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幕間:耐えろ。まだバイトは始まったばかりだ。やめろ!時計を見るな!深淵に吞まれるぞ!!

「高橋~、今ちょっといいか。」

夜も遅く、客は一人もいない。店長の声は大きくないけれど、はっきり聞こえた。毎度のことだが、店長の声から要件を察することができない。いつも録音した音声をさいせいしているみたいに同じ声で呼ばれるからだ。

「はい。今行きます。」

数冊分の余白が生まれた本棚を残して、固まった体を起こす。膝立ちの姿勢を続けていた影響で、腿と膝のあたりが痛重い。気だるい身体を理性で操縦して、前時代的にもほどがある暖簾(のれん)セキュリティを潜る。

「おう。来たか。それで要件なんだが。」

「はい。」

...もしかして、レジに売ってるハ〇チュウ食いながら仕事してたの...ばれたか。それとも、レジの金額計算するふりしてサボってたことか。本棚の整理で時間潰してたことか....。まさか!ジ〇ンプの品出し中にちょっと中身覗いたことがばれたか!あの、ひょっとして、これって犯罪だったりしますの?有識者の方、有識者の方はいらっしゃいませんか?いらっしゃるのならば助けてください!前科持ちはさすがに人生負け組の烙印と言っても過言ではないと思うのですが!まぁ、本当にそれだけのことをしたのなら受け入れますよ。でも、先にもっと悪い人たちを捕まえていただくことはできないでしょうか?俺は「大は小を兼ねる」の小の方だと思うので、しばらくほっといてもらうことはできないでしょうか⁈


...ダメですか。でも、仕方ないじゃないですか。幸薄系のヒロインがドンピシャ過ぎた。あんなん我慢できません。鵺の陰〇師。好きです。最後の晩餐は、虹の実でお願いします。


「お前、二週間前くらいにバイト休んだろ。殴られて気絶したから念のため休みます。とか言ってたっけ?」

あー、言われればあったなそんなこと。

「それがどうかしたんですか?」

「有給使えるけど、どうする?」

...有給あるんだ。バイトにも。ていうか、有給って使ったら抹殺されるんじゃないの?社会的に。

「あぁ、大丈夫っす。使わなくて。」

「そうか。わかった。あと今日はもう帰っていいぞ。もう俺一人で大丈夫だから。」

若干黄ばんだパソコンにキーボードで何かを打ち込む神店長。バイトの残り十五分が死ぬほど嫌いな俺にとっては正直ありがたすぎる話なのだが、なぜだか店長のことが心配になってしまう。この人、この先幸せになれるのかなぁ、まぁ、傲慢すぎる自分がうざすぎて吐きそうだから、大人しく帰ります。

「じゃあ、お言葉に甘えて先に上がります。お疲れ様でした。」

「おう。また頼む。」

こんなにも素っ気ないのに、何故か信頼されていると錯覚してしまう。またこの人の役に立ちたいと思ってしまう。店長もしかして、魔性の者か?これがダメ男に引っかかる女の気持ちなのか?


あれ?でもそれってつまり、店長がダメ男ってこと?

「うっす。また来ます。」

「...。」

店長はパソコンに視線を向けたまま、頭の横で手をひらひらさせている。胡散臭いくたびれたオッサンみたいな仕草が板についている。あ、そういうことか。店長は魔性でもダメ男でもなかったんだ。ジ〇リの世界観の人だったんだ。店長って。


 思わぬ発見と、今日も一日頑張った自分を褒め称えながらぼろい自動ドアを潜ると、湿っぽい空気が肌に纏わりついてきて、一気に夢から覚めた。


まじで、冷めたわ。

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