俺の座右の銘はこうだ。他人に冷たく、自分に甘く。志は月見だいふく。
「ごめんごめん。ちょっとはしゃぎすぎちゃった。」
この子はまともじゃない。ただ、そこが良い。
「全然気にしてないよ。」
会話が落ち着いたので、月見だいふくを取りだす。ぺかぺかのプラスチックの容器に小さな結露ができていた。少し溶けてしまったかもしれない。封を開け、付属の棒でだいふくを突いてみると、バニラアイスの固い感触が残っていた。
「でも意外だなぁ。白ってもっと、こう、お堅いイメージだったのに。」
「ほとんど話したことなかったもんな。」
月見だいふくを口に運ぶ。月見だいふくは一口で食べろ。コレハ絶対ダ。
「...。」
俺がもごもごしている姿を見てる。見ている。その珍獣を見る目やめてよ。恥ずかしいから。
だいふくを飲み込む。固体と液体の異なる喉ごしが気持ちいい。
「1つ食べる?」
「さすがに2つしか入ってない物はもらえないよ。けど、ありがとね。」
「あいあい。」
別にいいのに。人が美味しいもの食べてるところ好きだし。嬉しいし。
「.....白ってさ、進路はもう決めた?」
「ん?決めてないよ。」
「まだ決められないの?」
2つ目のだいふくを頬張る。1つ目よりもバニラの解凍が進んでいた。
「ふっちゃへ、ほーへもいいはなっへ。」
「なに?」
口元を手で覆っていたとはいえ、マナーがなっていなかった。慌ててだいふくを呑み込む。
「ぶっちゃけどうでもいいんだ。進路のことなんて。」
「...どうして?大事な事じゃん?」
純粋な疑問か、それとも心配か。真は、不思議そうに首をかしげていた。
「今が楽しいからさ。そっちに集中したいんだ。」
「うわ。先生とか親に言ったらめちゃくちゃめんどくさいやつだ。」
袋から麦茶を取り出し、喉に流し込む。麦茶の香ばしい香りと、バニラの甘みが合わさって、コーヒーのような味がした。
「そんなの言わなきゃいいだけだし。平気平気。真はもう進路決めたの?」
「うん。もう決めたよ。」
「そっか。しっかりしててすごいな。」
「白がしっかりしてないだけだよ。受験対策してる子、もういっぱいいるんだよ?」
まだ春なのに受験勉強してるのか。
「いいんだよ。俺のことなんて気にしなくても。」
「...そっか。」
たまたま再開した同級生に進路の相談をする。それが真の目的だったら。
とんだ貧乏くじを引かせてしまったものだ。
「ここにいても仕方ないしさ、少し歩こうか。家すぐ近くだからさ。送ってよ。ね?」
真はそう言って立ち上がった。身体が凝り固まったのか、手を組んで伸ばしている。
「わかった。時間だけ確認させて。」
ポケットからスマホを取り出して時間を確認する。時刻は二十二時三十一分。通知無し。ここから家まではおおよそ10分程度なので、少し危ないかもしれない。
「誠の家ってさ、方角どっち?」
「ん?あっち。」
真が指さした方角は俺の家とは逆の方角だった。
「そんなに遠くないよ。歩いて5分くらいかな?」
往復で10分。話しながらなら、もう5分長くなってもおかしくない。
「いや、なんとなく気になっただけから大丈夫、ちゃんと送ってくよ。」
「家が分かったからって、ストーカーしないでね。」
「命がいくつあっても足りないから多分しないと思う。」
「そうだね。じゃあ行こうか。ばかたれ。」
「はいはい。お供しますよ。」
俺は、重たい腰を持ち上げた。




