女王誕生編6
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ある日、《ヴィオリウム》で儀式用の装飾品を仮で作っていたユースティスの元にニョルズが知らせを持ってきた。
「は?パーティー?」
「はい。ユースティス様がお戻りになられ、我が国に神が復活したことを貴族達に知らせるためのパーティーを開くと王が…」
一瞬、面倒だと思ったユースティスだが宝石の在処を調べるには持ってこいだと判断した。
「あー…そう……。まぁ、良いよ。フレイア、ドレスの準備は?」
「全て整っています」
「わかった。兄には出席すると伝えておいてくれ」
「畏まりました」
ドレスの準備が出来ているのかをフレイアに聞けばばっちりだった。と、言うことはだ。フレイア達は初めから知っていて自分は当日お知らせ!?とまたしてもミレイユ家に嵌められたユースティスであった。
夜になりパーティーが始まった。ユースティスは暗い青のドレスをまとい、大きい青と黒の宝石を身に付けて登場。ユースティスの存在を知る者はユースティスに群がり、知らない者は賎しい者を見る視線を向けた。そして、王と王妃が登場する。それに一度、会場は静まった。
「今宵のパーティーは我が妹、ユースティスの帰還祝いだ!存分に楽しむが良い!!」
オーケストラによる音楽が流れ、パーティーが始まった。古参の家臣達はユースティスに言葉をかける。
「ユースティス様!ご無事にご帰還出来て何よりです!!」
「ハーゲンか、久しいな。……やはり、年には勝てぬか…」
「ユースティス様!!!!」
当時、まだ文官であったハーゲンはユースティスのイタズラの被害者でもあった。ユースティスは昔を思いだし、後退したハーゲンの頭を見て哀れんだ。それにハーゲンは叫んだ。
「ガハハハ!!ユースティス様はお変わりありませんな!!」
「お前も変わんないな……ローカル……」
ハーゲンとのやり取りを見ていた武官のローカル。若かりし頃はユースティスの被害者だった。ローカルは声が大きいことでも有名でユースティスはローカルが来てから耳をふさいで苦笑した。
「ユースティス様、ご無事で何よりですわ」
「セーシェル殿もお変わりないようで。相変わらずお美しいですね」
王族としてあるまじき行為をしていたユースティスだが、セーシェル夫人が来てから態度は一変。紳士的な振る舞いをした。
「…………本当に相変わらずですな。ユースティス様は」
「……あぁ……」
女性と男性の扱いの違いは昔から変わらずユースティス本人であるのを認めざる終えなかった。特に老臣(被害者)達は。
「まぁ、ユースティス様。それは国宝の【星と大海の雫】《ヴィオリウムステラ》ではありませんか?」
「流石、セーシェル殿!確かに《ヴィオリウムステラ》だよ!!だけど……これは偽物でね…。本物は私が行方不明になってる間に消えてしまったらしいんだ」
宝石に目がないセーシェル婦人が目敏くユースティスが着けているネックレスを当てた。それに苦笑しながら答えるユースティスに驚くセーシェル夫人とローカルとハーゲン。
「では、それは……」
「私が作ったレプリカだよ。細かいところまで再現してあるから本物と変わりないさ」
「国宝は全てユースティス様の物。それを盗むなんて言語道断!!私が必ず見つけだして差し上げます!!」
「……お前が頑張ると録なことないから動かなくて良いよ…ローカル」
「そんな!?」
犯人探しをしようとするローカルをユースティスが止めた。昔からローカルが動くと録な事がないのだ。逆に被害を食らいかねないユースティスはため息。さりげなくハーゲンも頷いていた。
「しかし……他に《ヴィオリウム》と《ヴィオステラ》から盗まれた物はおありですか?」
「……儀式用の装飾品が全部無くなってしまってるんだ。これでは儀式が何も出来ない」
「「「!!!???」」」
ハーゲンがユースティスから聞き出した言葉にユースティスを知る者が一斉にユースティスを見た。ユースティスは本当にどうしよう、と困った顔をしている。普段は毒を吐くユースティスだが、こう言うときは本当に素直なのでそれが真実であると実感した。
「ユースティス様」
「………誰?」
そんな中、ユースティスに声をかける青年がいた。ユースティスは見たことのない顔に首を傾げる。
「ユースティス様、それは私の息子でラフィーネと言います」
「あぁ、サリザンの息子か。何処と無く似ているな。……将来、サリザンみたいになるなよ。心が狭いと私に潰されるからな」
「恐怖心を与えないでください!!」
「だ、大丈夫です!!父上!!」
老臣の一人であるサリザンが言うとユースティスはまじまじと息子のラフィーネを見た。ユースティスのニヤリ顔にラフィーネは一瞬怯えるがサリザンも慌てていたのでラフィーネが落ち着かせた。ユースティスの冗談は冗談なのかわからない。
「コホン。本題に入らせてもらいます。《ヴィオリウムステラ》が無くなったのは事実なんですね?」
