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お喋り観葉植物  作者: 叢武


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お喋り観葉植物 後編

「この世界の……真実……? 一体何……言ってんだ……?」



 突如目の前に姿を現した実の兄、市川(いちかわ)穣治(じょうじ)を前に、ただでさえ戸惑いを隠せずにいた光輝は、穣治の言い放った言葉の意味を理解出来ず、更に混乱する。



「それよりもまず、そのボロボロな体をなんとかしなきゃな。光輝、健康でピンピンしてる自分を強くイメージしてみろ。それで怪我は元に戻るはずだ」



 光輝の体は、記憶の中の交通事故で重傷を追っていた自身と同じ状態になっており、話を聞くのがやっとな程の満身創痍な状態であった。



「そ、そんなこと……急に言われても……い、痛い……苦しい……」



 穣治は苦痛に喘ぐ光輝のすぐ目の前で屈み、光輝の肩に優しく右手を置く。



「大丈夫だ、今のお前なら絶対出来る。ジョージ・プランを思い出せ。落ち着いて、深呼吸しながら"今日も絶好調な自分"をゆっくり想像するんだ」



 光輝の肩に触れた穣治の手が、光輝にとって不思議と心地良く癒やされるような感覚だった。



「うぅ……。すぅー……はぁー……」



 少し落ち着いた光輝は静かに目を瞑り、穣治に言われた通り深呼吸を繰り返しながら、心の中でいつも通りの平常な自分を思い描いていく。



(俺は絶好調……。そうだ、俺は今日も絶好調だ……!)



 光輝の体を覆っていた傷が徐々に傷が塞がっていき、少しずつ元の正常な体を取り戻していく。


 暫くして体が楽になり、光輝は目を開ける。血で汚れボロボロだった服も、元通りの綺麗な状態に戻っていた。



「マジか……俺、とうとう本当に魔法使いにでもなっちまったのか?」


「ふふっ、そんな特別なもんじゃあねぇさ。今のは心に念じた想いを現実化するっていう、人間なら本来皆持ってる力だ。殆どの人はこの力の使い方を忘れちまってんだがな。まぁ、今はかなり特別な状況だから、その気になれば魔法のような凄ぇことも簡単に出来ちまうぜ」


「これが、人間が本来持ってる力? ってそうだ! どうして兄貴がこんなとこに!? てかこの空間は一体何なんだよ!? さっきから何がどうなって――」


「落ち着け落ち着け。今からそれを話すところだ。今ここに居るのは俺とお前だけだ。まぁ、じっくり語り合おうじゃあねぇか」



 一辺に困惑や疑問をぶつけてくる光輝を宥め、穣治はその場で胡座をかいて座り込んだ。


 光輝も釣られて、真っ白な空間の中で楽な姿勢で座り込む。



「まずはこの空間の正体についてだが、ここは現世と霊界の狭間だ。まぁ分かりやすく言えば、あの世とこの世の境目ってところだな」


「あ、あの世とこの世の境!? う、嘘だろ!? 何でそんなところに……まさか……」


「ここからはお前にとって辛い話になる。覚悟して聞いてくれ」



 光輝は唾を飲み込みながら、ゆっくり頷く。



「お前の頭の中に交通事故の記憶が流れてきただろ? あれは現世で実際に起きたことだ。あの日、俺とお前はさっきまでいた国立公園に車で向かってたんだ。だが峠道を走ってる最中、制御を誤ってカーブを曲がり切れず、車はそのまま崖に転落していった」


「それってあの記憶の……。そうだ……その車を運転したのは……」


「……気に病むことはねぇ……と言ってやりてぇが、それは難しい話だよな」


「そんな……。じゃあ俺と兄貴は……本当に死んじゃったのか……?」



 悲しみと後悔の念が、光輝の心を締め付けていく。



「俺は即死だった。だがお前は奇跡的に命は助かった。それでも今は病院で昏睡状態、予断を許さない状況らしいがな」


「……じゃあ今ここにいる俺は……」


「ああ、お前は今魂だけの状態、臨死体験の真っ最中ってことだ。俺は完全に死んだから現世にはもう戻れないが、お前はこれから死ぬか生きるか、自分の意思で選ぶことが出来る」


