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連休に予定が入っていない人間は、常日頃から予定が入っていない。ただの自論ですけど。何か?

四月二十八日 月曜日


十二時二十分。昼休憩。二年二組の教室。

「なぁ、明日からゴールデンウィークじゃん。」

「うん。まぁ、ほとんど来週からだけど。」

「いいんだよ。細かいことは。」

友人達は弁当をつまみながら談笑している。その隣で僕は机に突っ伏していた。具合が悪いわけでもなく、眠いわけでもない。ただなんとなく、こうしていたいような気分だった。

「で、(はく)は予定あんの?」

「うん。ほとんどバイト。一日だけ休みあるけど。」

まともに授業を起きていられないことから、学内では怠け者として知られている白だが、実は週五、六でバイトに入っている働き者だったりする。この事実を知っている人間はごく少数だが、密かに囁かれている噂がある。

「それってどうなん。高校生として。」

「いや、案外こんなもんだろ。高校生なんて。」

「高校生ならどっかに遊びに行くもんじゃねぇの?ほら、彼女とか友達とさ。」

「そんなこと言われても、自分彼女いないんで。」

友達と行けよ。目の前の友達と。

「じゃあ作ればいいじゃん。彼女。」

「まじで無理。これ以上疲れること増やしたら学校来れなくなる。」

恋人との逢瀬を何だと思ってるの。この人。

「じゃあ、バイト辞めればいいじゃん。」

「それなら学校辞めるわ。」

どういうこと?いや、本当にどういうこと?

「...お前さぁ、どういう頭してんの?」

「そんなの俺が聞きたいくらいだよ。」


 密かに囁かれている噂。それは、白の勤め先がブラック過ぎておかしくなった。という説である。言いたいことはわかるが、信憑性は低い。なぜなら、僕は明と一緒に白のバイト先にお邪魔したことがあるのだが、そういう雰囲気は感じなかったからだ。でも、そうすると、白が疲れている理由も不明なままなのである。さらに、一番の謎がある。それは、白自身が自分の身に何が起きているのか把握していないということだ。授業中に起きていられない理由がよくわかっていないようなのだ...。僕は思う。多分...


白は病気だ。


「じゃあ明はなんか予定あんの?」

「あるぞ。家の手伝いが。」

「いや、俺と一緒じゃん。」

「あはは。それな。」

...どっちも同じくらいのバカだ。


ほどなくして場面は変わり、二人のお弁当も残り半分程度になっていた。

「そういえばゴールデンウィークってさ、どう意味なん?」

「あぁ。それはね、黄金の弱点って意味だよ。」

息を吸うように堂々と噓をつく友人A。高橋 白。


...絶対いつもの出オチネタじゃん。それ。

「どういう意味なん?それ。」

真に受ける友人B。三上明。いや、もう少し頑張ろうよ。頭使おうよ。

「少し長くなるが、構わないか?」

「別に。構わんけど。」

「そうか。では始めよう。ゴールデンウィークが何故、黄金の弱点と呼ばれるようになったのか。」

...呼ばれてません。


「それはまだ、武道やスポーツといった概念が存在しない時代。漢達は力を欲していた。己自身を、親しい者達を、そして愛する者達を守るための力を欲していた。」

「力が無ければ何も守れない。苦しい時代だな。」

なんか始まったんだけど。明もノリノリだし。

「人体の構造と機能を研究し、相手を素早く倒すための技術を磨いた。屈強な肉体を作るために、より負荷の大きい鍛錬をこなし、食事や睡眠などの生活も変化させていった。そうして漢達は、来る日も来る日も、互いに知恵を出し合い、研鑽を重ねていった。これが後の武道の源流だとも言われてる。」

「...ふむ。なるほど。興味深い。」

諸説ありとか、そういう次元ではないな。証拠を出せ。証拠を。


「ただ、一つ問題があったんだ。」

「...嫌な予感がするな。」

そんなことよりさ、二人とも箸止まってるよ。早くご飯食べなよ。

「あぁ。明のその予感は正しい。互いに競い合い、高め合う漢達のただ一つの問題点。それは、漢達が求めていたのは純粋な力。結局は、暴力だったということだ。」

「...やはりな。」

これ、本当にゴールデンウィークの話?

