女王誕生編11
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ユースティス(仮)が城に来てから一週間がたった。ユースティス(仮)はユースティスを避けていたがユースティスがあからさまな避け方にキレてあわや大惨事になるところだった。《ベルモット》がどうにか怒りを宥めてくれたお陰でなんとかなったが仮に誰も止めなかった場合、暴動が起きていたに違いない。そんなユースティスは現在、大神殿で祈りを捧げ中。祈りを捧げている間、誰も入ってはいけない。例えそれが《ベルモット》や王族であったとしても。
「ここが大神殿?誰もいないじゃない」
「姫様!!この時間は立ち入りが禁止されています!!戻りましょう!!」
ユースティス(仮)が大神殿に来ていた。メイドにはまだ若いミーア・エストライネが選ばれユースティス(仮)に振り回されている。
「だったら、ミーアだけ戻れば良いじゃない。私は王女よ。何をしても許されるわ」
「姫様!!確かにここは姫様にとって縁の深い所ですが、王族とて立ち入りは禁止なのです!!」
「私に縁深い所なら大丈夫よ。私が来たんだから」
「………神殿内ではお静かに。マナーも守れない者は追い出します」
ミーアがユースティス(仮)を止めようと必死に頑張っているが強引に突き進む。誰もいない大神殿内に二人の声がよく響いていた。それは本殿にいた大神官長にも聞こえるほどに…。
「誰?」
「姫様!!大神官長のミスト様です!!この神殿内での最高権力者です!ご挨拶を!!」
生ける彫刻の片割れとして有名なミスト・エストライネ。ミーアの兄である。
「そうなの。私はユースティス。ここは私に縁深い場所と聞いてきたの。案内なさい」
「貴女のような者がユースティス様を語ると身の程知らずですね。この神殿は《ヴィオリウムステラ》様の所有物です。高々人間が決めた位で偉そうにするものではありませんね。器の小ささが伺えます」
「なっ!?私は王女よ!!その様な無礼が許されると思っているの!?」
「ここは治外法権です。貴女が何を喚こうが騒ごうが国は動きません。ここで貴女が殺されても文句は言えませんよ」
「ッ!!」
ミストの態度はユースティス(仮)が名乗っても変わることはなかった。それよりも脅しをかけてきた。ミストの言っていることは間違いでは無いのでミーアも反論しない。言葉で勝てないユースティス(仮)はミストを睨み付ける。
「だったら、お姉様はどうなのよ!?」
「姉?」
「アイテール様の事です」
「あの方は特別です。神の愛娘であるあの方の祈りがなければこんな国などすぐに滅びます」
「ッ!!あんな女が愛娘ですって!?ありえませんわ!!」
騒ぎ立てるユースティス(仮)に冷静なミスト。ユースティス(仮)は城に来てから本性を表すように贅の限りをつくした。言うことを聞かないメイドや家臣達を勝手にクビにしたりしていた。その噂は神殿にも伝わっていた。しかし、ここは神域。その様なものは通用しない。
「……ヴィオが加護をする意味が私にはわからないな」
「これはシュゼリア神様。いらしていたんですか」
突如姿を現した無駄に滲み出る色気と艶のある声音の男が眉間にシワを寄せていた。ミストは男―シュゼリア神―と普通に話している。
「あぁ。それより…これはなんだ。ここは本殿。神と部下しか入ってはならない所だ。人間なんかが来るようなところではない。即刻出ていけ」
「!!私は王女です!!私に指図するとは無礼だわ!!」
「……どうやら我が加護は要らぬようだな。では、私は失礼しよう」
「シュゼリア神様!!」
シュゼリア神はユースティス(仮)を穢いものを見るように見た挙げ句、追い出そうとする。それに怒るユースティス(仮)。それは当たり前だが、ここでは神の言葉は絶対なのだ。シュゼリア神はユースティス(仮)の態度と言動が気に入らなかったらしくさっさと消えてしまった。去り際に呟かれた言葉にミーアが声を上げた。しかし、それが届く事はなかった。
「姫様!!何て事をしてくれたのですか!!シュゼリア神様は私達、人間に子宝を授けて下さる神様です!!その方に向かって何て事を!!陛下にご報告致します」
「お兄様は私が正しいとお言いになるわ。私に逆らうお前なんかクビよ!」
「!!」
ミーアはユースティス(仮)を叱りつけるがそれすらも権力を振りかざし黙らせるユースティス(仮)。ミストも呆れて話さない。
「……随分と偉くなったな。ユースティス」
「お姉様!」
「ここは神々が集う神聖な場所。静かにしなさい。ミーア、貴女を私付きに戻します。シューナッツには私から話しておきます」
「畏まりました」
大神殿の奥から出てきたユースティスにユースティス(仮)が嬉しそうに声を上げるがユースティスの冷たい言葉にユースティス(仮)は慌てた。
「これよりこの大神殿を閉鎖します。神々の大会議により人間に属する者が入れないように致します。二時間以内に出ていきなさい」
「お姉様!!」
ユースティス(仮)を見ることなくユースティスは立ち止まることなく奥へと消えていった。
