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SWitch  作者: 夏岸希菜子
14/19

途中下船‐4

「他に泊まる場所が見つかったなら、気にしないで行っといでな」

 帰宅した船頭夫妻は、少々心配しながらも快くアズたちを送り出した。久しぶりに夫婦水入らずになれるなら、わざわざ引き留める理由もないだろう。

「四、五日はこっから離れねぇでるから、出るときにゃ寄ってけよ。それからな――」

 家を出しなに、船頭がアズに耳打ちした。

「ありゃぁ人喰い村の娘だ、深く関わり合いにならんのが身のためだぞ」

 一瞬アズはノラに目を遣ってしまったが、ノラは真っ当な人間にしか見えない。たとえ魔性であっても、かなり人間寄りの魔性だろう。

 グレイスがその様子を見ていて、興味深げに聞き出そうとする。

「アズ、何の話? どうしたの?」

「や、なんでもない」

 おそらく、これはただの偏見だ。わざわざ人喰い鬼を話題に出して事を荒立てる必要はないだろう。

 ノラの村にまつわる噂について、アズは何も言わないことにした。


 ◆

「この道を抜けるんです」

 村の外れまで来てノラが指し示した先は、よほど道とは思えない空間だった。木々が生い茂り、しばらく進んでも目に写る景色は密集した樹木しかないであろう。ただ、よく見るとそこだけ生い茂る草木が薄くなっている。人が通る跡だろう。一応道として機能しているようだ。

 ノラを先頭に、四人でぞろぞろと道を行く。三十分程度進んだところで開けた土地に出た。

 たいして距離も離れていないのに、これほどまで景色が変わるものだろうか。イコルに比べ、建物は古く、穴が空いている。人は疎らに見かけるが、閉鎖的な集落らしく、余所者(よそもの)を警戒するように姿を隠してしまう。

 ノラは一軒の家のまえで立ち止まり、(きし)む扉を開けた。中は仄かに明るいが、雨避けの屋根と衝立(ついたて)のような壁があるだけで、半分は外と変わらない。窓枠には何もはまっておらず、玄関は吹きさらしだった。

「本当に何もなくて、すみませんが、ここからはお二人はこちらでお待ちください」

 グレイスとギルは治癒に関係ないので別室待機だ。

「えぇ、またぁ?」

 やはりグレイスは口を尖らせるが、ギルにおとなしく付いて行く。


 ◆

 アズは、小さな家の一室に通された。

 アズがノラに案内された部屋の窓は、木で造られた雨戸で塞がれていたが、切れ切れにある隙間から幾筋(いくすじ)もの光が細く漏れていた。その光の先に、初老の男女の背中が見える。

 彼らの肌は酷く(ただ)れていた。それほど病状は悪くないが、見た目は衝撃的だった。露出している腕や顔の大部分は赤黒く引き()れている。場所によっては赤紫に変色してしまっていた。薄暗い森の中で出会ってしまったら、事情を知らない人間が彼らを人喰い鬼と見間違えてもおかしくない。

 しばらく無言で立ち尽くしていたアズに、この二人が両親なのだと俯きながら小さな声でノラは言った。


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