王妃内乱編5
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『なぁ、ユースティス』
「……いきなり喋りかけてこないで下さいよ。兄上」
『ごめんごめん』
「謝る気無いでしょ」
ある日の昼食時。ユースティスがスープを飲んでるところに狙ったように声をかけてきたシューナッツ。それに吹き掛けたユースティスは拗ねていた。シューナッツは笑っていたが。
『最近、シャーリーの様子がおかしい。何かを企んでるように思える』
「どうせ私の暗殺でしょう。ほっておいて構いません」
『ユースティス……』
シューナッツの心配をもろともしないユースティス。ユースティスが暗殺ごときで死ぬとはシューナッツも思っていない。それでも兄として心配なのだ。
「あの姉上ならやりかねませんよ。国庫に風穴を開けようとしたエステリナ・アトレイドの姉ですし」
『エステリナ?』
「私を騙った馬鹿ですよ。あれはアトレイド家の庶子でリーリス家に売られたんです。丁度その時に行方不明になった私の代わりとして育てて私が戻ったのを機に送ってきたと考えるのが妥当でしょう」
ユースティスは自分を騙っていたあの女の正体を知っていた。シャーリーと直接的に関係無くても裏があるのでは?と思って探っていたが本当に何もなかった。
『だが、アトレイド家は……』
「そうですね。豪遊の国<アトレイド>の王家ですね。まぁ、あの国は無法地帯ですからやたらめったら手を出してはなりません。ちょっかいを出すようなら叩き潰すだけです。後は《ゼリメント》を潰せば良いでしょう」
『……鬼……』
「ふっ、今さらですよ。兄上」
普通に食事しながら喋る内容ではないが、ユースティス以外に誰もいないので気にしない。王妃の本名はシャーリー・フォンデューク・アトレイド。豪遊の国<アトレイド>の王女である。しかし、この国には悪魔の国という別名がある。その名の通り犯罪国であり略奪や殺人は日常茶飯事。人身売買も積極的である。ただ、この国の守護神である悪の神はとっても臆病だった。その弱味につけこもうとするユースティスを鬼だと思うシューナッツ。悪の神よりも悪どかった。
「何が起きようと兄上は手を出さないで下さいね」
『ユースティス……』
「これは生者の問題です。いくら兄上の妻だとしても死者には関係ありません」
ユースティスの言葉にシューナッツはショックを受けた。確かに死者は生者に関わってはいけない掟がある。その掟をユースティスの権力を使いねじ曲げてるシューナッツをユースティスはわかっていた。掟をねじ曲げ、生者に干渉すればシューナッツの魂が消滅してしまう。それを知っているユースティスが釘を指したのだ。来世で幸せになってほしいユースティスとしてはこんなところで消滅なんかしてほしくない。だからと言って強制昇華させるのも自分が殺した負い目から実行できないユースティスは悩んでいた。この問題を先伸ばしにするために突き放す事を言ったのだった。
『………雰囲気を壊すようで悪いが……お前食い過ぎ』
「うるさい。私の活力源を取るな!」
暗い話を最中、ユースティスは運ばれてくる果物を次々と完食していた。見ているシューナッツが吐きそうな程に。幽霊に吐くものなどないが。
『まぁ…お前の果物好きは今に始まった事じゃないか…』
「さすが兄上。わかっているじゃないか」
ユースティスの果物好きは幼い頃からであり、【藍水院】《ヴィオリウム》の庭には果物の木がたくさん植えられた。当時も良く木に登り勝手に取って食べていたが、王宮に戻ってきてからも一日に一回は登っている。そのくせに虫は大嫌いだった。
『あ、虫』
「!?」
シューナッツの一言にユースティスは容赦なく火の魔法を放った。ピンポイントにそれだけを燃やした。そう言うコントロールの良さは昔からシューナッツの憧れだった。
「ご休憩中申し訳ありません。ユースティス様」
「フレイか。どうした?」
「ミスト様とアクア様がお越しになっております」
「わかった」
近衛騎士フレイの登場によりユースティスの昼食は幕を閉じた。シューナッツもシャーリーの様子を見るために《プリムローズ》へと向かった。