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5話 守る為、いざ戦いへ(後篇)

とりあえず、ここまで投稿しておきます。

いや本当に大変ですね……自業自得ですけど。


とりあえず、どうぞ。


日向と姜維が集落での行動を開始した同時刻。

それは天水太守、董卓の耳にも入ってきた。

「報告! 南方より黒煙を確認! 方角と煙の大きさと規模から、恐らく集落がある地域と思われます!」

「詠ちゃん!」

「解ってるわ月。すぐ張遼将軍に伝達! 即時今動かせるだけの兵を連れ、煙の上がっている地域へと急行せよと!」

「御意!」


一礼すると同時にその身を翻し、物見の兵は玉座から走り去った。


「……しまったわ。まさか後手に回るなんて」


そう言い、詠こと賈駆は顔をしかめる。

最近報告された騎馬を中心とした賊と思しき集団、数はおよそ三百。

近郊の住民が遠目でたまたま見掛けたと報告が上がった事から、奴らの根城を突き止めるべく偵察を多方面に放ち積極的に調べていた、が。

どうやら奴らは、予想以上にこちらの目を掻い潜るのが上手かったようだ。


「詠ちゃん……霞さん、間に合うかな」

「それは」


隣に居る親友が不安そうに聞いて来たが、答えられない。

黒煙が上がった。そう報告してきたという事は、その集落では既に人、物が燃やされたということ。

そのことから推察されることと言えば、その集落はもう……


「信じよう、霞と民の無事を」


ただ、そういった希望の答えしか言えない。





「……ビーンゴ」


時は戻り、賊の住処。

砦モドキの中を歩き向かった場所は……油の保管庫。

保管庫というには余りにも作り粗雑であったが、この際どうでも良い。

油独特の臭いが外まで臭い、俺は場所が簡単に特定出来た。

大きさはそんなに大きく無く、しかも入口が他の所から見えにくく死角気味となっているのは都合が良かった。


油を保管する建物の中を覗くと……人が居た。


数は二人。武器は当然携帯しており、どうやら壷に入っている油を持っていく準備をしている様だった。壷は一人が両手を使って抱えて運ぶ大きさだが、その様子に日向は内心嘲笑う。


そんな重い荷物を持ってどう逃げるんだ、と。


どうやら賊達は逃げる準備をするのは良いが、何を持って逃げるべきかイマイチ理解出来ていないようだ。こちらの予想以上に焦っており、行動がお粗末過ぎだと思った。


「おい、何やってんだあんた等」

「おお!蒙乍っつたか、丁度良かった。これ運ぶの手伝ってくれよ」


――――来た。

さあ日向、ここからが正念場だ。


「それは良いけど、外出てアレ確認してくれ」

「アレ?なんだアレって?」


覚悟を、決めるんだ。


「良いから急いで外出て確認して見ろって!」


「お、おう」


声を張り上げ、賊は促されるままに外に向い一人が俺の側を通り抜け、

もう一人が横を通り抜けたと同時に、



俺は後ろからその賊の口を塞ぎ、隠していた小刀で喉を勢い良く掻っ斬った。



「――!……っ、ォ」


賊は声も出せず、身動きを少しすると口を塞いでいた手に血を吐き、絶命した。


「おい確認って、何も……っ!?」


すると外に向かった賊がこちらに向き、気付てしまった。


「テメェ一体何しッ」


言い終わる前に俺は死んだ賊が手に吐いた多量の血を、そのまま外に向かった賊に投げ、掛ける。


「っぺ!?」


賊はその血を目に受け、一瞬だが怯む。

その隙を逃さず、すかさず小刀を投げ捨て賊に向かって走り、瞬時に左手で胸倉を掴み、


「悪いね」


右手を賊の顎に添え、右足で賊の足を踏んで固定し


「……死んでくれ」


右手をそのまま、勢いに任せ振り抜いた。




「はぁ、はぁ……」


呼吸が乱れ、心臓がバクバクと音を立てる。

動悸を抑えようと胸を抑えるが一向に収まらない。いやそれよりも、だ。


人を殺した。


数日前までは自分には縁のない事だと思っていた事を、己が手で成した。

一人は首を掻っ斬り、もう一人は首を、正確には頚椎を曲げ殺した。

その現実に吐き気が猛烈に襲い、口から吐瀉物が出ようとする。


「っぷ……ッ」


耐えろ。耐えるんだ。吐いている暇なんて無いんだ。

動け手足頭身体――――!

