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19話 証言と嘘、明るみ

 ど ゆ こ と 。

なんか総合ポイントが前回の投稿の時より2倍以上になってるんですけど。ビビった。ホントにビビった。雨の影響、なのかなぁ。

感想ご意見、お気に入りに評価を下さった方々に多大なる感謝を。

では続きを投下。

上邦を発ち、天水から出陣して三日程経った。今はその天水に帰還し、新緑の臧旗と潤朱の張旗を靡かせ兵と共にゆるりと城門を潜る。先頭にいる薺さんと張済さんは凱旋をしつつも闊歩することなく、至って平常通りに振る舞い城下を兵と共に進む。


「睡蓮君、日向君はこのまま私達と一緒に月様に報告だ。付いてきたまえ」

「はい」

「了解です」


真名を預り俺だけ名字で呼ばせるのはフェアでなく。名前で呼ぶ様に言った薺さんと張済さんと共に城へ着いた時、馬から降り兵がその馬を厩に連れて行くのを見、俺達は改めて顔を合わせる。


「さて。神坂殿と姜維殿の言う通りならば、これよりどう転ぶか……」

「悪い方に転ばないとは思いますけどね」


肩を竦め臧覇さんと張済さんを見、それに二人は頷く。


「分かっているさ。君の言う通りにして置く」

「お願いします」


その言葉を皮切りに、俺を含む"五人"で董卓さんがいるであろう玉座へと赴く。

傍らに今回の鍵となる子を連れて。





「臧覇さん張済さん。報告は聞きました。賊の討伐、大義でした」

「勿体無きお言葉」


武官と文官が立ち並ぶ玉座の間にて座る董卓さんに、薺さんと張済さんは直立不動の状態から腕を胸の前に当て、頭を下げ礼をする。俺と睡蓮さんは玉座の入口付近で待機しているが、しかし跪いての包拳礼と違うけど、これも礼の一種なのだろうか。俺がそんな事を考えていると、董卓さんの傍らに控えていた賈駆さんが重々しくその口を開く。


「上邦の事は聞いたわ。……間に合わなかった様ね」

「申し訳御座らぬ。兵を予定よりも少なく連れ強行したにも関わらずこの始末。この張済、罰は何なりと受ける所存」

「右に同じく。董卓様、この臧覇。賊の討伐を成そうとも上邦の民を救えなかったこの身。甘んじて罰を受ける所存であります」


今度は二人が頭を垂れ神妙な面持ちでいると周りの武官文官は顔を合わせ、その内の一人、武官と思しき男の人が一歩出て礼をする。


「董卓様。確かに両将軍は間に合いませんでしたがあの状況の中、最善を尽くしたと言っても過言ではありません。まして賊の討伐も遂行したのです。罰など以ての外かと」

「それはどうであろうな樊調殿」


その言葉を否定するかの様に、文官側から声が上がる。

見る人が見れば肥満と言って良い体躯の持ち主、李儒という人。


「幾ら最善を尽くそうとも結果が結果。仕方ないとは言え上邦の兵と民を死なせてしまったのは事実。それに本人達も処罰を受ける事を善しとする様子。ここは両将軍の意を汲み取ってやるのが人道であろう」

「(人道など。どの口が……)」


睡蓮さんが口を固く結び李儒さんの声に反応する様に顔向けるが、ここは董卓さん達から死角としてもまずい。俺は睡蓮さんに落ち着く様その手を取る。途端、驚いた様に俺を見、頬に少し朱が差すが俺はそのまま手を握る。


「落ち着いた?」

「……ある意味、落ち着けないです」

「え、駄目か」


別の意味で駄目です、等と呟く睡蓮さんだが玉座から董卓さんの声が響く。


「李儒さんの言う事も最もですが、樊調さんの言う事もまた然り。今回の件、信賞必罰に則り民を救えなかった罪と賊を討伐した功とを相殺とし、両将軍に対する件は不問とします」

「はっ。有り難き幸せ」


声を揃えて言う二人にまたしても李儒さんが異議を唱える。


「董卓様、しかし」

「くどいわよ李儒。それとも貴方はそこまで二人に処罰を下して欲しいのかしら」

「いえ、決してそのような事は……」


しかし賈駆さんに横槍を入れられ、李儒さんの声が段々尻すぼみになる。

……今この時が良いだろう。

ここで切り出すのが一番。


「董卓様、僭越ながら申し上げたき儀が御座います」

「なんでしょう張済さん」


見計らった様に切り出す張済さん。この時だと思った俺の意を汲み取ってくれるとは、この人案外、空気を読んでくれるのだと感心した。


「実は、上邦の民の中で今回の件を詳しく知る者が御座います。お許し頂けるならば今この場に連れ、上邦で起こった事の詳しくを聞いて頂きたく存じます」


張済さんの言葉に場が少しざわめく。特に李儒さんと前に廊下で会った取り巻きの人が目に見えて動揺するのが分かる。


「報告では兵が全滅し民も殆どが賊の手に掛かったと聞きましたが、その中でも上邦で起こった事を詳しく知る者が居るのですか?」

「然り」

「分かりました。その民の話を聞きましょう」

「有り難き幸せ。……姜維殿、神坂殿。入られよ」


玉座の入口前に待機していた俺と姜維さんに声が掛かり、繋いでいた手を離し背中に居た子供を二人で挟んで玉座へと入る。睡蓮さんが少し残念そうな顔をしていたが、この際気にしない事にする。


