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SWitch  作者: 夏岸希菜子
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鉢合わせ‐1

 打ち付ける雨が刺さるようで痛い。港に着いた途端に、急に雨脚は強くなった。

 船頭は運が良いなんて言ったが、彼らの到着を拒むかのようなタイミングだった。船での移動中に降るよりはマシなのかもしれないが。

「じゃあね、船頭さん!」

 雨の中グレイスが港に向かって大きく手を振る。ウィトで船を降りたら、しばらく陸路に切り替える。船頭とはここでお別れだった。

 ウィト付近で、これまで下ってきたゼイトノール川に、メリノ川が合流している。川の流れが変わるため、ここから先は陸路で移動するのが安全なのだ。

「おう、またな嬢ちゃん。今度会ったらまた利用してくれよ!」

 雨の音に紛れて、船頭の声がかすかに聞こえた。

 急いで船着き場近くにある待合室と思しき屋根の下に避難したが、既にまんべんなくそぼ濡れている。張りついた服が不快だった。服を搾り乾燥させつつ、雨脚が弱まるのを待つ。

 荷物は無事だろうか。試しに包みを解いて見てみるが、中までは染みていない。それを確認し、タオルを一枚手に取った。

 まだ昼過ぎのはずだが、目に映る空は厚い雲で隙間なく覆われていて暗い。

「止みそうにないな」

「せっかく綺麗にしたのにびしょ濡れじゃない!」

 取り出したタオルで、グレイスの髪を拭いてやる。彼女は不機嫌な表情のまま、おとなしく拭かれていた。髪や衣服どころか、包帯にまで雨は染み放題だった。屋内に着いたら、包帯を取り替える必要があるだろう。

「このまま待っててもダメだね。ひとっ走り行ってくるよ」

 ずっと空模様を見ていたギルが、いつまでも弱まらない雨に見切りをつけた。

「傘をかりて戻るから、ここで待ってて」

 どしゃ降りの雨の中、ギルは宿を取りに行ってしまった。

 待っているうちに、人影が現れた。背が高く、がたいの良い男で、歩き方からしても、ギルではないようだ。雨宿りに来たのだろう。

「ひでえ雨だなおい……あ?」

 やはり現れたのは、いかにも力自慢といった風体の髭男だった。黒い短髪からも髭からもぽたぽた雨を垂らしながら、二人を見て、何故か顔をしかめている。

 そういえばグレイスが見当たらない、と思ったら、アズを盾にして隠れているようだ。背中の裾が引っ張られている。無意識なのか、力を入れて強く握りしめているらしく、首が絞まった。苦しい。げほっ。アズはむせた。

「グレイス……苦しい」

「ごっ、ごめんなさい!」

 手が離れ、喉が開放される。

「なんだ、久しぶりだな。随分と若造のクセにと思ってたが、そうか、すげえな。手懐けたって訳か」

 目の前の出来事を意にも介さず、感心したように彼は言った。

「……誰だっけ?」

 どこかで見覚えがあるような気がする。アズが耳打ちして問うと、グレイスが困り顔になった。

「あたしを殺しに来た人よ」

 嫌な予感がした。

「今、誰とか言ったか? 忘れちまうとは可哀想にな。何を隠そう、知る人ぞ知る、魔性退治屋ウェイン様だ! 今度は忘れんなよな」

 そういわれてみれば、救出の際やたらとぶつくさ煩いのがいた覚えがある。ほとんど聞き流したので話の内容はさっぱりなのだが。

「なんつうか、最近じゃ魔性退治の依頼もメッキリ減っちまって稼ぐのも大変だよなあ」

 アズのことを同業と勘違いしたまま、一方的に世間話に花を咲かせる。

「ちまちまと生け捕りなんかじゃなく……こうスカッとするような依頼がありゃあなー」

 彼はどうやら魔性を殺すのが好きで、最近生け捕りの依頼ばかりになっていることに不満なようだ。人間を殺している訳ではないので一般的に問題はないのだろうが、アズやグレイスにしてみれば大問題だ。

 グレイスの正体を知っているというのも厄介だった。この調子でぺらぺらと言いふらされたら、たまったものではない。ウィトには長居しないほうが良いだろう。

「そういやお前ウィトの後はどこか行くあてでもあんのか? オニテュでも魔性は売れるけどよ、実はケルティア地方の魔性はザンヴァじゃ高く売れるらしいぜ」

 ケルティア地方はセロム北西部にある。国土の四分の一を占め、隣国エクサーラムと接している。オニテュといえばケルティア一の街であり、トトナやアズの出身地エラータ島もケルティア地方に属する。

 一方、川や湖を挟んで東の地域が国土の三分の一を占めるアーデルク地方で、ウィトはこちらに属する。

 残りが、南部に位置するのが王都ザンヴァを擁する豊かな地域、ラキニム地方だ。

 ちなみに、隣国のエクサーラムでは魔性の力が強く、人間と同じように暮らすらしいと噂に聞く。ケルティアの魔性が高く売れるというのが、地域性なのか、偶然なのか、定かではない。

「捕まえて売るなんてオレの性にゃあわねえんだがな、知ってて損はないだろ? 食うに困ったら金も必要だしな。キレイサッパリ殺して金まで手に入るのが一番なんだがな」

 それから、しばらく魔性退治屋の誇りやら何やら長々と語り出し、気がついたらもうそろそろ時間だ、といって退治屋ウェインは去っていった。


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