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第38話:すべてを受け入れる

「そんなことができるの?」


「本来なら不可能です。でも——」


ミルの顔が青ざめる。


「終焉の記録者の力が、予想以上に強まっています」


急いで学校へ向かう。


でも、道中の景色がおかしい。


建物が、微妙に歪んでいる。


人々の顔が、ぼやけている。


まるで、世界そのものが溶け始めているような。


学校の門をくぐった瞬間——


空が、真っ黒に染まった。


墨汁をぶちまけたような、完全な黒。


太陽が、消えた。


『ついに来たか』


声が、天から降ってくる。


巨大な声。世界そのものが話しているような。


『我が名は、終焉の記録者』


空に、巨大な影が現れる。


いや、影というより、虚無そのもの。


形はあるようで、ない。


見つめていると、意識が吸い込まれそうになる。


『三年前、お前たちは私の計画を阻止した』


影が、触手のように伸びてくる。


太さ10メートルはある、巨大な闇の腕。


『だが、その時の私は、まだ不完全だった』


ドオオオン!


触手が、校舎に叩きつけられる。


校舎が、まるで砂の城のように崩れる。


「きゃあああ!」


美咲ちゃんが、虹色の結界を張る。


でも、触手の一撃で、あっさりと砕かれる。


「ダメ、強すぎる!」


ミルが防御壁を展開。


六角形のパネルが、何重にも重なる。


でも、これも数秒で破壊される。


『無駄だ』


終焉の記録者が、嘲笑う。


『今の私は、世界の半分を喰らった』


『褪色した場所すべてが、私の力となった』


確かに、影の密度が尋常じゃない。


光が、完全に遮断されている。


『特に、お前』


触手が、私を直接狙う。


『記憶を失った、不完全な写し手』


『お前さえいなければ、世界は静かに眠れる』


触手が、槍のように鋭くなり、私に向かって突き刺さってくる。


速い。


避けられない。


(ここで、終わり——?)


