人間ほどほどが一番。て言う人が一番本気出してる。
教室に戻ろうと、ソファから立ち上がった時だった。2人の生徒がノックも無しに駆け込んできて、男子生徒が倒れたと言った。先生は尋常ではない雰囲気を察知し、二人の生徒と現場に急行しようとした。先生が準備をしている最中に、数人の生徒によって件の生徒が運ばれた。口から下が血まみれで、精巧な人形のようにぐったりと力尽きていた。出来立てほやほやの死体は、あんな感じなのだろうか。
「元気になって出て行ったかと思えば、血まみれで帰ってくるんだもん。ほんとびっくりした。」
「私、ちょっとふらふらします。」
「なんでよぉ。」
「血、苦手なんですけど、ちょっと見すぎちゃいました。」
彼が上着を脱いでいたのが幸いだと思った。血痕が残ったら、後始末が大変だったと思うから。
「冗談でも、本当に勘弁して...。もう休ませて。」
先生がそう言うのも無理はない。傷の処置と血の洗浄。たったこれだけの作業が、意識の無い人間に施すというだけで、それはもう大仕事だった。私も少しだけ手伝った。部活で怪我人の介護をしたことがあったが、意識の無い人間を運ぶのは初めてだった。力の抜けた人体の妙な感触と、患部と首に注意しなければならない嫌な緊張感とリアリティ。担架が到着するまで待つべきだったと、先生は話していた。次があれば、そうしようと思う。その後は、彼を運んできた友人達から詳しい事情を聞き、複数の人間と連絡を取って、かれこれ三十分くらいはバタバタしていたろうか。先生が養護教諭なのだと、初めて痛感した。
「...すみません。冗談です。」
「わかればよろしい。」
先生は椅子の上でぐったりして、目も瞑っていた。
「先生。」
「....ん?」
「武内くんは、こういうことをよくするんですか?」
無視することが出来なかった。
「私が知る限りは、今日が初めてだね。」
「...そうですか。」
「気持ちはわかるよ。強面の仏頂面だったけど、ちゃんと優しい子だったもんね。」
「はい。」
彼らの証言が間違っていなければ、武内くんの方が確実に悪い。だが、私の記憶にある武内くんは、そんな人じゃない。
「色々溜め込んでたのかなぁ。」
「何をですか?」
「そんなの、色々でしょ。色々。」
「...そうですか。」
先生のくせに。適当すぎでしょ。
「私、そろそろ行きますね。」
「体調はもう大丈夫?」
「...からかわないでください。」
「今日は手伝ってくれてありがと。今後も可能なら手伝って!」
先生は目を輝かせていた。
「今回より簡単なら、いくらでも。」
「ほんと!ありがとう~!助かるよ。」
こんなことは何度も起こらない。
「それじゃあ失礼します。西野先生。お疲れ様でした。」
「は~い。またね。南奈佳ちゃん。」
笑顔で手を振る西野先生に、少しだけ頭を下げて部屋を出た。




