王妃内乱編10
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ユースティスが復帰してから三ヶ月がたった。王宮内では王妃シャーリーがユースティスを殺そうとしている事はしれわたっている。ユースティスを殺そうとした三人も既に処刑済み。強制的に黙らされた《ユウラスティア》が目覚めた時に殺された。ユースティスが復帰してからも暗殺者を送り続け、ことごとく失敗しているシャーリーは狂い始めた……。
【薔薇院】《プリムローズ》の王子の部屋で王妃シャーリーが穏やかな笑みを浮かべていた。その様子をシューナッツが心配そうに見ている。王妃が立ち上がった瞬間、隠していたダガーで自らの胸を貫いた。
『シャーリー!!シャーリー!!』
「ふふふ……ざまぁないですわ……」
シューナッツの呼び掛けに答えないシャーリー。シャーリーの胸から溢れる血が術式を描く。これはアトレイド家に伝わる呪詛の仕方。己が最も憎む相手に送る呪詛だった。呪詛をした本人は肉体が砂と化し、魂は呪詛に囚われる。それを本能で感じたシューナッツはユースティスの元へ急いだ。この時、王子の異変にシューナッツが気が付いていればあんなことにはならなかったかもしれない…。
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『ユースティス!!』
「んー?」
未だに執務室で仕事をしているユースティスの元にシューナッツが慌てて駆け込んできた。その様子にユースティスは眉をひそめた。
「慌ててどうした?兄上」
『シャーリーが!!シャーリーが!!』
「わかった」
急かすシューナッツにユースティスは転移で《プリムローズ》へ向かった。
《プリムローズ》に到着するとシューナッツは先に行き、ユースティスは《プリムローズ》を包む黒い靄に足を止めた。禍々しい黒い靄に嫌な予感を感じてシューナッツの後を追う。そして、王子の部屋に辿り着くとそこには砂と服があり、王子が眠るベッドがあった。しかし、ベッドの上の王子は動かない。
『ユースティス!!』
「!?これは………呪詛……」
慌てるシューナッツにユースティスが近づくと王子の身体は黒く変色していた。それを見たユースティスは顔をしかめた。
『呪詛?』
「アトレイド家の最終兵器だ。これは対象者の寿命をすいとり縮めるものだ。しかも……魔力が高ければ高いほど寿命が縮む呪詛だな…」
『そんな!!生まれてそんなにたってないセルジュがなんで!?』
シューナッツは疑問をユースティスにぶつけた。ユースティスはわかりやすいように解説する。それにシューナッツは泣きそうな顔をした。
「たぶん、私にかける予定だったんだろう。しかし、私は神。そんなものはかからない。だから、その行き先がセルジュになったんだと思う…」
『そんな……』
ユースティスもシャーリーが仕出かした事とはいえ幼子を巻き込んでしまった罪悪感を抱いていた。
「…………兄上、解呪します。ご退室を」
『ユースティス…?』
「貴方が居ては邪魔です。王宮にいなさい」
『ッ!!わかった……』
ユースティスはある決断をした。それにはシューナッツが居ては邪魔となる。ユースティスはシューナッツに圧力をかけて追い出し、【薔薇院】《プリムローズ》に結界をはった。誰も入れない結界を。《ユウラスティア》達が気が付いたときには遅く全てが終わっていた。
「ヴィオ!!!」
《ユウラスティア》や《パラディン》、シューナッツが駆け込むと倒れているユースティスと肌の色が戻った王子がいた。
「ヴィオ!!」
「う゛……セルジュの呪詛は……解呪…出来ました…」
『ユースティス、ありがとう!!』
シューナッツは王子を見て泣いた。元に戻ったことに歓喜した。ただ、この時シューナッツは気が付いていなかった。《ユウラスティア》や《パラディン》の表情が厳しいことに。
「ちょっと…疲れました…」
「あぁ、おやすみ。ヴィオ」
「はい…」
ユースティスは《ユウラスティア》に抱かれ、眠りについた。
「シューナッツ様、セルジュ様は我々がお預かりします」
「異常がないか調べなくてはなりません」
「《プリムローズ》は閉鎖さていただきます」
「あとの事は我々にお任せください」
『あぁ、頼む』
ルイーズがセルジュを抱き、シューナッツと共に出ていった。後始末にエレオノーラ達が残り、メイド達の指揮をしていた。