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第41話:君のファインダーに映るもの

『みんな、今だ!』


立花先輩の声が響く。


『全員の力を、ユイに集中させて!』


ミルが、全演算能力を解放する。


瞳の回路が、白く輝く。


「ユイ、私のすべてを!」


データの奔流が、私に流れ込む。


世界の構造、記録の本質、すべての情報。


美咲ちゃんが、虹色の光を最大出力で放つ。


「部長、私の想いも!」


守りたいという純粋な願い。


それが、力となって私を包む。


立花先輩の《視し手》の力も、限界まで高まる。


『視える! すべてが視える!』


過去、現在、未来。


すべての可能性が、一つに収束していく。


そして、私の中で、みんなの力が一つになった。


ミルの理性。


美咲ちゃんの感情。


セピアの愛。


立花先輩の導き。


それらが混ざり合い、新しい光を生み出す。


七色を超えた、透明な光。


すべてを受け入れる、究極の光。


「これが……」


終焉の記録者が、震える。


『まさか、《完全調和》だと!?』


「違う」


私は、静かに言う。


「これは、みんなの心」


壊れたカメラが、光を放ち始める。


割れたファインダーから、七色の光が漏れる。


いや、七色じゃない。


無限の色。


この世界に存在する、すべての色。


そして、存在しない色さえも。


「終焉の記録者」


私は、巨大な黒い球体を見つめる。


「あなたも、寂しかったんでしょう?」


『黙れ!』


「ずっと一人で、闇の中で」


『違う! 我は、破壊のために——』


「でも、本当は、完全になりたかった」


核心を突かれ、終焉の記録者が黙る。


「ポジだけでも、ネガだけでも、不完全」


私は、カメラを構える。


「だから、一つになろう」


『それは——』


「あなたを消すんじゃない」


私は、優しく言う。


「完全にするの」


シャッターボタンに、指をかける。


でも、今度は迷いがない。


なぜなら——


仲間たちの力が、私を支えているから。


私は消えても、みんなの中で生き続ける。


形は変わっても、絆は永遠。


深呼吸。


そして——


カシャリ!


シャッターを切った瞬間、世界が止まった。


音が消える。


時間が止まる。


そして——


爆発的な光が、すべてを包み込んだ。


それは、創世の光。


ビッグバンのような、世界を作り変える光。


終焉の記録者の黒い球体に、亀裂が入る。


『ああああああ!』


絶叫。


でも、それは苦痛の叫びじゃない。


解放の叫び。


黒い殻が、砕けていく。


パリン、パリンと、ガラスが割れるような音。


そして、中から——


小さな光が現れた。


それは、子供だった。


5歳くらいの、性別の分からない子供。


泣いている。


でも、嬉し涙。


「やっと……完全になれた……」


子供が、私を見る。


「ありがとう……」


そして、子供の体が、光になって散っていく。


でも、消滅じゃない。


世界と一体化していく。


ポジとネガが、光と影が、すべてが調和する。


世界が、完全性を取り戻していく。


そして——


私の体も、光になり始めた。


「ユイ!」


ミルの悲痛な叫び。


「部長!」


美咲ちゃんの泣き声。


でも、私は微笑んでいた。


「大丈夫」


光になりながら、私は言う。


「みんなの中で、生きるから」


私の体が、粒子となって散っていく。


でも、その粒子は、仲間たちに吸い込まれていく。


ミルの中に、私の記憶が。


美咲ちゃんの中に、私の勇気が。


立花先輩の中に、私の希望が。


そして——


空に、セピアの姿が見えた。


透明じゃない、実体のあるセピア。


「ユイ……」


セピアが、手を伸ばす。


私も、光になりかけた手を伸ばす。


指先が、触れる。


温かい。


「また、会えたね」


「うん」


完全に光になる直前、私は最後に言った。


「みんな、ありがとう」


「私、幸せだった」


「忘れないで」


そして——


私は、光となって、世界に溶けていった。


でも、それは終わりじゃない。


新しい始まり。


みんなの中で、永遠に生き続ける始まり。


私の意識が、光の中を漂っている。


体はない。


でも、確かに「私」はここにいる。


温かい光の海。


すべての記録が、調和を持って流れている。


ポジもネガも、光も影も、区別がない。


ただ、完全な調和。


(これが、世界と一体化するということ……)


でも——


『ユイ!』


声が聞こえる。


ミルの声。


『ユイ、聞こえますか!?』


必死の呼びかけ。


『部長! どこですか!?』


美咲ちゃんの泣き声。


みんなが、私を呼んでいる。


その時、私は気づいた。


完全に一体化していない。


私の核となる意識が、まだ個として残っている。


なぜ?


(そうか……)


みんなの呼び声が、私を繋ぎ止めている。


強い絆が、私の魂を完全な消滅から守っている。


祖父の言葉が蘇る。


『強い絆があれば、魂は繋ぎ止められる』


これが、祖父の言っていた希望。


でも、このままでは、宙ぶらりん。


完全に消えることもできず、戻ることもできない。


その時——


小さな光が、私に近づいてきた。


5歳くらいの子供の形をした光。


終焉の記録者の、本来の姿。


『あなたは……』


子供が、私を見つめる。


『まだ、消えてないの?』


「うん。みんなが、呼んでくれてるから」


子供が、少し寂しそうに微笑む。


『いいな。私には、呼んでくれる人がいなかった』


「……」


『でも、あなたのおかげで、やっと完全になれた』


子供が、私の手を取る。


光の手。温かい。


『お礼に、教えてあげる』


『あなたは、選べる』


子供が言う。


『このまま世界と一体化して、永遠の安らぎを得るか』


『それとも——』


子供が、上を指差す。


そこには、小さな光の道があった。


細い、今にも消えそうな道。


『仲間たちの元へ、戻るか』


「戻れるの!?」


『ただし——』


子供の表情が、真剣になる。


『代償がある』


『あなたの《写し手》としての力は、永遠に失われる』


『もう二度と、特別な写真は撮れない』


『ただの、普通の人間として生きることになる』


《写し手》の力を失う。


祖父から受け継いだ、特別な力。


世界を救うための力。


それを、手放す。


「でも、カメラは?」


『普通のカメラとして使える』


『ただし、魔法はない』


『瞬間色彩も、瞬間物語も、もう使えない』


私は、少し考える。


いや、考えるまでもない。


「戻る」


即答だった。


「みんなの所へ、戻る」


子供が、優しく微笑む。


『やっぱり、そう言うと思った』


『じゃあ、手伝ってあげる』


子供が、両手を広げる。


すると、光の道が、少し太くなった。


歩けるくらいの幅になる。


『これが、私からの最後の贈り物』


『ありがとう、私を救ってくれて』


子供が、透明になっていく。


今度こそ、本当に世界と一体化していく。


『あなたたちのこと、ずっと見守ってる』


『世界の一部として、永遠に』


そして、子供は完全に消えた。


いや、消えたんじゃない。


風になり、光になり、世界そのものになった。


私は、光の道を歩き始める。


一歩、また一歩。


道は長い。


そして、歩くたびに、力が抜けていく。


《写し手》としての特別な力が、少しずつ消えていく。


でも、後悔はない。


力なんかなくても、みんなと一緒にいられるなら。


歩き続ける。


すると、前方に、出口が見えてきた。


眩しい光。


そして——


『ユイ!』


セピアの声!

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