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女王結婚編6

*****



「よし!城下に行こう!!」

「「「は?」」」


ユースティスはそう言って姿を消した。それに遅れを取った文官達は慌ててユースティスを追いかけるのだった。

そんなユースティスはセルジュを誘拐して途中でラヴィーネを拾い城下へと繰り出した。






「ユースティス様?」

「城下ではアイテール」

「アイテール様?」

「アイテール」

「……アイテール」

「何?ラヴィーネ」


いきなり連れてこられたラヴィーネは戸惑いぎみ。名を呼べば冷たく返され、様をつければ呼び捨てにしろという雰囲気を出され、ラヴィーネは諦めて名を呼んだ。そうしたら満面の笑みで振り返った。目は笑ってないが。

ここ数日、ラヴィーネと《ユウラスティア》の戦いが肉弾戦へと変わり城が大ダメージを負っている。常時、人員が派遣され修復されているが文官達は疲労困憊ぎみ。それを考慮したユースティスがラヴィーネとセルジュを連れて城を抜け出した。


「あの通りすぎましたけど……?」

「はは?」

「ちょっと行きたいところがあるんだ」


城下を通りすぎ、裏道に入るユースティスに首を傾げるラヴィーネとセルジュ。ユースティスの顔は悲しみに満ちていた。





ユースティスが転移を使うとある建物の前に来た。それを見上げてポツリと呟く。


「………変わらないな……ここは……」

「「?」」


ユースティスの呟きにラヴィーネとセルジュは首を傾げる。ここに何があるのか知っているのはフレイアとアザゼルだけである。すると、遊んでいたはずの子供達がこちらを見ているのに気が付いた。


「あ、の……何かご用ですか…?」

「うん。この二人と一緒に遊んでくれないかな?」

「お兄さんも?」

「そう。ダメかな?」

「いいよ!!」

「え?」

「ほらほら、遊んでこい!!」


セルジュとラヴィーネの背を押して送り出すと子供達がわらわら集まりあっという間に囲まれていた。約5年の間に孤児院にいる子供達が代わってしまった。それを寂しく思うユースティス。そう、ここは薬草の街カスターニュにある孤児院<アレニア・シュール>である。


「………………」

「……………おねえちゃんははいらないの?」

「……うん。私は見てるだけにするね」


女の子がユースティスに話しかけた。視線を合わせて話すユースティスの表情は悲しい笑顔。子供は感情に敏感な生き物だとユースティスはつくづく思った。


「ミニス、なにし………アイテール?」

「…………久しぶりだね。ハレシュ」

「あぁ。中に入れよ。皆いるぞ」

「じゃあ、お邪魔しようかな」


一人の男性がやってくる。少女をミニスと呼び、来たのは現院長のハレシュであった。ユースティスを見たハレシュは驚いた表情をして優しい笑みを浮かべ、ユースティスを中へと誘う。それに苦笑して中へと入るユースティス。それをラヴィーネが見ていたのをユースティスは知らない。






「「「アイテール!!!」」」


中に入ると職員全員が驚いた顔をしていた。そして、喜んだ。


「アイテールだ!!久しぶり!!」

「アイテールのお陰で過ごしやすくなったよ。ありがとう」

「アイテール、アイテールが王様になってくれてよかったよ!」

「今の私達が生活していけるのもアイテールのお陰だよ」

「アイテールが作ってくれた奨学金制度のお陰で子供達が学校に行けるようになったんだ。ありがとう」


幼馴染み達がユースティスを囲んで騒ぎ出す。それに驚いたユースティスだが、今まで直接お礼を言われたことがなったので泣き出した。それに慌てる一同だが、ユースティスが笑っているのに笑みを浮かべた。


