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てめぇは問答無用で地獄行きだぜ。地獄まで見逃してやるがな。

店の入店音が聞こえて振り返ると、コンビニの制服から厚手のトレーナーに着替えた本田真(ほんだまこと)がこちらに手を振っていた。

「お待たせ。」

「お疲れ様。ここほら。座って。」

そう言って縁石の余っているスペースを左手でポンポンする。

「それじゃ、失礼して...。」

真はこぶし3.4個分くらい離れたところにちょこんと座った。体育座りに近い姿勢で、女性らしさを身体の節々から感じる。どこが、って言われるとわからないけれど、漢のそれとは違うとわかる。強いて言えば、荒々しさが無い、のかな...。性別が違うだけで、色々変わるんだなぁ...。あ、わかった。服の構造が違うからでしょ。どう?当たってるでしょ。これ。

「あー、つっかれた~。明日の学校行きたくないよ。」

真はダンゴムシのように身体を丸めて、顔を太ももにうずめてしまった。なんだか今にも爆発しそうだ。

「...はいこれ。」

温めてから数分が経過して、少々温い温度になったブリトー差し出す。

「くれるの?」

「いらなかったかな?食べないなら俺が貰っちゃうけど?」

ブリトーって女子的にはジャンクフードにカテゴライズされたり、します?よくよく考えたらこれ小さいピザみたいなもんだし....。まぁ、保険の鮭おにぎりもある。鮭おにぎりが嫌いな人はいないだろう。日本人なら。

「あ~違う違う。ちょっと驚いただけ。ブリトーは好きだし、おなかぺこぺこだから、遠慮なくもらうね。」

真は手を振って否定のジェスチャーを取る。お節介にならなくてよかった。

「どういたしまして。これもどうぞー。」

レジ袋から取り出した麦茶とおしぼりを真の前に置く。

「え。さすがに何から何まで悪いよ。」

真はブリトーを左手に、右手を振って否定のジェスチャーを取っている。

「遠慮しないでいいよ。必要なければ俺が持って帰るし。」

デジャブだからかなぁ。申し訳なさが倍増した。差し入れが意外だったのか、真は目をぱちくりさせている。バイト明けの知り合いに差し入れするのって、もしかしておかしいことなんですか?また俺なんかやっちゃいま...。やめとこ。まじで。

「それならもらおうかな。ありがとう。」

「どういたしまして。」

その後の数分間。俺達は黙々と食事をとった。おしゃれな景色も無くて、味を共有するほどの仲でもない。それでも、何の不安もなくご飯を食べることが出来た。でも、今度から女の子に差し入れするときはカロリーを確認しておこうと反省した。


 「ごちそうさまでした。ブリトーめっちゃ美味しかったよ。やっぱり労働のあとのご飯は格別だね。」

体にエネルギーが充填されたのか、真はパワフルなポーズをとっている。狙ってやってんのかこれ?一狩り誘われてんのか、これ?

「ていうか、よくそんなにたくさん食べられるね。夕飯まだだったの?」

タルタルチキンとサラダを完食し、から揚げ弁当を食べ始めていた俺に、そう訪ねてきた。

「夕飯は食べたよ。でも、昔からすぐ腹減る体質でさ。結局また食べてる。ちなみに「すぐおなかがすく    体質」って調べると、糖尿病の疑いとか出てきてちょっと怖い。」

「え?糖尿病ってやばいじゃん。白って甘いものとか好きなんだ。意外。」

確か、糖尿病の原因って糖分の過剰摂取だから、甘いもの以外の食事にも注意しないといけないんじゃなかったっけ?炭水化物とか?お米とか、ジュースとか?...結局甘いものになっちゃった。まぁ、そんなこと聞いてないだろうし、いいか。

「甘いものはめっちゃ好きだよ。チョコ、グミ。ケーキも好きだしクレープも好き。和菓子も好きだね。大福とか、どら焼きとか。」

「これもそれもあれもって、小学生みたい。」

小学生みたいで何が悪いのかわかりませーん。

「男はさ、幼少期の感動を、いつまでも忘れない生き物なんだよ。」

男ってやつはさ、にすればよかった。そっちのほうがかっこよかったなぁ。ミスったわぁ。

「それ、親戚のおじさんも似たようなこと言ってたよ。男はなぁ、いつだって、子供の頃の思い出を忘れられないものさ!って。小学生じゃなくておじさんだったんだ。」

なんかいやだ。おじさんはいやだ。

「男ってやつはさ、何歳になっても少年の心を持っているってだけだよ。俺とその親戚のおじさんが、まさしくそれを証明しているよね。だから別に俺がおじさんなわけじゃないからね。断じて。」

