6話 目覚めのち張文遠
思い出すのって大変だね……大半は保存してたんだけど、所々に穴が。
という訳でここまで修復。まだあと2話あるんだなこれが。
俺は暗闇の中走っていた。ただその光に向かって走る。
その先にあるものに向かって必死に手を伸ばす。
待ってくれ、俺は頑張るから……まだ頑張れるから。
だから待って下さい。お願いですから……俺を、見て。
良い子になります。貴方達が誇れる様な息子になります、だから……
『生まれて来なければ良かったのに』
そんな、事を、言わないで下さい。
俺に何が足りないのですか。何が……
走れども追い付けず。手を伸ばしても届かず。
そのまま段々と離れていく。
離れて、その光が見えなくなり――――足を掴まれた。
足元を見るとそこには手。
更にその先には足首を掴み俺を見上げる顔。
暗闇に包まれていた地から、いつの間にか顔がいくつも現われていた。
そしてその顔はただ俺を見ていた。恨みが籠った、黙っていても怨嗟の声が聞こえそうなほどの顔で。
そして顔達が一斉に呟く。
『よくも殺したな』
同じ台詞を。同じ声色で喋る。
俺はその声を聞き頭を抱え、
『あ、うぁ……うわああぁーーーっ!』
その場に絶叫が木霊した。
「おいしっかりしい!落ち着きぃな!」
「ぅあ、ああ……あ、あ?」
気付けばそこは天井。三日前に見た、同じ様な木か藁か、いやその両方で出来た天井。
宋老人の家が焼けたからここは別の家だろうか。
……ん、あれ三日?
「あ、れ。ここは誰、俺はどこ?」
「いやいや文脈おかしいから。ええから落ち着きぃ」
言われて少し落ち着き、そして視線に入るはサラシを巻いた関西弁を喋る女性。
冷静に現状を掴もうと心を落ち着かせ、改めてその女性を見る。
「……ああ」
「ん?なんやどうした?」
「痴女がいますね」
「よしもう一遍眠れやぁッ!」
「こりあんッ!?」
額に手刀を喰らった!超痛い!
「うおお寝ている男の子になんて事をするんですか……っ!」
「うっさい!誰が痴女や!」
「勿論あなたで――――嘘ですごめんなさい」
ギンッという効果音が聞こえそうな顔を向けられた。
すみません超怖いです。
「ったく。うなされてたから何事かと思たけど、心配無いみたいやな」
「……俺うなされてました?」
「ああ。丸二日寝てた所を突然叫びだすんやで、そら驚いたわ」
「へー二日。……え、丸二日?」
待て待てプリーズ、wait。俺はそんなに寝てたというんですか。
「マジですか」
「寝てたな。そらもうぐっすりと」
「ウワーオ……」
さっき三日前と思った時の違和感はコレでした。
我ながらお寝坊さんなこって。
……それによく見ればこの人、賊の砦に来てくれた騎馬の人だ。
「あの、今更だけど賊の砦に来てくれた人ですよね?」
「ああ、覚えとったんやな。確かにウチが乗り込んだで」
「……有り難うございます」
俺は寝ていた状態から正座をし、向き直って頭を下げた。
「な、なんや突然」
「貴女が来てくれた御蔭で俺は死なずに済みました。だから、有り難うございます」
「え、ええって。こっちも簡単に賊討伐済んだんやからお相子様やって!せやから頭上げてぇな」
「は」
「なんやさっきまでと違おて調子狂うな……」
うん、この光景凄いデジャヴを感じる。
俺ってそんな落差激しい人間なのかな?
「あの、それで貴女のお名前は?」
「ん、ああウチは張遼、字は文遠な。よろしく」
「はい。張遼さんよろしくうぇぁ!?」
えっ張遼?今張遼って言ったこの人!?
