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女王結婚編7

*****



ユースティスは<アレニア・シュール>での一件以来、各地方に赴いて商業関連全般を見て回るようにした。朝議が終わればすぐに地方へと向かい、帰ってくるのは夜で夜中に執務を行う 。そんな生活をするユースティスを全員が心配し、どうにかできないかと思慮する。

そして、今日もユースティスは朝議が終わり地方へと向かった。


「はぁ……ユースティス様のあれはどうにかならんのか……」

「内政は任されても何かを改善するものは我々に一切振らない」

「そんなに信用がないのか…」

「…………なんで俺を見る」


老臣により収集を受けた家臣達は謁見の間に集まった。もちろん、ラヴィーネやセルジュ、《ユウラスティア》プラスシューナッツがいた。老臣達の呟きに全員が《ユウラスティア》を見た。


「ユースティス様が言うことを聞きそうなのはシュゼリア神様ぐらいかと……」

「……いや、無理だな。あれは一度決めたことはテコでも動かない」

「「「頑固は変わらないか……」」」


老臣、遠い目である。ユースティスの被害にあったものは誰しもが同じ状態になるだろう。《ユウラスティア》を頼りたい老臣達。しかし、《ユウラスティア》も肩を竦めた。


「しかし……ユースティス様は何をなされているのですか?」

「しらん」

「「「…………」」」


若い文官の言葉に老臣達は一刀両断。それに沈黙するしかない家臣達だった。


「……こんなことをしている意味はあるんですか?」

「それを聞き出すためにルイーズ達を呼んだんだ」

「「「…………」」」


完全に他人任せな老臣達だった。それには《パラディン》も沈黙した。


「はぁ……わかりました。現在、ユースティス様が行われているのは産業関係の調査及び改善です。これに関しまして、私達は関与していません」

「記録の保管場所などは…」

「執務室でしょう」


ルイーズはため息をついて知っていることを話した。


「よし。ならば明日、朝議が修了後シュゼリア神様にはユースティス様を連れ出して頂いて我らは執務室で状況確認をしましょう」

「ラシュール達も呼び、新しい部署を設置して仕事を取り上げましょう」

「今年の新人に任せるのも良いでしょうな」

「人材を育てるには大変でしょうが、一からやる必要がありますからな」


老臣達が勝手に予定を組み、勝手に決定し、勝手に納得する中、家臣達は誰を出すか決めていた。一つの課から一人を派遣して状況把握をしようとしていた。

一方の《ユウラスティア》はユースティスを連れ出すためにどうするか悩んだ。


「ヴィオを連れ出すのか……」

「ちち!!そうこにいきたい!!」

「そうこ?………あぁ、蒼湖か。なら、ラヴィーネと<アレニア・シュール>の奴等も連れていこう。明日は休みだから全員いるだろうし」


《ユウラスティア》によって明日の日程が決定した。それぞれ準備のために解散となり、家臣達は綿密な計画を立て、絶対にバレないようにした。

《ユウラスティア》達はにやけるセルジュを徹底指導して普段通りの装いをさせた。ラヴィーネはわかりないので良いことにした。《ユウラスティア》はこの事をハレシュに伝えると驚いていたが了承した。弁当は作ると言い張る女性陣に根負けした《ユウラスティア》は材料費として魔晶石を渡した。その後に諏訪神の元を訪れ蒼湖に行く許可を貰うのだった。こうして着々と明日の準備は整えられていく。







翌日、朝議が終わると《ユウラスティア》が退出しようとするユースティスをがっちり後ろからホールドした。《ユウラスティア》の強行に驚いたユースティスは慌てて抜け出そうとしたが無理だった。