「効果的な情報や技術が出揃い、漢達の成長は止まった。成長の限界を超え、「達人」と呼ばれた者達を除いて...。まぁ、実際には成長が足踏みしていただけで、それに気付いた人が独自の真価を遂げた結果、達人と呼ばれるようになったという、至極単純な話なんだがな。」

...なんだろう。この無駄な説得力。小学生が秘密基地の設定を自慢げに発表している時みたいな、哀れな感じがする。


「だが、大半の漢達は、その単純なことに気付くことができず才能を恨んだ。そして、自分より弱い者達に酷い仕打ちをするようになったんだ。当然、達人達は徒党を組み、圧倒的な武力を持ってそれを阻止した。達人は男達を諭し、心を入れ替えるように呼び掛けた。」

「暴走した男達に改心の機会を与えるなんて。さすがだな。達人。」

...本当に何の話だっけ。これ。

「だが、男達は諦めていなかった。背を向けた達人の不意をついて、渾身の一撃を決めたんだ。渾身の金的を。そして、あまりの痛みに、達人は死んだ。」

「...救えねぇ奴らだ。」

さっきから気になってたけど、明のそのリアクションは何なの?進行形で中二病なの?


...ていうか、達人死んだの?ヤバすぎるでしょ。脚本家降ろせ。降板させろ。

「漢達は見抜いていた。どんな達人でも急所を、股間を鍛えるのには限界があるということを。そして、密かに研究していたんだ。防御不可能の暗殺術「ステルス金的」を。」

その、もうどうしようもないみたいな顔やめろ。腹立つから。

「...馬鹿が。悪魔の囁きに惑わされたか。」

いや、どう見てもこの場で一番バカなのは(おまえ)だよ。


というかさっさと飯を食え。

「ステルス金的の開発によりパワーバランスが崩壊した。たった一度貰っただけで死に至る絶大な威力を誇るステルス金的への対処は必須となり、新戦術が続々と考案された。」

「...なるほど。新しい達人の間合いが出来てしまったのか。」

ただの不正だよ。不正。

「そうだ。後の先、という言葉を聞いたことがあるだろ。あれは、ステルス金的に唯一打ち勝った最強の戦術。「カウンター金的」を発明した、当時最強の漢。的場金的(まとばきんてき)が残した言葉だと言われている。」

なんで、金的への対策が金的なんだよ。達人の誇りはどこに行ったんだよ。もう...。


もう嫌だ。誰かこいつら止めて、息の根を止めて。宮本武蔵の墓に首持って行くから。

「隙を見せれば、闇に紛れた暗殺者によって玉を取られる。恐ろしく、長い夜が始まった。」

「...恐ろしいな。」

こんな下らない話を真面目な顔で続けるお前たちの方がよっぽど恐ろしいよ!

「漢達は力に酔いしれていた。才能に負け、自分を呪ったはずなのに。かつての輝きを取り戻したように感じたんだ。そうして漢達は、欺瞞と愉悦に満ち、金的の更なる進化を求めた技術。やがて漢達の金的は、神すらも欺く神速で必殺の一撃へと昇華した。」

「くそ...。その力を、どうして弱い者達を守るために使えなかったんだ。」

ならば聞こう。お前たちの脳みそは、一体何のために付いているんだ?