「董卓様、こちらが今回の件を詳しく知る上邦の生き残りです。名は」

「法孝直、といいます」


睡蓮さんが董卓さんに礼をすると共に俺達が挟んでいた子が両手を前にし、礼をして名乗る。その名に今度こそ場がざわめき、董卓さんと賈駆さんが互いに顔を見合わせて驚きを露わにする。


「法孝直って、その子」

「上邦を襲った賊の砦で保護しました。臧覇さんから聞いたのですが、賈駆さんが幾度か書簡で士官の誘いをしていた、とか」


賈駆さんに目を向け、そして俺と姜維さんの間で礼をするその子に目を向ける。

法孝直と名乗った、俺より少し年下であろうその子に。


法正、字を孝直。


俺が知ってるのは劉璋に仕え、後に劉備に仕える事となった謀臣ということ。

その知を揮って定軍山を奪取し、それから魏の曹操は「余は天下の俊傑をこの手にした。なれど彼を手中にしていないのがげにも悔やまれる」と述べるほどに。

一説では性格が悪く刑罰にも私情を挟むが、その才覚が故にあの諸葛孔明でさえ罰する事が出来ず、そして軍事の面に置いては劉備と法正こそが水魚の交わりだった、という説もあるほど。


……どうして上邦に居たかは、俺も詳しくは知らない。

なんで女の子なのかももう知らない。というか、この世界では今更だろうけど。


「それでその法正が知ってる事とは、何?」

「賊が上邦を襲撃した際、城門を守っていた董卓様の兵の一部が城門を開け賊を引き入れたのです」


法正さんの言葉に文官と武官は騒然とし董卓さんは目を見開き、賈駆さんは瞬間的に薺さんと張済さんに向く。


「薺、張済、アンタ達の伝令ではそんなこと一つも」

「済まない詠。事が事だ、やたら触れ回らず今この時まで伏せておくべきだと私が判断した」

「……ッ。そう、確かにその判断は誤りとは言えないわね。法正、続きを」

「はい。城門を開けた兵はそれを阻止しようとした兵と交戦に入りましたが、賊がそのまま城門を潜り雪崩れ込んで守兵は全滅し、その為住民の殆どは殺され私を含めた女、子供は賊に攫われました。……私は寸での所で臧覇将軍の兵によりその身を汚されずに済みましたが、他の人はそうは、いきませんでした」


そこまで言い終え思い出したのか、己の腕を抱き締める。睡蓮さんがその両肩に宥める様に手を置き董卓さんはそれを見て目を伏せる。


「……それと、私が攫われる際に偶然聞いてしまった事なのですが」

「まだ何かあるの?」

「はい。連れ攫われる際、城門を開けた兵同士が話していた事です。聞こえ辛くて断片的にしか聞こえませんでしたが……」

「断片的でも構わないわ。何を聞いたの」


賈駆さんが急かす様に聞き、文官と武官も皆が法正さんに注目しその言葉を待つ。法正さんはゆっくりと口を開き、その言葉を紡ぐ。

鍵となる、その者の名を。



「終わった、言われた通り、……早く、……李儒様、と」



董卓さんが、賈駆さんが、文官、武官の人達総てが。李儒さんへ視線を向ける。

李儒さんは周りを慌てた様子で見回し違う、知らん、と呟き狼狽する。


「でっ出鱈目を言うな! 貴様、有りもしない嘘を申しおって! ここをどこだと思っている、董卓様、違います、私には身に覚えの無い事です! 貴様ぁ、ここを何処だと思ってその様な偽りを!」

「黙りなさい、李儒」


賈駆さんが喚く李儒さんを制止するが尚も喚き、違う、身に覚えが無いと散らす。


「法正、その言葉を聞いたという証拠は」

「申し訳ありませんが証拠はありません。強いて言うなら、それを聞いた私の耳と既に死んだ賊の頭……その賊将が何か知っているかもしれませんが、既に……」

「そう。確かに、会話を聞いたという証拠を出せ、というのは無理があるわよね。李儒、何か申し開きはあるかしら」

「しっ知らん! 私は何も知らん! 貴様、卑しい身分の分際で恐れ多くも董卓様を欺き私を陥れようとするつもりか! 撤回しろ、その様な誰も信じぬ戯言を早く撤回をせんか!」