「だったら……だったらこのまま――」


「おっと、その結論を出すのは俺の話を最後まで聞いてからでも遅くねぇぞ。寧ろ重要なのは俺が死んだ後からなんだ」


「ど、どういうことだよそれ……」



 意味が分からないといった様子で戸惑いつつも、光輝は穣治から話の続きを聞こうと前屈みになる。



「あの事故の直後、気付いたら俺は事故でぐちゃぐちゃに潰れた車を上から俯瞰(ふかん)して見ていた。余りにもあっさり死んだもんだから、最初は死んだ自覚すら持てずに混乱した。だが自分の見るも無惨な姿を見て、ようやく自分が亡霊になっちまったんだと悟った」



 事故当時の様子を想像し、穣治は少し儚げな表情を浮かべながら話を続ける。



「唯一幸いだったのは、光輝がなんとか生き延びてくれたことだ。自分が死んだショックよりも、お前が生きていたことに対する安堵の方が大きかった。後はお前の無事を見届けて、俺は自身の霊的本能……言わば自分の魂としての欲求に従って、行くべき場所へ向かうだけ……のはずだった」



 光輝の肩に穣治はポンッと手を置く。



「救急搬送されるお前の体から、魂が無理矢理抜け出そうとしている様子が見えたんだ。同時にお前の体から、絶望感や罪悪感のような負の波動が滲み出ているのが見えた。そこで俺は気付いた……。お前は死にたがっていた。恐らく俺を殺してしまったという罪悪感に蝕まれ、そこから逃れるために……」



 穣治は光輝の肩を軽く握り締める。



「あのまま無事生き延びたとしても、その罪悪感は恐らく生涯に渡ってお前を苦しめて、きっと地獄のような人生を送ることになっちまう。それを乗り越える知恵を持たない常人にはとても耐えられやしねぇ。だから俺は自身の霊的本能に抗ってでも、お前の心を救ってやりたいと強く願った。お前をそのまま置いて呑気に霊界に行くなんて、俺には出来なかった」


「兄貴……」



 穣治の死んだ当時の心情を知り、光輝は少し嬉しくなった。


 元々兄として尊敬し、目標にもしていた光輝にとって、そこまで想って貰えたことは大きな喜びであった。



「気付いたら俺は無我夢中でお前の体に向かって飛び込んでいた。何でそうしたのかは俺もよく分からねぇがな。そしたら不思議なことが起きた。視界が強烈な閃光に覆われて意識が飛んで、気が付けば俺は何故かお前の住んでたアパートの部屋にいたんだ」


「……それって!」


「ああ、察しの通り、俺は観葉植物に化けていたんだ。お前が一人暮らしを始めたばかりの時に、俺がプレゼントで送ってやったあの観葉植物にな」


「そうだったな……。じゃあなんで初めて話した時、俺にすぐ正体を教えてくれなかったんだ?」


「当時の俺は記憶が一部欠落しててな、自分がどこの誰なのか、何故観葉植物の姿になっているのかも分からずに戸惑ってたんだ。自分の正体を思い出したのも、実は割と最近だったんだ」


「そうだったのか……」


「だが暗い表情を貼り付けて帰ってきたお前を見た時、俺は不思議と自分が成すべき使命を理解したんだ。『この青年の心を救え!』っていう声が、自分の内側から聞こえてくるようだった」


「そ、それじゃあ俺がこれまで現実だと思ってたあの世界は……」


「ああ、多分俺とお前の心が共鳴して作り出した、俺達の心象世界だ。俺とお前の心がベースになってたから、観葉植物が喋ること以外は、実際の現実とそこまで大きな乖離は無かったと思うぜ」


