりナウなヤングにバカウケなのはリボンナポリンだよね!」
・トライク
後輪二輪、前輪一輪の三輪バイクのこと。本来は三輪車全体を指すが、日本では貨物運搬用で無い三輪自動車を指す場合が多い。
排気量によって免許が変わり、50cc以下ならば原動機付自転車として扱われるので横山でも乗れないことは無いが、そのような小型な物は『3輪スクーター』としてトライクとは別物として扱われる事もある。
・Get your motor runnin' Head out on the highway!
「大変!12時を過ぎると魔法がとけて、1200ccのフルカスタムのハーレーダビットソンがかぼちゃに戻ってしまうわ!タンクの中に入れておいた金とマリファナが出てきちゃう!」
しかし無常にもその時、12時を告げる鐘の音が…
ボーン to be wild
ボーン to be wild。
・コンコルドとかXF5Uとかヤークトパントァーとか、グスタフ列車砲
どれも男の子が一度は憧れる乗り物。XF5Uは違う気もするが、ロマン機体なのは間違いない。
・モグラタンク
車体の先端に巨大なドリルが取り付けられた装甲車の一種である。キャタピラ付きで悪路は勿論のこと、先端のドリルを使うことで岩盤や固い障害物もなんのその、果ては地中さえも掘り進む事が出来る夢の乗り物。目的地に突き進むという乗り物本来の役目を最もこなせる存在。ある意味完全無欠の乗り物。ただ一つ。実在しないという欠点を除けば。
・そらとぶスパゲッティモンスター
貴方は世界の生物が何か大いなる知性によってデザインされているのでは無いかと感じたことはありませんか?
そう、その大いなる知性こそ、そらとぶスパゲッティモンスターなのです!
え?違う?違うと言うならばそれを証明してみせなさい。証明できないならこれは真実です。
海賊服と眼帯を着用すればスパゲッティーモンスターは必ずあなた方を愛するでしょう!ラーメン!
・オプション。
軽トラのオプション(標準仕様ではない、後付の部品・装置)と言えば、ダンプ、クレーン、幌、ポンプ。等々。軽トラのオプションはとても豊富である。
他にも冷凍庫車、移動販売車…さらにはアクティ・クローラと言うものがあってだな…。
・軽トラ
筆者の思う最強自動車。どんな高級車よりもカッコイイと思う。機能美溢れるいぶし銀の車。