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不可

作者: 水無飛沫
掲載日:2026/06/02


――光あれ。




これは人類が産まれるずっと昔のお話です。


暗い夜の闇は、ひとつの生き物を産み落としました。

昼の光の中に於いて尚、それは闇と同じ色をしています。


「不可」


その生き物をお創りになられた時、神様は確かにそう言いました。


――不可。

その言葉の意味を、今しがた産み落とされた彼は考えます。


拒絶、禁止命令、行動の否定。


どのような意図でその言葉を発したのか。

彼は神様を仰ぎ見ます。

その表情には一切読み取れるものがありませんでした。


あぁ、自分は失敗作だったのか。そう思い、彼は悲しくなります。


否応もなく、彼はただただ、その命令に従います。


不可。



全ての行動を捨てて、陽の光の当たらない、暗い閨で縮こまって時が過ぎるのを眺めます。

時折、神様のお創りになられた他の誰かが自分を蔑みます。憐みの視線を向けます。

けれど、誰も、不可と言われた自分と交わおうなどと思うものはいませんでした。


どれだけの季節をそうして過ごしたでしょうか。

初まりの人間が神様の命令に逆らって、楽園から外に出たという噂は、ついに彼のもとにも届きました。


神様に逆らうなんて愚かなことだ。従っていれば永遠に楽園で幸せに過ごせたのに。


――けれど、本当に?


彼はついにその重い足を動かします。


――本当に自分は幸せになれるのか?


細い足で立つと、爪に大地が喰いつきます。

大きく伸びをすると新鮮な空気が肺を満たします。

白昼の下へ歩き出すと、誰もが驚いた眼でこちらを視ます。


――腹が減った。


たがが外れたように、彼の心を欲望と本能が支配します。

彼は生まれて初めて、能動的に動きました。

木に登り、果物をつまみ、その漆黒の躰で大声で鳴きます。


どうせならその声が神様に届けばいい。そう思ってもう一度大きく鳴きます。


「 」



奇しくも太陽が傾き、周囲が橙色に燃えてきました。

依然として真っ黒な彼は、それでもどこか懐かしい感情が沸き上がり、両手を大きく動かします。



そうして彼は知ったのです。自由を。

彼には自由がありました。

飛んでいける翼がありました。

誰も自らの行動を阻害などしていませんでした。


神様でさえ、きっとそんなつもりはなかったのでしょう。


彼は神様の元を離れます。

遠く、遠くへ飛んでいきます。


自由に。どこまでも自由に。




今ではその生物はこう呼ばれています。


からす(不可)」と。







その生物は自由に大空を翔る。

「カァ」と声高に謳う。




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