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綻びは、長く、深く。時間を止める。

 小さい頃から体を動かすことが好きだった。跳ぶ、投げる、蹴る、走る、回る、その他諸々。休日は、公園へ連れて行けとお母さんに何度もわがままを言った記憶がある。お母さんは困った顔をして一度は断るけど、何度もお願いすると渋々近くの公園まで私を連れ出してくれた。小学校に入るまでの辛抱だと大目に見てくれていたらしい。おかげさまで、私は活発に楽しい小学校時代を過ごすことが出来た。外ではドッジボールやサッカー、けいどろやかくれんぼ、体育館ではバドミントンやバスケットボールをするのが好きだった。私以外にも男子と混じって遊ぶ女子は、そこそこの人数がいた。


 小学校の高学年になったあたりで環境が変わった。男子との体格差や力の差が出始めて、男子と女子の関係が一変した。男子と一緒にいるだけで嫌な視線を感じたり、女子の中でも派閥のような、ギスギスした関係が構築された。力を付けただけの、頭の悪い男子達にいつか暴力を受けるかもしれない。そんな得体の知れない恐怖が、彼女達にはあったのかもしれない。


「...先輩。」

「ん?」

「なんか、強くないですか。」

「高橋君が弱いんじゃない?」

ラケットから右手に心地よい小さな圧力が何度も伝わってくる。その度にカッ、カッ、カッ、と中身のない軽い音がした。卓球は、中学生の時にハマっていた時期がある。卓球部の子に何度も負けて悔しい思いをしたのが今では懐かしい。

「ひっど。スポーツマンシップ違反で逮捕です。」

「そんなこと言ったって仕方ないじゃん。高橋君が三回も負けるから。」

「俺の心はまだ負けてませんよ。」

バキ、ゴキ、ゴキゴキ、と高橋君は両こぶしの骨を鳴らした。

「現実は厳しいんだよ。後輩くん。」

「....そうですか。じゃあ、時間も無いんで、この最後の勝負で勝った方が真の勝者ってことで。」

一体何が「じゃあ」なのかは意味不明だが、程よい刺激、スリル、緊張感があっていいと思う。

「いいよ。どうせ私が勝つもん。」

「っし。ぜってぇ勝つ。」


午後十三時四十二分。

私達は、次の目的地であるスポッチャに来ていた。道端のスイーツの看板に魅了され、三十分ほど遅刻をしてしまったが、時間には余裕があったので、入館して間もなく、何事もなかったかのように卓球勝負をを始めた。卓球を始めたのは、一番最初に目に入ったから。だが、目に入った面白そうなアトラクションを片っ端から楽しむ方が、後腐れの無い時間を過ごせると私は思う。卓球勝負が四回戦を終えたところで、ブースの制限時間である十分が経過し、アラームの音が響き渡った。


「もっかい。もっかいやりましょう。」

そして、たった今私は、二度目の入場を迫られている。

「最後の勝負って、さっき言ってなかったっけ?」

「あれは噓です。」

決め顔で言うな。ばか。

「じゃあ、これで本当に最後ね。」

でも、別に構わない。体を動かすのは好きだから。

「よぉし!二度と俺に逆らえないようボコボコにしてやッ」



「先輩。もう一回勝負しましょう。」

知ってた。

「さっき最後って言わなかったっけ~?」

「あれは噓です。」

「...私の発言を勝手に噓にしないでよ。」

「それは先輩次第っす。」

だからその顔やめろ。この、ド負けず嫌い。

「わかった。じゃあ、本当~に、これで最後だからね。」

まだ私に歯向かうとは。ボコボコにしてやる。

「勝負を受けたこと後悔させてやる。」

「掛かってこいやー。ボッコボコにしてやんよ!」

絶対に負けられない。最後の闘いの火蓋が切って落とされた。



「もう一回。勝負しましょう。」

「最後って、言いましたよね。」

それは、デジャヴ。

「あれは、噓です。」

「いいえ。噓じゃないです。これで最後です。」

からの、新展開。

「.....ず、ずるい!自分の時ばっかり!」

「知りませーん。俺の勝ちです。いえーい。ぴーすぴーす。いいやっほぉーい!」

ムカつく!こいつ、ムカつく!

「ひ、卑怯な手ばっかり使ったからもう一回!」

「卑怯なんて言わないでくださいよ。ミラクルです。ミラクル。」

この、白々しい!ムカつく!こいつムカつく!

「あんな、ほとんど角で点取って得た勝利がそんなにも嬉しいか!己はスポーツマンシップがどうとか言ってたくせに!」

「ルールの範囲内なんで。」

マジレスするな。ばか。

「じゃあ、最後にもう一回、もう一回だけやろ。勝った方がジュース奢りとか、そういうのありでもいいからさ。」

「いや~、無理っす。」

「なんでよぉ。」

「だってもう勝てないっすもん。」

「でも、私は何回も勝負を受けたのに。ずるい。最後にもう一回!」

「そうは言われてもなぁ。先輩も悪いんですよ。はっきり断らないから。」

「...。」

何度も、自分の中で反芻した記憶。彼女の記憶。彼女の声の記憶、彼女の表情の記憶。一秒で数分間の出来事が頭を埋め尽くし、当時の恐怖を呼び覚ます。


違う。今は関係ない。ただ、

「確かに。高橋君の言う通りかも。ごめんね。意地張っちゃって!」

「....そう、ですか。なら、他の所も見てみますか?」

「そうだね。また別の場所で勝負しよっか!」


依然として私は、自分の意見を通していい位置には立っていない。

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