終わり良ければ総て良し。なんて言ったクソ野郎はどこのどいつ....シェ、シェイ〇スピアさん????
「決闘を受けるんだな?」
「...さっさとしろ。」
ここまでコケにされたのは生まれて初めてだ。
「わかった。じゃあついてこい。」
二人は席を立ち、先導した。面倒だしここでぶっ飛ばすか?
「何もするなよ。まぁ、俺はそれでも構わないけど。」
こいつは確か、三上だったか。
「指図するな。」
これだから馬鹿は嫌いなんだだ。
「二人はここで待ってて。」
しばらく校内を移動し、体育館裏に着くと高橋が退席した。
「お前は行かないくていいのか?」
「いや、見張ってないとあんた逃げるでしょ。」
「....は?」
何を言っているんだ。こいつは。
「は?じゃないだろ。あんな轢き逃げ紛いのことしておいて。」
轢き逃げ?
「きっかけを作ったのはお前らだ。それに逃げたわけじゃない。」
どう考えても気絶したあいつが悪いじゃないか。
「...何言ってんだ、お前?きっかけも何も、正当性も無く突っかかってきたお前らが悪いだろ。こっちは百パー被害者だぞ。そのへんわかって言ってんの?」
自分の都合のいいようにしか解釈できていない。これでは話にならない。だから馬鹿とは話したくないんだ。
「...もういい。黙ってろ。」
「...はぁぁぁ。わかった。諦めるよ。」
「ただいまー。帰ってきたよ。」
ボロボロの机と、その上にいくらかの荷物を乗せて、うざい方が返ってきた。
「...何それ?」
「何って、一塁のベースだけど?」
直前まで使っていたのではないかと思うほどの使用感、生活感にも近い雰囲気を放つ野球のベース。見るからにふかふかだ。洗濯すればクッションや枕として活用できるだろう。
「...いや、そうじゃなくて、何に使うか聞いてんだよ。」
「それは今から説明するから待ってて。」
高橋は机を置いた。
ーその頃の野球部。
俺の名前は、笠井 光希。主砲、やってます。
「おら!」
クソッ、ゴロか。だが、俺の瞬足なら間に合う!間に合わせる!
「うおおおおお!.....って、無い!ベースが無い!」
くそくそくそ!ここまで来たら身体を、止められな....!
「ぐふぉおああああ!!!」
悲劇が起きていた。
「というわけで、決闘の詳細を発表します。」
寂しい一人の拍手が虚空に響く。
「決闘の題目は~、叩いて!被って!ボディブロー!です!」
「「...。」」
...この、何とも言えない出オチ感。良くないな。
「ルールは簡単。叩いて被ってじゃんけんぽん!とほとんど同じです。」
「「....。」」
なら、叩いて被ってじゃんけんぽんやれよ。
「しかし、この競技ではピコピコハンマーは使いません。じゃんけんの勝者が、己の拳で相手をぶん殴る競技となっております。敗者はこの一塁ベースで相手のパンチを防いでください。」
「「...。」」
それってつまり、叩くことも、被ることもしないってことか?
「そして、この競技の特徴は何と言っても、顔面だけでなくボディに攻撃する選択肢があることです。じゃんけんに勝った後、もう一度読み合いが発生するテクニカルな競技になっております。」
「「...。」」
だからボディブローなのね。
「勝敗はポイント制となっており、先に五ポイント先取した方が勝利です。ちなみに顔面が3ポイント、ボディは1ポイントの配点になっております。」
「「....。」」
なんか、結構ちゃんとしてるな。
「そして、安全性を考慮して拳にタオルを巻きます。利き手の逆の手に巻いてください。と、言いたいところではありますが、利き手よりも力が強い場合もありますので、力が弱い方の手に巻いてください。」
「「...。」」
...安全性?
「ということで、ツッコミ、じゃなかった。質問ありますか?挙手でお願いします。」
「「...。」」
いちいちめんどくせぇな。
「..じゃあ、はい。」
「どうぞ。三上くん。」
「ここには三人いるけど、余った一人は何すんの?」
「...あぁ。ごめん。言ってなかったっけ?明は審判だから人数は余らないよ。」
「...え?」
ふっ。能無しが。
「...。」
「はい。先輩。あとはいって言ってください。殺しますよ。」
黙れ。俺がお前を殺すぞ。
「最終的に勝敗はどう決める。三本勝負か?五本勝負か」
「それは、うーん。俺が満足するまでやります。」
....は?