それからまもなく、大神殿は閉鎖された。神官達は居を《ヴィオステラ》に移した。ミーアがユースティス(仮)付きから外され、ユースティス付きに戻るとユースティス(仮)には新しくメイドが付けられたがすぐに辞めていく。そんな事態にシューナッツは頭を痛めていた。ユースティス(仮)が来てから更にお金が消費されていてニョルズが頭を悩ませていた。そして、王妃が大金を動かしているのを誰もが知っているが咎めない。文官や騎士の大半はユースティス側についていたので、ユースティスの策に王妃を乗せるため全員気が付かない振りをしている。そうして貴族の大半がユースティスの策に嵌まっていっている。ユースティスが大神殿に籠っている間もユースティスの策を着々と張り巡らせている。そしてユースティスが大神殿に籠って半月後、王妃が動きを見せた。
「お呼びでしょうか?王妃様」
「ラフィーネ・アールシュタルト。貴方を呼んだのは貴方が集めている装飾品についてです」
「装飾品…ですか?私は宝石商ですのでどれを指しているのかわかりかねるのですが……」
「ユースティスに言っていた儀式用の装飾品です。あれを私に売りなさい」
王妃シャーリーがラフィーネを呼び出した。その内容は儀式用の装飾品を売れと言うものだった。
「あれは既にユースティス様にお渡し致しました。私の手元にはもう残っておりません」
「何ですって?私に嘘を申すのですか?」
「いえ、事実です。私はあれ以来、儀式用の装飾品を目にしていません」
「!あれほど売り捌いたと言うのに………!!誰か!この者を捕らえよ!!反逆罪で牢に繋いでおきなさい!!」
「!!なっ!?」
王妃はあの装飾品が国宝であることを知らずに売り捌いていたが、ユースティスの言葉に慌てて買い戻していた。全てを無かったことにしたい王妃はラフィーネを捕らえ、口封じの為に殺すつもりだった。ラフィーネは抵抗するが肉体派では無いため、力で押さえ付けられて捕まってしまった。騎士二人に連れられ、地下牢へと向かう途中フレイアがいた。騎士に捕まっているラフィーネを見たフレイアが声をかける。
「待ちなさい。何をしているのです」
「フレイア様。罪人を牢に連れていくところです」
「罪人?彼は《ヴィオリウムステラ》様の大切な慧眼。彼の方の許しなく処罰することは赦されません。この者は我ら《パラディアーム》が預かります。あなた達は持ち場に戻りなさい」
「「はっ!!」」
フレイアの言葉に従い、騎士達はラフィーネを解放して持ち場に戻っていった。フレイアは騎士達に言霊を使い、ラフィーネを解放させた。その光景に唖然とするラフィーネ。そんなラフィーネにフレイアはある外套をかけた。
「あ、の……フレイア様?」
「その外套は私の魔力で作られた物です。それを被れば《ヴィオリウムステラ》様や《ベルモット》と部下、神官以外に姿が見えません。これから貴方を《ヴィオリウム》にお連れします。そこで隠れているのが良いでしょう」
外套を着せるフレイアに戸惑うラフィーネ。
「しかし!」
「気にしなくてよいのです。貴方は《ヴィーリスタ》なのですから」
「《ヴィーリスタ》……?」
「審判の時は刻々と近づいています。さぁ、ユースティス様のお帰りまでに全てを整えなくては」
フレイアはそれ以上何も言わずに歩き出した。どうしたら良いのかわからないラフィーネはフレイアの後をついていく。途中、メイドや騎士達とすれ違ったが誰一人としてラフィーネには気が付かない。そうして無事に《ヴィオリウム》に到着すると半裸の男達がいた。
「お疲れ様です」
「お疲れ様です。フレイア様」
「あ、フレイア様。お疲れ様です」
フレイアが声をかけると気が付いた者達が返事をしてきた。半裸の男達は普段、神官をしている者達だった。確かにこんなむさ苦しい姿をメイド達には見られたくないだろう、彼らの心はラフィーネも理解した。
「申し訳ないですが、彼をここで匿っていただけませんか?」
「それは構いませんけど……部屋が…」
「ユースティス様の部屋で構いませんよ。どうせ一年は大会議でいませんし」
「わかりました」
フレイアの言葉に神官は視線をさ迷わせた。それを見たフレイアは納得したように許可をだす。神官はフレイアに従い、部屋の準備をしにいった。
「ラフィーネ殿、不自由はしないと思いますが何かあればそこらへんの神官に声をかけてください」
「何から何までありがとうございます」
「良いのですよ。《ヴィーリスタ》の慧眼を持つ人の子は通常よりも脆い生き物ですからね」
「……?」
残されたラフィーネはフレイアに頭を下げるがフレイアは笑って去っていった。フレイアの言葉にラフィーネは首を傾げた。
「お待たせしました……って、フレイア様戻ったんですか…」
「あ、はい」
「はぁ……。神様の行動は理解出来ません…」
「フレイア様だけではありませんけどね」
「確かに」
「あ、申し訳ありません。それではご案内致しますね」
「ありがとうございます」
神官達の愚痴に苦笑しか出来ないラフィーネは黙って聞いていた。それに気が付いた神官達は慌ててラフィーネを案内していった。