幕間:2人で一緒に。
「それじゃあ、プリント配ります。後ろまで回したら、席立って大丈夫です。」
午後14時38分。6限を終えるには2分早い。だが、いつも通りだ。関口の授業は安泰だ。決して揺るがないし、揺るがす者もいない。
「はい。」
「あざす。」
谷垣から受け取ったプリントを後ろに回す。
「ありがと。」
「ん。」
後ろに回していた腕を戻す。
「秋。しょんべん行こうぜ。」
「うん。いいよ。」
俺達は2人で教室を出た。
元々尿意があったわけじゃない。しょんべんはすぐに収まった。先行ってるわ、とだけ伝えて洗面所へ向かう。ハンカチを洗面台の上にに置いて蛇口をひねる。不定形な水がステンレスのシンクへと流れ落ちた。うねる水柱に手を突っ込むと冷たくて気持ちよかった。
「お待たせしました~。」
隣で秋が蛇口を捻った。声を掛けられるまで気配に気が付かなかった。
「おう。」
途端に我に返って石鹼をプッシュした。泡の屑しか出てこなかった。
「白の様子、見に行く?」
その手があったか、と思った。
「...次の時間移動教室だからな。次の時間の休み時間に行こうぜ。帰ってこなかったらだけど。」
「了解。」
蛇口を締めて手を振って水を払う。ハンカチで残りの水滴をこそぎ取って後ろポケットにしまった。
「ごめん。次の時間って科目なんだっけ?」
「美術。」
「あぁ、写生ね。」
「そ。写生大会よ。一緒にやろうぜ。」
「写生ねー。一緒にやるよ。もちろん。」
「写生だ。本気でガチの写生だぜ。」
「本気でガチじゃない写生なんてないよ!うん!」
「.....あほくさ。」
「確かに。何やってんだろね。僕たち。」
幼稚で下世話で、つまらない会話。だが、それだけでも良かった。肩の力を抜くことが出来た。あんな、何の意味も無さげな会話でも人は活力を取り戻せる。人って案外たいしたことないな、などと悟ったように感じた。でも、女子が居なくて良かった。あんなん聞かれたら死にたくなるし、何を噂されるかわかったもんじゃないからな。
「ねぇ、あれやばくない?」
「男2人で一緒に写生って。それに本気でガチだって。」
「多様化ってマジなんだ。なんか、認識変わっちゃった。世界って狭いんだね。」
「うん。もうネットの話じゃない。着実にこの世界は進化してるんだわ..。」
「ねぇー。」
「....エロアルヨ」
女子生徒達は一部始終を目撃していた。