第43話:エピローグ
「ミル先輩が千年後に私たちの話をする時、きっと楽しいと思う」
「楽しい?」
「うん。『昔、こんな面白い人たちがいました』って」
美咲ちゃんが、ミルの真似をする。
「『ユイという人は、記憶を失っても写真を撮り続けました』」
「『美咲という人は、虹色に光りました』」
「『セピアという人は、影がありませんでした』」
みんなで笑う。
「いい話じゃん」
セピアも笑っている。
「伝説になれるかも」
日が暮れて、みんなで帰路につく。
「また明日」
「うん、また明日」
普通の別れの挨拶。
でも、「また明日」と言えることの幸せ。
明日も、みんなに会える。
名前を呼び合える。
一緒に笑える。
家に帰って、今日撮った写真を整理する。
魔法のない、普通の写真。
でも、確かに今日という日が写っている。
ミルの笑顔。
美咲ちゃんのピースサイン。
セピアの影。
そして、セルフタイマーで撮った四人の写真。
机の引き出しを開ける。
そこには、もう使わないメモ帳がある。
ページをめくる。
『私は海野ユイ』
最初のページ。
震える字で書かれた、不安な文字。
でも、今は——
新しいノートを取り出す。
普通の日記帳。
今日の日付を書いて、普通の日記を書く。
『11月15日 晴れ』『みんなでケーキを食べた』 『セピアとデートの約束をした』『ミルと千年後の話をした』『美咲ちゃんが大人っぽくなった』 『幸せな一日だった』
ペンを置く。
窓の外を見る。
星が瞬いている。
千年後、ミルは一人でこの星を見るのだろうか。
でも、きっと寂しくない。
私たちとの思い出があるから。
ベッドに入る前に、カメラを手に取る。
ファインダーを覗く。
そこに映るのは、部屋の風景。
本棚、机、ベッド。
普通の景色。
でも、これが私の世界。
私のファインダーに映るもの。
それは、特別じゃない日常。
でも、かけがえのない日常。
記憶を失わない幸せ。
仲間がいる幸せ。
普通に生きる幸せ。
明日も、写真を撮ろう。
魔法はないけど、心を込めて。
一枚一枚、大切に。
それが、私の生き方。
ただの人間、海野ユイの生き方。
【完】