「……ああ、そうか……そういうことだったのか……」



 穣治の話を聞いて、光輝は全て腑に落ちた。そして理解した。


 全くの未知の存在だった筈のジョージという存在に、妙に親近感と安心感を覚えたこと。


 ジョージが赤の他人である筈の自分を必要以上に心配し、明るく前向きな世界へと導こうとお節介を焼いてくれたこと。


 心が満たされていく程にノイズが生じるようになり、その頻度が上がっていったのは、自分の心を救う為に作り出された心象世界が、その役目を終えつつあることを現していたものだったということ。


 ――そしてその心象世界が崩壊したということは、遂にその役目を終えたのだということに。



「これはきっと神様が俺に与えてくれた最後のチャンスだったんだと、今ではそう思うぜ。生前に趣味で学んでた哲学やら心理学やら、色々な宗教の知識がお前を導くのに役に立った」


「……そういや兄貴、昔からそういうの好きだったよな」


「ああ、まだ中学生だったお前にこういう話をした時は、全然理解してもらえないどころか寧ろ気味悪がられて、柄にもなくキレちまってた。あの頃の俺は自分が気に入った価値観こそが全てだと思って押し付けるだけだった。本当に未熟だったな……」


「……」



 ほんの僅かな時間、2人の間に沈黙が訪れる。



「……光輝、ごめんな」


「なんで……兄貴が謝るんだよ」


「元々一人暮らしで辛そうだったお前を元気付けたくてお前を旅行に誘ったのに、俺が事故で死んだせいでお前を元気付けるどころか、心に大きなトラウマを刻んでしまった。正直こうしてお前をここまで導いてきたのも、俺自身の個人的な償いをしたいっていうエゴもあったことを否定は出来ねぇ。あんな形でお前を置いて逝っちまって、本当に済まなかった……」


「…………なんだよそれ……なんでだよ!!!」



 穣治の話を聞いているうちに、光輝は内側に秘めていた様々な感情が膨れ上がっていき、遂に耐え切れず感情を爆発させる。



「俺のせいで兄貴は死んじまったんだぞ!? 俺の運転ミスのせいで!! 俺が兄貴を殺したようなもんじゃねぇか!! あの時俺が意地張って兄貴の変わりに運転しようとしたばっかりに!! どうして俺を恨まないんだよ!? どうして俺を憎まないんだよ!!!」



 感情と共に、光輝の目から涙が溢れ出す。



「兄貴だってもっと他にやりたいこといっぱいあっただろ!? 楽しみにしていたこともいっぱいあったはずだろ!? それなのに……それなのになんで俺の心配ばっかすんだよ!! 俺が兄貴の未来を奪ったのに……どうしてそこまで……こんな俺に優しくできんだよ……」


「光輝……」



 穣治は光輝の目の前で片膝立ちになり、両手を優しく光輝の両肩に乗せる。



「誰がお前を恨むかよ。確かに俺にはやりたいことや叶えたい夢はいっぱいあった。急に死んじまって悲しい気持ちも確かにあるさ。けどな、そんなことよりも目の前で大事な弟が苦しんで、悲しんで、泣いていることの方が俺には余程大きな問題なんだよ。俺はお前や家族皆が笑って当たり前の日常を送ってくれることを何より望んでる。綺麗事なんかじゃあねぇぞ? あの心象世界でお前のことをジョージとして根気強く導いて、見守り続けることが出来たのも、お前を助けたいと俺が心から望んだからこそなんだ」


「兄貴……」


「寧ろ俺は感謝してるんだぜ、こうしてまたお前と話をするチャンスを貰えたことが。感謝こそすれど、恨んだり憎んだりする余地なんざ1ミリたりともあってたまるか」



 穣治の力強く芯の通った言葉に、光輝の荒ぶっていた感情は少しずつ鎮まっていき、やがて落ち着いて穣治の言葉を噛み締めるように受け入れた。



「…………やっぱり凄えな、兄貴は……」



 涙をゴシゴシと拭きながら、少し照れ臭そうに光輝は言う。


 