しかし法正さんは目を瞑って黙り馬耳東風で聞き流す。李儒さんは何も反応をしない法正さんに言っても意味が無いと判断したのか、再び違う、違うと喚く。

賈駆さんはぐるりと文官と武官を見渡し、皆に意見を求める。


「ここはどうすべきか。皆の忌憚無い意見を聞かせて頂戴」

「恐れながら賈駆様。その者が言う意見を鵜呑みには出来ませぬ、兵の一部が城門を開けたという事実は他の生き残った民から聴取すれば確認が取れますが、兵の会話は聞き間違いという可能性も捨て切れず、李儒殿を悪人が如き扱いをする訳にもいきますまい」

「しかし報告を聞くと上邦を襲撃した賊は城門が開くと合わせた様に雪崩れ込んだと聞く。それも強行軍をした張済将軍、臧覇将軍よりも前にだ。明らかに手引きした者が居たと見て良いだろう。無論李儒殿を疑う訳ではないが、もしそれが事実なら放って置く訳にも」

「然り。なれど――――」


武官と文官の意見が飛び交い、どうすべきか意見が複数出る。

李儒さんは意見を言う武官、文官を交互に見て行くが、自分が不利になる様な意見を言う人には睨むような視線を向けさえしている。

そして意見がある程度飛び交い、一人の文官が一歩前に出、董卓さんに礼をする。


「恐れながら申し上げます。その者が申した事は真か否かは図りかねますが、今の時点ではどうとも言えませぬ。ここは時間を儲け、委細調べるべきかと」


その言葉に董卓さんは数度軽く頷き、瞑っていた目を開けその声を発す。



「今回の件は徹底的に調べ、吟味していくものとします。李儒さんには直に沙汰を出しますのでお待ちください。……それまで、屋敷にて軟禁を言い渡します」



その言葉を聞いて俺と姜維さんは気が抜けた様にゆっくりと息を吐く。


「お待ちを! 私には何の罪も御座いませんのに軟禁とはあんまりです! おのれ、貴様覚えていろ! 許さぬ。絶対に許さぬ! 泣いて乞うても許すものかぁっ!」


李儒さんは勿論、董卓さんの言葉に納得出来ず異議を言い法正さんに恨みがかった言葉を投げるが何の反応もしない。

董卓さんも賈駆さんも俺達も。何一つ反応することはない。

それから直ぐに李儒さんは玉座の間から連れ出され、屋敷にて軟禁の旨は城内へと瞬く間に広がっていく。





「まさかこんな事になるとはね」


董卓の執務室の中にて椅子に座る董卓とその横に立つ賈駆の前に臧覇、張済、張遼の三人が並ぶ。臧覇と張済には先程の様な堅さは無く、臧覇に至っては腕を組んで壁に背をもたれている。


「ウチも驚いたわ。急も急、あんな展開になると誰が思うねん」


賈駆の言葉に張遼も呆れた様に溜め息を漏らす。しかし表情はどこか明るく、嬉しそうな印象さえある。


「ま。結果的に良かったかもしれんなぁ。詠は色々調べとったんやろ?あの李儒っていういけ好かん男のこと」

「まあね。以前から収賄や土地の不正施策とかで目を付けていたのは確かだし。でも下手に刺激して他の豪族と何か画策されたら厄介だと思っていたけど……これで遠慮なく堂々と潰せるわ。アイツに関わってた馬鹿な奴らも含めてね」

「詠ちゃん、凄く嬉しそうだね」

「そりゃそうよ。これでボクを悩ましていた資金不足の解消も見込める訳だし、何より姜維に続いて法正が今この城に居る訳だし。上手く行けたら引き込めるかもね」

「で。その姜維の嬢と神坂と……法正、って言うか。あの三人はどうしたん?」

「あの者達なら、何やら部屋で話し込んでいましたぞ。内容までは存じませぬが」

「ふーん、そか」


張済の言葉に張遼は適当に相槌を打つが、その顔は何か企んでいる様に見えた。張済はそれを見てか、苦笑を浮かべ「私まで厄介な事に巻き込まれません様に」と心の中で呟いておく。


「しかし、法正が兵の会話まで聞いていたのは僥倖よ。それが今回の決定打になったわ」

「ああ、詠。悪いがあれは嘘だ」

「……は?」


思わず呆けた顔する賈駆に臧覇は喉を鳴らして笑い応える。


「兵の話を聞いたというのは嘘だ。あれはひな……神坂君と姜維君の入れ知恵でな、法正君にああ言って貰ったんだ。まぁ、私の兵が彼女を保護したのは事実だがね」

「ちょ、ちょっと待って。嘘って……あの二人まさか」

「ああ。そういうことらしい」


臧覇はニヤリと笑い、張済は咳払いをして臧覇の代わりにその先を述べる。



「例え嘘でも叩けば煤が出て調べが入れば事実が表に。他の不正も明るみに出て一石二鳥万々歳だいえーいざま―見ろ、だそうです」



これは神坂殿の言葉ですがね、と張済も喉を鳴らして笑うが董卓と賈駆、張遼はポカンとし、しばらくして呆れた様に笑った。


なんかやっつけ感半端無くない?

なんてことは思っても言わないのが大人だよ!……いや勿論、やっつけにしたつもりは無いですハイ。でも今回はそう思われるかも。

感想ご意見、お待ちしております。

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