「というわけで、そろそろ始めたいんだけど、二人とも準備は大丈夫?あ、忘れてたけど、反則したら審判からのペナルティパンチがあるから。ずるしないでね。」
「「...。」」
腹立つなぁ。こいつ。
二重、三重にタオルを巻きつけていく高橋。俺も左の拳にタオルを巻く。
「ちなみに、この競技は俺が小学生の頃に発明した。そして、俺はこの競技で負けたことは無い。」
「「...。」」
多分、やったことないんだろうなぁ。
「じゃあ、行きまーす。」
緊張感の欠片も無い開戦のゴングが鳴らされた。
一回戦
「「叩いて被ってじゃんけんぽん!」」
チョキ!
グー!
五ポイント先取?ふざけるな。あの時と同じだ。この一発で沈めてやる。そして、わからせてやる。馬鹿な奴には何もできないということを。
「死ねぇ!」
ドン!
「.....。」
高橋のボディにどっしりと構えられた一塁ベースが、俺の拳を受け止めていた。
「...日和ったね。先輩。」
高橋は、既に勝利したと言わんばかりの自慢げな表情で、気味が悪かった。
「...次は無い。」
「それはどうかな。ビビり先輩。」
「...。」
挑発を受けた瞬間、眼球の奥が激しく痛んだ。
二回戦
「「じゃんけんぽん!」」(あいこは割愛します。)
グー!
チョキ!
じゃんけんは負けた。だが、読み合いで勝てばいい。それだけだ。
「くたばれ、この、陰毛頭がぁ!」
「...ぐぅ。」
ボディに構えた一塁ベースには何の手ごたえも無い。高橋の右拳がノーガードの俺の顔面を捉えた。セーフティを付けているとはいえ、かなり痛ぇな。これ。こいつ、見かけによらずパワータイプか?
「っしゃ!まずは3ポイント!」
「...白。」
「何?」
「お前さ、右手の方が力強いって言ってなかったっけ?」
「.....言ってないyo。」
「繊細な作業は左。人を殴るのは右って、この前言ってなかったか?」
「.....言ってない言ってない。」
「...そうか。」
「ぐふぉおああ!!」
三上のペナルティパンチが高橋の顔面に炸裂し、高橋がぶっ飛んだ。
「な、何すんだよ!明のバカ!ふざけんじゃねぇぞ!これは明確な利敵行為!そう、利敵行為だ!審判、こいつ退場させて!一発レッドで退場させて!」
吹き荒れる非難の嵐。
「いや、審判俺だし。それにお前が言ったんだろ。ペナルティがあるって。」
「まじめかこのバカ!情報は武器だって、何回言ったらわかるんだ!このボンクラ!」
「もう一発ペナルティすんぞ。こら?」
「..あの、すみませんでした。」
茶番だ。だが、わかった。この競技は見かけによらず危険だ。その気になれば歯が数本逝く。油断はできない。再認識が必要だ。
「で、この場合どうすんだ。お前の負けでいいのか?」
「...お互いにパンチ喰らってるから、ノーカン。」
鉄の味がする。歯茎から血が出た時よりも、舌を嚙んだ時よりも、鼻血がドバドバ出た時よりも、鮮明に。これが味なのか匂いなのかもわからない。痛みに反応しているのか、体も何だかおかしい。鼓動が目玉の芯まで響いているような感じがする。鼓動が、耳を塞いだ時のように、音が籠った鼓動が聞こえる。俺の中で何かが蠢いているような、口から何かが溢れ出しそうな感じがする。
これは一体、何だ。
二回戦(改)
「「じゃんけんぽん!」」
パー!
チョキ!
「俺の恨み、喰いやがれ!」
今回も俺の負けか。
ドン!
眼前に構えた一塁ベースに重みが、確実な手応えがある。
「やっぱそうだよなぁ。馬鹿は、目先の大物を狙いに行くよな。」
「...くそっ!!」
単純で、軽薄で、自分勝手で、その後のことなんてこれっぽっちも考えない。気にも止めない。自分が何をしてもいいと本気で思っている。自分が他人に生かされていることを知りもしないくせにだ。だから、俺は馬鹿が嫌いだ。この世から消えればいい。そうすれば、真の意味で人間は助け合える。どちらか片方だけが、嫌な思いをしないで済む。
そう、何度願ったことか。
三回戦
「「じゃんけんぽん!」」
パー!
