女王結婚編1
第三部 女王結婚編 開幕です。
ある澄みきった晴れの日。ユースティスはセルジュを連れて城下に降りていた。
「はーはー」
「ん?どうした?セルジュ」
「あれ!!」
「あーハイハイ。セルジュは本当にそれが好きだね」
「うん!!」
セルジュはユースティスに連れられて何度も城下に降りている。その時に気に入った氷結りんご飴。それを見つけたセルジュがユースティスにねだる。
「じゃあ、自分で買っておいで」
「はい!」
ユースティスは苦笑してセルジュにお金を渡す。セルジュはそれを受け取り買いにいく。ユースティスは噴水の縁に腰を下ろしてセルジュを見守る。ちゃんと一人で買い物が出来るように。セルジュが氷結りんご飴を受け取って戻ってきた。ユースティスが膝に座らせるとセルジュは氷結りんご飴を食べる。
「…美味しい?」
「ははもたべる?」
「いや、私はいいよ。セルジュが食べなさい」
「おいしいのに……」
氷結りんご飴を食べるセルジュを見てユースティスの顔がひきつっている。それに気が付いたセルジュがユースティスに差し出すが、ユースティスはやんわり断るとセルジュは拗ねた。ユースティスは生の果物派で手を加えられた果物は邪道だと考えているのを知っているセルジュは悠々と食す。
「すみません」
「「ん?」」
のんびりとしていた二人に全体的に白い人がユースティス達に話しかけて来た。
「ここら辺で美味しいのにお店ってありますか?」
「………しろい………」
「セルジュ……申し訳ありません。そうですね…下町の味を食べたいならそこの通りを入って少しいった所にある食堂がオススメです。宮廷料理なら城の近くのレストラン街にありますよ」
二人が振り替えると真っ白い印象が強くセルジュがついポロッと言ってしまった。ユースティスはそれを注意して謝ってから思い付く場所を告げる。少し迷ってから白い人はユースティスに申し出た。
「……案内していただけますか?」
「どっちに?」
「食堂の方へ」
「わかりました。セルジュ、レイズおばさんの所に行くよ」
「はーい!!」
首を傾げるユースティスに行き先を告げると食べ終わって手を洗っていたセルジュに声をかけるユースティス。セルジュが戻ってきて白い人を案内した。
大通りから一本外れた通りある大衆食堂。そこは常に人が集まっている。ユースティスはその中に入る。
「レイズおばちゃーん!!」
「誰がおばちゃんだって!?」
「嫌だな、お姉様。空耳だよ」
「アイテール……」
ユースティスが叫ぶと鬼の形相で出てきた。それに冷や汗を流しながらユースティスが否定するとため息をつく女店主―レイズ―。
「あ、お客様連れてきたよ。入っておいで」
「お邪魔します…」
「珍しいね、何にする?」
「オススメでお願いします」
ユースティスが話題を変えるためにセルジュ達を呼ぶ。中に入ってきた白い人にレイズも驚くが客に違いないので注文をとる。
「はいよ。アイテール達は?」
「あー……私はいつもの。セルジュは?」
「ぼくもいつもの!!」
「はいよ!ちょっと待ってな!!」
白い人はユースティス達も座るのにキョトンとしていたがお構いなしに注文する。レイズは注文をとると奥に消えていった。
「良かったんですか?」
「何が?」
「食事です」
白い人はユースティスに聞くとユースティスは首を傾げた。白い人が答えると納得したように頷いた
「丁度お昼だしね。構わないよ」
「ぼくもおなかすいたからだいじょうぶだよ!」
「お前はさっき食べただろ」
「べつばらだよ!おかあさん!!」
ユースティスとセルジュの漫才に白い人は笑う。それにキョトンとするユースティスとセルジュがいた。
「すみません。あまりにも面白くて……ふふ……」
「笑いすぎ」
「そーだそーだ」
「ごめんなさい……」