「何?何?」

「ヴィオ、セルジュの願いを聞いてやれ」

「はい?」


《ユウラスティア》にホールドされた状態のユースティスはそのままセルジュのお願いを聞くことになった。


「あのね、はは。そうこにいきたいの」

「そうこ?」

「うん!」

「倉庫?創庫……」

「違う。蒼湖だ。蒼い湖だ」

「あぁ、黎明の湖か。でもあれは諏訪神の許可が必要だろ?」

「それは俺が取った」


セルジュの言葉に脳内検索をかけるがどれも違う言葉が出てきた。それに《ユウラスティア》が呆れた。


「………キナ臭いな…。何を企んでやがる?」

「セルジュが行きたがってたから取ったんだ。今ぐらいだろ?セルジュが自由に動けるのは」

「あー……」

「セルジュの想い出作りにと思ったんだよ」


セルジュのお願いと《ユウラスティア》の手際の良さにユースティスは何かがあると睨んだ。しかし、《ユウラスティア》のもっともな言い分にユースティスは否定できない。


「……わかった。支度は?」

「バッチリだ」

「じゃあ、行こうか。着替えてくるね」


諦めたユースティスは一度部屋に戻り、出掛ける支度をするのだった。






ユースティスが支度を済ませ城門に行くと既に支度を済ませた《ユウラスティア》達がいた。今回、《パラディン》はお留守番組。


「じゃあ、行くぞ」


完全に仕切る《ユウラスティア》。ユースティスは何も言わなかった。《ユウラスティア》が転移を使い、向かった先は<アレニア・シュール>だった。それにキョトンとするユースティスだが、《ユウラスティア》は人数確認してまた転移した。ついた先は蒼湖ー黎明の湖ーだった。

そこで漸く嵌められたことに気付くユースティスだった。


「…………取り合えず……子供達は解散!遊んでよし!!」


ユースティスの号令に子供達は散らばった。そして残ったのはハレシュ達、幼馴染みだった。


「………」

「あー……まぁ、許してやれ。お前を心配した奴等の気遣いだ」


《ユウラスティア》を怒鳴ろうとしたユースティスだが、《ユウラスティア》が居ないのに今にも叫びそうだった。それを苦笑して宥めるハレシュ。


「別に働きすぎではない」

「だけど、寝てないでしょう?」

「元から睡眠は必要ない」

「アイテール、それは屁理屈だよ」

「それに今、アイテールがしてるのってアイテールがやらないといけないものじゃないでしょ?だったら、家臣さんに投げちゃいなよ」


幼馴染みに攻められて反論できないユースティス。多勢に無勢。数の多さには勝てないのだ。

湖に入って泳ぐ子供達を見ていた《ユウラスティア》がちらっとユースティスを見て苦笑した。


「私が攻められる意味がわからないんだけど……」

「アイテールが全部一人でやるからだよ」

「少しは家臣さんを頼んなさい!!」


ビシッと指差して言われたユースティスはうっと言葉に詰まる。痛い言葉を突き付けられたユースティス。本当に幼馴染みは容赦がない。


「だ・か・ら!!マリアの膝枕で休みなさい!!」

「!?」


マリアという名前だが歴とした男である。幼い頃は美少女みたいに可憐であることから付けられたが男である。今では美男子として育った末っ子幼馴染みである。


「って!男!!マリア男だから!!」

「アイテールは私の膝で寝るのは嫌ですか…?」


涙目になりながら訴えるマリアだが、忘れてはならない。マリアは男だ。容姿に似合わず楽しいことが大好きなマリアは思いっきり女装をしていた。


「マリアー!!お前、ノリノリ過ぎだろ!!」

「うふ」

「うふじゃない!!」


ギャーギャー騒ぎだしたユースティス達に子供達は首を傾げるが《ユウラスティア》が魔法で色々すると騒ぎだした。








一方、城ではユースティスの執務室を漁る家臣達。ルイーズ達の監視の元、ひっくり返していた。


「あ、ありました!!」

「出かした!!」


若い文官が分厚い書類の束を取り出した。それを見ると全地方の情報が乗っていた。それを見て全員ビックリ。取り合えず資料を全て魔法でコピーして元の位置に戻して緊急会議を始めた。








一遊びを終えたユースティス達は昼食をとろうと準備していた。水遊びをしていた子供達は《ユウラスティア》により乾かされ、今ではすっかり綺麗になっている。全員にお弁当が配られるがユースティスにはそれがなかった。それを疑問に思うユースティス。ハレシュは苦笑して配ってた子供達の背を押したのだった。