「ちょ、張遼!? 張文遠?マジで!? あの白兵戦のエキスパート、泣く子も黙る遼来々の張遼!?」
「いやいや何言うてるか分からんけど、自分何でそんな驚いてるん?」
ちょ……っ、待って。頭が理解にマッハで追い付かないもちつけ俺。
「やばいドキがムネムネしてきた」
「しかもまた文脈おかしなっとるって」
張遼さんが突っ込みをするけど今はどうでも良い。どうでも良いから今は取り敢えず――――!
「すみません握手お願いします」
「お、おう」
戸惑いながらも応じてくれた。マジ感激です。
「い、いやまぁそれでアンタは?」
「あっとすみません。俺は神坂日向と言います。どうぞよろしく」
「神坂日向……姓が神で名が坂、んで字が日向か?」
「いえ姓が神坂で名が日向です」
「へぇ、なんや珍しい名前やなぁ」
「いやまぁ」
俺この世界の人間じゃないしね。言わないけど。
「しかし話聞いた時は驚いたわ、単身賊の本拠地潜り込むなんて無茶するさかい」
「あーいえその」
「取り繕わなんでもええって。さっきも言うたけど、そのお陰で賊の討伐が簡単に終わったんやから。まぁあの嬢ちゃんのお陰でもあるけどな」
「え?」
「ほらあの、三尖槍を持ったあの娘や」
「ああ姜維さんですか……ってそうだ!集落の皆は!?無事なんですか!?」
俺は身を乗り出して張遼さんに詰め寄る。
身体に巻いてあった包帯がはだけたが、今はそれどころではない。
「だーっ、せやから落ち着きぃ!神坂のお陰で皆無事やし今は飯食ってる途中やから安心しぃな!」
「ほんとにほんとですか!?」
「ホンマやって!集落の周りはウチの部隊が固めとるから、襲われる心配もないわ」
「……ほっ」
ため息一つ吐くと脱力したようにうつ伏せになる。
良かった。皆無事だったんだ。
「姜維の嬢ちゃんはずっとアンタの看病しとったけどな、流石に飲まず食わずはまずいから無理やり食わせに行かせたわ」
「姜維さんが?」
「ああ。『こうなったのは私の所為です、ですから目覚めるまで看病させて下さい!』ってな」
「……はは。心配掛けちゃったかな」
「ん〜?なんやなんや隅に置けんなぁ、あんな可愛い子にそこまで思われるやなんて?」
「いや、そんなんじゃ無いですって」
照れんでええって、とか言ってる張遼さんを無視して、俺は外に向かおうと身を起して靴を履く。
「行くん?」
「ええ。おはようございます、位は言おうかなと」
「そんな刻でもないけどな今」
「まぁまぁ。……あの、一つ聞いてもいいですか?」
「ん?」
「なんで張遼さんが俺の看病してたんです?」
天下の名将張遼がわざわざ俺の側にいたなんて。
今思えば疑問に思える。
「なんでって、うーん……そやなぁ」
胡坐をかいて腕を組み考える張遼さん。
うん、凄いサマになってる。
「民の為に無茶苦茶する馬鹿がどんなんか見定めとった、ってとこかいな?」
「酷い言い方っすね!」
「いやいや褒めとるんよ?」
馬鹿を織り交ぜた褒め言葉なんて聞いた事ないよ!