笑いのツボを押さえたらしい二人の漫才に笑い続ける白い人。ユースティスは苦笑してセルジュは拗ねる。なんとか笑いを治めた白い人は名乗った。
「申し遅れました。私はラヴィーネと言います」
「私はアイテール。こっちはセルジュだ」
「ぼくはセルジュ!よろしくね、おにーさん!」
「はい、よろしくお願いしますね。セルジュ君」
セルジュが小さい手を白い人―ラヴィーネ―に差し出すとラヴィーネは握手した。それに満足したのかセルジュはにこにこしていた。
「アイテールさんとセルジュ君は親子なのですか?」
「そうだよ。セルジュは私の可愛い息子さ」
「はい!!」
「そうですか」
ユースティスはセルジュに抱き着いて答えるとセルジュも頬を寄せて元気よく返事をした。その姿にラヴィーネも嬉しそうに微笑んだ。
「お待ちどうさま!」
レイズが料理を運んできた。ユースティスにはサンドイッチを、セルジュとラヴィーネには香草のリゾットが運ばれてきた。
「「いただきます!!」」
「いただきます」
ユースティスとセルジュは運ばれてきた料理を口にする。それを見てラヴィーネも口にする。香草のリゾットは口の中でほのかな香りとくどくない味付けでこの店の看板メニューとなっている。
「どう?味は」
「美味しいです」
「流石、看板メニュー。私は体調の悪いとき専用だよ」
「おいしいのに……」
香草のリゾットを食べる二人を見てユースティスの顔は顔を背けた。ユースティスは香草のリゾットが好きではない。それを知るセルジュは拗ねた。
「好き嫌いは人それぞれさ。いいかい?セルジュ。ユウみたいなかっこいい大人になりたいなら好き嫌いはダメだよ」
「はい!」
言っていることが真逆なユースティスである。ラヴィーネはそれに気が付いても突っ込むだけの勇気が無かった。いや、突っ込んではいけない気がした。
全員が完食して少し時間が余るとラヴィーネが口を開いた。
「アイテールさん、この国の王様についてお聞きしたいのですが…」
「…王?」
ユースティスの目が光る。何かあると思っていたユースティスはそれが当たったようだ。
「はい。どのような方かご存じですか?」
「さぁ?私は直接お会いしたこと無いからね。ただ、教育制度や財政をなんとかしたのは知っているよ」
「そうですか……」
ユースティスは言葉を選びながら慎重に探る。差し障りの無いことを言えばどうやら王の人柄が知りたかったようだ。まぁ、王については人柄の噂はされていない。
「後は大神殿で受ける治療を低料金にしたとか……それくらいかな?」
「……さしてかわりないか……」
噂されているのは政に関する話だけ。それに肩を落とすラヴィーネ。
「ごめんよ。私が知るのは一般的なことぐらいさ。詳しい話は貴族や官吏の人に聞けばわかるよ」
ユースティスが苦笑して言うとラヴィーネは首を横にふった。
「いいえ、こちらこそありがとうございました。では、私は用があるので失礼しますね。ごちそうさまでした」
「あいよ!いつでも来な!!」
勘定を済ませて出ていくラヴィーネにユースティスは眉間にシワを寄せた。何を考えているのか読めないのだ。
「あのおにーさんからちちとおなじけはいがする」
「ユウと同じ気配?……まさか……」
セルジュはシューナッツや《ユウラスティア》が側にいたせいでそう言う霊的な存在に敏感になっていた。ユースティスにはわからないほど気配が薄いのにセルジュにわかるほど気配が濃いのだ。ユースティスは同じ気配と言うのに神であると断言した。
「アイテール!!こんなところに居やがったのか!!」
「あら、残念。帰る時間だね。セルジュ」
「ラシュールおにいちゃん!!」
「仕事だ仕事!帰るぞ!!」
「「はーい」」
お迎えがきた。ラシュールとは前回ユースティスに捕まった哀れな孤児院時代の子供。今ではユースティスにこき使われる諜報員として働いている。ユースティスとセルジュは大人しく食堂を後にした。