「あの………院長先生……」

「リリア、今の院長先生はハレシュだから」

「違うよ!!私達にとって院長はアイテール先生だよ!!」

「ハレシュ先生じゃ頼りないもん!!」

「……お前ら……」


ユースティスが居たときからいる子供達がユースティスを先生呼びする。それにユースティスやハレシュが苦笑する。次の言葉でハレシュが顔をひきつらせた。然り気無くキツい言葉は誰に似たことやら。


「あの……これ!!私達が作ったの!!院長先生食べてください!!」

「「「食べてください!!」」」


リリアがユースティスにお弁当を差し出した。それに合わせて皆もお辞儀をする。それにキョトンとするユースティス。説明しろとハレシュに視線を投げるとハレシュは苦笑しながら答えた。


「アイテールの弁当だけはこいつらが作ったんだ。今までのお礼をしたかったみたいなんだけど、その前にアイテールはいなくなって悩んでところに今回の話で凄いやる気だったんだぞ」

「だって、僕達アイテール先生に育てられたようなもんだし…」

「赤ちゃんの時からいる私達がここまで大きくなって学校に通えるのだってアイテール先生のお陰だよ」


リリア達は親のいない自分達の末路を理解していた。それに驚くユースティス。隠していたわけではないが、知っていたことに驚いた。リリア達は今年で12歳になる。ユースティスが18歳の時に捨てられていた子供達だ。それをユースティスに拾われ、<アレニア・シュール>で育てられたのだ。リリア達はそれを当たり前と思わずずっと感謝していた。その思いの表れが今回のお弁当である。


「ありがとう、皆!!」


ユースティスはそれを嬉しく思い、涙を流す。ユースティスがお弁当を開けると綺麗な形ではないがリリア達が一生懸命作ったおかずが入っていた。それを一つとって食べる。


「……美味しいよ」

「「「やったぁ!!!」」」


ユースティスの言葉にリリア達は大喜び。ハレシュ達も嬉しそうである。一部、面白くないやつもいるが。


「はは!!ぼくもつくった!!」


いっちょまえにも対抗するセルジュに《ユウラスティア》は苦笑。セルジュにとって母親が他のやつに構うのが嫌らしい。感動的な空気を壊したセルジュにユースティスも苦笑してセルジュに差し出されたおかずを食べる。


「美味しいよ、セルジュ」

「うん!」


この言葉の意味を理解した奴はどれぐらいいただろうか。まぁ、セルジュが満足しているならと大人組は突っ込まなかったがちびっこが騒ぎだした。


「お姉ちゃん達の方が美味しいに決まってるよ!!」

「ぼくのだもん!!」


喧嘩を始めたちびっこ組に大人組、苦笑。材料の下ごしらえ諸々は自分達がしたから実際、味は同じ。それを知らないちびっこ組は更に騒ぐ。それをハレシュに叱られるのだった。










城の謁見の間ではラシュールが呼び出されていた。


「ラシュール、呼び出して済まぬな」

「そう思うなら呼び出すなよ。クソジジイ」

「………。ユースティス様がなされていることは知っているか?」

「あのババアがしてることは諜報課も手伝ってる。殆どはババアだが…」

「そうか…」


口の悪いラシュールにニョルズ達老臣は沈黙した。全員、何も言わずに話を進める。ラシュールに資料を渡せばあぁ、と声を上げた。でも良い答えは返ってこなかった。それに全員がルイーズを見る。ルイーズはそれに頭を痛めた。


「ルイーズ」

「………はっきりいって良いですか?」

「なんだ?」

「私はユースティス様の翻訳機ではありません!!」


ついにルイーズがキレた。キレたと言うには語弊はあるが近いだろう。青筋を浮かべたルイーズの回りにはベルモットも近づかない。ニョルズに関しては殺されるかも、と顔をひきつらせたていた。他の家臣達はルイーズが怒るのに驚いた。


「……兄上を怒らせましたね」

「自業自得です」

「フレイア、フレイ。他人事過ぎます」

「「他人事にしておいてください。関わりたくありません」」


エレオノーラの指摘に《パラディアーム》の二人は口を揃えた。その内容に避難していた《ベルモット》も頷いた。

ルイーズの機嫌を損ねたことにより先の話を聞くことができなかった。そこで仕方なく新しく任された官吏達を産業別に分けて手分けして調査することにした。全員、転移の魔法は取得済み。ただし、王宮内や公的機関では使用禁止。それで地方に向かった。








