俺の座右の銘はこうだ。他人に冷たく、自分に甘く。志は月見だいふく。
「ごめんごめん。ちょっとはしゃぎすぎちゃった。」
レスバトルに敗北した俺のを、真はやんわりとフォローしてくれた。優しい母が大人げなく我が子をボコボコにした時の対応だった。くそ!ちょっと良いんだよな。そこが腹立つ。
「全然気にしてないよ。俺も早口になってたし。付き合ってくれてありがと。」
会話が落ち着いたので、冷たい方の袋から月見だいふくを取りだす。ぺかぺかのプラスチックに小さな結露ができていた。少し溶かしちゃったかも。
「そっか。どういたしまして。」
月見だいふくを開ける。付属の棒でだいふくを突いてみると、程よい餅の弾力と少し柔らかくなったものの固形の固を失っていないバニラアイスの感触が残っていた。例えるなら、ちょうど温泉まんじゅうくらいかな。ドロドロに溶けてなくて良かった。
「でも意外だったなぁ。白ってオタクだったんだね。」
月見だいふくを口に運ぶ。月見だいふくは一口で食べろ。これは絶対だ!アブソリュート絶対だ。ていうかなんでオタクってばれた?いやばれるか。あんな話し方したら。
「中学の頃はあんまり話したことなかったけど、もっとお堅い人だと思ってた。」
俺がふがふがしている姿を見ている。その変わった生き物を見る目、やめてよ。
「白ってさ、朝練すごく頑張ってたでしょ?みんなでグラウンド何周もするやつ。」
ある程度租借しただいふくを飲み込む。固体と液体。異なる喉ごしが面白くて気持ちがいい。
「雪見だいふく、1つ食べる?」
「.......さすがに2つしか入ってない物はもらえないよ。けどありがとね。」
「あいあい。」
別にいいのに。人が美味しいもの食べてるところ好きだし。嬉しいし。わかってくれるやつ挙手!
「.....白ってさ、進路はもう決めた?」
「ん?決めてないよ。」
「まだ決められないの?」
2つ目のだいふくを頬張る。1つ目よりもバニラの解凍が進んでいて、咀嚼した途端に口の中がバニラで溢れた。急激に冷える左奥歯とおでこの奥の方に、異なる2種類の痛みが発生した。アイスの嫌いなところランキングぶっちぎりの殿堂入り。そのくせに、アイスの醍醐味面しているのが気に食わん。痛みは無くてもいいだろ。わかるやつ挙手。
「ふっちゃへ、ほーへもいいんら。」
「なに?」
伝わらなかった。あ、ちゃんと手で口を覆っているのでご安心を。ゴクンッ!っと慌ててだいふくを飲み込んだ。
「ぶっちゃけどうでもいいんだ。進路のことなんて。」
「...どうして?大事な事じゃん?」
純粋な疑問か、心配か。真は首をかしげている。
「今は楽しいから。難しいことは後にしてさ、そっちに集中したいんだ。」
「先生とか親に言ったらめちゃくちゃめんどくさいやつだ。」
麦茶を身体に流し込む。甘いものの後に麦茶飲むと、甘味と麦茶の香ばしい香りでさ、コーヒーっぽい味するよね。わかるやつ、挙手。
「そんなの言わなきゃいいだけだし。平気平気。真は?進路決めた?」
「うん。もう決めたよ。」
「そっか。しっかりしててすごいな。」
「違うよ。白がしっかりしてないだけ。受験対策してる子、もういっぱいいるんだよ?」
まだ春なのに受験勉強してるの、普通にすごいと思うけどな。そもそも出来てない人の方が多いんじゃないか?
「いいんだよ。俺のことなんて気にしなくても。まずは自分から、だよ。」
「...そっか。」
俺が話の腰を折ってしまったからだろう。そっけない返事だった。動機はわからないが、真は進路の相談がしたかったのかもしれない。だとしたら、とんだ貧乏くじを引かせてしまった。ろくに意識もしないで、脊髄反射で発言をした自分に、心底嫌気が刺す。
「あのさ、提案なんだけど。ここにいても仕方ないしさ、少し歩こうか。家すぐ近くだからさ。送ってよ。ね?」
真はそう言って立ち上がった。身体が凝り固まったのか、手を組んで前に伸ばしている。
「.....あ、あぁ。ちょっと、時間だけ確認させて。」
反応が一瞬遅れてしまったが、ここに居座るよりは適切な判断だと思う。ポケットからスマホを取り出すして時間を確認する。もう30分は超えていると思ったが、時刻は22時21分。通知はない。ここから家まで10分くらいなので、11時に帰らないといけないことを考慮すると、少し危ないかもしれない。
「誠の家ってさ、方角どっち?」
「ん?あっち。」
真が指さした方角は俺の家とは反対側だった。
「そんなに遠くないよ。歩いて5分、くらい?」
往復で10分。話しながらなら、もう5分長くなってもおかしくない。
「いや、なんとなく気になっただけだよ。大丈夫、ちゃんと送ってくよ。真の家は、行ったことないな。初めてだ。」
ちょっとキモイな。我ながら。
「ストーカーしないでね。すると思うけど。」
うん。自然体なコミュニケーションがとれて俺は嬉しいよ。馬鹿にされているところを除けば。
「そこはしないと思うけど。だろ。バーカ。」
そう言いながら俺は重い腰を持ち上げた。
「そうだね。じゃぁ行こうか。ばか。」
真、名前を間違えているよ。私の名前は白。ニギリズシ捕縛武士。