「あぁ。私がいない間に無くなったと見ている。あの離宮の宝石の間には昔、盗難防止用の結界を張っていたんだ。それがいつかはわからないが破られていた。正確には誰かが解除した、と言うのが正しいな。あの頃は5歳にも満たない子供が高度な結界を作ると煩かったから雑魚でも解ける物だったんだ」
仕切り直したラフィーネ。ユースティスが保管状態を言うとハーゲン達は顔をひきつらせていた。
「流石、ユースティス様です。実は…一部、儀式用と思われる品が市場に出回っていましたので回収させて頂きました。後日、ユースティス様に謁見を申し込み確認していただきたいのですがよろしいですか?」
「了解。謁見には必ずフレイアとフレイが同行する。構わないか?」
「はい」
「お前の慧眼は万物に通ずる。誇るが良い」
「ーーーッ!!」
ラフィーネはユースティスに報告した。ラフィーネ自身、《ヴィオリウムステラ》を見たことは無い。だが、それだけはわかった。ユースティスはそれを信じてラフィーネの謁見を許可した。今まで誰も信じていなかったラフィーネの鑑定眼をユースティスが認めたことにラフィーネは驚き、嬉しそうな顔をした。
「ちょっとあなた!!」
「…………………………………んだよ…」
「まぁ!!なんて口の悪い!!私はリーリス家の長女アンダルシア。財務大臣タリスの娘ですわ。ここは貴女みたいな庶民が来るような所ではありませんわ!!さっさとお消えなさい!!《ヴィオステラ》と《ヴィオリウム》が穢れますわ!!」
無駄に派手な女性がユースティスに突っかかってきた。ユースティスは面倒そうに女性を見るが、女性から発せられた言葉に会場が一瞬にして空気が凍り付いた。
「…………………………………………」
「「「…………」」」
「ユースティス様、怒りをお鎮めください。愚図の戯れ言にございます」
「そうです、ユースティス様。ユースティス様がこの様な愚図に体力をお使いになる必要はございません。躾のなっていないメス豚はそれ相応の小屋に突っ込んでおきますわ」
ユースティスの顔が段々笑いを形作っていくのをフレイとフレイアが止めた。凶悪な形相になりかけてるユースティスは寸前でなんとかフレイの言葉で押しとどまった。
「なんですって!?あなた何様のつもり!?」
「跪け!!愚か者が!!このお方は<ユクレシア>を守護する現人神【星と大海の神】《ヴィオリウムステラ》様であるぞ!!貴様らのような人間どもと同じにするでないわ!!」
「「「!!??」」」
「そんな話誰が信じるとでも?神は空想のもの。ただ崇められる為に居るものですわ」
高飛車と自己中で有名なアンダルシア・リーリス。それが誰よりも逆らってはいけないユースティスに逆らい、暴言を吐いた。ユースティスの正体をフレイがばらしても何も思わないらしい。回りの人間は真っ青になった。25年前、王族に現人神が降臨したのを国民に報じている。姿を見たことなくても話は聞いているはずだ。それを知る親世代は真っ青になるしかなかった。
「アンダルシア!!ユースティス様になんと言う暴言を!!今すぐ謝りなさい!!」
「お父様!私は間違ったことはしていませんわ!!お父様もそう仰られてたではありませんか!!」
「そ、それは……!」
「誰かこの無礼者を追い出せ。タリス!王族に対する躾がなっていないな。お前の家はどうなっている。我が国に泥を塗るつもりか」
アンダルシア・リーリスの親であるタリス・リーリスが顔を真っ青にして謝罪する。しかし、アンダルシアが余計な事を言いユースティスの機嫌は一気に降下した。
「滅相もございません!!申し訳ありません!!ユースティス様!!アンダルシア!ユースティス様に謝りなさい!!」
「嫌ですわ!!こんな下民風情が王女な訳がありません!!陛下!!この女は偽者です!!」
ユースティスの死の視線に堪えられないタリスは土下座した。しかし、アンダルシアは謝るどころか何を根拠にユースティスを否定するかはわからないがシューナッツに直訴した。
「……私は偽者だとは思えないが……仕方ない。ユースティス、何か昔話をしろ」
「あ?」
「してください。お願いします」
シューナッツは面倒そうな顔をしてユースティスに話を振る。が、偉そうな態度が気に入らなかったユースティスの低い声にシューナッツはすぐに謝った。
「面倒だな……。そうだな……あれは私が4さ」
「待て待て待て!!!!お前、あれを言う気か!!??」
「えぇ。9歳になった兄上がお」
「それ以上は言うなー!!!!他の話は無いのか!?」
面倒臭がったユースティスが話をしようとすればシューナッツが遮った。流石におねしょの事は言われたくなかったらしい。てか、どうして知っているんだ!!とシューナッツは思った。
「他?………ラクシェの鎧に悪戯書きしたとか」
「!?あれはユースティス様だったんですか!!!」
「珍しく居眠りしてたニョルズの顔に悪戯書きしたとか」
「!?ユースティス様!!!」
次々と暴露されていく過去話に被害者は驚いていた。でも、やるのはユースティスしか居ないと思っていた老臣達がいた。20年越しの真実にやっぱりとしか表現しようがない。