ちびっこの騒動を治め昼食を終えると、遊び疲れたちびっこがおやすみタイムとなった。

《ユウラスティア》も遊び疲れ子供達に混じり寝ている。ユースティスは一人、紅湖―黄昏の湖―に来ていた。蒼湖の隣の区域にある紅い湖。今回のことで反省点は色々あるが、悩みを抱え込みやすいユースティスは紅湖に沈んだ。蒼湖と違い紅湖は立ち入り禁止。

それは―――人間の血で穢れた湖―――だから。

殆どの神は立ち入りさえしない。ある意味、自殺行為なのだ。それに気が付いた《ユウラスティア》が飛んできてユースティスを引き上げた。


「何してんだ!?」


最近では無かったがユースティスは情緒が常に不安定でそれは《ユウラスティア》が初めて《ヴィオリウムステラ》に会ったときからであった。《ユウラスティア》はユースティスに憑いた大罪を洗い流した。


「ヴィオ、お前は死にたいのか!?」

「…………」

「ヴィオ!!」

「…………」


《ユウラスティア》の問いに答えないユースティス。目は写ろで涙を流しているだけだった。そこにラヴィーネが来た。


「《ヴィオリウムステラ》、世界に選ばれし異世界の娘よ。そなたはこのまま死して良いのですか?遺された子は一人になってしまいますよ。貴女までいなくなってしまっては彼の子は壊れてしまいます。それでも良いのですか?」


ラヴィーネの語りかけにユースティスは光を取り戻す。それを見た《ユウラスティア》は驚いてラヴィーネを見た。そこに居たのは……運命の神に憑依されたラヴィーネだった。それでラヴィーネの正体を知った。ラヴィーネは神の器として造り出された諏訪神の失敗作なんだと。完全に意識を取り戻したユースティスは大泣きした。それを慰める《ユウラスティア》。その時には既にラヴィーネの姿は無かった。







地方を回る新部署―産業部―が勝手に立ち上がり勝手に仕事をしている中、文官達は各地方を飛び回っていた。ユースティスが作り上げた書類に基づき、問題点を各業種に聞いてまわり、報告書を作成。危機回るのに時間はかかるが書類作成は簡単。魔法ですぐだ。そうして、全地方を回ることが一日で可能となった。






泣き疲れたユースティスを連れて《ユウラスティア》が戻るとセルジュ達が起きていた。時間は夕方となり黄昏の時間となっていた。


「ちち!はははだいじょうぶ?」

「あぁ、大丈夫だ。だいぶ疲れているみたいだから、当分はお休みだ」

「おやすみするの?」

「そうだ」


泣き疲れて眠るユースティスを心配するセルジュに笑みをむける《ユウラスティア》。セルジュは首を傾げて《ユウラスティア》に聞いた。


「おしごとは?」

「それはルイーズ達に任せる」

「そっか」


セルジュと《ユウラスティア》の会話を聞いた大人組は内心突っ込んだ。それでいいのか!!と。


「それじゃ、帰るか」

「「「はーい!!」」」


《ユウラスティア》が転移を使い、ハレシュ達を<アレニア・シュール>に送り届ける。そこでバイバイしてから城に戻る《ユウラスティア》達。ユースティスを部屋に寝かせて《ユウラスティア》がラヴィーネを呼び出した。場所は【星海草】《ヴィオリウムステラ》が咲き誇る【海の庭】だ。


「シュゼリア神様?」

「お前をヴィオの旦那とする」

「え?」

「お前を王位に就かせ、ヴィオの負担を軽くする。セルジュが王になる間までだ。ヴィオの代わりに執務をしろ」

「…………」

「これは決定事項だ。覆されることはない」


《ユウラスティア》はラヴィーネを見て言う。その瞳に迷いはない。堂々とラヴィーネを利用すると言う《ユウラスティア》にあれだけ騒いだのに、と驚きを隠せないでいた。《ユウラスティア》は伝えることを伝え、去っていった。ラヴィーネは《ユウラスティア》の突然の行動に驚き、固まるしかなかった。




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