女王誕生編13
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神の大会議が始まって間もなく一年がたつ。一番初めに事の重大さに気が付いたのは《ベルモット》や神官達だった。本来なら月に何人も来るはずの妊婦が約一年で0人。この事に顔をしかめたのは大神官長であるミストだった。
「……あの女……よくもやってくれましたね……」
「ミスト、口が悪いぞ」
「アクア、黙りなさい。これもそれもあの女がシュゼリア神様を怒らせたのがいけないのです」
生ける彫刻の片割れであるアクアは毒を吐く片割れのミストを注意する。
「シュゼリア神様なら大会議中にユースティス様を頂いているはずだ。それで機嫌を直すだろ」
「そうだと良いのですが……」
「取り合えずクズ王に報告せねば」
「そうですね……」
だが、ミストの怒りは治まらない。渋々、王宮に向かうミストとアクア。それにより王宮内が混沌としているのに気が付く事となる。
王宮内に入れば何故かげっそりとしている文官達がいた。フレイアやフレイ、《ベルモット》の姿は見当たらずミスト達はシューナッツがいるであろう執務室に向かう……が、誰もいなかった。
「「……………ここまでのグズとは思わなかった…………」」
二人の呟きは誰にも聞かれることは無かった。ミストとアクアはさっさとその場を出ていき、《ヴィオステラ》に向かった。
《ヴィオステラ》ではユースティス側の家臣達が集まり、フレイアに直訴していた。そんなこともお構いなしにミストとアクアはずかずかと入っていく。
「フレイア、ユースティス様を呼び戻しなさい」
「こんな状況ではこの国は終わりです」
ミストとアクアがフレイアに呼び戻すよう要求するがフレイアは困った顔をするだけ。
「……そう言われましても……。神々の大会議がいつ終わるかわかりませんし…」
「ユースティス様だけ連れ帰りなさい」
「それが出来たら苦労しません。そもそも大会議は数年単位の行事決めでもあります。ユースティス様に関しては海関係を決める大切なもの。それを……」
神の大会議は数年間の行事を決める大切なもの。それを途中放棄させるのはフレイアとしても心苦しい。
「フレイア、呼び戻して構いません」
「兄上…」
「ルイーズ」
「伝染病が広まり始めています。このままではいずれ《ユクレシア》から人が消えるでしょう」
「神々の会議は既に終わっているはず。ご帰還願いましょう」
フレイアはミスト達や兄、姉である《ベルモット》の無理難題に頭を抱えた。簡単に言わないでくれと。
「しかし、どうやって連れ戻すのですか?扉は既に閉じられています」
「こう言うときこそ神の力を発揮させなくては」
「宝の持ち腐れだ」
「我らが主は審判の刻を待っていたのだ」
「…わかりました。神官達を大聖堂に集めてください」
確かに神官達の祈りと《ベルモット》達の神力を合わせればなんとか出来るのだ。問題は……シュゼリア神である。そこはユースティスになんとかしてもらうしか打開策は無いので、フレイアは《ヴィオステラ》にある大聖堂に神官達を集めた。流石に大臣達は入れないので会議室でお留守番だったが。大聖堂に集められた神官達は膝をつき祈りを捧げる。その祈りをフレイアとフレイ、《ベルモット》が神力で増長させる。そして、空にある神々の聖域<エリュシオン>へと声を飛ばした。
<エリュシオン>で一番先にフレイア達からの祈りに気が付いたのは《ユウラスティア》だった。だが、《ユウラスティア》は無視。フレイアはそれに気が付いたが、素通り。元々、《ユウラスティア》と《パラディン》は仲が良くない。ユースティスが絡めばさらに対立するライバルとかいうレベルではない。互いが互いを嫌っている仲だ。そして、フレイア達に気が付いたのは《ヴィオレッタ=ベルム》だった。
「ヴィオ、《パラディアーム》が来てますわよ」
「あ、本当だ。下界で何かあったんだな。仕方ない。諏訪神、私は先に戻らせてもらう」
「あぁ、構わぬ。《ヴィオリウムステラ》は既に仕事を終えているからな」
「ヴィオがいくなら私も行く」
「来なくていいから」
会議の途中ではあったが、ユースティスは抜けることにした。面倒ごとを先に片付けるユースティスに許可を出す諏訪神は異様にご機嫌だった。ユースティスにくっついてこようとする《ユウラスティア》に諏訪神が待ったをかけた。
「待て、《ユウラスティア》。しご」
「これだ」
「…………………はぁ……良いぞ」
「ヴィオ、行くぞ」
今まで暖めていた仕事を一気に諏訪神に提出した《ユウラスティア》はユースティスを連れて会議室から消えた。それに全員がため息をついた。