夢ならばどれほどよかったでしょう。今だにあの滑り散らかした地獄の三分間スピーチのことを夢に見る。意味なんて考えるな。辛いぞ。
「それでは、改めまして面談を始めます。よろしいですか?武内君。」
「...。」
今更何すんだよ。さっき散々質問攻めしてじゃねぇか。まぁ、一言も喋ってないが。
「新藤先生には議事録の作成をお願いします。事前に作成しておいた資料があるのですが、データと紙どちらにしますか?」
「紙でお願いします。」
「では、こちらを。」
「ありがとうございます。」
河上は資料を手渡した。紙刷ってんなら最初から渡せよ。
「それでは質問していくので、可能な範囲で真剣に話してもらえると助かります。」
「...。」
さっきと同じじゃねぇか。くそが。
「じゃあ、質問其の一。お父さんのことをどう思っていますか?」
「....。」
「其の二。君とお父さんの行きつけの店は?」
「...。」
「其の三。君とお父さんの趣味は?」
「...。」
「其の四。君とお父さんの好きな食べ物は?」
「....。」
「其の五。君とお父さんが大切にしている物は?」
「....おい。」
「おっと。今日初めての応答ですね。会話が出来て嬉しいですよ。私は。」
「おちょくってんのか?」
やっぱりこいつは、信用ならない。
「いえ。私が気になっただけなので、あまり気にしないで下さい。」
答えになってないし、いかがわしい思惑がありますって言ってるようなもんだろ。それ。
「挑発したのはそっちだろ。」
「誤解です。挑発なんてしてませんよ。」
「...本当か?」
「もちろん。」
「...。」
必ず、必ず何か裏がある。尋問の時の直接的な表現を避けた質問とは違う。今回は明確に父との関係性を探りに来ている。まぁ、あの父のことだ。疑われるのも無理はない。質問の意図がわからないのは些か不気味にも感じるが、特に問題は無い。こっちから探りを入れるだけだ。
「母には興味ないって、はっきり言えよ。」
「それは違います。ただ、武内君のお父さんのことを聞いてみたくなっただけです。」
はぐらかしやがって。
「人の家庭に口出そうってのか?何様のつもりだよ。お前。」
「....。」
新藤はだんまりか。河上から資料を受け取ってからずっとあの調子だ。おそらく、あの資料には何か秘密がある。無駄に正義感の強い新藤先生を揺すってみたが、特に効果は無さそうだ。ほんと、役立たずだな。
「...目的があんならさっさとしろ。迷惑だ。」
最悪これでお開きになっても構わない。河上なら説教どころか、こっちの意志を尊重するはずだ。それによく考えれば河上の意図なんて知らなくてもいい。面談を続けていれば嫌でもわかるからだ。こんなことにも気付けないなんて、少し熱くなり過ぎた。
「仕方ないですね。このまま続けても質問には答えてくれなさそうですし。これ、どうぞ。」
河上は資料を渡してきた。おそらく新藤に渡した物と同じ、とは言い切れない。俺が冷静になったのを見計らっていたかのような、無駄な手際の良さがムカつく。
資料の内容は、質問の内容と一致していた。もちろん、解答欄は空白だった。だが、その下の欄は埋まっていた。スキャンしたかコピーしたかは定かではないが、確かに手書きの文字で解答欄は埋められている。荒々しく、止まることのできない流れた文字。効率を求めた大人の文字。成人男性を数人集めれば、確実にこのタイプの字を書く人はいる。だが、この字はもっと近い。もっと近くで見ていた記憶が、見覚えがあった。
「...どういうことだよ。これ。」
息が詰まるような、嫌な予感がする。
「どういうことって、書いてもらったんですよ。君のお父さんに。直接。」
「...。」
思わず舌打ちをした。河上が噓をついていないことを直感したからだ。これまでの茶番に心底嫌気が刺したからだ。俺の、空白の回答欄の下。掠れたインクで印刷された字は、確かにあの人の字だった。六年前に離婚した、父さんの字だった。
「説明しろ。今すぐ。」
「はい。」
河上。あんたは今、何を考えてる。