「そうだ、俺は凄えんだぜ。そして同じくらい、お前も凄え奴なんだぞ? 光輝」


「そんなこと……」


「ないって思うか? あの心象世界を経てここまで成長して、壁を乗り越えたのは間違いなくお前自身の力だぜ? 俺はただきっかけを与えただけだ。それに……」



 穣治は光輝の両肩をポンッと叩く。



「お前が今凄えと言ってくれた俺が、お前のことを凄えって言ってんだぞ? お前が信じてくれる俺の言葉を信じろ。そしてそれ以上に、自分自身のことを何より信じてやれ」


「……うん」



 まだ自分にあまり自信が持てず、光輝は頼りなさ気に返事をする。


 それを察した穣治は、少し考える素振りを見せてから、再び語り掛ける



「……せっかくだ。光輝、俺からお前に最後の知恵をくれてやる。よぉく聞くんだ」


「……分かった、ちゃんと聞くよ」



 光輝は少し寂しそうな表情を浮かべながら、穣治の言葉に耳を傾ける。



「1つ。肉体は滅びても命そのものが滅びることはねぇ! 俺は確かに事故で肉体は無惨に滅びた。だが俺の魂は、命は、そしてお前や家族を想う心は、ずっと生き続ける。だからそう寂しがんな、良いな!」


「……うん」


「2つ。何よりも、両親に感謝しろ。そして出来れば、その感謝の気持ちを直接両親に伝えてやるんだ。俺達が今まで生きて、育って、色々なことを経験出来たのは、全て両親が俺達を産んで、育ててくれたからだ。時には鬱陶しく思うことや、憎く思うこともあるだろうが、心に余裕が出来て、両親から貰ってきた愛情を心で理解出来た時には、ちゃんと感謝の心を両親に向けてやれ。それこそが最大限の親孝行だ」


「……うん、分かった……」



 光輝の目頭が、どんどん熱くなっていく。



「3つ。お前の人生の主人公は光輝、お前だ! 他の誰でもねぇ、お前自身だ! どうでもいい他人や環境なんかに惑わされるな! 振り回されるな! 己の本心に従って、自分の信じる道を生きて、人生の主導権をお前が握るんだ。そうすりゃお前の人生という物語は、きっと面白くて素晴らしいものになるぜ。最高の人生(ものがたり)を、是非とも俺に見せてくれよ」


「……グスッ……分かったよ……」



 涙腺を堪えきれなくなり、光輝の頬を再び涙が伝う。



「それじゃあ、俺はもうそろそろ行くぜ。一旦今生のお別れだ」


「もう……行くのか?」


「ああ、伝えたいことは全部伝えられた。もう思い残すことは何もねぇ。お前はもう大丈夫だ。俺が保証するぜ!」



 穣治は自身満々に自分の胸を拳で叩く。


 同時に、穣治の背後の上空に橙色の優しい光が出現し、まるで太陽のように燦々(さんさん)と輝き出す。



「じゃあ、元気でな。せっかく繋いだ人生、大事に生きろよ」


「……ああ、頑張ってみる。兄貴、またな」



 2人は互いに握手を交わす。

 

 それから互いに手を振り、光輝は穣治に背中を向けて歩いていく。



(……光輝……いや、俺が信じてやらなきゃ駄目だな)



