隣国騒動編8
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ユースティス達が温泉から戻ってきたのはなんと一年後だった。これには家臣達も驚いた。実際に温泉街に居たのは二週間だけ。後は各国の情勢を知るためにあっちこっち行っていたのだ。土産を大量に持って帰ってきた二人に後にセルジュが言い出す切っ掛けとなるのだった。
「む、これはサクリアローズではないか」
「そうなんだよ!!久々に大氷神殿に行ったら咲いてたんだ!!あれは感動したね。あの時、絶滅したと思ったからさ」
水晶の花を特殊な方法で固めたアンティークをサリシェが見つけた。それを作ったのはユースティスだが、花は野生。それを見たセルジュが騒いだ。
「母上!!それ欲しい!!」
「これはセルジュの為に採ってきたんだ。はい」
「ありがとう!!母上!!」
ユースティスからサクリアローズを貰ったセルジュは大事そうに抱えていた。
「ヴィオ、俺には!?」
「ほい」
「!!!!ヴィオ!!!」
今度は《ユウラスティア》が騒ぎだした。ユースティスは仕方なさそうに《ユウラスティア》に土産を投げた。《ユウラスティア》はその土産を見てユースティスに抱きつこうとしたが避けられた。
「城の皆にはお菓子を買ってきたからおやつに食べてね」
「「「ありがとうございます!!!」」」
メイド達にお土産を渡せば喜ばれた。
「我が国の特産もあるな」
「サシェは私のお気に入りでね。この藍はとてもいい味を出しているからね!!!」
「………そうか」
珍しく力説するユースティスにちょっとサリシェは引きぎみ。他のやつも珍しいと目を丸くした。
「コホン。では、解散!!」
「「「あ」」」
自分がしたことを理解したユースティスは顔を赤くして消えた。それに全員が声を上げた。
一方、《ユウラスティア》はそんなユースティスの行動に悶えていた。
それからだ。セルジュが旅に出たいと駄々をこね始めたのは。
「ヤダヤダ!!行きたい!!!」
「セルジュ……」
「ヤーダー!!」
駄々をこねるセルジュをユースティスがしかりつける。
「セルジュ、わがままを言うな。お前はこの国の王子だぞ。そんな時間はない」
「母のイジワルー!!!」
ユースティスの言い分も解るが少しでいいから行ってみたいセルジュは泣いて部屋を出ていった。それにユースティスはため息をついた。
「ユースティス様」
「血は争えないのか……」
『ユースティス!!!セルジュは国を見て回りたいだけだよ!!』
シューナッツは常にセルジュについていた。だから、セルジュの気持ちをユースティスに伝えたのだ。
「久々の登場ですか、兄上。ですが、セルジュの言っていることは執務放棄とかわりありません」
『ユースティス……』
「甘やかすだけが親ではないんですよ。それ相応の対価が必要です」
ユースティスの言葉に驚くシューナッツとラヴィーネがいた。
後日、ユースティスがセルジュを呼び出した。そこは謁見の間で家臣達もいた。
「セルジュ・フォルティス。お前が即位するその日まで旅に出ることを許可しよう」
「母上!!」
セルジュはユースティスが許した事に素直に喜んだ。
「しかし!!残りの学業全てを一年後で終業することを命じる」
「「「!!!」」」
ユースティスの言葉に全員が困惑していた。それはセルジュも同じだった。
「それができなければこの話は無かったことにする」
「…………」
「どうする?」
「………………わかりました。やります」
「そうか。せいぜい頑張るがよい」
ユースティスの無理難題をこなすことにしたセルジュ。やってみろって顔をしたユースティスにセルジュは闘志を燃やすのだった。
セルジュが退出した後、ユースティスはサリシェを呼び出した。
「サリシェ、悪いがセルジュに旅に必要な知識を与えてくれ」
「構わない」
ユースティスがサリシェに頭を下げた。それは国王としてではなく親としてサリシェに頼んだのだ。
「そうか。すまないな、サリシェ」
「アイテールが気にする必要はない」
ユースティスの気持ちを理解したサリシェが快く引き受けた。しかし、家臣から批難の声が上がる。
「陛下!!陛下が頭を下げる必要がどこにあるのですか!?」
「私が頭を下げたのは国王ではなく母親としてだ。子供の為に何かを頼むとき、頭を下げるのは基本だろう」
「…………」
ユースティスの言葉に誰もが黙った。ユースティスが言っていることはあるべき親の姿。ユースティスは決してセルジュを閉じ込めたい訳では無いのだ。自らの考えで行動に移させたいのだ。その道の後押しをユースティスがしているだけ。何をするにも対価があることを覚えさせたかったのだ。親をしているもの達もユースティスの考えに目を背けたくなるのだった。要はやましいことだらけだと言うことだ。
この後、解散となり各自仕事に戻った。ユースティスも仕事に戻り執務室にいた。
「誰かミシェルとマリクとラフィーネを呼んでくれ」
「畏まりました」
「ユウ、《ヴィオレッタ》を呼んでくれ」
「わかった」
ユースティスの指示により家臣と神が呼ばれることとなった。
すぐに集まった彼らはユースティスからある指名を受けた。
「ミシェル、マリク、ラフィーネ。お前達にセルジュの旅について行って貰いたい」
「陛下?」
「セルジュは必ずやり遂げるだろう。しかし、あの子はまだ子供。大人がいなくては危険だ。あの子に世間を教え、人を見る目を養わせたいんだ。それをお前達から教えてあげて欲しいんだ。これは必ずセルジュが王になるときに役に立つはずだ」
「「「…………」」」
ユースティスの思いに三人は沈黙した。そしてラフィーネが沈黙を破った。
「わかりました。私で宜しければセルジュ様の旅にご同行させていただきます」
「……騎士として王子を必ず護ります」
「自国の王子が巡ると言うなら従いましょう」
「ありがとう」
ラフィーネの言葉を皮切りにそれぞれ了承する。それに笑みを浮かべたユースティス。
「遅くなりました」
「《ヴィオレッタ》、お前にセルジュの旅について行って貰いたい」
「セルジュのですか?構いませんよ」
「そうか」
遅れて来た《ヴィオレッタ》にも同じことを聞くユースティス。即答する《ヴィオレッタ》にユースティスは苦笑した。
「セルジュの旅は一年後になるだろう。それまでの間に準備を頼む。何か必要な物があるなら言ってくれ。用意しよう」
「「「ありがとうございます」」」
これでセルジュの旅の準備は整った。後はその当日になる日を待つだけとなった。