それでも捻じ切れそうな胃と吐き気を無理やり抑え込み、口に広がった酸っぱいモノを床に吐き捨て、口を拭う。


「さあ、やるんだ。根性見せろよ俺」


自分自身を叱咤し、自身の頬を叩き気合を入れる。

そして油の入っている壷を倒し、更に死体とその周りに油を撒く。

それから男が携帯していた剣の一つを手に持ち、もう一つの剣は横にして柄を踏み足で固定する。

剣を左上に振り被り、自身の足を斬らない様、ゴルフのサウスポーの要領で斜めに振り抜く動作を数回繰り返し、


「はぁっ!」


気合を込め一閃。

剣と剣がぶつかり合い、剣からは肉眼でくっきりと確認出来るほどの大きな火花が発生し、


油に引火した。




「お、おい火だ!火事だ!」

「なっ!?なんでだよ、なんで火事が!?」


油の保管庫から火が発生し、瞬く間に小屋全体を火が覆った。

突然の出来事に賊達は動揺する。


「ゲホッ、くっそあの野郎!やりやがった!」

「なっ、お前蒙乍!?」

「おい一体こりゃなんだよ!なんで火事なんか起きてんだ!?」

「裏切り者が火を付けたんだよ!もう駄目だ官軍に降伏するって、言い出しやがっ……ゲホッゴホ!」

「なんだと!?おいそれ本当かよ!」

「ああ……っ!そいつはブッ殺したが、洞窟の中に居る奴らも同意したって言ってたんだ!この事が洞窟の中に居る奴に知られる前に、始末つけねぇと!早く殺してきてくれ!」


勿論これは嘘。賊の人数を減らす為に、同士討ちをさせる為の。


「あ、ああ任せろ!おいお前ら行くぞ!」

「おう!」


それだけ言うと複数の賊が洞窟方面に行こうとするが、


「おい待てよ」

「んだよ、急がねぇと手遅れになんぞ!」

「俺ぁ洞窟にずっと居残ってたんだがよ、そんな話聞いてねぇし、そんな事言ってる奴だって見てないぞ!」


その言葉に別の賊達が同じだと言わんばかりに俺の事を睨みつける。


「……っ」


――――やはり居たか。予想はしていたが、ここでボロを出す訳にはいかない。


「お前らから隠れて、コッソリ話してたかもしれねぇだろ!」

「なに?」

「ハッ!あの洞窟の中はな、中に食糧が置いてるだけで穴も深くねぇ。そんな場所でそんな事出来る訳がねぇんだよ!」

「なっ……」


言ってからしまった、と心の中で後悔する。

洞窟の中は迷路の様な造りでも、まして分岐するような道も無かった。


ただの穴蔵。そういうことだったのか。


「テメェ……」

「まさかこの火事、テメェがやりやがったのか」


賊達の目が一斉に俺を向き、その目は殺意や怒りしか見られない。

その目を見る限り、最早何を言っても信じないし無駄だろう。


限界だ。もうこれ以上は無理。


同士討ちまでさせたかったが、駄目だった。

失敗だ。もうどうしようもない。


――――ならばせめて、せめてもう少しだけ時間を稼ごう。


その時が来るまでの時間を。

俺はいよいよもって、肚を括り。



「っく、ははは……あはっ、ははははっ!」


狂ったように大笑いをしてやった。


「て、テメェ何笑ってやがる!」

「いやいやはやはや、今頃になってそれに気付くなんて、なんと馬鹿な奴らだろうって、ね」

「なんだと!?」

「ついでに言えばね、狼牙党なんて存在しないし蒙乍だって偽名。俺は賊ですらない」

「テメェ……じゃあ何者だ」

「お前ら屑共が言ってた、化け物女がいる集落の住民だっての。まだ解んないかな盆暗共?」

「なんだと!?」

「じゃあテメェ、あの女と初めから……!」

「ああ仲間だよ、俺があんた等に会う前からね。俺が血塗れのボロボロだったのも演義で、仲間の百人殺しなんてのも出鱈目。あんた等のアタマと仲間が死ぬのも計画の内。その上扇動までさせて頂いて退却して貰って、住処まで教えてくれたと来たもんだ」


