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2話 平穏から時代の波へと


俺がこの集落に来て早くも何日か経ち、最初は動揺こそしたが今では落ち着いて……

落ち着いて……

落ち……



「落ち着けるかァーッ!」



そう言いながら手に持った斧で薪を真っ二つに割り、割った薪が宙に回転していく。

はぁーと息を吐き精神を落ち着かせる。

……いかんいかん、冷静にならないと。


――――この3日で、情報はそれなりに得ることは出来た。


今は後漢184年。最近では賊の横行が目立ち日々脅えた生活を送っていること。

ただ、ここ天水近郊は他地域と違い治安が少なからず良いらしい。

……でも天水太守があの董卓と聞いた時は俺オワタとさえ思った。


――――董卓。以前三国志なる本を読んだ時に載っていた悪逆非道の暴虐君主。

贅の限りを尽くし、村祭りで村娘を牛裂きにし、正に酒池肉林の至ったと言われている。

もう自分の気に入らないことがあれば「頭蓋を抉れい」とか言って斧を投げつけるというアレだ。……いやソレはなんか違うか。

ともかく悪い印象しか思い浮かばなかった。それを宋老人に言ったら、


「何を言うとるんじゃ。ワシが初めてあの方を見た時は、優しそうで儚げな小さい娘だったぞ。そんなことをする様にはとても見えんかったが」


小さい娘ときたもんだ。それなんてロリ?と思ったが黙っている事とした。


それとこの時代、女が男より秀でているのは大して珍しくも無いらしい。

都では上の官位に有名な女性がいるし、為政を行う太守にも女性が複数いるとのこと。

……それなんて性転換?とも思ったがやっぱり口に出すのは止めておこう。色々面倒なことになる。


「あらよっ」


ちなみに俺はこの先行く宛ても無く、結局は宋老人の家に居候させて貰う事となった。

ただ、何も無しに住まわせて貰うのも気が引けるのでそれなりの手伝いはしている。

今はその手伝いの一つである薪割り。居候している家の傍で絶賛斧振り下ろし中である。

薪割りなんて初めてやったもので最初こそ木屑を出していたが、次第に上手く割れるようになった。


「ほいさ」


軽い掛け声と共に最後の薪を割り終え、軽い伸びをしていたところで宋老人が家から出てきた。


「ほ。なんじゃもう終わったのか」

「ああはい、取り敢えずは終わりましたよっと」

「早いもんじゃのう。この集落の若者ではもうちと時間が掛かるぞ」

「いやぁ、だって俺は薪を二個重ねて割ってますし」

「いやその時点でまず色々おかしいわい」


おかしいだろうか。一個ずつやるのは手間掛かるし時間掛かるし、こっちのほうが効率的だと思うけど。


「そもそも二個重ねようとしたら力もそうじゃが薪が倒れ……まぁ、ええわい。終わったなら他の者と一緒に魚を獲って来てくれるか?」

「お安い御用ですよっと」


ちなみに俺を助けてくれたこの宋老人、この二百人弱いる集落の人たちの代表、長らしい。

集落に居るほとんどの人が宋老人に好々爺という印象を持っているようだ。

しばらくすると中年のおじさんから若者を含め7人が集まりだし、魚を獲りに行く準備が出来た。


「おし、じゃあ坊主行くか」

「はいよおじさん」

「じゃあ宋爺さん、坊主借りていくぞ」

「おう、こき使ってやるといいわい」

「安心しな。足腰立てねぇようにこき使ってやるよ」

「何言ってんだお前、一昨日までカミさんに足腰立てなくされた癖によ」

「んなっ!何言ってやがんだ馬鹿野郎!」

「違えねぇ!おい坊主、お前ぇもコイツになんか言ってやれ!」

「強く生きて下さい」

「励まされる方がキツイわ!そしてその生温かいような視線を送ってくんじゃねぇーッ!」


ドッ と笑い声が起こり、周りで見ていた女の人たちも笑っていた。


川で大人たちと食べれそうな野草を探し、


「お兄さんこれは?」

「駄目だ。食べたら腹を下す」

「じゃあこれは?」

「笑いが止まらなくなるな」

「じゃあ、これ」

「それは……恥ずかしくて言えん」

「なんでッ?」


そして魚を獲り、


「あっくそ!そっちに魚行ったぞ!」

「ちっ外した、やっぱイキが良いなぁオイ!」

「グングニィールッ!」

「危なぁ!おい槍投げんな坊主テメェ!?」

「いやほら、見て下さいよ何か一気に3匹獲れてあらお得」

「んなことある訳うわホントだすげぇ!?」

「すげぇな坊主!」


ワシワシを頭を乱暴に撫でてくるおじさんや、驚いたように、笑いながら寄ってくるお兄さんたち。


……ああ、なんだろう。この感じは。


くすぐったくて、少し恥ずかしい。

他人に凄いとか、褒められても嬉しくなかったのに。

何故か、頬の緩みを抑える事が出来ない。


……ああ、そうか。


これが、嬉しいって感情なんだろうか。

今まで周りに褒められても嬉しく無かったのに、なんでだろう。


でもこういのは、なんだろ。


悪くない、と思える。


……このまま、こうやって暮らしていても、良いかもしれない。


「お、おーい!お前ら大変だぁー!」


でも、


「あん?なんだアイツ、今日は村番じゃなかったのか?」

「ああ、そのはずだがなんか様子が……」

「おーい、どうしたんだそんな血相変えて!」


人生はそう上手く行かないのが。


「集落っ、が!俺たちの、村がぁ……ッ」


「あん?」





「賊に襲われてるんだぁ!」


「――――…ッ!」



世の常だと、俺はずっと前から知っていたはずだ。

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