「あ、おじさんは嫌なんだー。」

話かみ合ってないんだけど。本質見抜かれてるんだけど。

「まぁ、年寄り扱いされて良い気分はしないかもしれないけど、今気にしても仕方なくない?」

意外にもドライな反応だった。女性には年齢を尋ねるな、とか言われているけど、彼女はあまり気にしていないようだ。むしろ嫌ってるんじゃないか?あの様子だと。

「まぁ、言う通りだと思うよ。実際、普段は気にならないしね。けどさ、ふと思い出すんだ。風が吹いて前髪が乱れてさ。指紋1つない、ピカピカのショーウインドーにさ、俺のおでこが反射したとき。あれ、おでこ広がってる?生え際が、先月より1ミリ広がってる!!!って、戦慄すんのよ。この頭には、決して手放せない、解除できない時限爆弾を抱えてるんだなって。」

真は心底どうでもいいらしい。顔が物語っている。感情の無いアンドロイドみたいになってる。

「心配しすぎじゃない?それに、1ミリは誤差だって....。あ、でも毛根は手放せるんじゃない?」

真はあまり共感できなかったようだ。てめぇの女性ホルモンよこせこら。

「それよりも考えるべきことがあるんじゃない。パワハラセクハラモラハラビール腹口臭体臭加齢臭ワキガ水虫痛風ぎっくり腰四十肩、老眼..........などなど。理屈はよくわからないけど、おじさんの方がイメージしやすいことって結構あるかもね。これって、どうしてなんだろうね?」

こいつぁ、俺をおちょくってやがる。最初のハラスメントはともかく、それ以外は身体のコンプレックスばかりじゃないか。いつ、何が発症するかわからずに震えて眠れってか....。逃げ場なさすぎるだろ。やめてよ....怖い。

「いや、きっと女性が気に病まないように男が体を張って受け止めてるんだよ。悪評を。その身一つで!善良な一般女性が苦しまないために!....だってだって、多分女性だってパワハラしてるし、セクハラしてるし、口臭いし加齢臭きついし、ワキガも水虫も痛風も、やってるにきまってるんだ!差別ダメ!絶対!」

...これで俺も、厄介フェミニストの仲間入りだ。もう後戻りはできねぇ。もう、戻れねぇ。だが!俺は逃げねぇぞ。男も女も関係ねぇ。全員ぶっ飛ばしてやる。

「そうだね。多分そうだよ。みんな同じ人間だもんね。」

お、意外と話が分かるじゃないか。みんな平等に老化の恐怖に怯えている。これで一件落着.....

「まぁ、私はビビッてないけどね。」

この子可愛くない。チェンジ。

「はいはい。わかりましたよ。そうです、そうでござんす。俺がビビりなだけんです。反論できません。......これでいいですか?」

「うん。潔く負けを認められて偉いね。よくできました~。」

満面の笑みなんだけど。今日一の笑顔なんだけど。でも、ちょっと良かった。ゆるふわな笑顔と愛くるしい美声に隠れた狂気がたまらん。お願いしたらもう一回やってくれないかな?

「俺の負けだ。勘弁してくれ。これ以上ダメージを受けたくない。人間やめたくなるから。話題を変えよう。今日のクソ客とかマネージャーの嫌いなところとか、学校のイカレた先生の話とか、ヤンチャな友達の激ヤバエピソードとかさ。いくらでもあるだろ。話題くらい。」

なぜこんなことになったのだろう。糖尿病とか、少年の心がどうとか、偉そうに講釈を垂れた俺のせいなのだろうか...。あー、いや、うん。俺のせいだわ。確実に。

「それもそうだね。まぁ、ほうれい線とかシミとか、おばさんにもいろいろ.....」

話聞いてんのかこいつ。

「もうやめよう。これ以上、無駄な犠牲は出したくない。」

そう言った瞬間、真はゆらりと立ち上がり顔を急接近させてきた。目がガンギマリだ。うわ、こっわ。こっわ。

「無駄な犠牲は出したくない?どの口が言ってるの?もしかして、俺はフォローしている側で自分は被害者だ、とでも思っているの?」

迫力がすごい。何者なんだよこいつ。どこかの映画祭で主演女優賞とれるよ。大会総ナメだよ.....。アニメみたいでちょっと楽しいけど。

「ごめんなさい。」

「逃げるな。戦え。」

ハリウッド女優じゃなくてレスバトルバーサーカーだった。サディスティックガールだった。

「これは、あなたが始めた物語でしょ?」

こいつなんなんだよ、まじで。最高かよ。

「..........人の心とかないんか。」

彼女は、イェ〇ガー派だった。

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