そこまで言い、溜め息一つ吐いて言葉を区切り両手を広げ、ゆっくりと顔上げる。

顔には、嘲うような笑み。


「ありがとうね、お馬鹿さん?」


馬鹿にしたように言ってやった。


「テ、メェ……!」


賊達の顔がみるみる内に赤くなり、その手に持つ凶器に力が入っているのが判る。


「あんた等のアタマと仲間が死んだ理由とか、一応聞いとく?」

「この糞野郎! よくも騙しやがったな!」

「畜生許せねぇ! 殺してやる!」

「ま。興味ないか」


やれやれといった感じで首を振る。それが気に入らなかったのか、更に賊達の怒りが膨張していく。


――――さあ、もうやれるだけの事はやった。


深呼吸をし、剣を水平に構える。

今からやる事は単純明快。


「やるの?なら掛かっておいでよ、蛆虫共」


力のままにただ暴れ回る。それだけだ。


「死ねや!」

「おらァ!」


剣と槍を持った賊が二人、左右から同時に斬りかかって来た。

俺は身体を沈め体制を低くし、先に賊が突いて来た槍を避けその懐に潜り込む。


「ふっ」


そして隙だらけの腹にそのまま剣を横薙ぎにする。

赤い液体が噴出すると同時に右手で槍を奪い取り、剣を持った賊を槍の勢いに任せて胸を突き、殺す。


「はあっ!」


そのまま押し込むと賊はよろよろと後退り、仰向けになって絶命した。


「こ、この野郎!」


また賊が数人同時に斬りかかって来たが、俺は身体を回し跳び、身体の捻りを利用して向かって来た賊を一太刀で斬り捨て着地する。

――――習っていた演武が、ここで活きるなんて。

人生何が起こるか解らないもんだ。


「なんだコイツ!強ぇぞ!?」

「だ、だがこの数だ!俺達に勝てる訳ねぇ!」

「ああそうだね、俺は勝てないかもしれない。でもね屑共」


俺は息を深く吸い、そして言う。



「外道に堕ちた糞共がァ! 殺せるモンなら殺してみろ! 地獄への片道切符は安かねぇぞォ!」



大喝一声し、気合と共に賊を睨みつける。

賊が怯んだのも一瞬。賊が再び斬りかかり、俺はそれを応戦した。






「はぁ、はぁ……っく!」


一体どれ程の賊を斬り捨てたのだろうか。

辺り一面は血の海と化し、賊の死体がそこかしこに散らばっている。

最初は一太刀で殺していた賊も次第に二太刀、三太刀とせねば殺せない程に力の掛け方も疎かになっていく。

俺の服も身体も、切り傷と返り血の赤で統一されていた。


「な、なんなんだよコイツ……」

「もう百人近くもやられちまった!化け物かよ!?」


ああ、もうそんなに斬ったんだ。

死ぬ気でやれば何でも出来るって、本当だったんだ。

これがゲームだったら「お主こそ万夫不当の豪傑よ!」なんて言ってくるだろうが、生憎ここにはそんな奴はいない。


「畜生おいどうする!? このままじゃ皆殺しにされちまうぞ!」

「焦るこたぁ無ぇよ! あいつもう息も切れ切れだ、そろそろくたばるぞ!」


そうだ、ここまで頑張ったがもう限界だ。

剣だって持っているのがやっとで立っている事すらきつい。

体力には自信があったのだが殺し合いでは、話が別だったかもしれない。


「は、はは……も、駄目かも……」


ここまでやれたのだって奇跡だ。


――――頑張った。ここまでやったらもう良いだろう。


視界がグラグラ揺れる。疲労で脚がふらつく。

俺は頑張ったんだ。そろそろ膝を折って、力を抜いて楽になろうか。


……でも死ぬのは嫌だ。

宋老人も姜維さんにも、死ぬなって言われたのに、

泣いてくれるのかな、あの人たちは。

……泣くだろうな。自惚れだろうけど、あの人たちは泣くだろうな。


「それは、イヤだなぁ」


ならもう一寸だけ、もう少しだけでも頑張ってみようか。

醜くても良い。足掻いてみよう。

まだ希望はあるんだ。

顔を上げ、前を見よう。

剣を地面に突き刺し、倒れまいともたれ掛かる動作をした所で、


「……!は、ははっ」


そして視線の先にあるものに気付き、笑いが出る。

ああ……諦めなくて、良かったかも。


「俺の、俺達の勝ちだ」


そう確信を込めて目の前の賊に言ってやる。

ほら来たぞ。


「あぁ?何言ってやが――――」

「かっ官軍だ! 董卓軍が攻めて来たぞー!」

「なっ!?」


お前たちの、死刑執行人が。


「すげぇ数だ……! も、もう駄目だ、逃げろー!」

「おい待て逃げんな! たたか――――ガッ!?」


言い終わる前に、その賊の首が飛んだ。


「張文遠見参!お前らぁ、一人たりとも逃すなや!」

「応!」


サラシを巻いた女性が言うと、部下と思しき騎馬隊が駆けていく。



――――終わった。これで、全部終わったんだ。



俺は安心し力が抜けて、自分の身体が倒れていくなと思っていた。

瞼が急に重くなり、意識が遠のいて行くのを感じる。


ああ気絶するな俺。


そんな事を考えていると、ふと倒れた視線の先に見た事ある様な女性が映った。

姜維さん、こんな所まで……来てたん、だ……。


「ひなたさんっ!」


俺の名を叫びながら駆けてくるその姿に苦笑し、


俺は意識を手放した。




戦いは、終わった。



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