不可
――光あれ。
これは人類が産まれるずっと昔のお話です。
暗い夜の闇は、ひとつの生き物を産み落としました。
昼の光の中に於いて尚、それは闇と同じ色をしています。
「不可」
その生き物をお創りになられた時、神様は確かにそう言いました。
――不可。
その言葉の意味を、今しがた産み落とされた彼は考えます。
拒絶、禁止命令、行動の否定。
どのような意図でその言葉を発したのか。
彼は神様を仰ぎ見ます。
その表情には一切読み取れるものがありませんでした。
あぁ、自分は失敗作だったのか。そう思い、彼は悲しくなります。
否応もなく、彼はただただ、その命令に従います。
不可。
全ての行動を捨てて、陽の光の当たらない、暗い閨で縮こまって時が過ぎるのを眺めます。
時折、神様のお創りになられた他の誰かが自分を蔑みます。憐みの視線を向けます。
けれど、誰も、不可と言われた自分と交わおうなどと思うものはいませんでした。
どれだけの季節をそうして過ごしたでしょうか。
初まりの人間が神様の命令に逆らって、楽園から外に出たという噂は、ついに彼のもとにも届きました。
神様に逆らうなんて愚かなことだ。従っていれば永遠に楽園で幸せに過ごせたのに。
――けれど、本当に?
彼はついにその重い足を動かします。
――本当に自分は幸せになれるのか?
細い足で立つと、爪に大地が喰いつきます。
大きく伸びをすると新鮮な空気が肺を満たします。
白昼の下へ歩き出すと、誰もが驚いた眼でこちらを視ます。
――腹が減った。
たがが外れたように、彼の心を欲望と本能が支配します。
彼は生まれて初めて、能動的に動きました。
木に登り、果物をつまみ、その漆黒の躰で大声で鳴きます。
どうせならその声が神様に届けばいい。そう思ってもう一度大きく鳴きます。
「 」
奇しくも太陽が傾き、周囲が橙色に燃えてきました。
依然として真っ黒な彼は、それでもどこか懐かしい感情が沸き上がり、両手を大きく動かします。
そうして彼は知ったのです。自由を。
彼には自由がありました。
飛んでいける翼がありました。
誰も自らの行動を阻害などしていませんでした。
神様でさえ、きっとそんなつもりはなかったのでしょう。
彼は神様の元を離れます。
遠く、遠くへ飛んでいきます。
自由に。どこまでも自由に。
今ではその生物はこう呼ばれています。
「からす」と。
その生物は自由に大空を翔る。
「カァ」と声高に謳う。