 光輝の歩く背中が、穣治の目にはまだ不安と迷いが滲み出た頼りないものに映った。


 近くに寄り添ってあげたい気持ちを振り払い、光輝を信じて穣治は出現した光の元へ飛び去っていく――。



    ◇



 「…………」



 光輝は黙ってゆっくりと歩を進める。


 しかしその足取りは、どこか覚束無(おぼつかな)い。


 十数歩進んだところで、光輝はふと後ろを振り返る。


 その視界には、穣治が突如現れた光の元へと飛び去っていく様子が映っていた。


 あの光の元に穣治が辿り着けば、今度こそもう会えなくなる――、光輝は直感でそれを理解した。



「…………う……あ……」



 光輝は思わず手を伸ばす。


 穣治と別れの言葉を交わした時から、胸中に燻っていたモヤモヤとした気持ちが、より強く膨らんでいくのを光輝は感じていた。


 呼吸が、段々と荒くなっていく。



「はあ……はあ……ま……待って……!」



 どんどん光源に近付いていく穣治を見つめながら、弱々しく声を発する。


 ――直後、光輝は力無く伸ばしていた手を握り締め、気が付けば全力で穣治の元へ駆け出していた。



「はあっはあっはあっ――!!」



 転びそうになりながらも、光輝はひたすら全力で走り続ける。


 そして無意識の内に、穣治のいる上空に向けて飛び立っていた。



「じょ、穣兄(じょうにい)!! 待ってくれ!! 穣兄(じょうにい)いいいっ!!!」

 

「――ッ!? 光輝!?」



 背後から叫びながら勢いよく迫っていた光輝に気付き、穣治は驚きを顕にする。



 そのまま光輝は穣治の胸に飛び付き、体を抱き締める。


 

「どわあっ!! ど、どうしたんだよ光輝!」


「ご、ごめん……本当にごめん!!」


「な、なんだよ。やっぱり戻りたくなくなったのか?」


「違う……違うんだ……ううっ……」



 光輝は涙で顔を歪めながら、内に秘めていた想いを穣治にぶつける。



「や、やっぱり……やっぱり俺にはまだ受け入れ切れない……俺のせいで穣兄が死んじまって……向こうに戻ったらもう会えなくなるって思ったら……俺は穣兄みたいに割り切ることが……どうしてもできねぇよ!! 俺はまだ、自分がどうしても許せないんだ……!!」


「光輝……」


「だから……だからせめて、ちゃんと謝りたかったんだ! ごめん穣兄……俺が、俺のせいで……穣兄の大事な人生を奪っちまった……! どんなに憎まれても仕方ないことなのに……恨まれても文句言えないのに……謝って済むことじゃないけど……ごめん……! 本当に……ごめんなざい……!!」


「…………」



 まるで子供のように泣き崩れながら後悔の念を暴露する光輝の言葉を、穣治はただ黙って受け入れる。



「あと……ありがとう、本当に……。こんな俺を……記憶を失ってまで、植物になってまで支えようとしてくれて……救おうとしてくれて……。正直、俺が死ねば良かったって何度も思いかけたし、まだ自分を許し切れてもねぇ……。でも穣兄の想いを……信頼を裏切るのはもっと許せないから……だから俺、ちゃんと生きてく。生きてくからさ……せめて安心して、霊界に行って欲しい……」



 穣治は、光輝を強く抱き締め返し、ポンポンと背中を叩く。


 その目から、涙が零れ落ちる。



「……全く、お前は本当に優しいな……。そこまで想われちゃあ、霊界に行くのが惜しくなってくるぜ」


「穣兄……」


「その呼び方、お前が中一の時以来だよな。またそう呼んでくれるとは思わなかったぜ……」


「う、うぅ……。だって……こうして話すのももう最後だと思ったから……」


「そっか……。光輝、さっきも言ったが、お前はもう大丈夫だ。そんだけの優しさと思いやりがあれば、お前はきっと良い人生を歩める」



 穣治は改めて光輝の目を見つめ、光輝の両肩に手を添えながら言葉を伝える。



「俺だって人間だ、お前が思ってる程全てを割り切れてた訳じゃあ無いんだぜ? 生きてる時だって悩みはいつも尽きなかった。お前だったから俺は、俺達は、ここまでのことが出来たんだ。この奇跡を起こしたのは光輝、お前なんだぞ」


「うぅ……穣兄……」



 穣治の言葉に、光輝は更に感極まる。



「どうしても自分を許せないんなら、無理して許そうとするな。そういう時は一旦その感情を受け入れろ。もし心に余裕が出来たら、深く呼吸をして、ネガティブな自分を客観視して、そういう自分すら許してやるんだ。"許せない自分を許す"って感じでな」