その瞬間——


「ユイは渡さない!」


セピアの声が、時計塔から響いた。


同時に、金色の光の柱が、天から降り注ぐ。


太さ20メートルはある、巨大な光の槍。


それが、触手を貫く。


『ぐおおおお!』


終焉の記録者が、苦痛の叫びを上げる。


『セピア……まさか、柱の力を解放したのか!?』


時計塔から、セピアの姿が見える。


でも、様子がおかしい。


体が、半透明になっている。


そして、足元から、少しずつ光の粒子となって消えていっている。


『馬鹿な! それでは、お前の存在が——』


『構わない』


セピアの声は、穏やかだった。


『ユイを守れるなら、僕は——』


「ダメ! セピア、やめて!」


私は、ブレスレットに向かって叫ぶ。


「死んじゃダメ! 約束したでしょ!?」


『ユイ……』


セピアの声が、優しく、でも悲しく響く。


『ごめん。でも、これしか方法が——』


『愚かな』


終焉の記録者が、闇を凝縮させる。


『一時的な光では、私は倒せない』


確かに、金色の光で貫かれた部分が、すぐに再生していく。


『だが、貴様の犠牲は無駄ではない』


終焉の記録者が、不気味に笑う。


『世界の柱が消えれば、この世界は完全に崩壊する』


『私の勝利は、確定した』


「そんな……」


でも、終焉の記録者は撤退を始める。


『最後の戦いは、ネガの世界で待っている』


『来るがいい。そこで、すべてを終わらせてやる』


影が、空に吸い込まれるように消えていく。


『柱が消えるまで、あと72時間』


『それまでに来なければ、世界は無に還る』


完全に影が消えた後、空に太陽が戻る。


でも、その光は弱々しい。


私たちは、急いで時計塔へ向かう。


セピアが、柱の間で倒れている。


体の半分が、すでに透明。


「セピア!」


駆け寄ると、セピアが薄く目を開ける。


「ユイ……無事で、よかった」


「なんで! なんでこんな無茶を!」


「君を、守りたかったから」


セピアが、震える手を伸ばす。


私は、その手を握る。


冷たい。そして、感触が薄い。


「もう、時間がない」


セピアが、苦しそうに言う。


「僕が消える前に、終焉の記録者を倒して」


私は、メモ帳に書く。


涙で、文字が滲む。


『セピアが消えかけている』 『72時間のタイムリミット』 『ネガの世界で、最後の戦い』


そして、決意を込めて書く。


『絶対に、みんなで生き残る』 『方法を見つける』 『諦めない』


時計塔の医務室。


セピアが、ベッドに横たわっている。


体の透明度が、少しずつ進行している。


もう、足先は完全に見えない。


「セピア、なんで黙ってたの」


私の声が、震える。


「柱の力を使えば、消えるって知ってたんでしょ?」


「……ごめん」


セピアが、申し訳なさそうに微笑む。


「でも、君を守れるなら、後悔はない」


「後悔しないって、そんな……」


涙が、止まらない。


メモ帳に書いた「セピアは大切な人」という文字が、滲んで見える。


「ユイ」


セピアが、真剣な表情になる。


「消える前に、話しておきたいことがある」


セピアが、自分の手を見つめる。


半透明の手。光が透けて見える。


「僕が、なぜ影を持たないか」


その問いに、私たちは息を呑む。


「僕は、最初から《写し世》の住人じゃない」


セピアが、ゆっくりと語り始める。


「15年前、終焉の記録者が最初に作り出した存在。それが、僕だ」


「え……?」


衝撃的な告白に、言葉を失う。


「僕は、終焉の記録者の『影』として生まれた」


セピアが、天井を見つめる。


遠い記憶を辿るように。


「最初の記憶は、真っ暗な虚無の中」


「そこで、終焉の記録者に言われた」


セピアの声が、苦しげに震える。


「『お前は、私の影。光を憎み、記録を破壊し、世界を無に還す者』」


「そうして僕は、破壊者として育てられた」


セピアが、私を見る。


「でも、10歳の時、偶然《写し世》に迷い込んだ」


「そこで、初めて『光』を見た」


セピアの瞳が、優しく細められる。


「美しかった。温かかった。そして——」


「人々が、笑っていた」


「それまでの僕は、笑顔を知らなかった」


セピアが続ける。


「喜びも、楽しさも、愛も知らなかった」


「でも、《写し世》の人々は、みんな輝いていた」


セピアの手が、私の手を探る。


私は、その半透明の手を、しっかりと握る。


「そして、5年前、君と出会った」


セピアの瞳に、涙が浮かぶ。


「君は、僕を怖がらなかった」


「影のない、不気味な存在の僕を、『友達』と呼んでくれた」


「その時、僕は決めた」


セピアが、力を込める。


「終焉の記録者を裏切ってでも、この世界を守ると」


「でも、裏切りには代償があった」


セピアの体が、また少し透明になる。


「終焉の記録者に呪われ、時計塔の柱として縛られた」


「影を奪われ、自由を奪われた」


「でも——」


セピアが、微笑む。


「後悔はしていない」


「君と出会えて、仲間ができて、心を知った」


「それは、何にも代えがたい宝物だから」


美咲ちゃんが、泣きながら言う。


「セピア先輩……」


ミルも、瞳の回路を悲しみの青に染めている。


「セピア様……」


「最後に、一つ」


セピアが、私をまっすぐ見つめる。


「ユイ、君を好きになって、よかった」


「え……」


「ずっと言えなかった。でも、もう時間がない」


セピアが、震える声で続ける。


「記憶を失った君も、失う前の君も、全部好きだ」


「君といられた時間は、僕の永遠の宝物」


私は、セピアの頬に手を当てる。


冷たい。でも、まだ温もりがある。


「私も」

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