「アイテール」


静かな声がユースティスを呼ぶ。振り替えればイリアがいた。


「アイテール……魔晶石作って」

「…………アハハハ!!!」

「「「イリア!!!」」」


イリアの言葉にユースティスが笑う。全員がイリアを注意するがイリアはむくれた。


「皆で晶石作っても大したお金にならないの。アイテールが来たなら作りおきしてもらわないと」

「あれだけ作ったのにもうないのか」


イリアの言葉にユースティスは苦笑する。それにハレシュも苦笑。


「孤児が増えたからな。後、学費も少しは出している。それもあるな」

「あー……わかった。あれでもギリギリだからな……。悩むな……。私が一つの場所を贔屓するわけにもいかないし……」


ユースティスは国王。育ちは違っても国王なのはかわりない。ユースティスが<アレニア・シュール>を贔屓すれば、それはおかしいと批判の声が上がる。そして、それを利用して悪事を働く輩が出てくるであろう。それを危惧したユースティスは答えが出せないでいた。


「まぁ、俺達でなんとかするよ。アイテールが悩む必要はない」

「でも……」

「今のアイテールは国王様。院長をしてたときとは違う。いつまでも頼ってなんかいられない」


自分達で何とかすると言うハレシュにユースティスは不安な顔をする。自分では役に立つことが出来ないのかと。しかし、それは間違いである。それにユースティスは気が付いていない。


「……ハレシュ……」

「アイテールには今までたくさんいろんな事をしてもらったから大丈夫だよ」

「そうだよ!」

「私達みたいな孤児が生きていけるだけでも良くなったんだから!」

「アイテールが居なかったら私達は皆、佳業に売られていたかも知れない」

「アイテールが院長を追い出してくれお陰で今私達が生きていられるの」

「アイテールには僕達全員の命を救ってもらったんだ」

「それだけでもアイテールには感謝してもしきれないのにこれ以上どうすればいいの?」


ハレシュを筆頭に幼馴染み達はユースティスをゆす。今まで必要とされていた場所で必要ないと言われたようで居場所すら無くなったように感じたユースティスは悲しい笑みを浮かべて言った。


「そっか。もう独り立ちか…」

「いやいや、俺達大人だから!!成人してるから!!」

「あれ?そうだっけ?」

「アイテールももう年だからね。ボケが始まったんじゃない?引退したら?」

「私はまだまだ現役だ!!」


嘘泣きをする仕草に全員が笑った。それがユースティスの強がりだったとしても。笑うユースティスに安堵するハレシュ達。そこに子供達が駆け込んできた。


「院長先生!!大変だよ!!自警団が来たよ!!」

「自警団?」


子供達の言葉にユースティスが首をかしげる。すると、ハレシュが答えてくれた。


「ここの領主が作った意味のないものだ。金を巻き上げるための私兵だ」

「………私が行こう。クズを制御しきれていない私の責任だ」


雪崩れてきた子供を避難させる為にハレシュ達は聖堂に連れていく。聖堂はユースティスが居たときから神域とされ許可されたものしか入れない。それが孤児院の役員と子供達だ。ユースティスが外に出ると破落戸が六人ほどいて、ラヴィーネとセルジュが対峙していた。


