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てめぇは問答無用で地獄行きだぜ。地獄まで見逃してやるがな。

 店の入店音が聞こえて振り返ると、厚手のトレーナーに着替えた本田真(ほんだまこと)が、ひらひらとこちらに手を振っていた。


「お待たせ。」

「おう。お疲れ様。」

そう言って縁石の余っているスペースを左手でポンポンする。

「座れば?」

「それじゃ、失礼して。」

真は少し離れたところにちょこんと座った。体操座りのように、膝を抱え込むスタイルだった。


男子と女子の差って、どこから始まったんだろうなぁ。

「あー、疲れた。明日の学校行きたくないよ。」

真は顔を太ももにうずめてしまった。なんだか今にも爆発しそうだ。

「はい。」

「ん?」

「これ。食べる?」

少しぬるくなったブリトーを差し出す。

「くれるの?」

「うん。そのために買ったから。」


 自分から差し出しておいてあれなんだけど、女子的には、ブリトーはジャンクフードにカテゴライズされたりするのだろうか?よくよく考えたら、これ小さいピザみたいなもんだし。今度カロリー確認しておこう。

「そっか。じゃあ、おなかぺこぺこだから、遠慮なくもらうね。」

「どういたしまして。あとこれも。」

レジ袋から取り出した麦茶とおしぼりを真の前に置く。

「え。いいの?」

真は目をぱちくりさせていた。

「うん。いいよ。」

バイト明けに差し入れを貰うと、俺は結構嬉しい。だから俺もやってみたくなった。

「それならもらおうかな。ありがとう。」

「あいよ。」

その後、俺達は黙々と食事をとった。おしゃれな景色も無くて、一口あげる、みたいな、味をシェアするほどの仲でもない。ただ、黙々と食べ進めた。


「ごちそうさま。ブリトーめっちゃ美味しかったよ。やっぱり労働のあとのご飯は格別だね。」

体にエネルギーが充填されたのか、真はパワフルなポーズをとっている。これは、一狩り誘われてる、のか。

「ていうか、よくそんなにたくさん食べられるね。夕飯まだだったの?」

タルタルチキンとサラダを完食し、から揚げ弁当に手を付けた俺を見て、真は訊ねてきた。

「夕飯は食べけど、なんか腹寝っちゃって。ちなみに「すぐおなかがすく体質」って調べると、糖尿病の疑いとか出てきて、ちょっと怖い。」

昔からよく腹が減る。満腹中枢がいかれてるのか、それとも体の燃費が悪いのかは定かではない。


「糖尿病ってやばいじゃん。白って甘いものとか好きなの?」

糖尿病の原因は、甘いもの以外にもあったはずだけど、まぁ、話題が変わったのなら無理に指摘することも無いか。

「甘いものはめっちゃ好きだよ。チョコとかグミ。ケーキも好きだしクレープも好き。和菓子も好きだね。大福とか、どら焼きとか。」

「ふーん。なんか、これもそれもあれもって小学生みたいだねー。」

「小さい頃の感動を忘れられないんだよ。」

俺は甘味に取りつかれている。俺にとっての甘味は麻薬。だから、麻薬をやってる人にも教えてあげたい。甘い物食ってるだけで、人はトベるってことをさ。


「それ、親戚のおじさんも似たようなこと言ってたよ。男はなぁ、いつだって、子供の頃の思い出を忘れられないものなんだよって。小学生じゃなくておじさんだったんだ。」

「え?」

おじさんはいやだ。

「いや、それは違うでしょ。」

「...あ、おじさんは嫌なんだー。」

なんか、見抜かれてるんだけど。


「年寄り扱いされて良い気分はしないかもしれないけどさ、今気にしても仕方なくない?」

女性には年齢を尋ねるな。とか、巷では言われてるらしいけど、どういう判定ですか?これ。

「確かに、普段は気にならないけどさ、ふと実感することがあるんだよ。」

「どんな時に実感するの?」

「そうだなぁ。例えば...。」

「うん。例えば?」


「ピカピカのショーウインドーに俺のおでこが反射したとき、あれ、おでこ広がってないか?生え際が先月より1ミリ広がってないか!!って、戦慄する。」

「...。そっか。」

「この頭には決して手放せない、解除できない時限爆弾を抱えてるんだなって。」

「....。」

真は心底どうでもいいらしい。表情が、感情の無いアンドロイドみたいになっている。

「心配しすぎじゃない?それに1ミリは誤差だって....。それに、毛根は手放せるんじゃない?」

真はあまり共感できなかったようだ。お前の女性ホルモン抜き取ってやろうか。


「それよりも考えるべきことがあるんじゃない。パワハラ、セクハラ、モラハラ、ビール腹、口臭、体臭、加齢臭、ワキガ、水虫、痛風などなど。理屈はよくわからないけど、おじさんの方がイメージしやすいことって結構あるからね。」

目の前に刃物が突きつけられているような、鋭い恐怖を感じた。この子、偏見が、思考が傾きまくっている!

「いや、きっと女性が気に病まないように男が体を張って受け止めてるんだよ。世の中には、女性にもモラハラしてる人はいるし、セクハラしてる痴女もいるし、口臭がきつい人もいるし、脇が臭い人もいるし、痛風でのたうち回ってるおばさんも居るはずだよ。」


これで俺も、フェミニストの仲間入りだ。そう。俺は真のフェミニズムに従うフェミニスト。文句を言う奴は男も女も関係ねぇ。全員ぶっ飛ばしてやる。

「そうだね。多分そうだよ。みんな同じ人間だもんね。」


お、意外と話が分かるじゃないか。みんな平等に老化の恐怖に怯えている。それでいいのだ。一件落着なのだ。

「まぁ、私はビビッてないけどね。」

どや顔可愛い。でも、この子可愛くない。チェンジ。

「はいはい。わかりましたよ。そうです。俺がビビりなだけんです。反論できません。」

「うん。潔く負けを認められて偉いね。よくできました~。」

満面の笑みなんだけど。今日一の笑顔なんだけど....。でも、ちょっと良かった。ゆるふわな笑顔と愛くるしい美声に隠れた狂気がたまらん。お願いしたらもう一回やってくれないかな?


「勘弁してください。もうこれ以上ダメージを受けたくない。人間やめたくなるから。話題を変えよう。今日のクソ客とかマネージャーの嫌いなところとか、学校のイカレた先生の話とか、ヤンチャな友達の激ヤバエピソードとかさ。いくらでもあるだろ。」

「それもそうだね。まぁ、ほうれい線とかシミとか、おばさんにもいろいろ」

話聞いてんのかこいつ。

「もうやめよう。これ以上、無駄な犠牲は出したくない。」

そう言った瞬間、真はゆらりと立ち上がり顔を急接近させてきた。目がガンギマリだ。うわ、こっわ。こっわ。

「無駄な犠牲は出したくない?どの口が言ってるの?もしかして、俺はフォローしている側で自分は被害者だとでも思っているの?」

圧がすごい。映画祭で主演女優賞とれるよ。大会総ナメだよ...。ちょっとスリルあって楽しいけど。


「ごめんなさい。」

「逃げるな。戦え。」

ハリウッド女優じゃなくてサディスティックガールだった。

「これは、あなたが始めた物語でしょ?」


こいつなんなんだよ、まじで。最高かよ。

「..........人の心とかないんか。」

彼女は、イェ〇ガー派だった。

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