「まぁ、いいです。俺は評価とか気にしませんし」
「ちなみにウチは訳解らん男、と評価しようかなと」
「ああそうかいこん畜生!」
冗談やって〜なんて言葉を背後に受けつつ、俺は皆が居ると思われる外に出る。
「皆は……いた」
前に集まった広場に行くと、そこには張遼さんの部下が炊き出しをしていた。
そしてそこでご飯を食べてる集落の人達。
俺は顔が緩み、安堵した。
俺はしばらく周りを見回す。
野草についいて教えてくれたお兄さんも
魚を獲った時に一緒に喜んでくれたおじさん達も
子供も、大人も、老人も皆無事だった。
俺は安堵して再度周りを見回し――――見付けた。
かき込む様に、ご飯を食べてる姜維さんの後ろ姿を。
足音を特に隠す訳でも無く近付き、その肩に手を置く。
「そんな急いで食べると喉に詰まるよ?」
そして姜維さんが振り向く。
その顔はポカンとしていて、持っていた容器をガチャンと音を立て落とす。
他の皆も同様驚いた様に俺を見、ポカンとした人さえいる。
「ひなた、さん?」
「うん。死に損ないの神坂日向さんだよ」
「……夢、じゃない」
「すみまへん俺の頬じゃなくて自分の頬を抓ってくらはい」
「ひなたさんっ!」
名を叫ぶや否や、姜維さんが俺に抱きついた。
「ちょっ! 姜維さん!?」
「良かった……無事、だったんですね……」
「……うん。大丈夫、無事だよ」
嗚咽混じりに言う姜維さんに、俺はよしよしと頭を撫で気を鎮めさせる。
それでも尚俺の胸で泣き続ける姜維さん。やばい困った。この人可愛い、じゃなくて。
しかし今度は追い打ちをかける様に、皆が一斉に俺に駆けつける。
「おい坊主大丈夫なのか!? 怪我は! 痛くねぇのか!?」
「ッたく若ぇモンが無茶しやがって! でもよくやりやがった坊主!」
「無事だったんじゃな……ほんに、良かった」
「あーきょーいのねーちゃん泣かしたー!」
「泣かしたー!」
大人達が口々に俺を心配する言葉を投げ頭をクシャクシャと撫で回してきたり、
安心したように、心配したと言わんばかりに俺を見、
子供達が指をさして野次を飛ばしたりし、
「大丈夫、俺は大丈夫ですってー」
俺はもみくちゃにされ、皆心配してくれてたんだと思った。。
そして皆の影に隠れるように居る老人に、気付く。
「ほら宋爺さん、アンタも行きなって」
「やっやかましい!あっ、これ引っ張るな!」
「んだよ相当心配してた癖によ」
「ええいやめん――――」
抵抗するがおじさんに引っ張られ、俺の前に来る宋老人。
気の所為か、その目が若干潤んでる様に見える。
「ぶ、無事のようじゃな。まぁ、あ、当たり前じゃが」
「……宋老人。ご心配、おかけしました。もう大丈夫です」
俺は軽くお辞儀をすると宋老人は口をへの字にし、顔を後ろに向ける。
「ば、馬鹿モン。誰が心配なんぞするか!生きてて当たり前じゃあ!」
「何言ってんだこの爺さんは。坊主が傷だらけで運ばれて来た時はすがりついてた癖によ」
「ええい黙らんかこのたわけっ!」
「しかも爺さん泣いてるじゃねぇか」
「なっ泣いとらんわぁっ!」
ハッハッハと周りが笑う中、俺も笑っていた。
胸の中で泣いていた姜維さんも、いつの間にか笑っていた。
涙が出そうな程に、幸せだった。
「ふーん」
その輪の中の外から見守るサラシを巻いた袴の女性、張遼。
彼女は日向とその周りの光景を見て、顔を綻ばせる。
「なんや、えらい好かれとるなぁ」
冷やかしではなく、その顔は優しさそのもの。
あの笑顔を守れた……否。守ったアイツに、愛しささえ感じる光景。
皆が心配し、誰もが無事を喜ぶ光景に。
「こら益々、詠の言ってたことを実行するしかないなぁ」
二日前に事の顛末を伝令に授け、天水にいる主君に報告した。
事の顛末を知った主君やその軍師はどういった反応をしたのか、見る事は出来なかったが驚いているのは確実だろう。
その証拠に、昨日の朝に伝令が戻って来た。
その伝令はこう言っていた。
「報告にあった以下二名、天水太守の下へと連れて来られたし」
その言葉を思い出し張遼は肩を竦め再び日向達を見る。
会わせるのが、楽しみになって来た。
とりま、ここまで投稿して今から寝ます。
誤字脱字、ご意見あれば遠慮なく申しつけて下さいね。
ではおやすみなさいッ