「この孤児院に何ようだ」

「あ?へぇ〜、別嬪さんじゃねぇか」

「触れるな、クズが。死にさらすか?」

「女の癖に舐めんじゃねぇぞ!!」


ユースティスの低い声にラヴィーネとセルジュが怯える。見たまんまの破落戸がユースティスに絡むが避けられる。それに逆上する破落戸。


「舐めているのはどちらだ?私は血濡れた玉座に座るユースティス・ファルティス・ファラオぞ。貴様らが刃向かっているのは殺戮王だ。その意味がわかるか?」

「誰が信じるか!!こんな所に殺戮王がいるわけないだろ!!」

「普通は……な…」


ユースティスの妖しい笑みに怯むが殴りかかろうとした破落戸が沈んだ。それから他の五人も沈められた。それと同時に二人の諜報課が姿を現した。


「ユースティス様!!ご無事ですか!?」

「大事ない」

「申し訳ありません。領主を始末していてこちらに気が付かず……」

「よい。他にもこのような事がないよう調べて取り締まれ」

「「はっ」」


二人は膝をついて詫びる。ユースティスは改善するよう指示を出した。それに従い消えた二人。


「……………」

「……はは……」

「……ユースティス様…」

「…………まだ足りぬ。まだだ。まだ……この国の闇はとりきれていぬ……」


俯くユースティスを心配するセルジュとラヴィーネ。ユースティスは俯き拳を握り締め呟く。その瞳に宿る光は全てを払拭する決意をした力強い光だった。


「アイテール」

「………」

「……あまり思い詰めるな。お前は一人じゃない」

「…………」


ハレシュはユースティスを見て何を考えているのがわかったらしい。無言になるユースティスにハレシュは言葉をかける。


「お前一人が背負うことじゃない」

「はっ!! 人間など信用できるか!!」


ハレシュの言葉にユースティスは逆上した。昔から人間が大嫌いなユースティスは家臣を信用しているが信頼はしていない。それは《パラディン》とて同じこと。それを敏感に感じ取ったセルジュは泣きそうな顔でユースティスを見上げた。


「はははぼくがきらい?」

「………セルジュ………」

「きらい?」

「……好きか嫌いかなら大好きだよ。愛してるよ、セルジュ」


セルジュの言葉に言葉が詰まるユースティス。本格的に泣きそうなセルジュを抱き締めて言うユースティス。


「はぁ……子供に何て事を言わせてるんだ。この天の邪鬼」

「う、うるさい!!子供に罪はないだろ!!役立たずは必要ないだけだ!!」


それを見てハレシュは呆れた。ユースティスはセルジュをあやしながらハレシュに猛反発する。


「はいはい、わかったからそう吠えるな」

「吠えてない!!」


ハレシュとユースティスのじゃれあいをみてラヴィーネは面白くない顔をする。それを本人が気が付いているかわからないが。


「もういい。私は戻る。セルジュは?」

「ぼくはまだあそぶー!!」

「そう。じゃあ、ハレシュ。夕方くらいに迎えを寄越すからよろしく」


特別扱いをする気がないユースティスに苦笑する。


「…………王子をそんな扱いして良いのか?」

「構わない。世間を知るには良いことだ。特別扱いをするひつようはない」

「……わかった」


ユースティスは昔からそうだった。どんなに位が高い貴族の孤児が来ようとも特別扱いはしたことがない。それでよく衝突をしていたのを思い出したハレシュがいた。


「ラヴィーネは?」

「……私も戻ります」

「そう」

「そっちは?」

「極寒の国<ウルカムル>の第一王子ラヴィーネだよ」

「あー……確か《ヴィオレッタ》だったよな。お前の信者」

「信者じゃないし」

「あの国か……。まぁ、いつかはやらかしそうだったよな」

「…………」


ハレシュの言葉を否定しないユースティス。どうやらユースティスも思っていたようだった。


「まぁ、二度あることは三度あると言うし……気を付けろよ、アイテール」

「なぜ私?…諏訪神には進言しとくから…」

「それが良いだろうな」


ハレシュに突っ込みつつも流石に三度目は厳しいのでユースティスも諏訪神に進言するつもりでいる。それに同意するハレシュ。話の中心人物であるラヴィーネは一言も話して居なかった。


「それじゃ、セルジュを頼むよ。ハレシュ」

「あぁ。夕方には迎えにこい」

「了解」


ユースティスがラヴィーネと一緒に戻っていった。ハレシュは一人首を傾げる。


「俺、なんかしたか?」

「?」


ハレシュの呟きにセルジュも首を傾げるのだった。





城に戻っても無口なラヴィーネにユースティスは首を傾げた。


「ラヴィーネ?」

「……………」


ユースティスの呼び掛けに無反応なラヴィーネ。再度話しかけようとするとユースティスは文官達に拉致られてしまった。その後のことはユースティスにもわからなかった。





夕方のお迎えは《ユウラスティア》にお願いしたユースティス。ユースティスからのお願いに《ユウラスティア》は意気揚々と出掛けていった。






「ははーただいまー!!」

「お帰り、セルジュ。楽しかったかい?」

「うん!!また行きたい!!」

「いつでも行ってきな」


《ユウラスティア》に連れられ帰ってきたセルジュ。嬉しそうな姿にユースティスも笑顔になる。


「ヴィオ」

「お帰り、ユウ。ありがとうね」

「ヴィオの為なら構わない」


ご機嫌な《ユウラスティア》だった。それに突っ込む訳でもなくユースティスは放置した。





これ以来、セルジュは<アレニア・シュール>に出入りするようになるのだった。




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