チョキ!
まずは、一発目だ。
「その目が、気に食わないんだよ!」
「...ぐっ!」
俺の拳が、高橋の延髄をえぐった。硬い骨の感触もあった。かなりのダメージがあったのか、高橋は痛みに身悶えている。いい気味だ。もっと自分の無力を思い知れ。
「...そうですか。度々嫌な思いをさせて、すみませんね。でも、気になるじゃないすか。そんな頭で、目ぇ見えてんのかなーって。実際どうなんすか?見えてんすか?これ、何本ですか?ほら、ぴーすぴーす。」
行儀が悪いなぁ。中指を立てるな。ゴミが。
「あぁ。はっきり見えてるよ。お前のその、汚い表情が。」
「...はは。さいですか。それはよかった。あとで、言い訳されても困るんで。」
まだ足りない。まだ、こんなもんじゃない。
高橋 0ポイント
武内 1ポイント
四回戦
「「じゃんけんぽん!」」
チョキ!
グー!
...よく考えれば可笑しいな。人を殴る時に片手をチョキやパーにする奴がいるか?人を殴るときは、しっかり両手を握って、歯ぁ食いしばって腰入れて、思いの丈を余すことなくぶちまけるべきだよなぁ、なぁ!
「どいつもこいつも、何もできねぇくせに鬱陶しいんだよ!」
「...がふっ!」
高橋の構えた一塁ベースは、虚空で震えている。俺の拳が再び奴の延髄を貫いた。痛みに悶える高橋の身体はくの字に曲がり、地面に膝をつき、無様な姿を晒している。
「はは。ざまあみやがれ!このビビり野郎が!なんだ、威勢がいいのは口だけか?そんなに顔を殴られるのが怖かったか、怖気づいたか?....全く。だっせぇな。自分から勝負を仕掛けておいて、満足に勝つことができねぇなんてよ。なぁ、どうしてこうなったかわかるか?....覚悟だよ。何が何でも成し遂げようとする覚悟が、てめぇには足りねぇんだよ!だから何もできねぇんだよ!この愚図が!」
全て、口から出まかせだ。この高笑いも、言葉も、何の意味も無い。声を出したいだけだ。身体が熱くて、叫ばないと喉が詰まって窒息しそうなんだ。全身の血液が沸騰してるみたいに、脈動しているんだ。こんなこと、人生で初めてだ。でも、わかる。これは怒りだ。堰き止められていた物が、どうしようもない怒りの奔流が、極限まで圧縮された俺の人生そのものが、俺の身体を支配している。父さんへの怒りだ。妹の世話を放棄した母への怒りだ。醜い女の顔をした母への怒りだ。無責任に俺を怒鳴りつけた母への怒りだ。カスのくせに馴れ馴れしい再婚相手への怒りだ。蔑みの目で俺を見る新藤とゴミ共への怒りだ。そして、何もできないくせに偉そうに俺に指図いてくるあの、木葉への怒りだ!どいつもこいつも、自分の事しか考えられないどうしようもない馬鹿共が!自分の能力も把握できない、身の丈に合わないことしかしない馬鹿共が!何でもかんでも俺に押し付けてきやがって、ムカつくんだよ!妹の世話を頼むとか、本当の家族みたいに接してねとか、どうしても俺にしか頼めないとか、どうしてお前は普通になれないんだとか、うざいから消えろとか!どうして俺がてめぇらの都合のいいように生きなきゃならないんだ!どうして俺がてめぇらの失敗を拭わなければならないんだ!俺は、俺のやるべきことをやってんだよ、一ミリでも身の丈を伸ばそうとしてんだよ!なのに、一体どうしてなんだよ!誰か答えろよ!クソがぁ!
「..いつまで寝てんだ。さっさと立て。そんで、自分で宣言しろ。私は何もできない臆病で覚悟の足りない脳無しです。もう二度と逆らいません。金輪際近づきません。てな。」
そうだ。いつか自分で壊そうと思っていたんだ。俺が力を付けたら、全てを吐き出すつもりだった。俺を縛り付ける柵の全てをぶっ壊して、一人で平和に暮らす....。それが俺の夢、一筋の希望だった。なのに、こんなことで、お前が.....お前のせいだ。だから俺は、お前を許さない。絶対に。
「......あはは。そうかぁ。結構良いこと言うね。先輩。」
高橋は笑っていた。地の底から、不気味な笑みを浮かべて俺を睨みつけた。
高橋 0ポイント
武内 2ポイント
五回戦
「「じゃんけんぽん!」」
チョキ!