「後は………フレイとフレイアを連れて魔物の森に行ったことかな。珍しくニョルズが騎士団と一緒に迎えに来たから驚いた」
「………あれは大騒ぎになったな」
過去最大の大事件は家臣一同の記憶に鮮やかに記憶されていた。あの大事件を知るものは全員遠い目をした。
「あの時は肝が冷えました」
「寿命が縮む思いをしましたよ」
「結構楽しかったですよ」
「あの森にもう一度行きたいです!!」
「じゃあ、行くか」
「「「ユースティス様!!!」」」
「ちぇー」
あれはもうこりごりだ、と口を揃える老臣達。しかし、フレイとフレイアに至ってはうれしそうだった。二人が行きたいと言えばユースティスが悪のりする。それに家臣一同大反対した。それに膨れるユースティスがいた。
「これで信じられるか?リーリス家の息女よ」
「ッ!!信じられませんわ。大体、陛下と似ていないじゃないですか」
頑なに信じようとしないアンダルシアにシューナッツも馬鹿のレッテルを貼った。王宮でこれだけの事をしでかしてユースティスを否定するアンダルシア。これにはシューナッツもため息をついた。
「……先王について勉強していないのか?我らが父は側室が20人いたんだ。その末がユースティスになる。タリス、お前の家の教育はどうなっている?」
「申し訳ございません!!陛下!!アンダルシア、お前はもう喋るな!!恥さらしめ!!」
「お父様!?」
シューナッツからも指摘され顔を真っ赤にして土下座するタリス。大勢いる貴族を目の前に大恥をかかされタリスはアンダルシアに怒りをぶつけた。アンダルシアはタリスに怒られるとは思っていなかったようだ。
「この方は確かにユースティス様だ。こんな掟破りな破天荒さはユースティス様しかいない!!何も知らぬお前が口出しをするな!!!」
「酷いですわ!!お父様!!」
タリスは然り気無くユースティスを罵っているが全くの嘘ではないため全員黙認した。全否定されたアンダルシアは怒りの表情を強め、ユースティスの頬に張り手をかました。それに会場は静まり返り、アンダルシアの怒声が響く。
「お姉様が本物のユースティス様に決まってますわ!!あなたなんか偽者よ!!今すぐ消えなさい!!」
「…………………」
「ユースティス様!?大丈夫ですか!?誰か冷やすものを!!」
驚いた顔をするユースティス。叩かれるとは思っていなかったのだ。フレイアが魔法でユースティスの頬を冷やすが足りない。近くにいたメイドに言うとメイドは慌てて会場を後にした。
「リーリス家にユースティス様と同い年の娘はいないはずです」
「あぁ、わかりました。王権を我が物にするために偽者を用意したのですね!」
「悪知恵だけは働きますね、タリス公」
「アンダルシア嬢は無礼だな」
「ユースティス様のお顔に汚い紅葉を作りましたね」
「「「万死に値します」」」
突如会場に入ってきた5人組。言いたい放題である。美女三人と美人二人は優雅な足取りでユースティスに近付き、跪いた。
「お久しぶりでございます、我らが主様」
「ご帰還の時をお待ちしておりました」
「我ら一同、ユースティス様の邪魔をするものはすべて排除いたします」
「ユースティス様、双子共々我らをお使いください」
「我らはユースティス様の下僕でございます」
一人ずつ言葉を発する五人組。ユースティスはメイドから氷を受け取り頬を冷やしながら五人組を見た。彼らの顔には静かな怒りが浮かんでいた。
「《ベルモット》……手加減はしてやれ」
「手加減?」
「ユースティス様に手を上げた者にですか?」
「ありえません」
「リーリス家はユースティス様に手を上げた罪で全員処刑です」
「ユースティス様を侮辱したものに容赦をする意味がありません」
《ベルモット》と言われた5人組はユースティスに忠実でユースティスに手をあげるものは許さないのがモットー。むしろ排除するのが暗黙の了解。でも、ユースティスの言葉なら仕方なく手を出さない《ベルモット》。タリスとアンダルシアの寿命は少しだけ延びたのだった。
「……偽者に会ってみよう。タリスとアンダルシアは牢に入れておけ」
「「「はっ」」」
ユースティスから命を受けた《ベルモット》はすぐに実行。騎士達にタリスとアンダルシアを捕らえさせ投獄した。
「《ヴィオリウムステラ》の行方ですが……」
「それはラフィーネに任せる。お前たちは我が下で動けばよい」
「「「わかりました」」」
《ベルモット》の一人が《ヴィオリウムステラ》について言おうとしたが、ユースティスに却下された。《ベルモット》はそれに従うのみ。ラフィーネに仕事を取られ悔しそうにしていた。
「兄上、今日はもうお開きにしよう。流石にこのままパーティーは無理がある」
「そうだな。また後日、仕切り直しだ」
ユースティスの提案を受け入れたシューナッツの一言で解散となった。この時、貴族の大半がシャーリーの首にある《ヴィオリウムステラ》に気が付いていた。そしてある憶測が飛ぶこととなる。