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第39話:別れと再会

声が、震える。


「私も、セピアが好き」


「記憶はないけど、この気持ちは本物」


メモ帳に、震える手で書く。


『セピアは、終焉の記録者の影だった』 『でも、光を選んだ』 『私たちを守るために』 『セピアが好き』 『絶対に救う』


そして、立ち上がる。


「ミル、美咲ちゃん」


二人を見る。


「ネガの世界に行く準備をして」


「でも、セピア先輩が……」


「だから行くの」


私は、決意を込めて言う。


「終焉の記録者を倒して、セピアを救う」


「両方とも、諦めない」


セピアの告白から数時間後。


私たちは、祖父の書斎に集まっていた。


何か、手がかりがあるはずだ。


セピアを救い、世界も救う方法が。


「ユイ、これを見てください」


ミルが、壁の一部を押す。


カチッという音と共に、隠し扉が開く。


「隠し部屋?」


奥には、小さな部屋があった。


そこには、古い映写機と、一本のフィルムが置かれていた。


フィルムの缶に、祖父の字で書かれている。


『最後の真実——ユイへ』


震える手で、フィルムをセットする。


映写機が、カタカタと音を立てて回り始める。


壁に、映像が映し出される。


そこには、白髪の老人——私の祖父が映っていた。


優しい笑顔。深い皺。そして、私と同じ瞳。


『ユイ、これを見ているということは、すべてが始まったのだね』


祖父の声が、部屋に響く。


『まず、謝らなければならない』


祖父の顔が、苦渋に歪む。


『君の記憶を奪うことになると知りながら、このカメラを託したことを』


「え……?」


『このカメラは、世界を撮る度に、使用者の記憶を代価として要求する』


『それが、《写し手》の宿命』


『だが、君にしか、できないことがあった』


祖父が、真剣な眼差しで語る。


『終焉の記録者を、完全に倒す方法』


映像が切り替わる。


複雑な図式が映し出される。


『終焉の記録者は、不完全な存在だ』


『ネガティブな記録しか持たない、歪な存在』


『だから、破壊しか知らない』


祖父が、図を指し示す。


『だが、すべての記録を一つに統合すれば——』


『ポジもネガも、光も影も、すべてを一つの写真に収めれば』


『終焉の記録者は、完全な存在となり、破壊衝動から解放される』


『そのための、特別な機能を、カメラに搭載した』


祖父が、カメラの設計図を見せる。


『《完全なる記録パーフェクト・レコード》』


『すべてを受け入れ、統合する、究極の写真』


『だが——』


祖父の顔が、厳しくなる。


『代償がある』


『その写真を撮った瞬間、撮影者は、すべての記録と一体化する』


『個としての存在は、消滅する』


私たちは、息を呑んだ。


つまり——


「死ぬってこと……?」


『だが、希望もある』


祖父が、優しく微笑む。


『強い絆があれば、魂は繋ぎ止められる』


『仲間との絆が、新しい器となる』


『君は消えるが、みんなの中で生き続ける』


映像が、少しずつ薄くなっていく。


フィルムが、終わりに近づいている。


『ユイ、君なら、きっとできる』


『なぜなら、君には、素晴らしい仲間がいるから』


『彼らを、信じなさい』


そして、最後に——


『愛している、ユイ』


『君の選択を、誇りに思う』


映像が、完全に消えた。


重い沈黙が、部屋を支配する。


「私が、消える……」


震える声で、呟く。


「それしか、方法はないの?」


ミルが、必死にデータを解析する。


「他の方法を探します! 必ず——」


「時間がない」


私は、窓の外を見る。


セピアの透明化は進み、もう胸まで消えかけている。


あと48時間もない。


メモ帳を開く。


震える手で、書く。


『すべてを一つにする写真』 『撮ったら、私は消える』 『でも、みんなの中で生きる』


そして——


『怖い』


正直な気持ち。


でも、その下に書く。


『でも、やる』 『セピアと世界を救うために』


「ユイ」


美咲ちゃんが、私の手を握る。


「一緒に、他の方法を探しましょう」


「きっと、あるはずです」


ミルも頷く。


「諦めません。必ず、全員が生き残る方法を」


でも、私の中では、もう決意が固まっていた。


もし、他に方法がなければ——


私は、シャッターを切る。


みんなを守るために。


翌朝。


メモ帳を開くのに、5分もかかった。


文字が、踊って見える。


『セピア、消えかけ』 『あと24時間』 『団地へ、最後の褪色』


手が、震えている。


記憶の欠落が、急激に進行している。


団地への道中、私は何度も立ち止まった。


「ユイ、大丈夫?」


隣にいる茶髪の女の子が、心配そうに聞く。


誰だっけ。


メモを見る。


『美咲ちゃん=後輩』


そうだ、美咲ちゃん。


「ご、ごめん。大丈夫」


でも、次の瞬間——


また分からなくなる。


この子、誰?


団地に着いた時、私の意識は、もう朦朧としていた。


古い集合団地。


でも、他の場所とは違った。


ここは、完全に褪色していない。


まだ、薄っすらと色が残っている。


「なぜ、ここだけ……」


銀髪の女の子が言う。


名前が、出てこない。


「ユイ、私です! ミルです!」


ミル。


そうだ、ミル。


大切な……誰?


その時、団地の一室から、人が出てきた。


老婆だった。


実体のある、本物の人間。


「あら、お客様?」


老婆が、優しく微笑む。


「お茶でも、いかがです?」


私たちは、導かれるまま、部屋に入った。


六畳一間の、小さな部屋。


でも、温かい。


「実は、ここだけ、まだ『生きて』いるんです」


老婆が、お茶を淹れながら言う。


「私の思い出が、強すぎて」


壁には、たくさんの写真が飾られていた。


家族写真。


夫と、息子と、娘。


みんな、笑っている。


「もう、みんな亡くなりましたけどね」


老婆が、寂しそうに微笑む。


「でも、思い出は消えない」


「だから、ここだけは、色が残っているんです」


老婆が、私を見る。


「あなた、《写し手》でしょう?」


「え……」


「分かりますよ。そのカメラ、特別なものでしょう?」


老婆が、一枚の写真を取り出す。


色褪せた、古い写真。


「これ、主人が撮ってくれた写真」


「私が、一番幸せだった時」


写真には、若い女性が映っている。


赤ちゃんを抱いて、幸せそうに笑っている。


「この子、もう60歳ですけどね」


老婆が、優しく写真を撫でる。


「でも、この瞬間は、永遠」


その時、私の中で、何かが繋がった。


写真は、記憶を超える。


たとえ記憶が消えても、写真は残る。


「あの……」


私は、老婆に聞く。


「名前を、忘れることって、ありますか?」


「ええ、しょっちゅう」


老婆が、あっさりと答える。


「でも、大丈夫」


老婆が、私の隣の女の子を指す。


茶髪の、可愛い子。


「その子の名前、分からないでしょう?」


「……はい」


「でも、大切な人だって、分かるでしょう?」


確かに。


名前は分からない。


でも、この子が大切だってことは、心が知っている。


「み……」


茶髪の子が、涙を流している。


「みさき、です。美咲です、部長」


みさき。


美咲。


その名前を、メモに大きく書く。


『美咲ちゃん』 『絶対に忘れない』 『大切な後輩』


でも、書いた瞬間、また忘れる。


「もう、いいです」


美咲ちゃんが、私の手を握る。


「名前を忘れても、この温かさを覚えていてくれれば」


手が、温かい。


この温もりは、忘れない。


私は、カメラを構える。

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