パー!
負けた。ならまずは顔を...
「うおぉぉぉ!!!」
は?いくらなんでも速す....
「おらぁぁ!」
俺がベースを構えるより早く、高橋の全力の左ストレートが俺の右頬に到達した。不意を突かれ、高橋の全力のパンチを喰らった俺は、派手に姿勢を崩した。
「見たかぁ!これが俺の覚悟じゃ!このすっとこどっこい!」
雄叫びを上げ、ガッツポーズを取る高橋が見える。たまらず身体を起こそうとするが、思うように身体が動かない。もろに喰らったのがかなり響いている。
「...いってぇな。くそが...!」
.....そうか。こいつ、じゃんけんの結果を最後まで確認しなかったのか。あいこ以上の手が見えたと確信した瞬間に攻撃してきやがったんだ。だから全身全霊の攻撃、ゲームの範疇を超えたパワーで攻撃できたのか。
「言ったろ。俺はこのゲームで負けたこと無いって。」
やりやがったな。この、くそ勝負師が。
「いい。このくらいのハンデが無いと勝負になんねぇだろう。」
「....まぁ、間違ってない。けど、次の試合であんたをぶっ飛ばして、俺が勝つ。」
「...。」
高橋 3ポイント
武内 2ポイント
六回戦
「じゃんけん.....」
あぁ。もういい。どうでもいい。そうだ。もう構うものか。最初からこいつらに付き合う必要なんてなかったんだ。俺は、俺のしたいように、やりたいようにすればよかったんだ。こいつらと同じように。
「行くぞ、おらあぁぁ!」
「.......は⁈」
ドバアァン!!!
拳には感触があった。全霊の、渾身の一撃の感触だった。薄い皮とぺらぺらの頬肉、骨ばった感触、硬い木材のような感触が、中手骨のあたりに痛みの反動と一緒に伝わってくる。
はずだった。
「...せっかちっすね。先輩。」
俺の記憶は、ここで終わっている。
「ねぇ。言ったよね。私、言ったよねぇ?」
誰かの...イラついた声が聞こえた。
「あはは。すみません。肝に銘じます。」
「...そのセリフ、昼にも言ったよねぇ。ていうか、根性焼きするって言ったよねぇ?してよ。今ここで。焼き土下座!」
「いや、急に刑罰を重くしないでくださいよ。まじで。逆ギレきついっす。」
「罪が増えたんだから急じゃないでしょ!当然でしょ!このバカ!」
...和気藹々とした、楽しそうな声が聞こえる。
「明、頼んだ。俺は逃げる。」
「ばか言うな。俺も逃げる。」
「「せんせい、さようなら....。それじゃ!」」
二つの足音が、遠くへ走り出した。
「あ!こら!待ちなさい!」
床を蹴る二種類の靴の音。一つが遠くに離れた後、一つの足音が近づいてきて、カーテンが開いた。
「起きた?」
「...はい。」
「災難だったね。君も。」
喋るたびに切れた口内が酷く痛む。あの時は、これっぽっちも痛くなかったのに。
「はい。これ。」
西野先生は、サイドテーブルに置いてあった手鏡を渡してきた。
「...なんですか?これ。」
「顔。見れごらん。」
言われた通りに鏡を覗き込む。しばらくすると違和感に気が付いた。俺の前髪が瞼の上、眉毛の少し下の辺りで切り揃えられていたのだ。
「私はやめなさいって言ったんだけどね。まぁ、坊主じゃなくて良かったね。」
「...そうですね。」
別に髪を伸ばしていたわけじゃ無い。ただ、美容室に行くのが嫌だっただけだ。
「それで、目は覚めた?」
「........はい。」
眩しすぎる世界が、正直鬱陶しかった。
「あ、武内くんに一つ頼みたいことがあるんだけど、いい?」
「...構いません。」
俺はこの人に借りを返さなければならない。
「良かった。じゃあ暇な時でいいからさ。あの子達をここに連れてきて。」
「...事情聴取、ですか?」
「いや。」
「...じゃあ、何をするおつもりで、す...」
「いいから黙って連れてきて。」
「....わかりました。」
なんとも、女は恐ろしい生き物だ。




