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41.5話 書簡

つなぎを投稿。


『春夏が過ぎ季節の変わり目となりますが御身、健やかで居りますでしょうか』


小声で読み上げる中、文書の初文はそんな書き出しだった。


『兗州豫州と違いこの天水を含む雍州は黄巾党の出没は比較的少なくではありますが、胡族の馬賊が若干ながらも目に付くことに多少驚き、急ぎ皆が住む集落を含めた要所に狼煙台を設置させて頂き候』


ああ、と微笑みながら頷く翁は先日董兵が集落中心部に台座を建設していたが、そういえばそうだったかと思い返す。


『以前処罰を下した男、中常侍孫璋と繋がりのあった件で朝廷より何らかの沙汰が下るかと思われましたが、奇妙な事に何の反応も寄越さぬ故董中郎将含む一同は戸惑うばかり。しかし其も束の間となりて、荒地と化していた諸豪族の土地を捕虜とした賊を使役しての屯田制度の下、耕作事業を初め流民難民の生活を一定水準で支えつつの雑務使役から……失敬。宋老人であらば仔細はもう御存知と筆す最中で思い、このまま訂正せず書かせて頂き候』


あの阿呆、と喉を鳴らす翁は頬を肘で支えながらも嗤う。


『しかし真に大変なのは私の今の生活。飛将軍と名高き呂布将軍、神速の張遼将軍に猛将華雄将軍と錚々たる顔触れの中武術指南を受け生傷が絶えない毎日です。特に呂布将軍と華雄将軍は野性的な勘を備えた武故教えを請う者としては中々に苦労して居ります。反面、張遼将軍は以前立合の折私が手を抜いたことに並々ならぬ恨を持っていた様で、半分虐め混じりの指南を受けている所です。なれど臧覇将軍や姜維さんの武技指南は懇切丁寧に行われるので思わず涙が出そうになる程。あと、以前話した高順という者が正式に私の部下となり……』


そこから先は私生活について語られ、時には将軍達と過ごした日々、時には董卓や賈駆を交えての政、天水での施策に戦場での出来事、姜維と過ごした日々について書き綴られており。宋老人、もとい宋典と呼ばれる翁は其々を目を細めて一字一句逃すまいと読んでいく。


「あの阿呆。以前に比べ誤字は極端に少なくなったが、間違えとる文字がまだ見つかるぞ。全く文を寄越すならばもう少しだな」


言いつつも、その表情はどこか嬉しさを漂わせている為説得力に欠ける。


『最後に、私と姜維さんから集落の皆に酒を贈ります。高くは無い酒ではありますが、日々を楽しく生きる糧になればと思い送らせて頂きます。どうか御身体いと壮健であれ。 神坂日向』


最後の文を読み終え、それを隣に避けると酒を呷る。

――――ああ。皆で頂いとるぞ日向。

天井を見上げる翁は杯を掲げ飲み干すとそれも隣に避ける。

そして先程とは打って変わっての、険しい表情。


「孫璋、か。懐かしい名を聞いた。しかしあの者に限らず張譲や趙忠、十常侍の者共が舐められたままで済ませるとは到底思えぬが……何を企んでおる」


白くなった顎髭を触って思案するもその意図は考えつかず、それは途中で止め部屋の隅まで歩く。

以前賊に焼かれた我が家であったが元の家と同じ様に修復され、すぐに完成と相成ったが、人夫が建設するにあたって気をつけていた事があった。

地面。

部屋の隅に石畳で閉じられた空間。

そこは火事があった時でも、人夫が家を建てる際でも、細心の注意を払って目に触れさせることもなく、今迄中の物に何ら影響を及ぼすことが無いよう細工をしていた。


「……狸共よ。儂は大人しく退いたが、もしあ奴に火の粉を振り掛ける事あらば、その時は……」


石畳を取り、中にある物を手に取ると険しい表情でそれを見つめる。

幾つかの文書と竹簡。

帝に見せる前に退けられた物。

十常侍の目を避け持ち出した、いざという時の切り札。

翁は文書を元の場所に戻し、再び石畳で穴を封じ外へと赴く。

今日も童達が駆け回り、大人達は少し上機嫌で今日という一日で過ごす。


しかし宋典の覚悟とは別にこれより後日、東中郎将董卓は天水のみならず、管轄外であった隴西と広魏の施政も兼任することとなる。




また東中郎将董卓、天水にて朝廷の者市場斬刑に処すの報は既に大陸各地に拡がっていた。市場斬刑の他にその施策と布令の内容は民から民へ、そして各郡の太守から辺境の刺史にまで拡がり、人々は是れを様々に捉える。

許子将より奸雄の評を受けた曹操。

江東の虎と謳われる孫堅。

義勇軍として名を馳せる劉備。

官軍率いる諸将、黄巾党を率いる諸将までも。


董卓に限らずその配下の者、賈駆や呂布、張遼に臧覇、華雄。その者達の名も拡がっていく。

そして徐々にではあるが、天水に二人の麒麟児在りと囁かれつつある。


然して黄巾党蜂起、未だ収束の目処立たず。

大陸の行末も見えず。


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