「そして、一人の高名な達人が狙われ、股間を打たれて死んだ。」

「...まぁ、そうなるよな。」

ならない。絶対にならない。

「だが、弟子の一人。勇敢な青年が声を上げたんだ。こんな馬鹿なことをするのは、もうやめましょうと。」

「...コ〇ーじゃね?それ。」

命がもったいない。

「いや、ポピー・ドラゴンっていう外国の人らしいよ。」

「...ニアピンか。」

...もうやめましょうよ。法律に触れそうな危うい感じのネタ出すの。


「青年の魂の叫びで、漢達も気付いたらしい。俺達はなんて馬鹿なことをしていたんだと。そうして、長きにわたる戦いに終止符が打たれた。漢達は、二度と同じ間違いを繰り返さないために、高名な達人と勇敢な青年が戦った、四月の末から五月の初頭までを「ゴールデンウィーク」。黄金の弱点として、後世に語り継いだ。めでたしめでたし。」



「いや、やかましいわ。」

...あ。

「...ん?」

「...あれ。(しゅう)起きてんじゃん。」

二人の視線が僕に向いた瞬間。胸が苦しくなって、耳のあたりが暑くなった。

「...あぁ。ごめん。今の話、途中から聞いてて...。」

そう言うと、二人は顔を見合わせた。

「寝てたのに悪いな。うるさかったよな。白が。」

「いや、何言ってんの。お前の方がうるさかったぞ。なんか中二だったし。でもまぁ、俺もごめん。ちょっと話のクオリティが高すぎたよな。ほんとごめん。クオリティ高くて。」


...なんか、一瞬でもビビってた自分がバカみたいだ。

「いや、全然信じてない。あと、クオリティ低い。つまんなすぎて目が覚めた。」

「...え?」

白は信じられない光景を目の当たりにしたような顔をしていた。

「それな。前置き長くて退屈だったわ。」

「ええ⁈お前ノリノリだったじゃん!」

それは僕も思う。

「いや、ゴールデンウィークを黄金の弱点としたところは悪くなかったけど、とにかく下品。それと汚い。オチも下らない。」

「それな。後半なんて金的の話しかしねぇんだもん。てか誰だよ。的場金的と、ポピー・ドラゴンって。舐めてんのか?」

明、よくぞ言ってくれた。僕、忘れてた。的場金的のこと。ポビーのこと。

「いや、そんなもん誰でもいいだろ。適当だよ。適当。」

「はぁ。そういうところだよね。白のダメなとこって。」

「雑なんだよなぁ。白は。」

「なんだと?そんなこと言うなら、お前らがやってみろよ。まぁ、多分死ぬほどつまんないだろうけど。」

「あー。そういうこと言っちゃうんだ。これは彼女できないよ。納得。」

「そうだぞー。女々しいぞー。白。」


 さっきまでの緊張が信じられないほど口が回る。やっぱり、誰かをバカにするのが一番楽しいわ。特に、白をいじるのが一番面白い。どんないじりをしても、取れたての魚みたいにぴちぴちの反応をしてくれるから。だから、

「うるせぇ。てか、明はともかく、秋だって彼女いないじゃん。そのへんどうなんだよ。なんでお前には彼女が出来ないのか、答えてみろよ。」

「...それは、うーん。多分、白と一緒にいるからだよ。」

「あー。頭きた。表出ろ。秋。」

バキバキと両手の指を鳴らして威嚇する白。でも、全然怖くない。

「うーん。ご飯食べ終わったら考えてあげる。」

自分でも何を言ってるのかわかんない。

「あぁ?言ったな?言質とったから。」

勢い良くご飯を搔き込む白。いや、なんでここで律儀になるのかなぁ。ほんと不思議だ。まぁ、がんばって。ふぁいとー。


「そういえば秋はゴールデンウィークどっか行くのか?」

状況を見て明が聞いてきた。

「家族と出かけるよ。」

「お。いいじゃん。どこいくの?」

「えっと、確か今年は、京都かな。」

浅草だったかな。まぁ、いいや。

「ごほっ!ごふっ!」

その時、突然白が咳き込んだ。小ねぎでも詰まらせたのだろうか。

「大丈夫?ごはん喉につっかえた?」

「...ごふっ。ごほっ、ん、んん。すまん。大丈夫。家族で旅行、楽しんで来いよ。」

再びご飯を搔き込む。そんなに慌てることないのに。


「うん。ありがとう。」

こんなにも楽しい日々があるのなら、黄金週間なんていらないじゃないか。

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