女王誕生編2
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ある日、<アレニア・シュール>の前に一台の豪華な馬車が停まった。その馬車は兵士を連れていた。それを見掛けた子供達が興味津々に様子を伺っていると馬車の中から人が出てきた。出てきたのは兵士とは明らかに違う格好をした騎士と神が作り出した彫刻の様な麗人だった。子供達は麗人を見て口を開けて唖然としていた。誰だってあんなものを見たらそうするであろう。子供達の騒ぎに気が付いたハレシュが孤児院から出てきた。
「お前達、何をしている」
「あ、ハレシュ!!」
「あの人達……」
「ん?………孤児院に何かご用ですか?」
子供達に言われ客人に気が付いたハレシュは声をかけた。ハレシュの問いに対応したのは騎士の方だった。
「こちらにユースティス様がいらっしゃるはずです。お呼びいただけますか?」
「ユースティス?聞いたことの無い名ですね。この孤児院にはその様な名前の従業員も孤児もいませんが」
知らない名前にハレシュは眉を潜めた。騎士はハレシュが隠していると思い込み強い口調で言った。
「隠しても無駄だ。空の楽園<アルカディア>にいるはずだ」
「………ここは<アレニア・シュール>ですが…」
「………それは誠か?」
「はい」
麗人は建物を睨み付けるように見ていた。ハレシュは麗人を気にしつつも騎士と対話する。<アルカディア>ってどこだよ?と思うハレシュがいた。騎士も孤児院の名前が違うことに驚いた。そして、全員が沈黙した。
「……………」
「ユースティス様がこちらに居るのは間違いありません」
「フレイア様」
「ユースティス様が詮索を嫌い偽の情報を流した可能性があります。あの方はとても聡明です。捜されるのが嫌なら居場所を隠すために情報を撹乱している可能性はあります」
麗人が口を開いた。鈴がなるような声音で喋る麗人―フレイア―は確信の色を乗せていた。主に睨み付けているのは二階の窓であったが。
「ユースティス様、いらっしゃるなら出てきていただけませんか?私はあなた様とお話がしたいのです」
フレイアが二階の窓に向かい話しかける。それに応じるように扉が開いた。そして中から出てきたのは一人の少女だった。ただし、姿は半透明で。
『久し振りね、フレイア。大きくなったわね』
「……お久し振りです。ユースティス様。あれから20年はたっていますよ」
『そうね。……私はね、フレイア。王宮を出てさ迷っているのをこの孤児院の先代の院長に拾われたの。だけど、その時には既に衰弱していて死ぬのを待っている状態だった。そんな私を院長は看取ってくれたの。私はこの孤児院の裏にあるお墓の中で他の子達と一緒に眠ってるわ。だから……私のことは忘れてちょうだい』
当たり障りの無い言葉を紡ぐ半透明少女―ユースティス(仮)―。悲しい表情が言っていることを物語っている。
「……ユースティス様………そんな嘘に乗りませんよ。あなたが死んでるなんてあり得ません。さっさと出てきなさい。さもなくば、あなたが作っている魔晶石を全面的に禁止させますよ」
『酷い!!私の言葉が嘘だと言うの!?』
「気持ち悪いです。良い年こいて人形遊びとは悪趣味ですね」
が、本来なら泣くはずの場面もフレイアの毒で一気に消し飛んだ。ユースティス(仮)と対話するフレイアに全員ドン引き。嘘泣きをするユースティス(仮)に笑顔で猛毒を吐いたフレイア。普段は大人しいフレイアしか見たことのない騎士と兵士は驚愕した。
『…………大分、口が悪くなったな。フレイア』
「あなたほどではありません」
『……………はぁ、中へ入れ。ハレシュ、案内してやれ』
「……わかった……」
色々と諦めたユースティス(仮)はため息をついた。ようやく諦めたユースティス(仮)にフレイアは笑みを浮かべる。ハレシュに案内するよう命じ、姿を消したユースティス(仮)が誰であるかを一瞬にして理解した子供達とハレシュだった。
「……ご案内します」
ハレシュと子供達に案内され、騎士とフレイアが中に入る。他の兵士達は外で待機となった。