「ははっ……なんだそれ、変なの」


「ふふっ。まぁ要するに、完璧に生きようとするなってことだ。そんな無理しなくてもお前のその命は、魂は、心は、既に完璧で最高の価値を秘めているんだからな。遠慮なく自信持って好きに生きろ! それにさっきも言ったろ? 今生の別れだって。お前が人生を全うした後、お前が心から望む限り、俺達はまた会えるさ」


「……うん、分かった」



 穣治の言葉を、何度も頷きながら噛み締めて受け止める光輝。


 先程まで抱えていた迷いや不安は、もうすっかり無くなっていた。



「――俺、もう行くよ」


「どこに?」


「家族が待ってる場所に」

 

「……そうか」



 目を閉じて、光輝の決意の言葉を噛み締める穣治。



 光輝が宣言すると同時に、光輝の背後斜め下に青白い光源が出現する。


 穣治が向かっていた橙色の光源と雰囲気が似ていたが、その光の向こう側にあるもの、そしてそこへ向かうべき者を、光輝も穣治も既に直感で理解していた。



「……今度こそ、お別れだな」


「なぁに、長くて高々100年前後、あっという間さ。こっちは気長にお前の紡ぐ人生を楽しませて貰いながら、お前が来るのを待つさ」


「面白くなるかどうか、保証は出来ないけどな」


「心配すんな、既に十分過ぎるくらい面白えから」



 光輝も穣治も、思わずクスッと笑いが溢れる。



「そうだ、無事向こうに戻ったら、俺の変わりに親父とお袋と優那(ゆうな)に伝えておいてくれ。"俺の家族になってくれてありがとう。愛してる"ってな」


「……うん、任せてくれ。きっと喜んでくれるよ」



 一通り言葉を交わした後、2人は少しの間名残惜しそうに、けれどもどこか清々しい雰囲気を放ちながら互いに向かい合う。


 2人の背後を、それぞれ橙と青白の光が照らしていた。



「そんじゃ……達者でな」


「ああ、穣兄も元気で……って言うのは変だな」


「ははっ、確かにな! 霊体だから風邪を引く心配もねぇ。だがお前はそうじゃねぇ。だからこれから人生を共にする肉体を、ちゃんと大事にしろよ」


「うん、そうだな」



 穣治は、徐に光輝に向けて手のひらを向ける。



「光輝、さよならのハイタッチだ。タッチと同時に、それぞれ向かうべき場所に進もう」


「お、おう。なんか緊張するな……」



 光輝も、穣治に合わせて手のひらを掲げて構える。



「穣兄!」


「なんだ?」


「今まで本当にありがとう。穣兄から教わったこと、無駄にしないから!」


「お安い御用だ、こちらこそありがとうな。しっかり見届けさせて貰うぜ、お前の物語(じんせい)



 パチィンッ!!


 光輝と穣治、2人の手のひらが勢いよく重なり、そのまま互いに背後の光源に向けて押し合うように手を突き出す。


 その反動で、空中に浮いていた2人は互いを見つめ合ったまま、光源に吸い寄せられるかのように向かっていった。


 

「光輝ーー!!!」



 既にある程度離れ、互いに光源の中に消えていく直前、穣治が叫ぶ。



「穣兄っ!?」


「今のお前、最っ高に光り輝いてるぜーーー!!!!」


「っ!! ありがとうっ!! 穣兄ーーー!!!!」 



 穣治の言葉に再び涙を滲ませながら、咄嗟に大声で反応を返す光輝。


 同時に、穣治は橙色の光源の中に消えていった。



(俺の声、ちゃんと届いてたかな……)



 そう思いつつも、最後に貰った穣治の言葉に心地良い余韻を感じ続け、その余韻を大切に抱えるように、穏やかな面持ちで光輝も青白い光の中に消えていった――。

次回のエピローグを以て、この物語の締め括りとさせて頂きます。最後までお付き合い頂けますと幸いです。

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